カリスマ DJ スティーブ・アオキがクラブでやっていること

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 今週は、昨年 MGMグランドホテル内にオープンした大型ナイトクラブ Hakkasan と、このクラブと契約しているカリスマDJ スティーブ・アオキ氏について取り上げてみたい。
(上の写真は Hakkasan でシャンパンを客にまき散らすアオキ氏。以下の写真も含めてすべて2014年4月17日に撮影)

 Hakkasan の原点は、2001年にロンドンで誕生した高級モダン中華料理店で、料理のレベルのみならずゴージャスなインテリアでも人気を博し、開業後わずか2年でミシュランの星を獲得。
 その後、世界展開に乗り出し、今ではドバイ、ドーハ、ムンバイ、ニューヨーク、サンフランシスコ、マイアミ、ビバリーヒルズなどに店を持つまでに成長。
 そんな飲食業を専門とする企業が、エンターテインメント業界で名を馳せるアメリカの Angel Management Group(AMG)と手を組んで完成させたのが、今回紹介するラスベガスの Hakkasan で、上層階がナイトクラブ、下層階がレストランという複合施設になっている。
 ちなみに AMG は以前からラスベガスにおいて PURE、LAX、Coyote Ugly、VENUS、Wet Republic など人気のナイトクラブやデイクラブの運営で成功を収めている企業で、当地における存在感は非常に高い。

 クラブとレストランの共存という形態は、ベネチアンホテルにある TAO などでも見られることで、この Hakkasan が初めてというわけではないが、レストランを併設しているかどうかにかかわらず、クラブとしての Hakkasan の注目度は他を圧倒している。
 それは昨年開業したばかりで新しいという理由もさることながら、なんといってもその投資額だろう。
 この種の施設としては異例の1億ドルともいわれる巨額が投資されており、それに見合う収入があるのかどうか採算性が疑問視されるほどの超高額だ。
 たしかに金利負担などのことを考えると無謀な投資といえそうだが、とにかく「一軒のナイトクラブとレストランに1億ドル」は簡単にできることではないので注目されて当然だろう。
(上の写真は Hakkasan 内の数あるセクションの中のメインフロア。まだDJすら来ていない入場開始直後のすいている時間帯の様子)

 さて利用者として気になるクラブ Hakkasan の評判についてだが(レストラン部門は今回の話題から除外)、それはかなり両極端に分かれている。つまり高く評価する意見もあれば、酷評も少なくないということ。
 意見が分かれること自体は、どのようなクラブにおいても多かれ少なかれいえることで驚きに値しないが、この Hakkasan では特に顕著のようで、口コミサイトなどでもその傾向はうかがえる。
 ではどこが良くてどこがダメなのか。総じて高く評価されている部分はハード面、つまりフロアの広さや天井の高さなど構造に関する部分や、照明や音響設備などだ。1億ドルがつぎ込まていることを考えると当然といったところか。

 一方、悪評で一番目立つのはソフトの部分。
 バーで買う飲み物の料金の高さや混雑度はすこぶる評判が悪く、またテーブルを買わない一般客に対する態度などに関しても厳しい声が少なくない。
 たしかに小瓶サイズの量のビールが $12以上、カクテル類が $16 以上、コップ一杯の水が $9 と聞けばだれもが驚くことだろう。($9 は高すぎるが、水をタダや激安にするとビールが売れなくなるので、ナイトクラブではよくある戦略)

 もちろんそれらは踊り疲れたりした際にバーカウンターで買って立ったまま飲むドリンク類の価格であって、すわって飲む場合の話ではない。
 すわるためにはゼロが2つほど増える。テーブルの位置や時間帯によっても変動するので固定的なものではないが、座席の確保には最低でも $1000、ダンスフロアに近い良いポジションで、なおかつやや広めのテーブルの貸し切りは $3000 を超える。それに自動的にチップが数百ドル加算されたりすることも少なくない。
 「ゼロの数がまちがっているのではないか?」と、ラスベガスのクラブ事情を知らない人にとっては信じられないような数字だろうが、それが現実だ。(上の写真内の赤い部分の向かい合わせのテーブル席を全部確保するとなると、曜日、時間帯、その日のDJなどによっても異なるが $3000以上)

