ベガスの空港名、存命の政治家の名前に変更して問題はないのか

McCarran 空港を示す高速道路の案内板。

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 ラスベガスの表玄関「マッキャラン国際空港」(McCarran International Airport)。この世界第8位を誇る大空港の正式名称が地元出身の存命の大物政治家の名前に変わろうとしている。このたび空港を管理運営する地元のクラーク郡(郡は州の下の行政単位)が名称変更を承認した。
(世界の空港の離着陸数ランキングは こちらのページ に掲載)

「ハリー・リード国際空港」には反対

 すでに改名されることがほぼ決まりかけているので今さら反対意見を述べても遅いかもしれないが、新名称「ハリー・リード国際空港」(Harry Reid International Airport)への改名には賛成できない。この政治家への思い入れの大小や、地元への貢献度などに関係なく、いろいろな意味でこの名称変更には反対だ。
 ちなみにリード氏とは、民主党のトップである 院内総務 を歴任したネバダ州選出の政治家。日本での知名度はそれほど高くないが、決して裕福ではない家庭から民主党のトップにまで上りつめた政治家としてアメリカでは名高い。

「ラスベガス国際空港」への署名運動

 改名するならシンプルに「ラスベガス国際空港」(Las Vegas International Airport)が自然な流れだろう。実際に「政治家の名前を使うのはもうやめよう。”ラスベガス国際空港” にすべき」との署名運動も起こり始めており、今後の成り行きが注目される。(署名運動に参加したい場合はこちら
 ほぼ決まりかけていることとはいえ、このあと FAA(アメリカ連邦航空局)など関係組織からの最終的な承認を得る必要があり、まだ名称変更が最終決定したわけではないので反対派はあきらめるのは早いかもしれない。

「マッキャラン」は100年前の政治家

 話を進める前に、これまでの改名の動きについてふれておきたい。
 現在の「マッキャラン」という名称も実は政治家の名前だ。地元ネバダ州選出の元上院議員(民主党)で政治以外の分野でも広く活躍し、地元に多大なる貢献をした政治家として評価されてきた。ただ、議員として活躍していたのは約100年ほど前というから、第二次世界大戦前のかなり古い政治家ということになる。

政治家名の空港は珍しいことではない

 和や集団を大切にし特定の人物だけを美化することを嫌う日本ではあまりなじまないが、アメリカを含む諸外国では政治家の名前が公共施設の名称に採用されることは珍しいことではない。
 パリのシャルルドゴール空港ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港 などはその代表格で、マッキャランの名前も彼の死後14年が経過した1968年から半世紀以上に渡って特に何ごともなく使われてきた。

観光局は「ラスベガス国際空港」を支持

 そんな時代が長らく続いていたわけだが、2010年ごろから名称変更の議論がしばしば浮上しては消え、そしてまた浮上。
 ちなみにその時期に名称変更を強く支持していた急先鋒はラスベガス観光局だった。彼らが希望する新名称は「ラスベガス国際空港」
 一方、名称変更に反対していたのは、空港を管理運営する地元のクラーク郡で、反対理由は名称を変更すると看板や標識などの変更作業がわずらわしいばかりか費用が発生するからというもの。

マッキャランではどこの都市だかわからない

 当時の観光局が主張していた名称変更の理由は以下のようなものだった。
 「今のゼネレーションにとってマッキャラン氏は古すぎる人物で存在感がない」、「地元で著名な政治家であっても世界的な知名度は低い」、「マッキャラン国際空港がどこの都市の空港なのか認知されていない」、「空港名から都市名を推測できないのは観光都市ラスベガスとしては好ましいことではない」などで、政治色はほとんどなくマーケティング的な部分に重点が置かれた変更理由であることがわかる。

マッキャラン氏は人種差別主義者だった

 ところが、警察による黒人に対する暴行事件など人種差別問題が改めてクローズアップされ始めた昨年あたりから、どこからともなく「マッキャラン氏はユダヤ人を排除するなど人種差別主義者だった」との意見が出てくると、改名への動きが一気に加速。
 最近は人種差別に関連した話題には異論を挟みにくい風潮にあるためか、マッキャラン氏の名前を取り下げることに対する反対意見はほとんど聞かれず、結果的に改名賛成派は名称変更というゴールに向かって突っ走り始めたというのが現在の状況だ。

過去の偉人たちはほとんどがアウト

 100年も前の社会が今とは価値観も習慣も大きく異なっていたことは想像に難くない。その時代の発言や行動を指摘し始めたら 過去の偉人たちはほとんどがアウトになってしまうのではないか。
 権力者はめかけを何人も持ったり、異人種の家政婦を持つことが当たり前だったり、さらには人種差別的な発言も容認されやすい時代でもあったりしたわけで、マッキャラン氏も墓場の向こうで「100年も前のことを指摘されても…」と嘆いているかもしれない。

