ベールに包まれたまま Wynn Golf Club が静かにオープン

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 10月11日、かつてラスベガス屈指の高級ゴルフコースとして名を馳せた Wynn Golf Club が華々しく再オープンした、と書きたいところだが、実際にはまったく逆で、ひっそりと静かに再オープンした。
 ロケーションはもちろん高級カジノホテル「ウィン・ラスベガス」の東側に隣接している場所で、ストリップ地区の主要ホテルの多くから徒歩でもアクセス可能だ。

「ひっそりと静かに」の理由は、人気がないとか注目されていないなどではない。コース側のマーケティング戦略により、意図的に秘密のベールに包まれた状態を維持したまま、メディアにもあまり情報を公開すること無くオープンさせたからだ。
 実際に暗黙の了解なのか、一部のゴルフ専門サイト以外、地元の主要メディアの多くは今回の再オープンをあまり大きく報道していない。

 秘密の戦略は随所に見られる。たとえば公式サイトにおいても、コース設計者として名高いトム・ファジオ氏の名前と予約方法に関して簡単にふれているだけで、各ホールの詳細などはおろか、全長の距離もスコアカードも公開していない。掲載写真も1枚だけだ。
 またその予約方法も「電話だけ」というから今の時代としては珍しいというか、このコースの特異性が感じられる。

 そんな秘密主義はネットの世界だけではない。現場に行っても同様で、クラブハウスの中に入ってもコース内の様子はプレーする者以外は見ることができないようにコース側へ通じるドアは閉められたままで、スコアカードもプレーする者以外は受け取ることができないような徹底ぶりだ。

 メディアに対するコース内の写真撮影などに関しても徹底しており、クラブハウスやプロショップの責任者でも撮影許可を出すことができず、専門の広報部門から各メディアごとに個別に許可を得る必要があるなど現場に決定権がないため、かなりめんどくさいことになっている。今回の取材では残念ながらその手続が間に合わなかったので写真がない。

 クラブハウス内の責任者に、「記事に写真が無いというわけにはいかない。なんとかならないか」とお願いしてみたところ、「本当に申しわけないが、広報部門の方針なので理解してほしい。写真が間に合わない場合はグーグルマップの航空写真を参考にしてコースの全容を見ていただければ…」とのまさかの予期せぬ返事。

 こうした情報非公開の方針は、あのマスターズを開催するオーガスタナショナル・ゴルフクラブでも見られることではあるが、あちらは完全な閉鎖社会のメンバーコース、こちらはパブリックコース。
 つまり、コース内の様子を知りたい場合、グリーンフィーを払ってプレーさえすれば、だれでも見ることが出来てしまうという意味では秘密戦略の効果も限定的なものになるのではないか。

ウィンの客室から見下ろした 2017年までの Wynn Golf Club

 そもそもウィン・ラスベガスに宿泊して、東側の高層階の客室を確保できればコースの全容を見渡すことが出来る。
 また、SNSが普及している今の時代、プレーした者からコース内の写真がどんどん公開されてしまうのは時間の問題だろう。
 そのへんの現実は現場側もわかっているようで、情報非公開の目的が「コースを見たい人はプレーしに来てくださいね」という営業的な理由であることをさりげなくコメントしてくれた。ちなみに今回の取材ではまだプレーしていない。

2017年までの Wynn Golf Club

 そのような経緯から、この記事内ではコース内の最新の写真がない。その代わり「過去の写真を持っているならどうぞ使ってください」とのことなので、このページ内のコースの写真はかつての Wynn Golf Club のものであることをあらかじめお伝えしておきたい。
 それはともかく、「かつての」といっても、なにゆえこのコースにかつてが存在していたのかを知らない人には説明が必要だろう。

かつての Desert Inn (2000年に撮影)

 じつはこのゴルフコースの前身は、1950年開業のカジノホテル Desert Inn に隣接する土地に 1952年にオープンした Desert Inn Country Club だ。
 ホテルもゴルフコースも当時としては名門で、長らくラスベガス・フリークの間で親しまれてきたが、2000年、ホテル王などと称されていた Steve Wynn 氏がホテルもコースも買い取ってしまった。

かつての Desert Inn Country Club(2000年に撮影)

 Wynn 氏の手に渡ったのち、ホテル棟は解体され、そこに現在の Wynn Las Vegas を建設、ゴルフコースも大幅に改造され Wynn Golf Club としてそれぞれ 2005年にオープン。
 その後 Wynn Las Vegas はそのまま現在に至っているが、ゴルフコースは 2017年、その土地に湖を造り湖畔に面した新たなホテル棟の建設計画「Wynn Paradise Park」が浮上したため閉鎖されてしまった。
 しかし 2018年、Wynn氏がセクハラ騒動などで失脚したこともあり、彼が構想したその Wynn Paradise Park 計画は実現すること無く頓挫。
 結局ゴルフコースは解体されずに温存され、2年間の閉鎖期間を経てこのたび再開業する運びとなった。

 そんな過去を持つ Wynn Golf Club はめでたく再開業を迎えることができたわけだが、2017年までの状態とはかなり変更が加えられており、コース全体の半分近くはまったく新しく生まれ変わっている。

 取材に応じてくれた現場スタッフによると(写真の提供や撮影は前述の通り協力してもらえなかったが、その他の部分に関しては非常に丁寧に対応してくれた)、8ホールが大幅に改造されているとのことだが、特別な許可を得てコース全体を見渡した限りの感想としては、それ以上に変更箇所が多いという印象を受けた。

