ベガスの日刊紙 Review-Journal と SUN を徹底比較

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 地元の新聞に関する話題がここのフォーラムに投稿され、それを読んだ読者から意見が寄せられた。そこで指摘された通り、過去900回を超えるこのコーナーにおいて、なぜか一度も地元新聞に関してふれてこなかった。
 そのようなこともあり今週は、ラスベガス・フリーク以外の読者にはあまり興味が無い話題かもしれないが、現在のラスベガスの新聞事情、特に2大新聞の運営方針や政治的スタンスなどについて取り上げてみたい。

 当地で発行されている紙媒体としての一般紙は、1909年創刊で百年以上の歴史を持つ Las Vegas Review-Journal と、1950年創刊の Las Vegas SUN の2紙。ちなみにどちらも現在は朝刊のみで夕刊は印刷していない。

 両紙はライバル関係にある独立した新聞社ではあるが、宅配や店頭配送などのディストリビューション経費を削減するために業務提携を結び、2005年以降、同じ工場で印刷し、両紙を一緒に束ねて流通させるという共同配達方式を採用している。
 ネット社会という逆風に立ち向かうためにはこういった呉越同舟的な発想もやむを得ないのかもしれない。
 したがって両紙は流通上においては不可分ということになり、読者としては、どちらか一方だけを購入したり定期購読することはできない。(上の写真は店頭で売られている様子。黄色の部分に両紙の名前が併記されていることがわかる)

 以前は歩道に設置された新聞スタンドに 25セント硬貨を数枚投入して買えたものだが、最近は硬貨の回収コストが問題なのか、その種のスタンドが減ってきており(上の写真のように、スタンド自体は主要道路沿いに点在しているが、無料のフリーペーパー用に使われていることが多い)、定期購読できない一般観光客にとってはやや不便になってきている。
 それでも近年ホテル街で急増中の WalgreensCVS などのドラッグストアで店頭販売されているので、新聞の入手に困るようなことはないはずだ。また両紙を置いているホテル内の売店も少なくない。

 共同配達方式という物理的な理由から、両紙の発行部数は同じということになるが、ページ数という意味での紙面のボリュームは Review-Journal のほうが圧倒的にまさっている。
(写真内に写っている Review-Journal はメインのセクションのみで、実際にはこの他にもスポーツセクションやビジネスセクションなどページ数は多い。一方、SUN はこの写真に写っているのがすべてで全紙面8ページの構成)

 それでもページ数は少なくても SUN は 2009年に、メディアにとっての最高の栄誉とされるピューリッツァー賞を受賞するなど(上の写真からもわかる通り、その受賞のことは今でも毎号の表紙の最上部に赤い文字で記載されている)、記事のクオリティーの高さでは定評で、根強いファンを持っている。
 そして SUN の編集スタンスは、独自の記者によるジャンルにこだわらないジャーナリスティックな記事が中心で、スポーツの結果や株式市況といった他のメディアでも簡単に得られる客観データを単純に掲載することはない。
 さらに SUN は新聞としては珍しく、原則として広告を一切掲載しないことになっているので、8ページというページ数のわりには中身が濃いとされている。
 ここまでの説明では「量の Review-Journal、質の SUN」といった感じになってしまいそうだが、Review-Journal の質が悪いというわけではない。「あくまでも総合紙にこだわる Review-Journal、論壇系の SUN」 と考えるべきだろう。

 さて気になる紙面の論調に関しては、多くの米国メディアがそうであるように Review-Journal も SUN も中道もしくはややリベラル系で、特に SUN はその社長とビル・クリントン元大統領が学生時代のルームメイトだったためか、民主党寄りの論調が目立つ。
 それでも朝日新聞ニューヨーク・タイムズのように極端な左寄りを鮮明にしているわけではなく、また両紙とも共和党にも政治献金をしている。
 自社記者以外の記事では、Review-Journal はロイター通信とワシントン・ポスト、SUN はニューヨーク・タイムズからの配信記事を掲載することが多い。

 両紙同数の発行部数は 2014年のデータとして、通常日が約15万部、日曜日が約20万部。これら数字だけを見ていると、数百万部が当たり前の日本の感覚ではかなりの弱小新聞のようにも思えてしまうが、全国規模の日刊紙がウォール・ストリート・ジャーナル と USA トゥデイ しかない米国においてはごく一般的な数字で、弱小というよりは標準サイズの新聞社といった位置づけになる。
 ちなみに大新聞とされるシカゴ・トリビューン、ワシントン・ポスト、サンフランシスコ・クロニクルなどでさえ 100万部に満たず、全米各地の大多数の新聞は 50万部以下だ。

 日曜日の発行部数が多くなっているのは、米国における伝統的な発行スタイル「Sunday edition」(日曜版)の習慣を踏襲しているためだ。そしてその日曜版だけはとてつもなく分厚い。

 分厚い理由は折込広告の存在、つまり米国の新聞業界では何十年も前から日曜版に限って折込広告をたくさん入れる習慣があるためで、もちろんときどき平日版にも入れることがあるが、日曜版の分厚さは群を抜いている。
 結果的に、宅配の定期購読をしていない者も、その広告チラシを見たいがために日曜版だけをコンビニなどで買い求める傾向があり、日曜版の発行部数は多くなりやすい。
(上の写真は 5月31日の日曜版。SUN と Review-Journal の全セクションと、その日の折込広告の一部)

 店頭販売価格は通常版が1ドル、日曜版が3ドル。宅配定期購読料(もちろん日曜版も含む)は、契約期間の長さなどで多少のちがいはあるものの、おおむね月額9ドル。
 この価格設定から、定期購読料を安く抑えて安定読者を確保し(その読者数が広告掲載料に大きく影響してくることは言うまでもない)、日曜版の店頭販売で利益を稼ぐビジネスモデル(5万部多い日曜版 x $3 = $15,000、さらにチラシ広告収入)がうかがえるが、販売コストが大きく、両紙ともに経営は楽ではないようだ。
 ディストリビューション経費の負担比率や、売上金の分配比率は公表されていないが、前述の通り SUN はその紙面の中で広告を掲載していないこともあり、それら比率に関する契約内容は単純ではないとされている。

 インターネットの普及により、他の多くの新聞社同様、両紙ともに発行部数の減少には頭を痛めており、ネットでの配信も余儀なくされているのが現状だ。
 共同配達の紙版とは異なり、ウェブ版の運営は完全に独立しているため厳しいライバル関係にあり、当然のことながら閲覧者数は同一ではない。ちなみにそれぞれのサイトへのトラフィック数は Review-Journal のほうが SUN よりも約20% ほど多い。なお SUN もウェブ版では広告を掲載している。
 紙版、ウェブ版、それぞれの運営経費と収入がどのような数字になっているかわからないが、新聞社にとっての最大の経費といわれている記者や編集部門の人件費が重くのしかかっていることはまちがいないところで、今後ますます自社記事が減り通信社などからの配信記事が増える可能性があるが、幸いにも現時点においては両紙ともに廃刊の噂は流れていない。

【補足】
 2015年6月にこの記事を公開したあと、同年12月に、Review-Journal は、共和党支持者で長者番付にもしばしば登場するシェルドン・アデルソン氏(Sheldon Adelson)に買収された。
 アデルソン氏は、ラスベガスにある高級カジノホテル「ベネチアン」や「パラッツォ」を運営する Las Vegas Sands社の創業者であり筆頭株主。同氏のビジネスにとって、とかく敵対関係になりがちなラスベガス観光局のスキャンダルをたたくために Review-Journal を買収したとされる。それに関する記事は、ニュース【1073号】に掲載。

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