ミニバーに私物を入れておくと $75 のペナルティー!?

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 今週は、地元メディアが高級カジノホテルの客室内にある小さな冷蔵庫(ミニバー)に関する諸問題を取り上げていたので、そういった議論を補足する形で、その冷蔵庫の利用における注意点などを書いてみたい。

 結論を先に書いてしまうならば、「”ミニバーではない冷蔵庫” がどうしても必要であるならば借りろ」ということになるわけだが、その背景にはさまざまな事情があって興味深い。

 古くからのここの読者ならばすでにご存じだと思うが、長らくラスベガスのカジノホテルの客室内には冷蔵庫が存在しなかった。今でもないところのほうが多い。
 日本では安いビジネスホテルにも冷蔵庫があることを考えると、ラスベガスの事情を知らない人にとっては意外に思うかもしれないが、ラスベガスのカジノホテルに冷蔵庫がない理由は単純明快だ。

 それは、ホテル側が、宿泊客に対して客室内でゆっくりくつろいでもらうことを望んでいないからだ。
 何かを飲みたくなったら、もしくは何かを食べたくなったら、1階にあるカジノフロアまで降りてきてください、ということ。
 つまり、カジノフロアにはさまざまなバーやレストランがあるばかりか、深夜の時間帯でも24時間営業のカフェがあるので、冷蔵庫がなくても困ることはないはず、というわけだ。

 カジノフロアまで降りて来てくれれば、カジノで遊んでもらえる確率が高まるので、ホテル側としては当然の営業戦略といえなくもない。
(そういった営業戦略に関しては、このサイトの基本情報セクション内の【ホテルの裏情報】にくわしく掲載)

 そんな事情があって、客室内には冷蔵庫を置かないようにしているわけだが、この方針は、いつの時代も決して評判がよいものではない。宿泊客にとって、無いよりはあったほうが便利に決まっているので当然のことだ。
 そこで近年、高級グレードのカジノホテルでは、客室内に冷蔵庫を置くようになってきており、具体的にはシーザーズパレス、ベラージオ、アリア、マンダレイベイ、ベネチアンなどがそれに該当する。

 ではなぜ高級ホテルなのか。それは、中級ホテルの宿泊料金では冷蔵庫の購入費や維持費をまかなえないとか、客からの「高級ホテルに泊まっているのに冷蔵庫もないのか」といった不評をかわすためなどではなく、中級ホテル以下の宿泊客はミニバーの中のドリンクを消費してくれる可能性が低く、設置する意味がないからのようだ。

 ここで言葉に関して改めて整理しておくと、「ミニバー」とは、小さな冷蔵庫の中に、あらかじめホテル側がビールやソフトドリンクなどを入れてある状態のことで、このあとの記述においては「ミニバー」「冷蔵庫」をあえて区別して表記する。

 たしかにミニバーの中のドリンク類の価格設定は非常に高い。コンビニなどで買う値段の3~4倍ぐらいになっていることも珍しくなく、高級ホテルの宿泊者といえども、それらを消費するのをためらってしまうほどの高い価格設定なので、中級以下のホテルでミニバーがあまり利用されない現状は理解できる。

 ではなぜミニバー内のドリンク類の価格設定はそれほどまでに高いのか。
 それは、地元メディアの記事などによると、利益を出す必要があることは当然のこととして、その管理に非常に多くの手間がかかるためらしい。飲み物を毎日補充しなければならないだけでなく、廃棄や清掃も必要とのこと。

 廃棄や清掃とはなにか。それは、宿泊客がミニバーの中の物を取り出して収納スペースを作り、そこにレストランから持ち帰った食べ残しなどを入れ、そのまま帰ってしまう者があとを絶たないための作業だ。

