アメリカでチップの習慣が異常拡大! あなたはスタバで20%払う?

ラスベガスのホテル内のスターバックス。ファストフード店のレジでもチップが求められる?!

ラスベガスのホテル内のスターバックス。ファストフード店のレジでもチップが求められる?!

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 いつの時代もアメリカ旅行で悩ましいのはレストランやタクシーなどでのチップtip で chip ではない)。
 旅慣れていない人にとってはもちろんのこと、筆者らアメリカ在住の日本人にとっても、さらには一般のアメリカ人にとっても厄介な存在とされている。
 たかがチップ、されどチップ。今週はこのチップの習慣が近年ますます変な方向に変化してきていることを現場の写真などもまじえてレポートしてみたい。

 tip または gratuity などと呼ばれるこの習慣は日本語でいうところの「心付け」になるわけだが、ここアメリカではそれが生活の中に広く浸透している。
 ヨーロッパ諸国にもないわけではないが、アメリカほど半強制的に存在する習慣ではないので、先進諸国の中ではアメリカだけが突出した「チップ大国」と言ってよいのではないか。

 その背景にはヨーロッパ諸国や他の多くの国とは異なり、アメリカではレストランなどで働く労働者の所得がチップ収入を前提とした賃金体系に基づいているという事情もある。
 とはいえチップを払う側からしてみれば(ましてやチップの習慣がない日本人からしてみれば)、「半強制的に払わなければならないのであれば、なぜ始めから料金にチップの分を含ませておかないのか」といった不平不満も言いたくなるが、「郷に入っては郷に従え」ということでアメリカにいる限りはチップ文化を受け入れるしかない。

 では具体的にチップが必要なのはどのような場面なのか。最も代表的なのがレストランタクシーだろう。
 さらに観光客であればホテルなどでのコンシェルジュ、ベルマン(手荷物の運搬や預かり)、マッサージ師、そして当地ラスベガスならカジノ内のカクテルウェイトレスやカジノディーラーにもチップを払うのが普通だ。
 また地元の生活者であれば、ヘアサロン、Uber Eats などのデリバリーサービス、ゴルフコース(キャディーやプレー後の道具の片付けに対して)などの場面でもチップが必要になってくる。

 これらの場面はすべて「働く側が何かしらのサービスを顧客に提供する」という意味において、チップが必要になることはなんとなくわからないでもない。
 ところがである。最近は困ったことにファストフード店のレジなどでもチップを要求されるようになってきているから驚きを禁じえない。
 要求という表現には異論もありそうだが、現場のシステムを見る限り「暗黙の要求」であることは間違いない。

 もちろんファストフード店のレジのスタッフも「商品と代金の受け渡しをやっている」という意味では顧客に対して何かしらのサービスを提供していると言えなくもないが、そんなことを言い出したらスーパーマーケットのレジでもチップが必要になってしまう。

 記事の見出しでスターバックスの名前を使わせてもらったが、スタバだけの話ではない。さまざまなファストフード店が「チップ徴収端末」(後述)を導入し始めている。
 そもそもファストフード店でのやりとりは極めて単純なはずで、高級レストランで担当ウェイトレスやウェイターから対面で細かなサービスを受けるのとはわけが違う。
 現場スタッフがやっていることはオーダーを取ったコーヒーやハンバーガーなどの受け渡しと代金の精算だけだ。
 その精算すらも最近はスマホによるタッチ決済やクレジットカードが主流になってきているので現金で釣り銭を手渡したりする手間などもほとんどない。

 そんな現場におけるチップとは、いったいだれのどのサービスに対して払うチップなのか。まったく理解不能である。
 本来チップというものは受けたサービスの良し悪しによる満足度の違いを金額の大小で体現するもの。ファストフード店における短時間のやり取りに対して満足度の違いなどほとんどないはずだ。あったとしても店員の態度や笑顔の有無くらいだろう。

