激変のタクシー業界、値上げでハイテク導入、Uber と対決

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 先月28日、ラスベガスを走るタクシーの料金が一斉に値上げされた。値上げ幅そのものは決して大きいものではないが、今回の料金改訂を機会に新税が導入されたため(正確には「新税導入を機会に料金改訂」というべきかも)、利用者にとっての体感的な値上げ幅は小さくないかもしれない。

 それよりも、今回の料金改訂は単なる値上げのニュースにとどまらず、もっと別の意味で大いに注目されている。それは新時代への突入、つまり、年内にも正式に市場参入するであろう Uber に対抗するための、既存タクシー業界の劇的な変化だ。(Uber に関しては、この週刊ラスベガスニュースのバックナンバー第927号に掲載)
 今週は、そんな料金改訂と既存タクシー業界の動きについてレポートしてみたい。(この写真をクリック・タップで拡大すると、車体に記載されている新料金を見ることが可能)

 まずは一般の利用者にとって気になる値上げについて。今回改訂されたのは「初乗り料金」と「距離料金」、そして新設の税金だ。
 初乗り料金は $3.45 から $3.50 に値上げされた。わずか 5セント、率にして 1.5% の値上げではあるが、初乗り料金で走行できる距離が今までは 1/4 マイル(約402メートル)だったものが、こんどは 1/12 マイル(約134メートル)になったので、料金メーターが上がり始めるタイミングが大幅に早まることになり、移動距離が非常に短くなりがちなラスベガス市内でのタクシー事情を考えると、この値上げ幅は決して小さくない。
 たとえば 約400メートル乗車した場合、今までは $3.45 で済むところが、こんどは以下で説明する距離料金の最小単位 $0.24 が2回か3回か加算されることになるので $3.98 もしくは $4.22 になってしまう。率にすると 15~22% の値上げだ。
 5セントという数字にだまされてしまいがちだが、これは値上げ幅を過小評価させるためのトリックといってよいだろう。

 「距離料金」についても金額のみならず距離の単位も変更になっており、今まで 1/4マイルごとに $0.67 だったものが、1/12 マイルごとに $0.24 に改訂。つまり今までよりも3倍も多く小刻みにメーターがカチャカチャ上がることになる。
 距離単位が変わると何やら値上げだか値下げだかわかりにくいが、新料金は 1/4 マイルあたり $0.72 ということになり、7.5% の値上げだ。
 ちなみにこの料金をメートルと日本円に換算すると($1=120円で計算)、280メートルあたり(日本の多くの都市では 280メートルごとにメーターが上がる)60.1円で、「280m 90円」が主流の東京よりもかなり安いことになる。ただ、東京は初乗り料金(730円)のまま、2000メートルまではメーターが上がらないので、短距離移動の場合はラスベガスのほうが高いこともあり得る。

 税金はこのたび初めて導入されたもので、タクシーやリムジンの料金に対して課せられる新税だ。国やラスベガス市に入るのではなくネバダ州に入る州税で、税率は 3%。大した税率ではないが、初乗り料金、距離料金、そして以下に示す諸料金など、すべて含めた最終的な支払額に対する 3% なので、値上げ感としては小さくないだろう。
 なお、通常の買い物に課せられる消費税 8.1% は、もともとタクシー料金には適用されていないので、消費税のことを心配する必要はない。

 その他の料金、たとえば、空港からタクシーに乗る場合に課せられる空港利用料金(逆の経路、つまり空港に到着する場合は課せられない)の $2.00、時速12マイル(約時速19km)以下の渋滞時や待機時に刻々と課金される時間料金 $32.40(なぜか1時間あたりの単位で表現されている。1分に換算すると $0.54)、現金ではなくクレジットカードで支払う際の手数料 $3.00 などに変更はない。
 なお今回の料金改訂に対して、車体にペイントされている料金表示が新しいものになっていない車両も多く、また、空港内に掲示されている「遠回りタクシー走行に対する注意喚起」(バックナンバー第888号にて解説)内の料金表も更新されていないなど、古い料金がそのまま残っているので注意が必要だ。

