常連読者からは「またラーメンの話かよ!」と言われそうだが、先週号に続き今週もまた当地ラスベガスにおけるラーメンの話をしてみたい。
というのも先週号のこのコーナーで「1杯 5600円」のラーメンを紹介したところ、名誉なことに Googleニュースがその記事を取り上げてくれ(いわゆる「グーグル砲」が来た)、不特定多数の膨大な数の人たちに配信されたためか、日ごろアメリカ事情やラスベガス事情に詳しくない人と思われる読者から「いくらなんでも高すぎる。極端な例を取り上げているのではないか」との意見が寄せられたので、それの反論だ。
サイレントマジョリティー(物言わぬ静かな多数派)という言葉があるように、一人の読者がそのように感じたということは、他の読者の多くもいちいち意見を寄せてこないだけで同様な感想を持った可能性もある。
なのであえて言いたい。先週号で取り上げたラーメンは、たしかにホテル街の高級なレストランでの話ではあったものの、決して極端な例というわけではない。
常連読者はともかく、不特定多数の先週号のスポット的な読者が今週のこの記事を読んでくれるとは思えないが、反論として今週は「かしこまった高級店ではないごく普通の大衆チェーン店のチャーシュー麺が日本円換算で 6700円になっている」という実例を報告してみたい。
取材に訪れた場所はラスベガスの繁華街にあるコスモポリタンホテル内の店。
このホテル自体は高級ホテルではあるが、そのラーメン店があるフロアは高級レストラン街というよりは、むしろフードコートに近い雰囲気の庶民的な飲食街である。
そのことは、この店の写真に向かって左側がファストフード店になっていることからも想像できるのではないか。
今回取材したそのラーメン店の名前は momofuku。ニューヨークで大成功をおさめた人気ラーメン店だ。それのラスベガス店ということになる。
アジア料理を中心とした豊富なメニューをウリにしているばかりか店の規模もかなり大きいため、「ラーメン店」や「大衆チェーン店」という表現には異論もありそうだが、 高級レストランというジャンルの店ではないことだけはまちがいない。
ちなみにこの momofuku、創業オーナーは日本人でも中国人でもない韓国系アメリカ人。
店の名前は、カップヌードルやチキンラーメンなどの製造で知られる日清食品の創業者 安藤百福(あんどうももふく)氏の名前にあやかったのではないかと思われるが、その真相はともかく、「桃」と「福」という日本語を意識していることは明らかで、その英語訳として「Lucky Peach」がこの店のロゴ(上の写真の上部の黄色い丸)などになっている。
店の名前など話が横道にそれてしまったが、話を「アメリカにおけるラーメン価格」という本題に戻す。
百聞は一見にしかず、上の写真で示したこの店のメニューを見て頂きたい。
Spicy Miso Ramen と記載されているラーメンの価格は 29ドル。ちなみに日本ではあまり馴染みのない名称のラーメンだが、スープの味的にはいわゆる担々麺に近いと考えてよいだろう。(日本における一般的な担々麺のスープの色はもう少し赤いが、味的には担々麺に近いように感じた)
さて現場で実際にオーダーしてみたのはこの Spicy Miso Ramen 単体だけでなく、メニュー内に記載されているトッピングの「pork belly」(5ドル)も追加してみた。
というのもラーメン単体の内容の補足部分に「ground pork」(豚の挽肉)と記載されていたので、その豚肉はいわゆるチャーシューのようなものではなくスープと一体化したようなものと勝手に判断し、であるならばほとんど具は何も入っていないのではないかと心配になったからだ。
つまり「pork belly」を追加でトッピングすることにより、単純なラーメンがチャーシュー麺のようなものになると考えた。
実際に出てきたものがこの写真。どんぶり内の上部に見えるものが追加した pork belly。日本におけるチャーシュー麺の豚肉とはやや異なるが、とにかくこの豚肉が2枚トッピングされて出てきた。
どんぶりの下のほうに見えるものが、はじめから標準として含まれている ground pork と卵ということになる。
チャーシュー麺と呼ぶには豚肉の枚数が少ないが、それはさておき話を価格に戻すと、ラーメン単体が 29ドル、追加の豚肉2枚が 5ドル、それに消費税が8.38%で 2.85ドル、チップ18%で約6ドルの合計43ドル。直近のドル円レート 156円で換算すると約6700円ということになる。
この数字を見て「アメリカのインフレは異常!」と考えたくもなるが(たしかにここ1~2年の物価上昇はひどい)、昨今のドル円レートが異常と考えるべきなのかもしれない。
なお今回のチャーシュー麺の価格も先週号でのラーメンの価格もホテル街における平均的な数字であって、一般市民が暮らす郊外のラーメン店ではやや安いことを付け加えておきたい。
なおチップ6ドルに関しては「えっ、そんなに高いの?」との異論や疑問もありそうだが、それについては当サイトで昨年取り上げたバックナンバー 第1357号 を参照して頂くとして、今回の精算においては伝票に示されていたチップの目安の中の一番安い18%を参考に 6ドル払ってみた。
ここまで読んで頂いた読者にとっては、「値段が高いことはわかった。で、味はどうなのよ?」ということになりそうなので最後に味についても簡単にコメントしておきたい。
日本で食べる担々麺と遜色はなく、海外で食べるラーメンとしては十分満足できるレベルの内容で、ここの読者がこのあとこの店に食べに行ってもガッカリするようなことはないだろう。
10年、20年前ならいざ知らず、今ではアメリカでもラーメンが広く定着してきているのでレベルの低いラーメン店はかなり淘汰されてきているように思える。
価格の高さには閉口するが、ラーメン党にとってはアメリカでいつでもどこでもまともなラーメンが食べられるようになったことは喜ばしい限り。たかがラーメン、されどラーメン、どうしても食べたくなったらいくら払ってでも食べたくなるのがラーメンというものだ。