 不満を書き並べるのはこのへんにして、現場の状況を写真などをまじえてレポートしてみたい。

ラスベガスの人気カジノホテル「ベネチアン」内にあるフードコート。ここに出店している多くのファストフード店が "チップ徴収端末" を導入している。

ラスベガスの人気カジノホテル「ベネチアン」内にあるフードコート。ここに出店している多くのファストフード店が “チップ徴収端末” を導入している。

 さきほど「チップ徴収端末」と書いたが(この表現には異論があるかもしれないが)、その端末自体は日本でもアメリカでも広く一般に普及しているもので特に珍しいものではない。つまりクレジットカードを差し込んだり、決済機能付きのスマホや日本でいう Suica などをタッチするための端末だ。

 問題はその端末で決済を完了させる直前に目に飛び込んでくる画面で、そこにはチップの金額(代金に対するパーセンテージ)を決める選択肢が表示されている。
 そんなものが表示されるだけでも驚きではあるが、その数字の大きさには開いた口が塞がらない。以下の写真がその現場の状況だ。
(ベネチアンホテルのフードコート内に出店しているベトナム料理のファストフード店のレジで撮影。たまたまこの店で PHO を買って食べた際に撮影しただけで、この店を特にやり玉に挙げたかったわけではない)

パネルの表面に指紋の汚れが目立つが、さすがに [30%] をタッチする者は少ないのか、その部分と [Custom amount] だけはあまり汚れていない。

パネルの表面に指紋の汚れが目立つが、さすがに [30%] をタッチする者は少ないのか、その部分と [Custom amount] だけはあまり汚れていない。

 この写真からもわかるとおり、Add a Tip(チップの追加)と題された画面には選択肢として [15%]、[18%]、[20%]、[30%]、[Skip]、[Custom amount] の6種類が用意されている。
 近年、「高級レストランでのチップは最低でも20%」といった噂が広がっているほどインフレ傾向にあるので、その流れにあやかってか [20%] の選択肢が用意されているのは仕方がないとしても、[30%] は開いた口が塞がらないというか、そんな次元を通り越して笑ってしまうほどの馬鹿げた数字だ。

 なお、この写真の左側に見える [TIPS] と書かれたガラスビンが置かれているのは、現金の客のために用意されているチップ入れだ。これは昔ながらの古典的なチップの徴収手段で、チップ徴収端末ほどは不快感を覚えない。

 さてついでなので、写真がうまく撮影できていなかったが日本の読者にも馴染みがある店として、見出しタイトルにも使わせてもらったスターバックスの現状も報告しておきたい。
 なおこれはラスベガスのホテル内の店舗の話であり、全米各地のスタバがこれと同様とは限らないことをあらかじめ了解して頂きたい。

スターバックスのレジでの端末。パネル部分がうまく撮影できていないのでわかりづらいが、表示されている選択肢は [15%] [18%] [20%] [OTHER] [NONE] の5種類。[OTHER] を選んだ場合は客自身が好きな数字を入力できる画面に切り替わる。

スターバックスのレジでの端末。パネル部分がうまく撮影できていないのでわかりづらいが、表示されている選択肢は [15%] [18%] [20%] [OTHER] [NONE] の5種類。[OTHER] を選んだ場合は客自身が好きな数字を入力できる画面に切り替わる。

 前述の [30%] が用意されていたベトナム料理店よりはまともな選択肢と言えなくもないが、それでも [20%] という数字はいかがなものか。
 顧客が裕福な者か貧乏人かケチな者かに関係なく、コーヒーと代金の受け渡しというほんの一瞬のサービスに対して 20%のチップは常軌を逸している。スタバの企業イメージが下がらないことを祈るばかりだ。

 さて最後に、ここまでのレポートを読んで頂いた読者の多くはそのような現実、つまりファストフード店にまで広がっているチップ文化の暴走的な拡大に対して一般のアメリカ市民はどのように受け止めているのかを知りたいのではないか。
 それに関しては経済誌ウォール・ストリート・ジャーナルを始めさまざまなメディアがすでにいろいろ報道しており、それによると、長年チップ文化に慣れ親しんできたアメリカ人でさえ最近の傾向には違和感を覚え困惑しているようだ。