 そういった突発的な作業以外にも、日々のルーティンとして、ドリンクの数などを確認する作業は避けて通れないため、もう何年も前から多くのホテルのミニバーでは、消費されたドリンクの状態が遠隔操作でわかるようなシステムが導入されており、もはやラスベガスに限らずどこの都市のホテルにおいても、その種のシステムは珍しい存在ではなくなっている。

 ただ、このシステムの初期のころの運営方法、つまり宿泊客がチェックアウトする際に、フロントのスタッフが遠隔操作でミニバーの庫内の状態を確認するといった方法では、うまく機能しないことがわかってきた。

 というのも、宿泊客が滞在期間中、あらかじめ保管されていたドリンク類をミニバーから外に出しても、それをきちんと元に戻せば何もなかったことになり、結果的に庫内が私物で汚される可能性があるばかりか、ドリンク類を消費しても、同じものをコンビニなどで安く買ってきて元の位置に置けば、ホテル側にとっては手間が増えるだけで、なんの利益にもならないからだ。

 そこで導入されたのが自動課金システム。つまりミニバーからドリンク類を取り出した時点で課金してしまうという方法で、ラスベガス以外の都市でも今ではこれが広く普及している。

 ただ、「取り出した時点」といってもその早さには限度があり、「その瞬間に課金」というわけにはいかない。というのも、著名ブランドのコーラとかビールならまだしも、さまざまな種類が存在するスポーツドリンクや栄養ドリンク類、さらにはウイスキーのたぐいなどは、手にとって内容を確認してから飲みたいと思うのが普通の消費者心理で、取り出した瞬間に課金されたのでは、宿泊者としてはたまったものではない。

 それでもチェックアウト時に確認という方法では、ミニバーが冷蔵庫として利用されてしまい、ホテルとしては利益にならないので、やはり自動課金にするしかなく、現在のラスベガスの高級ホテルにおけるその猶予時間は 45秒とか60秒に設定されていることが多い。
 つまり、飲んでも飲まなくてもミニバーから飲み物を取り出したら、その秒数以内に元の位置に戻さないと課金されてしまう。

 実際にこの秒数の超過による「払う・払わない」といった言い争いが絶えないらしいが、そのルールはミニバーのよく見えるところに明示されているだけでなく(下の写真は NoMad ホテルにおける 60秒ルールの説明)、ホテルに到着してチェックインの際、そのルールが表示されているタブレットPCのような端末の画面を見せられ、その画面に署名させられたりするなど、同意の意思表示をしていることが多く、言い争いになった場合、客側が不利になるのが普通だ。

 もめごとは秒数のルールだけではない。「ミニバーを冷蔵庫として使ってはならない」というルールも最近広まりつつある。これは、持ち込んだ食べ物などを保管してはならないというルールだ。

 ミニバーの庫内には私物を保管するほどのスペースがないのが普通だが、それでもレストランから持ち帰った食べ残しなどを強引に押し込んで保管する者があとを絶たないのが現実。

 このルールの違反者には、なんとシーザーズ系列のホテルでは75ドル、MGM系列では50ドルのペナルティーを課しているというから、これからミニバー付きのホテルに宿泊を予定している者は注意が必要だ。

 ルールがしっかり決められていて、なおかつそれがきちんと明示されていれば、あまり大きな問題にはならないようにも思えるが、そうでもないからミニバー問題はむずかしい。
 というのも、人道的な観点から「ミニバーを冷蔵庫として使ってはならない」というルールが新たな議論を巻き起こしているからだ。

 それは低温での保管が奨励されている医薬品や乳児用のミルクなどの保管に関してで、最もわかりやすい例としては、糖尿病患者が所持するインスリンがある。
 高温での保管は好ましくないため、夏場に宿泊する糖尿病患者の多くはミニバーに保管しようと考える。インスリン自体、それほど大きいものではないため、ミニバー内のすき間などに保管することになり、保管したことを忘れてチェックアウトしてしまう者が少なくないことは想像に難くない。

