マフィア御用達のイタリアン料理店で暗黒時代の雰囲気を体験してみよう

この店の名物「見ざる聞かざる言わざる」が入口に鎮座。左上に「No Monkey Business!」(インチキ商売は無し)と書かれている。

この店の名物「見ざる聞かざる言わざる」が入口に鎮座。左上に「No Monkey Business!」(インチキ商売は無し)と書かれている。

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 直近の3週間、ラーメンの価格などを例に挙げながらアメリカ、とりわけ当地ラスベガスのホテル街での外食費の高さについて書いてきた。
 その高さはもはや異常ともいえるレベルで、昨今のインフレと円安、それにチップも必要ということもあったりで、ちょっとしたまともなレストランで食べようものなら一人 200ドル以上(約3万円以上)は珍しいことではない。

 そんな状況であるがゆえに、今後ラスベガス旅行を計画している読者には食費を少しでも安く抑えられるようにと、他の料理ジャンルと比べて相対的に安いラーメン(安いといっても日本円換算で3000円以上が普通で、2週前に紹介したチャーシュー麺の場合は 6700円)などを紹介してきたわけだが、わざわざラスベガスに来てまでラーメンを食べたいという旅行者は多くはないだろう。特に初ラスベガス、初アメリカの旅行者はアメリカらしいものを食べたがる傾向にある。

 ではアメリカらしい食べ物とはなにか。それは今のインフレや円安の時期に限らず、いつの時代も決まってステーキだ。
 そんなところについ先日、たまたま日本から旧知の友がラスベガスにやって来たので、何を食べたいのか聞いてみたところ、ラーメンでもステーキでもなく「ラスベガスらしいものを食べたい」とのこと。

 彼は何度も当地に来ているのでアメリカのステーキが大した味ではないことを知っているので(塩とコショーだけといった感じでシンプルな味付けのステーキが多い)、当然の返答ともいえるわけだが、ラスベガスらしいものと言われて一瞬困ってしまった。

 「食のジャンル」としてのラスベガスらしいものなど思いつかなかったのと、仮にそれがあったとしても日本人の味覚に合うとは思えず、「場所」的な意味でのラスベガスらしい店を提案してみたところ、彼はすぐに賛同してくれたので、さっそく行ってみた。今週は今後の読者のためにその店を紹介してみたい。
(もちろんこの記事は広告案件ではない!)

PIERO の全景

PIERO の全景

 店の名前は知る人ぞ知る「ピエロ」(英語でのフルネームは Piero’s Italian Cuisine)。
 なぜこの店がラスベガスらしいのか。それはずばりマフィア御用達の店だったからだ(以下に年代的な補足あり)。
 多くの人が知るように、今から半世紀ほど前まではマフィアが当地のカジノ業界を牛耳っていたことは疑う余地のない事実であり、その実態は実話をもとにした映画「CASINO」(マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演)の中でも詳細に描かれているので興味がある人は観て頂きたい。
(あらすじだけでよければこのサイト内の「CASINO のあらすじ」にもかなり詳しく掲載)

 そのようなわけでこの街にはマフィアに関わるレストランはピエロ以外にもいくつか存在しており、たとえばこのサイトの週刊ラスベガスニュース第1165号で取り上げた GOLDEN STEER、同様に第780号マフィアの弁護士として活躍しその後ラスベガス市長にもなったオスカー・グッドマン氏 監修の OSCAR’S も有名だ。
 ただ、GOLDEN STEER はストリップ地区のホテル街からやや離れているばかりか建物自体が普通の商業物件の中の一角にあるため見かけは平凡なステーキ店で、OSCAR’Sはダウンタウンの目立つ場所にあるもののやはりこちらもイタリアンではなくステーキ店となっている。
 一方、ピエロは規模的にもロケーション的にも、そして料理のジャンル的にも存在感は抜群で、マフィア関連の店という意味ではこの街のシンボル的な店といってよいだろう。
 そして料理のジャンルはもちろんイタリアンだ。アメリカのマフィアの多くはシチリア島などイタリア移民がそのルーツなのでイタリア料理はこの店にとってイメージ維持として欠かせない。

店内の壁にはマフィアや著名人関連の新聞記事などが所狭しと飾られている。

店内の壁にはマフィアや著名人関連の新聞記事などが所狭しと飾られている。

 前置きが長くなってしまったが、まずはこの店の場所について。
 北ストリップ地区にある大型カジノホテル「リゾーツワールド」の向かい側ある「Convention Center Drive」を東に終点まで(約800m)進んだ交差点の右手前。
 ホテル街から徒歩で行けないこともないが、タクシー、Uber、レンタカーが便利だろう。
 ちなみに駐車場は十分にあるが、すべてバレーパーキングになっているので勝手に駐車することはできない。(バレーパーキングとは、自分で駐車するのではなく担当スタッフに車を預けるシステム。帰る際にはチップが必要。今のご時世、1~2ドルというわけにはいかないので最低でも5ドル程度は渡したい)

