「トリのから揚げとスイカ」を出す店は人種差別?!

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 1月2日に鳴り物入りでオープンしたレストランを紹介してみたい。(正確にはまだ仮オープンの状態で、正式なグランドオープンは 1月24日)


 店の名前は YARDBIRD。スラングとして「刑務所」「囚人」といった意味もあるようだが、この店としては「庭の鶏」、つまり狭いケージの中で育てられた鶏ではない鶏と解釈してもらいたいようだ。
 店の所在場所はベネチアンホテルとパラッツォホテルを結ぶ1階の通路。(ちなみに2階の通路はショッピングモール)
 本店があるマイアミ・ビーチ周辺では有名らしいが、全国展開している店ではないので、一般的には完全に無名の店だ。
 本店という言葉を使うと支店がいくつもあるように聞こえてしまうが、じつは今回のベガス店が支店第1号。つまり、これまでに存在していたのはその本店だけで、さらにその本店も3年前にオープンしたばかりというから無名であるのも無理はない。

 となると、「鳴り物入りでオープン」という表現には少々説明が必要になってくるわけだが、それは開業前から地元テレビ局など当地のメディアがなぜか派手に取り上げてきたのと、大々的な宣伝広告だ。そのようなわけで、地元での認知度は非常に高く、どのような店が誕生するのか大いに注目されてきた。
 たとえば宣伝広告に関して言えば上の写真。これはベガスに何度も来ているリピーターならだれもが利用して知っているラスベガス国際空港のDゲートにあるトラム駅付近の円形ロビー。同空港で最も人通りが多い地点といっても過言ではないほど目立つ場所で、広告の位置としては超一等地。(この写真には人が写っていないが、あえてそのような状態で撮影しただけで、毎日何万人もの人が往来している場所)
 この写真に写っている3つの広告スポットのうちの左側はシルク・ドゥ・ソレイユ、中央は広告料が高すぎて広告主が現われないのか、ベガスを代表する景観の写真(フーバーダムの写真)が掲示されているだけ、そして右側が YARDBIRD の宣伝だ。この場所に一軒の単独レストランが広告を出すのは極めて異例といってよいのではないか。

 さてこの YARDBIRD が何の料理の店なのかというと、ジャンル的には、日本人の口に合う和食や中華でもなければ、カリスマシェフ監修の洒落たイタリアンやフレンチでもない。アメリカ南部料理をテーマにしたワイルドな店だ。
 ならばわざわざここで紹介するほどの店ではないようにも思えるが、そうとは言い切れない。なぜなら、メインの料理がフライドチキン、つまり鶏のから揚げだからだ。
 いわゆる「竜田揚げ」など鶏のから揚げのたぐいは、日本ではコンビニでも売られるほど人気が高いと聞く。ならば、グランドオープン前からこれほど大きく騒がれているフライドチキンの店を紹介しない手はないだろう。

 さっそく行ってみた。そしてその名物のチキンを食べてみた。結論から先に言うならば、日本の一般的な竜田揚げやコンビニのチキンのほうが味的なレベルは高いというのが正直な実感だ。ならば行く意味があるのかということになるが、意味がないこともないだろう。
 それは雰囲気。ワイルドでアメリカ南部っぽいテーマはアメリカ旅行の思い出になるはず。と書くと、朽ちた木材や錆びた鉄板などを多用した荒々しいインテリアを想像してしまいがちだが、実際はさにあらず。開業したばかりということもあるが、すべてが新品ですっきりきれいにまとまっており、ワイルド感はそれほど感じられない。(上の写真は後述するソファー・セクション)

 ではなにがワイルドかといえば、それは料理で、ここの看板メニューは「Chicken and Watermelon and Waffles」
 この写真がそれで、内容的には名前のとおり、チキンのから揚げにスイカとワッフルが一つの皿に乗って出てくるだけの単純なものだ。つまりチキンをマリネートするタレなどには工夫を凝らしているとのことだが、スイカに関してはそれを味付けに使うといった手の込んだことをやっているわけではなく、あくまでも付け合せ的なただのスイカ。
 日本でトンカツにキャベツの千切りが添えられていても、メニューにキャベツの名前をあえて書くことはしないことと同じように考えると、わざわざスイカの名前を出すほどのことでもないと思われるが、なにゆえスイカを強調しているのか。

