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米国のゴルフ場におけるコースレートとスロープレートのちがい

アメリカのゴルフコースのスコアカードには、必ずと言ってよいほど「コースレート」と並んで「スロープレート」が記載されている。
 コースレートは日本でも広く採用されているが、スロープレートはまだあまり普及していないようで、これを知る日本人ゴルファーはそれほど多くない。

スラッシュの左側にコースレート、右側にスロープレートを記載するのが一般的

「SLOPE」という言葉から、傾斜度、つまりコース全体の高低差の数値だと勘違いしている者もいるようだが、それはまったく違う。
 なぜ SLOPE という単語が使われているかについてはこのページの後半でふれるが、コースレートとスロープレートの違いを簡単に説明すると以下のようになる。

■ コースレート(Course Rating)
 ハンデ0 のゴルファー(ようするにプロゴルファーレベルの上級者)が実力通りにプレーした際に期待できるスコアをそのまま数値化したもの。
 算定の際の判断規準はほとんどが「距離」で決まってしまい、その他の要因、たとえばバンカーの数や深さ、グリーンの傾斜、ラフの深さ、池の数や大きさ、フェアウェーの広さなどはあまり考慮されない。したがって、一般的には距離が長いコースほどコースレートは高くなる傾向にある。
(実際はバンカーや池も考慮されるが、ハンデ0の者にとってそれらは、距離ほどは大きな難易度要因とはならず、結果的にほとんど影響を及ぼさない)

■ スロープレート(Slope Rating)
 スロープレートは、ハンデ0のプロ級のゴルファーではなく、一般アマチュアゴルファーにとっての難易度を示す尺度で、標準が 113、最高が 155、最低が 55 となっている。バンカー、グリーン、池、フェアウェー、OBなど、さまざまな要素を考慮して決められるのが特徴。
 これは、アマチュアゴルファーのハンデを算出する際、各コースにおける「実力差による難易度の差」を補正するために、USGA(全米ゴルフ協会)によって考案されたもので、現在アメリカではこのスロープレート無しにはハンデを算出できないほど広く普及している。
(USGA の定義をそのまま表現すると、「スロープレートとは、スクラッチゴルファーとボギーゴルファーの差による、各コースの難易度の変化を明示するための指標」としている)

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 さて、ここまでの説明だけでは、「どちらも難易度の尺度ではないか」となってしまう。では両者の違いは何か?

 簡単に言ってしまえば、「コースの難易度は、プレーヤーの腕前によって異なってくるもので、プロ級の者にとってむずかしいコースと、一般ゴルファーにとってむずかしいコースはまったく別。したがって、プロ級の腕前の者と一般のゴルファーでは、異なる “難易度の尺度” が必要」ということである。

 つまり、日本でも広く採用されているコースレートは、一般ゴルファーにとってはほとんど意味が無く、また逆に、スロープレートは、ハンデを必要としないプロ級の上級者にとってはほとんど関係のない数字、ということになる。そのことをわかりやすく説明してみよう。

 池もバンカーもOBもラフもない単純なホールばかりが 18ホール集まったコースがあったと仮定しよう。そして各ホールの長さはすべて300ヤード。このゴルフコースの名前を「三百カントリークラブ」とする(以下、三百CC)。 コースの全長は 300 X 18 なので 5400ヤードということになる。

 次に、まったく同様に、各ホールの距離が 400ヤードのコース、四百カントリークラブ(同、四百CC)があったとする。合計距離は 7200ヤードだ。

 この二つのゴルフ場を比較した場合、コースレートは 三百CC よりも 四百CC のほうが明らかに高いことがわかる。それはそうだろう、超一流プロでもよほどの追い風でもない限り 四百CC ではワンオンできないわけで、確実に 四百CC でラウンドしたほうがスコアは悪くなるはずだ。

 たぶんハンデ0のゴルファーが実力通りにラウンドした場合、三百CC では 65前後、四百CC では 70前後になるのではないか(一流プロならもっと良いスコアが出るだろうが、ここではそんな議論はどうでもいい)。
 とりあえずここではそれぞれのコースレートを 6570 としよう。くどいようだが、コースレートとは、「ハンデ0 の上級者が実力通りにプレーした際に期待できるスコア」のことだ。もちろんアマチュアにとっても 四百CC のほうがむずかしいことは言うまでもない。

