名物看板 “Welcome to LV” の前にバス停、作者は他界

Welcome to Fabulous Las Vegas サイン

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 今週は、1959年、つまり半世紀以上も前に設置され、アメリカ合衆国の国家歴史登録財(National Register of Historic Places)にも指定されている世界的に有名な名物看板 “Welcome to Fabulous Las Vegas”(写真上)に、路線バスで行けるようになったというまさに「歴史的な出来事」と、そしてそれに伴う残念な悲報をお伝えしてみたい。
(下の写真は、この看板が設置された 1959年当時に撮影されたもの。提供:ラスベガス観光局)

 まずこの看板について。世界的に有名と書いたばかりだが、それは近年になってからの話で、10年ほど前までは、ロサンゼルス方面から車でやって来るギャンブラーと地元民ぐらいしか知らないほとんど無名の存在だった。
 ただしその「知らない」というのは、実物やその設置場所に関してであって、ひし形のデザインそのものはギフトグッズなどさまざまな場所や場面で利用されていることもあり、観光客の間でも以前から広く知られていた。

 実物の存在場所などが長らく認知されにくい状況に置かれてきた最大の理由は、その場所の物理的な環境だろう。(この写真は 2002年に撮影。金色に見えているのは、ホテル街の最南端に位置するマンダレイベイ・ホテル。ホテルが巨大なため、近くに見えるが、ホテルからこの撮影地点までは、たっぷり1km 以上ある)
 ホテル街から遠く離れ、今も昔も人通りがほとんど無い寂れた場所の幅広い中央分離帯の中に立っているため、人が気づかないどころか、車道からも距離があり運転手にとっても見落としやすい。さらに一般観光客が主要ホテルからここへ行くためのまともな交通手段が先月まではなかったことも、知名度が上がらなかった原因の一つといってよいだろう。
 ちなみにシーザーズパレスなどがあるホテル街の中心地からだと南へ約4km。長時間かけて徒歩で行けないこともないが、猛暑の炎天下や寒い冬には厳しく、タクシーで行ったところで流しのタクシーが存在しないので、帰路においては不便を強いられる。(規則により、原則としてラスベガスには流しのタクシーは存在しない)

 そもそもこの看板は、ラスベガスに入ってくる走行中の車両に向けて建てられたもので、歩行者が立ち寄ることなど想定しておらず、車両の停車すら想定外だったのか 2008年までは駐車できるような場所もまったくなかった。(上の写真は 2006年に撮影)
 したがって、観光客がレンタカーなどで行ったところで、走行しながら見ることはできても、停車して立ち寄ることはできず、仮にどこか離れた場所に駐車できたとしても、かなりのスピードで車が往来しているなかを中央分離帯まで渡る必要があり、危険すぎて現実的ではなかった。
 そんな時代が長らく続いたため、駐車場にはなっていない中央分離帯に強引に乗り上げて駐車する者もいたりして、上の写真のように、警察に捕まる光景も珍しくなかった。

 そのように観光名所としては半世紀に渡って大切にされて来なかったこの看板も、デザインとしては非常にありがたく利用されてきたところが興味深い。
 かなり昔から、下の写真のように Tシャツ、帽子、マグカップなどのギフトグッズはもちろんのこと、店の看板、印刷物、広告など、ありとあらゆるものにラスベガスのトレードマークとして広く利用されてきた。もはやラスベガスのシンボルと言っても過言ではなく、当地を訪問したことがある者なら、だれもが一度や二度は目にしているにちがいない。

 ぬいぐるみ ←タップ or クリックで写真。
 マグカップ ←タップ or クリックで写真。
 シャツ ←タップ or クリックで写真。

 そうなると気になってくるのが著作権。いつだれがあの看板をデザインして設置したのか。そしてギフトグッズなどを製造販売している多くの業者は、好き勝手に無許可で不法使用しているのか、それとも古すぎて著作権が切れているのか。

 じつはあの看板、半世紀以上前に広告や看板を手がける地元企業が、ロサンゼルスから陸路でやって来るギャンブラーたちを歓迎するためにラスベガスの入口付近に設置したもので、あのひし形のデザインを考案したのは当地に住む女性デザイナー、ベティー・ウィリス(Betty Willis)さんだ。(上の写真は2008年、当社撮影)
 設置直後から、何もない砂漠だった当時の地元ではかなり目立つ看板となり、知名度が上がるにつれてこのデザインの使用を希望する業者がどんどん現れてきたが、なんと会社もベティーさんも著作権を主張することなく、ラスベガス市が所属する行政単位のクラーク郡に権利を譲渡してしまったのである。

 何ごとにおいてもカネ、カネということになりやすいラスベガスにおいて、この気前のいい話は郡当局も感動したのか、使用料を取ることなどはせずに、万人が自由に利用できるように権利を開放。
 その結果、またたく間にこのひし形はラスベガス全体に広がり、その後はギフトグッズといった観光分野の範囲にとどまることなく、たとえばネバダ州陸運局発行の自動車のナンバープレート(写真上)にも採用されるなど、今ではありとあらゆる分野で使われるようになった。
 そして設置から 50年を迎えた 2009年5月、ついにこの看板は米国内務省により国家歴史登録財に指定された。