 じつはこのチキンとスイカをあえて一緒にしたものを代表メニューにしていることには意味があり、それこそが大胆かつワイルドなのだ。
 ここから先は人種差別的な話題と解釈されかねないので注意が必要だが、スイカとチキンはかつてのアメリカでは「黒人の食べ物」というステレオタイプとして認識され、今でも少なからずそのような概念は存在している。
 このことに関しては微妙な問題なので、ご存じない人はウィキペディアなどで、「黒人、スイカ、チキン、黒人奴隷、ソウルフード」といった単語で検索していただくとして、ここではあえて細かく触れることはしないが、とにかくこの店は、味覚的な組み合わせとしての適合性があまり感じられないチキンとスイカをあえて一緒に提供しているところが注目されている部分であり、マーケティング的な作戦でもある。
 余談になるが、ゴルフの祭典ともいわれるマスターズトーナメントの、過去の優勝者が集まる伝統のディナーパーティーに関する発言で、ファジー・ゼラーがチキン料理を題材にタイガー・ウッズをからかうコメントを発し、メディアを通じて謝罪するという騒動に発展したことはゴルフファンの間ではよく知られる話だ。

 さように微妙なチキンとスイカ。何かと差別発言などが大きく取り上げられやすい今の時代、この YARDBIRD のコンセプトは批判の対象になったりしないのか。何人かの一般アメリカ人にそれに関して聞いてみた。
 その結果、「今でもチキンとスイカを一緒にすればだれもが黒人料理であることを連想してしまうが、からかうことを意図していなければ特に問題になることはないだろう」というのが共通した認識のようだ。
 むしろ、往年の黒人奴隷時代のソウルフードを楽しんでみたいという人は多くいるはずで、この店は人気になり成功するのではないかとの前向きな意見も聞かれた。たしかに店の宣伝文句や看板に Southern という単語は常に入っており、アメリカ南部の料理であることをハッキリ主張している。
 なお、ベネチアンホテルとパラッツォホテルのオーナー会長で長者番付にもしばしば登場する Sheldon Adelson 氏がかなり右寄りの共和党支持者であることは広く知られているが、過激な発言でしばしば話題になる彼の政治的な思想と、この店を誘致したことは何か関連があるかとの問いに対して、この種の問題に詳しい者は、「彼にどんな本意があるのかはだれにもわからないことなので、そういった微妙な問題をあまり深く考える意味はないし、考えるべきではないだろう」とコメントしている。

 というわけで政治的な意味などまったく考えずに、単純に南部のソウルフードを楽しむべき店といった感じだが、チキン料理以外にもたくさんのメニュー、たとえばアメリカ大衆料理のシンボルともいえるマカロニ・チーズ(写真上)、さらにはステーキやシーフード料理もあるので、南部スタイルの味付けなどに興味がある人はいろいろ試してみるとよいだろう。
 また食べ物以外においてもカクテル類などにかなり力を入れており、氷がレモネードでできている「アーノルド・パーマー」(写真の右側のグラス)など、氷の質や形、さらにはグラスなどにも工夫を凝らしている楽しいドリンクがたくさんあるので、こちらもぜひ試してみていただきたい。(写真内の左側のドリンクはブラックベリー・バーボン・レモネード)

 店内は手前からバーカウンター席、そのすぐ右側がソファー・セクション(リビングルームのようなくつろげる雰囲気の中で料理を楽しめる)、そしてその奥が一般のダイニングルームで、さらに一番奥の厨房の近くに高いイスが並ぶカジュアル・セクションがある。
 なお一般ダイニングの右側にある白いレンガ風の壁には、アメリカ南部の町の風景、歴史的な出来事、さらにはマーチンルーサー・キング・ジュニア、ジョン・F・ケネディ、モハメッド・アリ、エルビス・プレスリーなどの著名人の往年の映像などがプロジェクターで映し出されるようになっているので(上の写真)、これら映像も楽しんでみたい場合は、入店の際にそのセクションを指定するとよいだろう。
 場所は冒頭で触れたとおりで、行き方としてはベネチアンホテルのカジノフロアからパラッツォホテルへ通じる通路に入り、少し進んだ左側。営業時間は午前11時から深夜12時まで、金曜日と土曜日の夜のみ深夜1時まで。

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