ダイニングルームに行く前段階のバーカウンター。ここはそんなに暗くない。

ダイニングルームに行く前段階のバーカウンター。ここはそんなに暗くない。

 参考までに年代的な補足をしておくと、この店が開業したのは 1982年、そして創業時の少し離れた場所から今の場所に移ってきたのが 1987年なので、マフィア全盛の時代の後期というかマフィアの力がやや衰退し始めた時期の開業ということになる。
 したがって全盛時代のマフィアがひんぱんに利用していたというよりは、映画「CASINO」の撮影場所として使われるなど、これまでの暗黒時代の経緯が語り継がれている店といった印象が強い。
 それでもこの店の公式サイトや店内の掲示物などではマフィアが出入りしていたことを隠すことなくむしろそれをウリにしている感じなので「ピエロ=ベガスを代表するマフィア御用達の店」と考えて何ら差し支えないだろう。
 ちなみに店内のスタッフに「映画 CASINO で使われたダイニングルームを見せて!」といえば案内してもらえるはずだ。

明るさを補正してある。実際の現場はとんでもなく暗い。

明るさを補正してある。実際の現場はとんでもなく暗い。

 すいていれば予約なしでも入れるが、人気店なので要予約と思ったほうがよい。
 メニューをすべて列挙するのは紙面的な制約もさることながら、そもそも食べていないものをここで紹介するのは無責任なので、料理よりもこの店の特徴を書いておきたい。
 特徴はなんといっても照明ということになる。10年くらいに前に訪れた際、ダイニングルームのあまりの暗さに驚いた記憶があるが、今でもほとんど改善されていないというか改善する気などまったくないようで、スマホのライトを付けないとメニューの小さな文字を読み取ることが極めて困難なほど暗い。
 マフィアたちが集まって秘密会議や会食をした当時のイメージをそのまま再現するという意味ではこの暗さは重要なのかもしれない。
 したがってこのページに掲載している料理などの写真は明るさをアップするなどかなり加工してあることをあらかじめお伝えしておきたい。

このセクションも実際は非常に暗い。

このセクションも実際は非常に暗い。

 もう一つ特徴を挙げるとすれば、この店が自ら「old school Italian」と称しているように(old school は古くからの習慣やしきたりにこだわっているようなニュアンス)、都会的なオシャレなイタリアン・レストランとは趣を異にしているということ。
 したがって皿への盛り付けなどにおいて最近流行りのインスタ映えを狙ったようなオシャレな料理を期待してはいけない。そもそもオシャレに盛り付けたところで暗すぎて見栄えがしないし、うまく撮影もできない。
 とにかくこの店は往年のマフィア時代の隠れ家的な雰囲気を楽しんでもらうための店と理解しておこう。

 せっかくなので少しだけ料理などにもふれておくと、この店の名物は Osso Bucco。子牛のスネの骨を5cmほどの長さに輪切りにして、まるでおちょこのようなサイズ感でパスタなどの添え物として出される。骨の中のとろりとした髄をすくい出して食べることになるわけだが、今回の取材では撮影するのを忘れてしまったのであいにく写真はない。

生ガキ6個 27ドル。

生ガキ6個 27ドル。

 値ごろ感がわかるように今回の取材で食べたものをとりあえず列挙してみるが、個々の料理で値段にかなり開きがあるのであまり参考にならないかもしれない。(カッコ内は155円で日本円換算して消費税約8%とチップ18~20% を加えた概算)
 ちなみに生ガキは6個で27ドル(5,000円)、カルパッチョも同じく27ドル(5,000円)、白身魚(メニューでは Chliean Seabass )が55ドル(11,000円)で、写真を取り忘れたパスタのペンネは36ドル(7,000円)。

カルパッチョも 27ドル。

カルパッチョも 27ドル。

 ここまでは「まぁそんな感じかなぁ」といった値段だったが、ウェイターからメニューには載っていない「本日のスペシャル」的なアイテムとしてラムチョップ(Lamb Chops)を勧められたのでオーダーしてみたところ、なんと95ドル(18,000円)だった。

白身魚。55ドルもするわりには盛り付けなどにぜんぜんこだわっておらず、インスタ映えなどを狙っていないところがこの店らしい。

白身魚。55ドルもするわりには盛り付けなどにぜんぜんこだわっておらず、インスタ映えなどを狙っていないところがこの店らしい。

 オーダーの際、値段を見落としてしまったのか時価となっていたのに気づかなかったのか今となっては定かではないが、 ウェイターが勧めてくるものには要注意だ。
 「他のステーキと比べていくらなんでも高すぎる!」と文句の一つでも言いたいところだったが、マフィアの残存の人たちだったら怖いのでやめておいた。

これが 95ドルのラムチョップ!

これが 95ドルのラムチョップ!

 なおデザートは以下の写真のような形でウェイターが持って来るので好きなものを取ればよいが、満腹だったし甘すぎそうにも見えたのでスルーした。

デザートはこの中から選ぶことになる。いま風のデザインのケーキでないところがこの店らしい。

デザートはこの中から選ぶことになる。いま風のデザインのケーキでないところがこの店らしい。

 というわけで、長々とあれこれ書いてみたが、予算的には一人 2~3万円と決して安くはないものの、マフィアが君臨していた往年のラスベガスの雰囲気を少しでも体感してみたいという人はぜひ足を運んでみるとよいだろう。

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