今週はコロナに負けじと立ち上がった Cirque du Soleil(シルク・ドゥ・ソレイユ)や LE RÊVE(ルレーブ)の元パフォーマーたちによるナイトショー(初演 2021年2月12日)を紹介してみたい。
非常事態宣言下での人数制限
ちなみに現在のラスベガスは日本でいうところの非常事態宣言のような規制下にあり、ナイトショーやコンサートなどの公演は事実上ほぼ不可能な状態が続いている。
その規制とは、「入場者数の上限はその施設の規定収容人数の25%まで、もしくは50人までのどちらか少ないほう」となっており、つまりどんなに大きなシアターでも50人までしか入場させることができない。
(この規制、偶然にも今回紹介するショーが始まった当日、「35% もしくは 100人まで」に少しだけ緩和されることがネバダ州知事から発表された。施行は2月15日から)
昨年の3月から休演 & 失業
こんな厳しい条件では、比較的経費がかからないとされる立ち席のコメディショーなどでも採算を取ることは極めて困難とされ、実際にコロナ騒動が勃発した昨年の3月以降 ほぼすべてのショーが休演 となっている。
そんな状態が続いているため当然のことながら各ショーのパフォーマーたちは活動の場を失い、約1年間も不安な毎日を過ごしているというから気の毒だ。
もちろん今の時期、どの業界においても失業者は珍しくないが、ショービジネスの世界は業界そのものが完全に消えて無くなってしまっているため、転職などの環境も条件も心情もかなり他業種とは異なっていると聞く。
再開を断念したショーも
コロナが落ち着き公演が再開されれば元の舞台に復帰できる待機組のパフォーマーたちもいるようだが、そうでない者も少なくない。
そうでない者とは、公演再開の見込みがないショー、つまり人数制限やコロナの成り行きに関係なく主催者がすでに公演の打ち切りを決めてしまったショーのパフォーマーたちのことだ。
たとえばシルク・ドゥ・ソレイユでいえば「Zumanity」がそれに該当する。また他の有名なショーとしてはウィン・ラスベガスで開催されていた人気の水中・水上ショー「LE RÊVE」も再開を断念してすでに解散済みだ。
男女6人の勇者の中に日本人も
結果的にショービジネスの将来に希望が持てず故郷に帰ってしまうパフォーマーがあとをたたないようだが、そんな中、「このまま黙って待っていても現状を打開することができない」と立ち上がった人たちがいる。Zumanity や LE RÊVE の元パフォーマーを中心とした男女3人ずつ合計6人の勇者だ。
その中のひとりに元 LE RÊVE で活躍していた日本人が含まれている。その名は 宮崎夏実。
彼女に関してはこのサイトに 対談記事(←クリックやタップで閲覧可能)として登場して頂いたことがあるのでご存じの読者も多いと思うが、2014年アジア大会のシンクロナイズドスイミング(*)団体で銀メダル、同年ワールドカップでも銀という輝かしい実績を持つアスリートだ。
(* 2017年から国際水泳連盟の決定により「シンクロナイズドスイミング」という名称は消え「アーティスティックスイミング」に切り替わっているが、ここでは当時の名称で表記)
採算は度外視、まずは開催
「こんな時期だからこそラスベガスを訪れてくれる人たちにエンターテインメントを提供したいし、また自分たちにとっても活動の場を作りたかった」との思いで彼女たちが始めたのが今回紹介するショー「Apéro」で、意味はフランス語で食前酒。
彼女いわく「夕食の前に一杯のもう!」といった意味を込めて付けられたタイトルとのこと。
もちろん現時点では採算などまったく考えていない。まずは開催することありきで、とりあえず先週の金曜日に無事に初公演を迎えることができた。座席数が少ないということもあるが、満席だったことは喜ばしい。その後の公演日のチケットもほぼ完売だと聞く。
こぢんまりしたライブハウス
会場のロケーションはホテル街の最南端にあるマンダレイベイホテルからさらに南に 2km ほど行った地点にあるショッピング街「タウンスクエア」の中。
車がないと行きづらい場所ではあるが、今の時期に当地を訪れているここの読者の大半はロサンゼルス周辺地区から陸路でやって来る在米日本人と思われるので特に問題はないだろう。
「50人まで」というルールがある限り(このたび100人までに緩和されたが)、大きなシアターでやる意味はまったくないわけで、現場は日本でいうところのライブハウスのようなこぢんまりした施設。
ラスベガス屈指の巨大シアターでダイナミックに演じていた彼女にとっては「せまい感」は否めず実力を発揮しづらいサイズと思われるが、コロナ禍の今はぜいたくなことは言っていられない。むしろ人数制限のことを考えるとちょうど良いサイズと言ってよいのではないか。
キャバレー風のオトナの空間
ちなみにこの会場はレストラン兼バーの「baobab Café」に併設されるカタチで存在しており、客席エリアには大小さまざまな座席の中に赤いベルベットのソファー席がいくつか用意されているなど、雰囲気としてはフランスやアメリカでいうところのキャバレーに近い。照明も怪しげに暗く、完全にオトナの空間だ。
