毎年5月初旬の土曜日の宿泊料金が異常に高いワケ

 ゴールデンウィークにラスベガス旅行を計画している読者から、「旅行代理店から 5月1日と2日は満室と言われてた」「宿泊料が異常に高いのはなぜ?」「アメリカにはゴールデンウィークなどないはず。やはり高い理由は日本人観光客が殺到しているから?」といった質問が寄せられている。
 たしかに以下の通り、平常時の10倍以上の料金(単位:ドル)を付けているホテルも少なくない。(以下は、ラスベガスの主要ホテルのゴールデンウィークの宿泊料金)
 というわけで今週は、毎年恒例の「5月初旬の土曜日の異常宿泊料」について取り上げてみたい。


 今年の5月1日と2日が異常に高い理由は、ずばりボクシング史上最高のマッチといわれる注目の一戦が予定されているからだ。
 フロイド・メイウェザー・ジュニア(アメリカ)と マニー・パッキャオ(フィリピン)が 5月2日の夜に MGMグランド・ガーデン・アリーナで対戦する。
 メイウェザーは 47戦無敗の王者、パッキャオは 6階級制覇のフィリピンの英雄で、同国の国会議員でもある。いずれ大統領になるのではないかとの噂もあるが、それはどうか。
 このスーパースター同士のマッチは何年も前からファンの間で期待され、実際に 6年前から両陣営の間で何度も対戦交渉が進められてきたが、さまざまな事情で実現には至っていなかった。それがやっと実現するというのだから盛り上がるのも無理はない。(下の写真はアリーナと直結するMGMグランド・ホテルの外壁に掲示されたビルボード)

 どっちが強いのか…。その長年の論争にいよいよ決着が付くだろうということで、この試合を観るためにボクシングファンはもとより、世界中から報道関係者、ハリウッドスターなどのセレブ、さらにはカジノホテルから招待されたハイローラー(高額の賭け金でプレーするギャンブラー。カジノにとっては超重要顧客)たちがラスベガスに集結する。

 ホテルの客室需要が高まれば料金も上がるのは当然のことだが、今回アリーナに用意される座席数はせいぜい 17,000。約15万室あるとされるラスベガスにおいて、その程度の数の来訪者で宿泊料金がそんなに上がるものなのか、といった疑問もあるようだが、実は試合を見に来るのはアリーナ観戦の人たちだけではない。そもそも一般庶民は 1000ドル以上もするチケットを買ってまでアリーナに足を運ぶことはしない。

 そこで各カジノホテル(今回はMGM系列のホテル)は、何千人も収容できる巨大バンケットルームに大画面テレビを何台も設置し、アリーナからの中継映像を見せながらの観戦パーティーを開催する。それを目当てにラスベガスにやって来る者が何万人もいるというわけだ。

 ちなみにその観戦パーティーは無料ではない。ハイローラーは別として、一般の人たちの入場料はたぶん $100 前後になるはずだ。
 「テレビ観戦に $100 も?!」と思うかもしれないが、無料で見せるわけにはいかない事情がある。なぜならこの試合は地上波チャンネルでは放送されず、pay-per-view 放送(ケーブルテレビなどにおいて、月額料金とは別に番組ごとに課金する有料放送)のみで視聴できるようになっているため、一般の家庭での有料視聴者との公平性を確保しなければならないからだ。(上の写真はMGMの客室棟の外壁を利用した pay-per-view の巨大広告)
 自宅のケーブルテレビで観戦できるのに、わざわざラスベガスまで出向く意味があるのかということになるが、大いに意味がある。なぜならカジノでこの試合に賭けることが出来るからだ。現金を賭けての観戦がどれほど興奮し盛り上がるかは、賭けた者にしかわからないだろう。

 そのような理由で訪問者が激増し、宿泊料も高騰するわけだが、ボクシングに興味がない一般観光客にとってはいい迷惑だ。(この写真は、MGMのフロントロビーにセットされたリング。もちろん宣伝のためのリングであり、ここで試合が行われるわけではない)

 実はかつてラスベガス・リピーターの常連読者から、「なぜか毎年ゴールデンウィークの時期にボクシングで宿泊料金が高騰して迷惑を被っている。単なる偶然か?」といった質問を受けたことがあるが、偶然ではない。ちゃんとした理由がある。

 それは、近年のボクシング興行のビジネスモデルが pay-per-view の売上に頼るようになってきていることと、メキシコの戦勝記念日「シンコ・デ・マヨ」(5月5日)の存在だ。

 ご存じのようにメキシコにおいてボクシングは国技のようなもので、ボクシング・ファンの数は半端ではない。そしてアメリカには国境を接するメキシコからの移民が非常に多く、そのかず数千万人ともいわれており(非合法移民も少なくないため正確な数は不明)、彼らの多くはシンコ・デ・マヨやその前後の週末にホームパーティーなどで集まる。つまり、試合を有料中継するケーブルテレビ局にとって、その時期の在米メキシコ系移民は大のお得意さんというわけだ。(メキシコ本土よりも在米のほうがシンコ・デ・マヨを盛大に祝う)

 そのような理由から、ボクシングのビッグイベントは5月初旬の土曜日に開催するのが慣例となり(シンコ・デ・マヨの当日は一般のアメリカ市民にとって休日になるとは限らないので土曜日のほうが都合が良い)、またボクサーも pay-per-view の売り上げの分け前をもらえる契約になっていることから、5月初旬に照準を合わせてトレーニングするようになった。(スーパースターに限った話であり、一般のボクサーは 5月とは無関係に試合をする)

 マイク・タイソンが引退しヘビー級全盛の時代が終わったあと、今世紀に入ってからのボクシング界のスーパースターといえば、今回の2人と 6階級制覇のオスカー・デ・ラ・ホーヤを加えた3人であることに異論はないだろう。
 以下のリストは直近10年の5月初旬の土曜日に組まれたビッグマッチだ。10試合すべてでその3人が絡んでいることがわかる。

 今回の試合で二人が手にするファイトマネーに関しては、興行収入を 60:40 の比率で分配することで合意している(メイウェザーが 60)。
 当初興行収入は 2億ドル前後(約240億円)と見られていたが、pay-per-view の料金の値上げや、その視聴者の数が当初の予定を上回るだろうとのことで、3億ドルを超える可能性も出てきており、2007年のメイウェザー対デラホーヤ戦を超える史上最大の興行となることがほぼ確実視されている。

 ちなみにカジノでの賭け率から見た勝敗予想では、対戦が決定した2月の時点ではメイウェザー -240、パッキャオ +200 で、メイウェザーがかなり優勢とされていたが、その賭け率だとパッキャオに賭ける人が多いようで、現在は右の写真の通りメイウェザー -180、パッキャオ +150 とかなり拮抗してきている。(これら数値の読み方に関してはこのラスベガス大全の「カジノ」セクションに掲載)
 日本人としてはアジアの同胞ということでパッキャオを応援したい人が多いと思われるが、パッキャオに賭けるのであれば、なるべく早く賭けたほうが配当倍率が良いはず、というのがもっぱらの噂だ。理由は、試合日が近づくにつれ、フィリピンから臨時便などで応援団が続々とベガス入りしてパッキャオに賭けるからとされているからだが、もちろん噂の域をでていない。
 果たして試合結果はいかに。ちなみに日本でも有料の WOWOW が「今世紀最大の一戦」と称してライブ中継する予定。

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