 店側としては「あくまでも義務ではなく任意です」とのスタンスで導入しているわけだが、多くの顧客にとって自分の目の前に担当スタッフが立っていて、なおかつ端末のどのボタンをタッチするかを見られている状態では [チップなし] を選択することは心理的にむずかしい。
 その顧客の「チップ無しにする罪悪感」に付け込んでチップさせることに対する言葉として guilt tipping という用語が広まりつつあるほど一般アメリカ人も問題意識を持っていることは間違いないようだ。
 この新しいチップの習慣があまり広まると企業イメージの悪化という意味で各ファストフード店は方針変更する可能性もありそうだが、果たしてどうなることやら。この先数年の成り行きを見守りたい。

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コメント(5件)

  1. WSOP参加シニア より:

    TIPもそうですがラスベガスでは何といっても悪名高きResort Feeですね。こちらも拡大・増長こそすれ一向に収束の兆しが見えないので、本当に呆れるばかりです…。かくいう私は明日からベガスへ行くのですが、(たぶん)ストリップで唯一RFのないBest Western Plus Casino Royaleに泊まります。自分にできる唯一の抵抗、でしょうか。ファストフードのTIP要求に「No」を言える日本人になりたいですがそうもいかなそうなので、割とTIPが任意な(感じのする)Buffetか、逆に払わざるを得ないちゃんとしたレストランで食べることになりそうです。多くのアメリカ人が日本を訪れて、TIPがいかに馬鹿げた習慣であるかを学んでほしいと願う今日この頃ですが。

  2. より:

    サンフランシスコベイエリア在住者です。
    昨今、タブレット端末での支払いが増え、チップボタンがやたら目につくようになりました。ただでさえ、インフレが進んでモノの値段が上がっているのに、チップ率まで上がっているのには辟易とさせられます。加えて、給仕のない、ファストフードやフードコート、フードトラックですらチップボタンが備わっているのにうんざりです。

    ひとつ注意点ですが、タブレット端末のチップボタンは左から右へチップ率が増えるように並んでいるのが一般的ですが、まれに、これが逆順に並んでいる悪意あるUIデザインも見られます(25%, 20%, 18%という具合)。常日頃から一番左を押す癖がついていると、高額のチップを押してしまう可能性がありますのでご注意を。

    私は、ファストフードなどでは臆することなくチップにゼロを指定するようにしています。人の目が気になる時は、チップをゼロにしてから多少のチップを現金でハコに入れたりしています。またはウェブなどで事前オーダーできる場合には、事前オーダーしておきます(チップ欄にはゼロを指定)。

    個人的にはチップを廃止して欲しいと思いますが、いずれマクドナルドでもチップ額を聞いてくるようになるのでは…と恐れています。

  3. Ryoko より:

    Apple Payとかお店が小規模店の決算/支払いシステムの設置に乗っかってる気がしてます。

  4. ポン太 より:

    LVに行く前に、エンジェルスタジアムのフードカウンターに同様の端末に接しました。
    缶ビール$14~16、水のボトルが$5~7と、どんだけ儲けるの?という環境で、さらにTipが3ドルから。観客席まで運んでくれる場合は今までも支払っていましたが、カウンターでは違和感しかありません。今回は勇気をもって「No Tip」を選択しましたが、やや不快な気持ちになりました。
    幸い、LVでは同様の端末に出会うことはなかったものの、数店のレストランでは、TIP額を自分で入力できず、18%・20%・23%の選択しかできない仕組みになっていました。
    賃上げ額を抑えたい雇用主が、Tipで労働者の増収を図っているのでしょうが、客の満足度を著しく下げることになっていることを理解しているのでしょうか。

  5. Risa より:

    ハワイ在住10年です。物価が高いハワイですがお給料は上がらず。。私は美容系の接客業をしていてチップもらう側なので出来るだけ置いてくるようにしています。お給料だけでは生きていけません。ファストフードなどでは2、3ドル。その他は20%。サービスに満足した時は30%〜。皆んなで支え合えたら良いなと思います。

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