LINQ の終点で建設工事が続けられてきた世界最大の観覧車 HIGH ROLLER(写真)がこのたび完成し、約一ヶ月間の試運転を経て、3月31日、ついに営業運行を開始した。
LINQ とは、フラミンゴ・ホテルとクアッド・ホテル(旧インペリアル・パレス)の間の道路に沿って再開発された全長約370メートルほどのエンターテインメント & ショッピング・プロムナードのこと。
その終点、つまり、ストリップ大通り側からプロムナードを歩き切った突き当りの場所に、この観覧車が出現したことになる。
高さは 550フィート(約167メートル)で、「シンガポール・フライヤー」、「ロンドン・アイ」、「南昌之星」などの世界に名だたる大型観覧車よりも高く、現時点では世界一。
(なお、さらに高い観覧車の建設がニューヨークやドバイで計画されているようで、数年後には、世界一の座を譲る可能性がある)
上の写真は、最高地点に達したキャビン内から北側を臨んだ景色。主要カジノホテルの屋上を見下ろすほど高いことがうかがえる。
経営母体はフラミンゴ、クアッド、シーザーズパレスなど複数のカジノホテルを運営する Caesars Entertainment 社およびその関連企業。(写真は LINQ の入口付近からシーザーズパレス方向を見た様子)
日本円で2兆円を超える多額の借金を抱え倒産の噂もささやかれてきた企業グループなだけに、完成に至るかどうか心配されていたが、このたびなんとか無事に開業にこぎつけた。
とはいえ、祝賀ムードに酔いしれている場合ではなく、試練はこれからかもしれない。
この観覧車の完成は「高さ世界一」ということで、ラスベガス全体の注目度のアップに貢献し、街そのものやライバルホテルなどにとってはプラス要因となるが、Caesars社自身にとっては採算性の不安、つまり建設費の金利負担や運営経費を料金収入で賄えないのではないかとの指摘が以前からあり、ウォールストリートや業界関係者の間では、財務状況をさらに悪化させる要因になり得るとの悲観的な意見が少なくない。
それはともかく、ラスベガス旅行を計画している読者にとっての関心事は、採算性よりも料金や待ち時間だろう。
搭乗の時間帯や有効期限など条件によっていくつかのチケットが存在しているが、おおざっぱに表現するならば、料金は昼が $25、夜が $35。それに $2 のチケット販売手数料が加算される。(始めから手数料も料金に含めて表示すべきだが、とにかく別表示になっている)
開業後一週間の現時点における混雑状況は、観覧車自体の存在がまだあまり知られていないためか、昼は総じてすいており待ち時間はほとんどゼロ、日没後の夜景がきれいな時間帯でも大して待たされない。
したがって、「混んでいても並ばなくてよい」という割高な優先チケットも売られているが、現時点ではその種のチケットを買う必要はないだろう。
ただ、チケット販売窓口やその自動販売機などがまだ不完全なこともあり(窓口や自販機の数が少ない)、搭乗のための行列よりも、チケット購入に時間がかかる可能性があるので、急いでいる場合は注意が必要だ。しばらくはネット(thelinq.com)による事前の購入が賢明かもしれない。
搭乗の方法は、英語が苦手でも特にむずかしいことはない。チケット販売窓口も搭乗のための入口も、LINQ プロムナードから観覧車に向かって右側のわかりやすい位置にあるので、そこでチケットを購入し入口に向かえば、あとは順路に従って進むだけだ。
ネットで事前購入している場合は、自分でプリントアウトしたバーコード付きチケットを持参し直接入口に向かえばよい。(上の写真は最高地点から南側を臨んだ景色)
順路の途中で手荷物検査と記念撮影がある。手荷物検査の表向きの理由は爆発物や武器の発見などテロ防止とされるが、本音はビールなどの持ち込みを防ぐための検査のようだ。(現場での飲み物の販売が収益源の一つになっているため。なお水のペットボトルの持ち込みは可)
ちなみに搭乗口の直前にバーカウンターがあり(写真)、そこでビールやコーラなど各種飲み物を買うことが可能で、それらを観覧車に持ち込むこともできる。値段はビール小(約450ml)が $7、大(約680ml)が $9、コーラなどのソフトドリンクが $7。
ただ、この場所で重要なのは飲み物の購入よりも、バーカウンターに向かって右側の奥にひそんでいるトイレの存在だ。飲み物はなんとか我慢できても、トイレの我慢はつらいはず。LINQ にはビールパブなどたくさんの飲食店が軒を並べているので、すでにビールなどを大量に飲んでいる場合は特に要注意。
ちなみに観覧車が一周まわるのに要する時間は約30分。もちろん各キャビン内にトイレはない。
なお話が前後するが、搭乗前に行う記念撮影は、搭乗終了後の通路沿いにあるギフトショップにおいて、記念写真(観覧車のキャビンから見た夜景との合成写真)を販売するためのもので、それを買う買わないはもちろん自由。値段はプリントサイズや種類にもよるが $25 から。