各座席には小さいながらもテーブルが用意されており、ディナーショーというほどの本格的な料理ではないものの、baobab Café のメニュー内からコーヒー、ボトルワイン、各種カクテル、サンプラープレート、チキンウィング、サンドウィッチなどをオーダーできるようになっている。これがなかなか美味しいので、ここで食事をする前提で行ってみるのもよいかもしれない。
なお参考までに、この店のオーナーは Zumanity の元デザイナー。そんな縁があって、ここを会場にすることになったとのこと。
トーク無し、語学力は不要
さて気になるショーの内容についてだが、現場の環境がキャバレースタイルであることからも想像がつくとおり、小規模ではあるものの全体としてはクオリティーの高いオトナ向けのショーに仕上がっている。
もちろんトップレスなどのアダルトショーではないので老若男女が楽しめるようになっているわけだが、12歳未満は入場不可とのことなので子連れファミリーなどは要注意だ。
なお Zumanity や LE RÊVE でもそうだったが、このショーにおいては役者がしゃべるトーク場面は無いので語学力の必要はまったくない。
参考までに6人の役者たちの出身ショーを紹介しておくと、Zumanity から2人、LE RÊVE から2人、KA と The V からそれぞれひとりずつとなっている。
前半と後半の間に休憩が
個別の演目に関しては観てからのお楽しみということで割愛させて頂くとして、このショーの特徴を伝えておく必要がありそうなのでそれを説明しておきたい。
それは前半と後半の間に休憩が挟まれているということ。時間の割り振りとしては前半30分、休憩30分、後半30分といったところか。
この休憩、飲食物の売上を期待してのことではないかとよこしまな考えが頭の中をよぎったが、そうではないらしい。
そもそも食事や飲み物は多くの人が開演前にオーダーしてしまっているわけで、休憩を入れたのはラフな気分でリラックスしてもらうためだとか。たしかに飲み食いしながらの鑑賞の場合、途中でくつろぎたくなるばかりか、トイレにも行きたくなったりもするのでこの休憩はありがたい。
いずれにせよこの休憩、長時間のミュージカルなどを除けば一般的なナイトショーとしては珍しいので、このショーの大いなる特徴といってよいだろう。
ポールダンスのポールは多種多様
ここでこの記事を終わりにしてしまっては「内容の説明はまったくないのか!」となってしまいかねないので、あえてひとつだけ演目を公開しておくと、夏実さんはポールダンスを演じる。その裏話や苦労話を少し紹介しておきたい。
このポールダンスの準備や練習、そして特にポールの入手にはかなり苦労したらしい。というのも、ポールそのものは複数のメーカーから販売されており、それぞれに特徴があるようで、硬さ、太さ、天井部分までの長さや天井で固定するタイプとしないタイプなど、種類によってまったく異なった性質を持っているのだとか。
そんな裏話を聞いていたので、やっと入手したポールが馴染んでいるのかどうか少々心配しながら初公演を鑑賞したわけだが、とりあえず問題なく演技をこなしていたように見受けられたので安心した次第。
息苦しくてもマスク着用
苦労話といえばもうひとつ。コロナ禍での開催ということで本番はもちろんのこと、反復する動きで息苦しくなりやすい練習の際においてもマスクの着用は不可欠とのことで、それがかなり負担になっているようだ。
何が何でも感染者を出すわけにはいかないのでやむを得ないといってしまえばそれまでだが、マスク着用が活動の障害になっていることは想像に難くない。
人数制限の緩和は朗報だが…
前述の通り人数制限が 100人までに緩和されたばかりだが、新規感染者の減少傾向が続けば3月にもまた 250人程度まで への緩和の可能性があると聞く。
もちろんそれは朗報だろうが、250人は現在の会場ではキャパシティー的に無理があるばかりか、人数制限の緩和が続けば再開するショー、つまりライバルが増えることにもなりかねず、そのへんの成り行きは大いに気になるところだ。
いずれにしてもショービジネスの業界はまだまだ心配や苦労が絶えない環境に置かれていることは確かで今後の方向性が見えにくいわけだが、どんな不況の時代においてもトンネルの出口は必ず来るはず。コロナやライバルに負けることなくこのパイオニア的な6人の成功と活躍を祈ってやまない。
公演は週末のみの週3回
公演日時は金、土、日の週3回、7:00pm 開演。現在のラスベガスは週末にしか人が集まらない傾向にあるので、週3回に決めたことは正しい判断といってよいのではないか。
無料の駐車場はタウンスクエアの外周にたくさんあるが、baobab Café の前の路上駐車はコインメーターによる有料制となっており、25セントコイン1枚に付き15分。(上の写真の赤い縁石の部分は駐車禁止。反対車線側に駐車可能なスペースがある)
まだ初公演が終わったばかり。今後公演日程などに変更がないとも限らないので、現場に足を運ぶ際は必ず公式サイトなどで最新の情報を確認するようにしたい。