 ホテル側としては、次の客のためにミニバーの中に私物が残されていないか、清掃スタッフなどが念入りにチェックするわけだが、ルール上、インスリンなどが見つかった場合も、ペナルティーが発生することになり、「温情判決」にならない限り、チェックアウトしたあとでも、その宿泊者のクレジットカードにペナルティーが請求される。

 これは人道的にだれが考えてもやりすぎと思うはずだが、こういった私物の保管に関しては、容認と禁止の線引きがむずかしいのも事実。
 したがって、もしどうしてもミニバー以外に冷蔵庫が必要な場合、その地元メディアの記事では冷蔵庫のレンタルを奨励している。
 もちろん医薬品などの保管の場合、チェックアウトの際に取り出すことを忘れなければ問題にならないわけで、ここの読者において冷蔵庫が本当に不可欠というケースは少ないと思われるが、もし必要な場合は、ホテル側に冷蔵庫のレンタルを申し出るという方法があることを覚えておいて損はないだろう。

 ちなみに冷蔵庫のレンタル料は高級ホテルで $25から$40、中級ホテルで $15から$25、またその記事によると、インスリンなど医薬品の保管が目的ならば、多くのホテルにおいて無料で貸し出してもらえるとのこと。

 話が長くなってしまったが、ここまでに書いてきたようなミニバーに関わる騒動がこれほどまでに多いなら、いっそのこと、ミニバーを無くして冷蔵庫にすればいいという声も出てくる。つまり、ドリンク類を入れておかない空っぽの冷蔵庫の設置だ。
 実際にチェックアウト現場であるフロントロビーのスタッフはそれを望んでいるらしい。理由はもちろん宿泊客との言い争いになることがめんどくさいからだ。

 ラスベガス以外の多くの都市では、ミニバーを廃止して冷蔵庫にしているホテルが増えてきていると聞く。特にハワイなどでは、ホテルのすぐ目の前のストリートにコンビニが軒を並べているので、ミニバーを置いても庫内のドリンクを消費する宿泊者は非常に限定的であることがわかり、ミニバーから冷蔵庫へのシフトがどんどん進んでいるようだ。
 実際に宿泊者にとっても、コンビニで好きなものを買ってきて冷蔵庫に保管できたほうが、ミニバーよりも便利と感じるのではないか。

 とはいっても、ラスベガスにおけるミニバーのドリンクの高額な価格設定が、それ自体で利益を生み出している可能性があり、また「そんな高いビールは飲みたくない」ということで、部屋から出てコンビニに行かせればカジノを通過するので、それなりのメリットがあるのかもしれない。
 また、ミニバーには収納スペースがほとんど無いので、コンビニでたくさん買い込むこともできず、室内で長時間くつろがれるリスクも少なそうだ。
 一方、冷蔵庫の設置は、好きな食べ物や飲み物をたくさん買ってきて庫内に保管し、室内で長時間くつろがれてしまう可能性が高い。

 それでも管理に手間がかかるばかりかフロントスタッフからも嫌われているミニバーを廃止にして冷蔵庫にしたほうが、医薬品の保管も自由にできて良いようにも思えるので(中級以下のホテルではミニバーもないので冷蔵庫は議論の外)、本当に冷蔵庫の設置がカジノへの人の流れを減らし、カジノの売上に悪影響を及ぼすのか、実際に検証してみる時期に来ているような気がしないでもない。
(実際にパリスホテルなど一部のホテルでは冷蔵庫の導入を試みている)

 ただ、ミニバーから冷蔵庫へのシフトは、「高い価格設定でもミニバーは便利だ」というリッチな客層からの需要や支持を無視することになるのと、私物を残された場合の廃棄や清掃といった問題は残るので簡単な話ではないのかもしれない。
 とはいえ、ミニバーから冷蔵庫に切り替えた他の都市のホテルでも廃棄や清掃の作業は付きまとうわけで、私物の保管に対して高額なペナルティーを課すというのは、どう考えてもやりすぎのように思える。

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