搭乗は現場スタッフの指示に従いドアが開いたら普通に乗り込む。各キャビンは止まることなく動き続けているが、特にむずかしいことはない。
ちなみにその動く速さは一周360度を30分で回っているので、角速度でいうと分速12度。時計の長い針の動きなら2分ぶんだ。
したがって観覧車全体の直径が約160メートル(地上から最下点までは約7メートル)とすると、足元のプラットフォームに対して秒速約28cmで動くキャビンに乗り込むことになる。
大した速度ではなく、プラットフォームとキャビンとのすき間もほとんどないので何ら問題はないが、ドアの間口がそれほど広くないので、酔っぱらいなどが秒速28cm をあまり意識しすぎると、バランスを崩したりしてドアの左右から地上に転落する危険がありそうにも見える。
そんな設計で大丈夫かと思いきや、数メートル下にちゃんとネットが張ってあった。転落しても死亡事故などにならないことはわかったが、落ちた人をどうやって引き上げるのか、現場スタッフに聞いてみたところ、「まだ前例がない」との冷たい返事。
全部で 28機ある各キャビンの床面の広さと形状は直径約5メートルほどの円形で、定員は広報資料などによると約40人。
しかしそれはスペースや重量から算出した限界値と思われ、団体の貸し切りなど特殊な状況を除けば、実際に40人も詰め込むことはないらしい。
もし 40人も乗せたら日本の通勤電車並みの混雑で、窓際以外の者は景色などほとんど見えないと思われる。
したがって通常は、現場スタッフが適度な数の人が乗り込んだところでドアを閉めており、見ている限りでは、どんなに多く乗せても20人程度までのようだ。
パーティー用の特定キャビンを設定し、今後そこにバーカウンターなどを設置するとの話もあるが(酒類販売のライセンス問題などを解決する必要あり)、とりあえず現時点におけるキャビン内部の様子は意外とシンプルで、7人ほどが座れるベンチ(上の写真の赤い部分)が2つあるだけ。
あとは天井の周囲部分に、解説や宣伝や高度などを表示するためのディスプレイ・モニター(下の写真)が8台。エアコンは完備されている。
さて気になる景色についてだが、思っていた以上に楽しめたというのが率直な印象だ。
近くに建つフラミンゴホテル(上の写真において左側の窓の下半分に見える建物)がかなり視界をブロックしているのではないかと心配しながら乗ってみたわけだが、その問題に悩まされるのは高度が半分程度の位置を超えるまで。それ以上の高さに達すると一気に視界が開け、北はウィンやパラッツォ、南は最南端のマンダレイベイまで、主要ホテルのほとんどを見渡すことができる。
残念なのは、ストリップ大通りそのものはまったく見えないということ。つまり、カジノホテルの派手なネオンサインや渋滞する車のライトに埋まったまさにストリップ状に光り輝くイルミネーションを見ることはできず、その種の光景はエッフェル塔やストラトスフィアタワーからの景色に譲るしかない。
なおホテル街とは逆の方向、つまり上昇開始時の進行方向に向かって右側(東側)の窓からはゴルフコースや住宅街など大した景色は期待できないので、キャビン内での位置は重要だ。
10人程度までの搭乗人数であれば自由に動けるスペースがあるので特に場所取りを気にする必要はないと思われるが、それ以上になってくると状況は変わってくる。
乗り込む際のドアがある付近がホテル街の方向を見渡せる位置になるので、なるべく最後のほうに乗り込みそのドア付近を確保するのがベストだ。
さらに欲をいえば、ホテル街でも北側よりも南側のほうがやや賑やかなので(上の写真が南側の様子)、どちらかというと乗ってやや右側のドア付近がよいだろう。もちろん北側の景色も悪くないので、南側を確保できなくてもガッカリする必要はない。
なおキャビンが頂点に達する直前、ディスプレイ・モニターがカウントダウンなどをしながらその瞬間を知らせてくれる。頂点到達のときは、美しい景色とは異なる何か一種独特な感動を覚えたりするので、エッフェル塔やストラトスフィアタワーに登ったことがある者でもこの観覧車に乗る意義はあるはずだ。
まだ開業したばかりのため、料金設定のみならず運行スケジュールも流動的で今後すぐに変わる可能性もありそうだが、とりあえず現時点では午前10時から深夜2時までが運行時間となっている。
ベラージオホテルの噴水ショーと並ぶベガスを代表するアトラクションとなることはまちがいない。時間と予算が許す限り、当地滞在中の行動予定に入れるべきだろう。
乗ると決まったら、もちろん時間帯は夜間のほうがおすすめだ。できれば、いわゆる 「マジックアワー」と呼ばれる日没時刻の 15~20分後に頂点に達するようなタイミングで乗るようにしたい。空がまだ少し明るく適度に色が残っているばかりか、真っ暗になる時間帯よりもシャッタースピードを速く設定できることから三脚なしでも手ブレしにくく、きれいな写真が撮れることうけ合いだ。
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