 そしてそのような高いテーブルを買って大金を落としていく客と、そうでない一般客に対するスタッフの態度があまりにも違いすぎる部分もかなり評判が悪いようだが、クラブ運営もビジネスなのである程度は仕方ないだろう。
 逆に考えれば、金持ちにとっては悪い話ではないかもしれない。金さえ払う覚悟で行けば、最上級のサービスを受けることも可能だからだ。
 実際にテーブルを買えば、専属のウェイトレスはおろか、バウンサー(bouncer: 用心棒)も自分たちのためだけに仕事をしてくれ 、酔っ払った群衆などからテーブルをしっかり守ってくれる。(もちろんチップ次第ではあるが)
 さらに、一般客、$1000の客、$3000の客、$5000の客などで、待遇も空間の広さもハッキリ差別化され、なおかつ飛行機の座席クラスとは異なり、互いが常に至近距離で接して視界に入っているため、ヒエラルキー的な世界がクラブ内に充満している。
 そういった部分を体感したい金持ちにとっては、これほど優越感を味わえる心地良い場所は、他にそう多くはないはずだ。
 しがたって、不評とされるスタッフの態度に対しても、立場によっては意見が分かれたりする可能性がある。

 混雑ぶりは無条件で不評のようだ。ある程度は混んでいないと盛り上がらないし、ナイトクラブに混雑はつきものだが、たしかに Hakkasan は特にひどいと思われる。
 それだけ人気があるということの証でもあるわけだが、何ごとにおいても限度を超えるのはよくない。火災時など緊急避難を要するケースを考えればなおさらのことで、ある程度の混雑度に達したら入場を打ち切るべきだろう。
 人気DJが登場する日のピーク時のダンスフロアは、日本の首都圏の通勤電車と同様に全く身動きがとれなくなることも少なくない。(上の写真内のほぼ中央に小さく見える人物がアオキ氏)

 さように料金が高くて大混雑しているナイトクラブではあるが、ベガス一の最高級という雰囲気と、そのにぎわいを実際に肌で感じてみたいという人にとっては、この Hakkasan はたまらなく魅力的に感じるはずだ。
 ちなみにどういう基準で選んだのか定かではないが、世界的に有名な男性向け娯楽雑誌 プレイボーイ・マガジン「Number 1 Nightclub in the World」としてこのクラブを選んでいる。
 それを聞いたら、クラブファンとしては黙っていられないだろうが、どうせ行くなら人気DJが登場する日に行くようにしたい。(上の写真は、左手に持ったバースデーケーキを観客に向かって投げつけようとしているアオキ氏)

 さてここからは DJの話。たくさんのDJがこのクラブと契約しているわけだが、その中には世界的に知られるカリスマDJが4人も含まれている。Calvin HarrisHardwellTiesto、そして Steve Aoki だ。(この写真は、シャンパンを観客に向かって吹きかけようとしているアオキ氏)
 日本のナイトクラブでは考えられないようなことだが、彼らの出演料は一晩で何十万ドルにもなるというから恐れ入る。
 それだけ巨額の売上があるビジネスともいえるわけだが、そこまでの出演料を払ってでもクラブ側が呼びたいと考えるということは、彼らにそれだけの魅力や才能があるということだろう。

 ちなみに Hakkasan の営業日は原則として木、金、土、日の週4日。すべての営業日にその4人のだれかが必ず出演するというわけではないが、それぞれが月に1~3回は出演するので、営業日に足を運べばカリスマDJに遭遇できる可能性は高い。
 もしこの4人の中で特にひいきにしているDJがいないのなら、スティーブ・アオキ氏が出演する日に行くことをおすすめしたい。日本人が活躍しているシーンを見てほしいからだ。
 日本人と表現してしまったが、アオキ氏はアメリカ生まれのアメリカ育ち、国籍的にはアメリカ人で、年齢は36歳。日本ではあまり知られていないようだが、今のアメリカの若い世代で彼の名前を知らない者はまずいない。それほどの有名人だ。
 一般の日本人にとっては、鉄板ステーキ店「ベニハナ」で成功を収めたロッキー青木氏の息子といったほうがわかりやすいかもしれない。

 さて、そのアオキ氏が取り仕切る Hakkasan、どのようなことになるのか。もしくは一般のDJとはどのようにちがうのか。(この写真は後述する「ボート」
 ちなみにアオキ氏が出演する日でも彼が始めから顔を出すわけではない。最初の3時間ほどはいわゆる前座のDJだ。ナイトクラブの営業開始時刻はだいたい午後10時以降なので、アオキ氏が登場するのは午前1時過ぎということになる。
 そこからの約2時間、彼が会場内を取り仕切るわけだが、前座が担当していた時間帯までとはすべてがガラリと変わるから興味深い。
 会場内は熱狂に包まれ、観客の興奮は頂点に達する。アオキ氏の面目躍如といったところか。
 その光景を見ていると、超高額の出演料を支払ってでもクラブ側が彼を呼びたいことに納得させられる。

