9月1日、ラスベガスに新たな観光名所が誕生した。ダウンタウン地区にある The D Hotel の玄関前に出現した小便小僧だ。(写真上)
サイズは、実際の人間のおとなの等身大よりもやや小さい程度で、本家本元のベルギー・ブリュッセルのものと比べるとかなり大きい。
そう書くと、「本家本元のものはどれほど小さいのか?」と思う人もいることだろう。たしかにあちらは、シンガポールのマーライオン、コペンハーゲンの人魚姫と並ぶ「世界三大ガッカリ名所」と呼ばれているだけあって非常に小さく、実際に現場を訪れた者の多くが、「えっ、これがそうなの?」と、その知名度の高さと貧弱さの落差に驚く。
「そんなガッカリ名所を新たにベガスに作ってどうする!」、「だれが見たいと思うのか!」といった意見も聞かれそうだが、それでもあえてベガス版が作られ、このたびお披露目されてしまったことは疑いもない事実。どのような経緯があってのことか。
実はこの The D Hotel(写真上)のオーナー Derek Stevens 氏の両親はベルギーからアメリカへ渡った移民。したがって、Stevens 氏は子供のころからブリュッセルを何度も訪れる機会に恵まれ、小便小僧にはただならぬ愛着を持っているばかりか、世界中からそれを見るために毎日何千人もの観光客が現場を訪れていることも良く見て知っている。
そこで、祖国の名誉と誇りのために立派な堂々としたサイズにし、そしてそれを多くの人に見てもらいたいとの思いで作られたのがこのラスベガス版小便小僧で、その思いは Stevens 氏からのメッセージとして現場の台座に刻まれている。
では、情熱だけが先行し、Stevens 氏は本家に対して無断で勝手にコピーして設置したのかというと、そうではない。
ちなみにベルギーといえば、奇しくも東京オリンピックのエンブレム盗作騒動における震源地で、盗作されたとする側が裁判沙汰にしようとしている国だ。世界的に有名な小便小僧の盗作が黙認されるはずはない。
実は今回のベガス版小便小僧は、ブリュッセル市の許可を得て作られたもので、日本(兵庫県伊丹市)、ブラジルに次ぐ世界で三番目の公式レプリカとのこと。
したがって極めて真面目な企画であり、無断盗作などではないことはもちろんのこと、いくらエンターテインメントの総本山ラスベガスだからといって、電気仕掛けでしゃべったり動いたりするわけでもなく、あくまでも純真素朴なただのブロンズ像だ。つまり大きめに作られた本物そっくりの小便小僧というだけで、それ以上のものでも以下のものでもない。
そうなるとやはり心配になってくるのが注目度やガッカリ度。
本家本元のものより少し大きくなったぐらいで注目度がアップし、ガッカリ度は減るものなのか。そもそもこの記事を今読んでいる読者はこの小便小僧を見たいと思うのか。(写真は電飾アーケード街から見たこのホテル)
たぶん、あえて見たいとは思わないだろう。しかしベルギーを訪れると、なぜかみんなとりあえず見に行く。やっぱり本音は見たいのか。だとすると、その魅力の差はなんなのか。大きさではないことは明らかで、たぶんそれは本家とレプリカという格の違いだろう。ならば、Stevens 氏の夢は大失敗に終わるのか。
そもそも料金を取って見学させるような施設ではないので成功も失敗もないだろうが、注目度や話題性で成否を判断するのであれば、ひょっとすると成功するのかもしれない。
ただ、そのためには設置場所を現在の反対側、つまり人通りが多い電飾アーケード側にしておくべきで、現在の設置場所である正面玄関(このホテルの正面玄関は、電飾アーケード街から見て逆の位置)ではむずかしいだろう。人通りがあまりにも少なすぎるからだ。
それとも、やはりこの種のものは、知る人ぞ知る意外性のある場所にひっそりと存在しているほうが逆に口コミなどで人気が出やすいのか。
結果が出るのは何十年も先になるのかもしれないが、興味がある者はぜひ足を運んでみるとよいだろう。
ちなみに何十年といえば、今回のこの設置に対してブリュッセル側とこのホテルが取り交わした契約は 100年とのこと。(ちなみに本家本元のブリュッセルの小便小僧も、正確にはレプリカ。正真正銘のオリジナルの像は、盗難防止のためブリュッセル博物館に所蔵)
最後は余談になるが、「自由の女神」の場合、ニューヨーク版のほうがセーヌ川にあるパリ版よりも遥かに知名度が高い。出現時期ではニューヨーク版のほうがわずかに先だが、発想という意味ではフランスが元祖といえなくもないわけで、パリ版こそが本家と考えたくもなる。
それでもニューヨークのほうが圧倒的に有名なのは、やはりサイズの差か。何ごとにおいても目立つことは重要だ。だとすると、サイズでまさるベガス版小便小僧にも有名になるチャンスがあるのかもしれないが、本家とのサイズ差はわずか数十センチ。自由の女神の場合のサイズ差は数十メートル。やはり等身大程度の大きさではダメか。前途の成功を祈りたい。
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