 さて次に、三百CC とまったく同じ距離だが、この図が示すようにすべてのホールに長さ 150ヤードほどの池があるゴルフ場が存在したとしよう。全長は 5400ヤードと短いが、ティーショットはすべて池越えということになる。このコースを「小池カントリークラブ」と名付けよう。
 同様に、すべてのホールに 200ヤードほどの池がある「大池カントリークラブ」があったとする。こちらも全長は同じ 5400ヤードと長くはない。

 この池ばかりの 2つのゴルフ場でプロがラウンドした場合どうなるか。150ヤードの池など、プロにとってはまったく存在しないに等しく、常識的には1発も池に入れることはないはずだ。つまり 小池CC の難易度は前述の 三百CC と同じ。したがって、コースレートは 65 ということになる。

 大池CC の 200ヤードの池もプロにとっては特に気になるほどの存在ではなく、18ホール中、1発か2発ぐらい池に入れることはあったとしても、全長が同じ小池CC と 大池CC のスコアの差はせいぜい 2打か3打程度といったところだろう。とりあえずここでは 大池CC のコースレートを 67 ということにする。

 ではアマチュアにとってはどうか。ハンデ10 程度の熟練者ならば、三百CC、小池CC、大池CC のスコアはどれも距離が同じなのでそれほど大きな違いはないはずだ。
 たぶん実際のスコアとしては、その順番に 78、80、82 といったところか。このハンデ10 の者にとっては 大池CC よりも距離が長い 四百CC のほうが、セカンドショットが遠くなる分だけスコアは悪くなると予想される。7200ヤードもあればたぶん 85 ぐらいはたたくだろう。

 一方、ハンデ30 の初心者はどうか。三百CC と 小池CC のスコアは最低でも 20打ぐらいは違ってくることが予想され、大池CC にいたっては、30打、40打違ってくるかもしれない(手前から池に入れた場合、特設ティーからの前進3打とかの救済ルールではなく、公式ルール通り池を越えるまできちんと池の後方から打ち直すこととした場合)。

 さらに注目スべきは、四百CC と 小池CC では、プロや上級者とはまったく逆の結果、つまり、距離が長い 四百CC のほうが良いスコアになる可能性が極めて高いということ。初心者といえども、池もバンカーもラフもなければ大たたきする可能性がほとんど無いからだ。
 このハンデ30 の初心者が 三百CC、小池CC、大池CC そして 四百CC を実際にラウンドした場合のスコアを想定してみると、100、130、150、110 といった感じになることが予想される。

 現実の世界で 150 などというスコアはほとんどお目にかからないが、18ホールのすべてに長さ 200ヤードの池があるという極めて特種な状況で、ハンデ30 の者が正式なルールを厳格に守ってプレーしたら 150 は軽くたたくだろう。(ちなみに 1ホール 8打平均で 144 たたくことになる)

 このような現実を考えると、同じコースレート65 のコースでも 三百CC と 小池CC では、プロにとっては同じ難易度でも、アマチュアにとっての難易度は大きく違ってくることがわかる。また同じアマチュアでも ハンデ10 の者は 四百CC が一番むずかしく、ハンデ30 の者は 大池CC の方がむずかしいことになる。

 ではこの「熟練度の差による難易度の違い」によってどのような問題が生じてくるのか。それは、同じコースレートのコース(全長がほぼ同じのコース)でも、池やバンカーの数などが違った場合、ハンデを算出する際には何らかの補正をしないと不公平、という問題だ。
 たとえばコースレート65 の 三百CC をホームコースとし、そこで日ごろ 100前後で回っている Aさんと、同じくコースレート65 の 小池CC で 100前後で回っている Bさんが同じハンデではまずいことになる。Aさんと Bさんは明らかに実力が違うはずだ。

 であるならば、ハンデを決める際、単純に小池CC の難易度を上げて計算すればよいのかというと、必ずしもそうではない。なぜなら、もし Aさんも Bさんもそれぞれのホームコースで日ごろ 75前後で回っていたとしたら(つまり上級者だったら)どうなるか。その場合、二人の間に実力差がほとんどないことになる(上級者にとって小さな池の存在などほとんど関係ないので)。

 以上のように考えると、池などが多いコースの難易度を単純にかさ上げすればよいというものでもないことがわかる。初心者ゴルファーにはかさ上げする必要があるし、上級者にはその必要がない。