2017年までの Wynn Golf Club

 そもそも各ホールの順番が入れ替わったりしているため、改造されていないホールもたくさんあるものの、スコアカード的には過去の面影はまったく残されていない。
 スコアカード全体の写真の公開はまずいとのことなので、文字での表現にとどめるが、以下の通り、各ホールごとの長さは、2017年までと今ではこんなに違っている。もはやまったく別のコースと思ったほうがよいかもしれない。(が現在、が 2017年まで。ヤーデージは一番うしろのティーからの距離)

#01 431y Par4 406y Par4
#02 192y Par3 198y Par3
#03 515y Par5 447y Par4
#04 420y Par4 449y Par4
#05 147y Par3 386y Par4
#06 375y Par4 163y Par3
#07 157y Par3 535y Par5
#08 536y Par5 469y Par4
#09 464y Par4 238y Par3
OUT 3237y 35 3291y 34
#10 233y Par3 595y Par5
#11 591y Par5 201y Par3
#12 209y Par3 529y Par5
#13 520y Par5 452y Par4
#14 442y Par4 440y Par4
#15 360y Par4 167y Par3
#16 486y Par4 421y Par4
#17 395y Par4 498y Par4
#18 249y Par3 448y Par4
IN  3485y 35  3751y 36
TOT  6722y 70  7042y 70

 2017年までのときもそうだったが、このコースには秘密主義以外にも Wynn氏の時代から引き継がれているポリシーがある。
 それは「ここは競技用のコースではなく、ゴージャスな雰囲気を味わってもらうための高級リゾートコース」とのことで、このコースは USGA(全米ゴルフ協会)の査定を受けていない。
 これも考えようによっては、「USGAに対しても秘密主義を貫いている」と言えなくもないわけだが、とにかくそのようなコースはほとんど見たことがないので極めて異例といってよいだろ。
 そのため以下の写真(スコアカードの一部)からもわかるとおり、コースレートスロープレートもスコアカード内の本来なら記載されているべき場所に記載されていない。
スロープレートに関する詳しい情報は こちら をクリックまたはタップ)

現在のスコアカードの一部。スロープレートが記載されていない。

「USGAに承認されていないコース」などといった話を聞かされると、スポーツとしてゴルフをたしなんでいる愛好家にとってはプレーする価値が大きく下がってしまうように感じるかもしれないが、そんなことはない。
 2年前までと同様、総じてフラットなコースが多いラスベガスのゴルフ環境としては珍しく、フェアウェーのいたるところにうねりやコブがありアンジュレーションに富んでいるためかなり戦略的で、斜面からのショットなどそれなりのテクニックが要求される。

 また、在ラスベガスのコースでは多くの場合、障害物となる植物といえば枝がないヤシの木がほとんどだが、ここは枝が多い広葉樹も針葉樹もたくさんあるので距離のわりに障害物に遭遇しやすく決してやさしくはない。
 そういう意味では「かなりラスベガスらしくないコース」といってよいのではないか。

名物の最終ホールの滝は現在も存在している

 あと本格的なゴルファーのために芝生の種類を伝えておくと、夏場は乾燥や暑さに強いバミューダ芝(bermuda grass)が中心で、秋以降から冬期にかけてはライ芝(rye grass)を多く使うとのこと。

 さて、ベガスを訪問予定のゴルファーにとっては一番気になるグリーンフィーに関してだが、現時点では 550ドル。現時点の意味は今後変わる可能性もあるということ。
 なお、この 550ドルにはキャディーフィーレンタルクラブの料金も含まれている。ただし自分のクラブを持参してレンタルクラブを使わなかったとしても割引などはない。
 ちなみにレンタルクラブはキャロウェイ製の最新モデル EPIC FLASH(ドライバー、下の写真)と EPIC STAR(アイアン)。

レンタルクラブのキャロウェイ EPIC FLASH(現場で撮影)

 キャディーは必ず付ける必要があるが、ゴルファー1人に1人のキャディーではなく、1グループに1人のキャディー。
 現場スタッフから伝えられたキャディーへのチップの相場については、「最低でも各ゴルファー 50ドルは渡してほしい」とのこと。

 最後に、600ドル(チップも含めて)を出してプレーする価値があるのかどうかに関してだが、その答は非常にむずかしい。ゴルフに対する価値観や懐具合などによって意見が大きく分かれるからだ。
 高いといえば非常に高いが、1時間も持たずに 200~300ドル負けてしまうことがごく一般的なカジノでの出費と比べて考えれば、4時間ほど超ゴージャスなラウンドを楽しんで 600ドルは決して高くないようにも思えるが、いかがだろうか。

 金額的なことは別にして、あえて判断の目安的なものを示唆するならば、ラスベガスのゴルフコースで何度かプレーした経験がある者はプレーしてみる価値がありそうだが、そうでない者は別のコースにしておいたがよいかもしれない。
 というのも、アップダウンがあり木が多いという条件はラスベガスとしては珍しいが、日本ではありふれたコース環境だからだ。
 せっかくラスベガスでプレーするならば、砂漠と一体となった広大なバンカーや、ヤシの木に囲まれたコースのほうが非日常的なスリルや興奮を味わえるのではないか。

 一方、ラスベガスの他のコースを知り尽くした者にとっては、日本のコースとこのコースの似て非なるところや、さらにはラスベガスにおけるこのコースの非凡なところがよくわかり、新たな発見や感動があるにちがいない。

現在のカジノフロア内にある案内表示

 コースへの行き方は、この写真からもわかるとおり、ウィン・ラスベガスのカジノフロアから食べ放題の店 THE BUFFET へ向かう通路に入れば、あとは頭上の案内表示に従って進むだけなので簡単にわかる。
 予約の受付は電話のみで、その番号は 702-770-4653。ウィンまたはアンコールに宿泊予約をしている者は 90日前から、非宿泊者は30日前から予約可能。

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