 さて値上げの話はそこまでにして、タクシー業界は今回の初乗り料金の 5セントの上乗せに対して、興味深い説明をしている。
 一般的に、距離料金の値上げに対しては、燃料代の高騰など経費の変化に応じて改訂されるものと認識されているため、特にその値上げ理由などは注目されないが、今回タクシー業界は初乗り料金の値上げに対してあえて理由を説明しており、この 5セントの上乗せは「Technology Fee」だという。「技術費用」といったところか。そしてさらにその内容にも具体的にふれており、「Verifone 社の Way2ride を導入することを視野に入れた研究開発費」としている。
 Way2ride とは、ライバルの Uber と似たようなスマートフォン用のアプリで、すでにニューヨークやフィラデルフィアで導入が進みつつある革新的な配車システムだ。
 つまりタクシー業界も、今までのような客からの電話によるリクエストを本部が受けてそれを無線で運転手に伝えるといった古典的な手法から、ハイテクを導入する方向にシフトしようとしている。Uber がこれだけ世界で認知度をアップさせてきている現状を考えると、タクシー業界としても何もしないわけにはいかず、当然の流れといってよいだろう。
 そしてこのたびラスベガスでも有力タクシー会社の一社 Nellis Cab 社がこの Way2ride の試験運用に入ったというから、何十年も続いてきたタクシー業界の激変は意外と早いかもしれない。

 さてその激変の火付け役となった張本人の Uber はどうなっているのかというと、この一年、地元タクシー業界から激しい反発を受けてきたが、世界中の利用者からの高い評価やロビー活動などが功を奏し、年内の運用開始がほぼ決まっている。ラスベガスのタクシー業界は非常に閉鎖的かつ強力なパワーを持っているとされるが、圧倒的な評判と資金力を持つ Uber に押し切られた格好だ。
 ちなみに創業わずか数年の Uber はまだ上場していないので市場価格での時価総額は算出されていないが、4兆円を超える企業価値があるとされ、これはソニーやパナソニックを上回る。

 その Uber のラスベガスでの料金体系がほぼ決まりつつあるので紹介しておくと、距離に無関係な初乗り基本料金が $2.40、距離料金が1マイル(約1604m)$1.85、渋滞や停車など走行状態に関係なく乗車しているトータル時間に対して発生する時間料金が1分 $0.30、それに Safe Rides Fee と称される安心料とでも訳したらいいのか保険のような料金 $1.00 が加算される。
 ちなみにタクシーの距離料金と時間料金は前述のとおり、それぞれ 1マイル $2.88、1分 $0.54 で、Uber よりもかなり高い。
 Uber とタクシーのトータル的な料金の比較は、時間料金の定義が異なるため簡単ではないが(タクシーの場合、時速12マイル以下の低速走行時のみ発生)、これはどう考えても Uber のほうがかなり安いと考えるべきだろう。
 なぜなら、よくある時速12マイル以下の渋滞時はどちらも時間料金が発生するわけで、その料金差が1分 $0.30 対 $0.54 で大きな差があり、一方、渋滞していない場合は Uber にしか時間料金が発生しないものの、その時間はせいぜい 5分とか 10分程度の長さで、大きな差にはなりにくいからだ。(ラスベガスでは空港がホテル街に非常に近いばかりか、ホテル 街の中での移動がほとんどのため、多くの場合、渋滞がない状態で 5分も走れば目的地に到着してしまう)

 なお、これら Uber の料金は、このあと開かれる公聴会などで修正を求められたりする可能性もあるので、最終的なものとは言い切れないが、いずれにせよ、Uber のほうが安めの価格設定になるだろうというのが大方の見方だ。
 したがって、今後ラスベガス訪問を予定している者は、とりあえず Uber をスマートフォンにダウンロードし、アカウントを作っておいたほうが良いだろう。ただ、空港やホテルでのタクシー乗り場、いや Uber 乗り場をどうするかといった問題など、解決しなければならない案件は少なくないので、このまますんなりと年内に開業できるかどうかはなんともいえない。

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