 この現実を、横軸に腕前(ハンデ)、縦軸に予想スコアを取ってグラフ化すると、初心者にとって難易度が高いコースほど、グラフの傾斜が急になる(コンペの際に大きなハンデをあげないと不公平になる)ことがわかる。

 この「傾斜」こそが「スロープ」の語源で、これが急なコースほど「スロープが大きい」ということになる。USGA はこの理論に基づいて各コースのスロープを独自の方法で数値化している。

 ここでやっとスロープという言葉が意味するところの結論に達したわけだが、それを言葉で表現するならば、「コースレートに関係なく、池やバンカーなどの障害物が多くなればなるほど、上級者と初心者のスコアの差が拡大する傾向にある。スロープレートとは、コンペなどでのハンデを決める際、より技量の劣るゴルファーに対して、どの程度そのコースの難易度をかさ上げすべきかを示す指標」ということになる。

 そして繰り返しになるが、さらに以下のことを覚えておいていただきたい。
「先日ラウンドしたコースは超むずかしいコースで、コースレートが 75 だったよ!」といった会話はほとんど意味をなさないということ。
 この 75 が意味するものは、ただ単に距離が長いというだけ。むしろ一般ゴルファーにとっては距離が短くても(たとえばコースレートが 68とかでも)、池だらけのコース(スロープレートが高い)のほうがはるかにむずかしい。
 したがって、大多数の一般ゴルファー(ハンデでいうならば、おおむね 15よりもヘタなゴルファー)がコースの難易度を語ったり比較したりする際は、コースレートは無視してスロープレートだけに注目すべきであるということを、しっかり覚えておく必要がある。

 さて、話は変わって、理論上いくらでもむずかしいコース(初心者にとって)は存在し得るが、前述の通り USGA ではこのスロープレートの上限を 155 に設定している。
 つまり、グラフにした場合の傾斜の最大斜度を 155としているわけだが(あくまでも指標であり、角度の単位としての数値ではない)、この「制限」の意味は、「初心者にとってどんなにむずかしくても、それ以上のハンデの考慮はしませんよ」という意味と解釈すればよいだろう。
 最低値は 55 で、そのようなコースが実在するかどうかはわからないが、それは、どんな初心者がプレーしても上級者と差が付きにくいコース、ということになり、極端なたとえをするならば、全ホールが 10センチのパッティングのコース、と考えればよいのではないか。これならば、だれがやっても差が付かないはずだ。
 そんな架空の話はともかく、スロープが世界で最も低いと査定された実在コースがどのようなコースなのかは興味深いところだ。

 ちなみに、リミットいっぱいの 155 と査定されている超難関コース(あくまでも初心者にとって難関)はフロリダ州にある TPC Sawgrass など十数コースあるようだが、それらのほとんどはアメリカ中部から東海岸地区に存在しており、一般の日本人観光客がアクセスしやすいところとしては、ハワイ・オアフ島にある Ko’olau Golf Club が超難関コースとして名高い。(コースレートもスロープレートも USGA が数年おきに査定し直したりしているようなので不変の数値ではないが、近年このコースは 154 前後に査定されている)

Wolf Creek Golf Club #17 hole.

 参考までに当地ラスベガスの近郊では Wolf Creek Golf Club(写真)の一番うしろのティーからのプレーが 154 となっている。
 くどいようだが、これら難関コースの意味は、上級者も含めた万人にとってむずかしいというわけではない。あくまでも「初心者になればなるほどスコアを崩しやすいコース」ということを覚えておいていただきたい。

 さて日本に話を移すと、職場の社内コンペなどの際、スロープレートを考慮に入れてハンデを決めている幹事などまずいないだろう(そもそも日本ではスロープレート自体があまり普及していない)。
 だが今回の知識で、それではまずいことがわかるはずだ。たとえば大学ゴルフ部出身の新入社員がハンデ3、課長がハンデ10、部長がハンデ20、社長がハンデ30 で、どこのコースでもこのハンデを適用していたのでは、大池CC では新入社員が優勝し、三百CC では社長が優勝してしまう。
 スロープレートという概念の存在を知れば知るほど、日本のハンデシステムの矛盾が浮き彫りになってくるのではないか。