過去の偉人たちの問題行動

 余談だが、めかけと言えば前述のジョン・F・ケネディ元大統領の浮気グセは有名で、あのマリリンモンローとの不倫は多くの人が知るところ。それでも空港の名前になっているから立派としか言いようがない。昔のおおらかだった時代のことは大目に見るということか。それともそのうちマッキャラン氏のように名前を取り下げらてしまうのか。
 大統領の名前が出たついでに言うならば、クリントン元大統領のホワイトハウス内での部下との性行為スキャンダルも記憶に新しいが、その種の女性スキャンダルのようなことはなにもアメリカに限ったことではない。日本も負けてはいない。
 初代内閣総理大臣の伊藤博文は明治天皇から「少し女遊びを控えてはどうか」と注意されたほどの女好きだったというから豪快だ。今では考えられない。
 その今はどうかというと、オリンピック委員会で元総理大臣の森氏の女性差別発言が騒動になって辞職。さように政治家や著名人たちはちょっとした発言や不倫などでも叩かれてしまい気の毒だが、それを気の毒と言ってしまうとまた叩かれる。時代は大きく変わったものだ。

存命の人物は今後のスキャンダルが心配

 話は横道にそれてしまったが、人種差別主義者だったマッキャラン氏の名前を取り下げることは良いとしても、新名称を「ハリー・リード国際空港」にするというのはいかがなものか。
 たしかにリード氏は院内総務までを歴任した大物政治家ではあるが、引退してから5年しか経過していない存命の人物だ。
 存命ということは空港名に採用したあとスキャンダルを起こさないとも限らない。そうなったらまた空港名を変更するというのか。どう考えても存命の人物を空港名にすることは好ましくないし、習慣的にも違和感を禁じえない。

鳴りを潜める観光局、手のひら返しの郡議会

 そもそもこれまでの名称変更の理由だった「空港名から都市名を推測できないのは問題」といった議論はどこへ行ってしまったのか。
 なぜか観光局は鳴りを潜めており、逆に10年ほど前から長らく名称変更に反対だったクラーク郡が先日の会議で手のひらを返すような満場一致で「ハリー・リード国際空港」への変更を支持しているから不可解極まりない。なにやら政治色がプンプン臭う名称変更のように思えてならないが、考えすぎか。
(なおハリー・リード国際空港に変えた場合でも、空港の3桁コードだけは現状の「LAS」を維持するとのこと)

寄付で賄い税金は使わないというが

 ちなみに実際に変更するとなると道路標識や印刷物の取り換えなどに数百万ドル(数億円)を要するといわれている。支持者らはそれら費用のすべてを寄付などで賄い税金は一切使わないとしているが、自分たちで負担すれば空港という公共施設の名称を好きなように変えていいというものでもあるまい。
 やはりクラーク郡の議会だけで決めるのではなく広く市民の声なども聞き、もっと時間をかけて新名称を決めるべきだろう。そしてその理想とする新名称はくどいようだが「ラスベガス国際空港」。これで何が問題だというのか。

政治家の名前の空港には違和感

 世界を見渡せば政治家の名前が付いた空港は決して少なくないが、そろそろどこの国も空港の命名において政治利用は避けるべきだろう。そもそも政治家の名前がついた空港名にはどことなく違和感を感じるというか、あまり好感が持てない。
 ワシントンDCの「ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港」、ヒューストンの「ジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル空港」など、必ずしも悪い印象があるとは限らないが、やはり政治家なのでアンチもいるはず。万人受けする名称にはなりえない。

ガリレオもダヴィンチも好印象

 一方、ロサンゼルス国際空港サンフランシスコ国際空港など、地名だけのシンプルな名称は単純であるがゆえに悪い印象はなく爽やかな響きさえ感じるが、はたして読者はどう感じるか。
 参考までに世界には、ガリレオ・ガリレイ空港、レオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港、アントニオ・カルロス・ジョビン国際空港、鳥取砂丘コナン空港、米子鬼太郎空港など(正式名称ではなく愛称も含む)、科学者、音楽家、漫画などにちなんだ空港もあるが、政治家の名前とちがって悪い印象はない。

リード氏のみずからの辞退に期待

 というわけで長くなってしまったが、FAA連邦航空局や最終委員会の結論は 3月16日に出るらしい。その結論が出る前に、いや結論が出たあとでもいい、存命のリード氏がみずから「私の名前を付けるなど、そんなおこがましいことは身分不相応なので…」と辞退を申し出ることを期待したりもしてしまうが、はたしてそんな日本的な謙遜や遠慮の美学のような発想がアメリカの政治家にあるのか。とりあえず署名運動の拡大に期待しながら 3月16日の結論を待ちたい。

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コメント(1件)

  1. ひろはた より:

    ラスベガス国際空港が私も良いと感じます。

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