 前座のDJとはちがい、彼の仕事は選曲やトークだけではない。観客の前まで歩み寄り、自身のTシャツをばらまくなど、さまざまなパフォーマンスを見せてくれる。
 中でも彼のトレードマークともいえる最も有名なパフォーマンスは、「ボート」「シャンパン」「ケーキ」だ。
 ボートは、ゴムボートをステージから会場内に送り出し、そこに女性客などを乗せ、観客全員でみこし担ぎのようなことをして遊んでもらうというパフォーマンスで、彼自身がボートに乗り込んだ際の熱狂は半端ではない。(上の写真はアオキ氏自身がボートに乗ったところ)

 シャンパンは、ボトルをおもいっきり振ってから栓を開け、観客に向かって吹きかける。自身が口に含んで吐き出したりもする(写真)。
 観客は逃げるどころか、シャンパンを喜んで受けるという熱狂ぶりだ

 ケーキは、長方形のかなり大きめのものを観客に向かって投げつける。こちらも観客はそれを喜んで受け入れ、逃げようとする者などほとんどいない。
 シャンパンもケーキも1回だけではなく何度もやるので、ダンスフロアにいる多くの人たちはびしょ濡れになり衣服はケーキから飛び散ったクリームだらけとなる。
 高価な衣装に身を包んでいる人たちのことが気になってしまうが、当人たちにとってそんなことはどうでもいいようだ。(下の写真は、高々と頭上に持ち上げたケーキを観客にたたきつけようとしているアオキ氏)

 もはやアオキ氏はDJというよりも、宗教などにおける教祖、そして観客はまるでその教祖に熱狂した信者のようにも見える。
 「ケーキ投げなど低俗でバカバカしい」など、この種のパフォーマンスに対しては好き嫌いや賛否両論あるだろうが、アオキ氏のカリスマ性がいかんなく発揮されているという意味では、パフォーマーとして立派な仕事をしているといってよいのではないか。これだけ観客を熱狂させられるということは、非凡な才能を持っている何よりの証拠で素直に敬意を評したい。

 なお、これは彼のオリジナルパフォーマンスというよりも Hakkasan からのプレゼントといった感じだが、「1ドル紙幣の紙吹雪」という熱狂パフォーマンスもある。(うまく撮れていないが、上の写真がその場面)
 もちろんおもちゃのドル札などではない。正真正銘の1ドル紙幣だ。それを天井からダンスフロアに大量にばらまく。その数、千枚は超えているのではないか。
 高いテーブルチャージを考えると、どうという金額ではないのかもしれないが、太っ腹なパフォーマンスであることにはちがいない。
 また、一瞬の短い時間ではあるが、熱狂の対象をアオキ氏という人物からドル札に切り替えるという意味で、なにか戦略的な意味があるのかもしれない。

 いずれにせよ、1ドル紙幣をたくさんキャッチしたければ(空中キャッチは意外とむずかしく、フロアに落ちているものを拾ったほうが簡単とされる)、ダンスフロアの中央付近から前にいたほうがよいが、その代わり衣服はシャンパンやクリームだらけになってしまう覚悟が必要だ。

 そんなことはともかく、エンターテインメントの総宝山ラスベガスにおいて最も高級かつ話題性のあるクラブでの熱狂、それもその主役を日本人(正確にはアメリカ国籍だが)が演じているという極めて特殊な空間に身を置くことは決して無駄ではなく貴重な体験となるはずなので、アオキ氏の出演日程とベガス滞在が重なる者はぜひ足を運んでみるとよいだろう。

 日程は、そのつど公式サイト hakkasanlv.com などで確認したほうがよいが、とりあえず現時点で確定しているアオキ氏の出演予定日は 5月10日と 6月14日となっている。

 入場料はその公演日ごとに変わったり、チケット購入のタイミングなどによっても異なってくるので流動的だが、おおむね女性は20~30ドル、男性は 30~50ドル前後となっている(Calvin Harris 氏の日はもう少し高い)。それにライブエンターテインメント税(LET)が10%、チケット販売手数料約5ドルが加算される。
 高過ぎるとの批判もあるクラブではあるが、会場内で飲み物を買ったり、座るためのテーブル予約などをしない限り、これ以上の費用負担はない。

 なお、ドレスコードがあり、短パン、Tシャツ、スニーカーなどは不可となっているので注意が必要だ。
 だからといって高価な服装は、前述のシャンパンやケーキのみならず、混雑したダンスフロアで飲み物などをこぼされたりタバコの火の被害に遭ったりする可能性があるので、なるべくなら避けたほうがよいだろう。
 あと被害といえば、女性のピンヒールに踏まれてしまうことにも気をつけたい。入場の際、年齢にかかわらず全員に対して身分確認があるのでパスポートは必携

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