 そんな経緯もあり、その後は観光スポットとしての認知度が急上昇したため、現場の整備も一気に進められることに。
 看板直下の地面に人工芝が張られたり、駐車場のさらなる拡張、ソーラーバッテリー駆動による照明設備の刷新、走行車両が飛び込まないように車道と中央分離帯の間に手すりが設置されるなど、年々観光スポットとしての進化を遂げていった。

 そして最後の大改良ともいわれる最も重要な工事2つが先月完了した。それは信号機付きの横断歩道(写真)とバス停の設置だ。
 歩道側から中央分離帯へ行くには危険な場所であることはすでに書いた通りだが、半世紀に渡ってここには信号機も横断歩道もなかった。それもそのはず、歩行者の存在は想定されていなかったわけで、それは当然のこと。
 そもそも横断歩道を作っても、人がここに来れなければ利用する者はいない。人がここに来れるようにするためにはバス停が必要だが、バスを運行する側にとっては、横断歩道もない危険な場所に乗客を降ろすわけにはいかない。つまりバスが先か横断歩道が先かという議論になってしまい、結局計画は先送りされてきた。

 そのため駐車場が設置された 2008年以降の約7年間、ここを訪れていたのは、中央分離帯に設置されたその駐車場にアクセスできるレンタカー族とツアーバスなどでやって来る者がほとんどで、路線バスで来る者は極めて少数派だったとされている。
 そんな状態にやっと終止符を打つかのように先月、56年という歳月を経て、ついにこの場所に信号付きの横断歩道が完成。そして今月、バス停も完成し(写真上)、さっそく運行も始まった。この長い歳月を考えると、まさに歴史的な出来事といっても決して大げさではないだろう。

 そして今、バスでアクセスできるようになり、世界中からの観光客で賑わうようになった(写真は 2015年5月25日正午ごろの様子)。まさにラスベガスを代表する観光スポットになった瞬間だ。

 しかしなんと悲しいことに、このニュースを最も喜んでくれたであろうベティーさんが 4月19日に他界してしまった。享年 91歳。あと1ヶ月だけでも早く完成していれば、この光景を病床で観てもらえたかもしれないと思うと残念でならない。
 市民からも企業からもそして行政当局からも愛され続けてきたベティーさん、このラスベガス大全の取材にも何度か応じてくれた。「著作権を手放さなければ今ごろ億万長者になっていたわ」と元気な姿で語ってくれたジョークは忘れられない。
 温厚な人柄とラスベガスに対する並々ならぬ情熱、そして地元でこれだけ有名になってもベガス北方の小さな田舎町で質素に暮らし続けてきた彼女はまちがいなくラスベガスの至宝といってよいだろう。ご冥福を祈りたい。

 ベティーさんが残してくれた偉大なる遺産 WELCOME TO Fabulous LAS VEGAS をぜひ観に行っていただきたい。
(同様な看板が、ストリップ地区からダウンタンへ向かう途中、そしてストリップ地区から東へ約8km ほど行ったボールダーハイウェーの中央分離帯にもあるが、国家歴史登録財に指定されているのはこちらのロケーションなので、それらはここでは無視)

 ホテル街から今回完成したばかりのバス停への路線バスでの行き方は、バス停 「Fashion Show Mall」、「Bellagio」、「Excalibur」、「Mandalay Bay」 のいずれかから、急行の 2連結バス “SDX“(各バス停に停車する 2階建てバス “DEUCE” とは異なるので要注意)の南行き路線に乗り、「Welcome to LV Sign」というバス停で下車。所要時間は道路が混んでいなければベラージオから 15分程度。運行間隔は約15~20分。

 バス運行組織 RTC の公式サイトや、バス車内の案内などにまだこのバス停のことが書かれていないので少々不安になるかもしれないが、「Mandalay Bay の次のバス停」と覚えておけば簡単なので心配する必要はない。(この写真は帰路で利用することになる北行き路線のバス停と停車中の SDX)
 なお、この急行路線の運行は朝9時から深夜0時までなので、それ以外の時間帯に乗車する場合は、時間が大幅にかかってしまうが、2階建ての DEUCE に乗る必要がある。逆に、日中の時間帯、DEUCE は目的のバス停まで行かないので(マンダレイベイが終点)、要注意。
 運賃は SDX も DEUCE も発券後2時間有効の乗車券が $6、24時間有効が $8、72時間有効が $20。
帰りのバス停は、道路の反対側に見えているので特にむずかしいことはなく、来たバスに飛び乗ればよい。(深夜なら DEUCE、日中なら SDX が来るはず)

 最後に訪問の時間帯について。現場はゲートなどがあるわけでもなく、係員がいるわけでもなく、また入場料を徴収しているわけでもなく、24時間だれでも自由に無料で入ることができるので、いつ行ってもかまわないが、このたびのバス停の完成により、とんでもなく混雑する事態になっている。(写真上。大型観光バスが到着した直後というわけではなく、これが普通の混雑状況)
 どの時間帯が一番混むとは断言しにくいが、日中は 100人を超える人でごった返す可能性があり、看板の真正面での写真撮影には長蛇の列に並ぶ覚悟が必要だ。
 というわけで、じっくり時間をかけて見学するような場所ではないかもしれないが、落ち着いてゆっくり観たい、もしくはどうしても正面で写真を撮りたいという場合は、早朝とか深夜とか、時間帯をずらして訪問したほうがよいかもしれない。真正面ではなく、横からの撮影でかまわないという場合は、並ばなくても撮影可能だ。(横から、つまり斜め方向からの撮影で十分だと思われる)

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