 さてアメリカでゴルフを楽しむ際の難易度(コース選び)を考えるとき、どのようなことを考慮すればよいか。
 しつこく何度も言わせてもらうが、重要なことは、大多数のゴルファーにとってコースレートは全長の尺度以外にはほとんど意味をなさない、ということ。そしてコースレートはあくまでもハンデ0の人のための指標。ましてや自分が利用しない最もうしろのティーからのコースレートなど何の意味もなさない。

 一番現実的なのは、コースレートではなく、自分が使用するティーからのスロープレート。
 具体的には、中級ゴルファーにとっては合計 6200~6500ヤード前後のティーからのスロープレートということになるのではないか。
 ちなみにアメリカのコースの場合、一般的には「うしろから2番目のティー」が 6500ヤード前後のティーに相当することが多い。

 いずれにせよ、自分に適した距離のティーを決めて、そのティーからのスロープレートが大きいコースを選べば、スリリングで戦略的なプレーを楽しめるだろうし、逆に小さいコースを選べば、自己ベストなどをねらえるかもしれない、ということになる。

 さて余談になるが、「先日行った ABCゴルフクラブ、すごくむずかしいんだよ。あんなむずかしいコース見たことがないよ」などと、自分が体験したコースのむずかしさを誇張する者をよく見かける。特に自分がメンバーとなっているホームコースは必ずといってよいほど「むずかしいコース」になりがちだ。
「オレのホームコース、すごくむずかしいんだよ」と言われた相手は往々にして、「いや、知らないかもしれないけど XYZカントリークラブのほうがもっとむずかしいと思うよ」となったりするのだが、多くの場合、両者の間で両方のコースにおける体験的な接点も客観データもないためか、「へぇー、あっそう」という返事すらないまま会話が途切れ、真相はうやむやのままとなる。

PAIUTE Golf Resort, WOLF course #15 green. (view from #16 tee)

「むずかしいコース = 格調が高いコース」あるいは「やさしいコース = 安いコース」という暗黙の図式が定着してしまっているためか、自分のホームコースのほうがむずかしいと主張したがる者があとをたたないが、よく考えてみるとおかしな話だ。
 なぜならその種の話を集めていると、世の中のほとんどのコースが「むずかしいコース」になり、「簡単なコース」が極端に少なくなってしまうからだ。

「むずかしい」という言葉が、他の物と比較しての相対論として使われるべき言葉だとするならば、世の中の半分ぐらいは「簡単なコース」も存在していないとつじつまが合わないことになる。
 しかし現実には、自分のホームコースを「簡単だ」とまわりに言いふらしている者をいまだかつて見たことがない。仮に本人が「簡単だ」とひそかに思っていても、黙っているのが普通ということか。
 日本にもスロープレートが広く定着すれば、少なくともアマチュアゴルファーに対するコースの難易度の議論は客観的なものになり、その種の不毛な議論や自慢話は減るかもしれない。

 最後に、コースレートよりも合理性のあるスロープレートではあるが、アメリカ以外の国ではまだあまり普及していないようだ。
USGA 側が、スロープレートというアイデア自体に著作権のようなものを主張しているためアメリカ以外では普及しにくいのではないか」といった話をときどき耳にする。
 ちなみにイギリスでは、あのセントアンドリュースにあるゴルフの総本山としての統括組織 R&A(The Royal & Ancient Golf Club of St Andrews)が USGA に対するプライドやメンツのようなものがあるため導入に積極的ではない、といった噂もかつては聞かれたりしたが、現在はスロープレートを積極的に導入しているようだ。

R&A の前で記念撮影する筆者と友人

 この種の組織や団体の利害関係などはたえず変化するものなので、現時点における各国のゴルフ協会の動きがどのようになっているのかわからないが、なにごとにおいてもアメリカに追随する日本のこと、遅かれ早かれ日本でもスロープレートが広く普及するかもしれない。
 実際にすでに JGA(日本ゴルフ協会)はこのスロープレートの導入に前向きのスタンスを示している。ただ、実際の現場での普及や認知度はまだまだといった感じがしないでもない。
 スロープレートの査定作業には時間と労力がかなり必要と聞く(USGA は各コースの査定に丸二日かけているとのこと)。その公平な査定能力の会得や経費の問題なども含めて、導入国側にとっては解決しなければならない問題が少なくないのかもしれない。

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