MGM社、実在カジノを見切ってオンラインに注力か

スーパーボウルのオッズ。(2020年2月2日時点の数値)

スーパーボウルのオッズ。(2020年2月2日時点の数値)

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 今度の日曜日(2月7日)はアメリカンフットボールのプロリーグ NFL の優勝決定戦「スーパーボウル」の日。
 テレビ観戦という意味では アメリカ最大のスポーツイベントであり、またラスベガスにとっては各カジノのスポーツブックが1年のうちで最も盛り上がる日でもある。もはや全米規模での冬の風物詩といった様相だ。

チーフス 対 バッカニアーズ

 スポーツブックとは、スポーツの試合結果などにお金を賭けるギャンブル場のこと。
 ラスベガスのカジノホテルのほとんどがその施設を持っており、そこには全米各地のスポーツイベントを放映する大小さまざまなテレビや、配当倍率などを示す電光パネルが所せましと並んでいる。
 ちなみにこのページのトップにある写真は今回のスーパーボウル「カンザスシティ・チーフス 対 タンパベイ・バッカニアーズ」に対する配当倍率やハンデを示す電光パネルで、チーフスがやや有利と見られているようだ。
 この数字の読み方に関しては過去記事(第1126号)などを参照して頂くとして、さてここからが今週の本題。

今年のスポーツブックはガラガラ

 通常、スーパーボウルが開催される日曜日を「スーパーサンデー」、その日までの一週間を「スーパーボウルウィーク」と呼び、ラスベガスのスポーツブックはウィークを通して連日お祭りムードに包まれるのが普通だが、今年はぜんぜん盛り上がっていない。
 三密を避ける必要があるためか、引退したスター選手や芸能人を交えての試合予想会など、例年なら企画されているはずの各種イベントやパーティーも開催される様子はなく、実際に下の写真のように現場はガラガラ。
 この写真は 2月2日(火曜日)の正午頃のバリーズホテルのスポーツブックの様子だが、他のホテルも同様でどこも人影はまばらだった。週末になれば多少は賑わってくるものと思われるが、たぶんそれも限定的になるのではないか。コロナの影響は計り知れない。
右奥のカウンターにスタッフが見えるが、客はいなかった。

右奥のカウンターにスタッフが見えるが、客はいなかった。

経営が成り立たない MGM社の株価

 人影がまばらでも、コロナでラスベガスに観光客がほとんど来ていないのだから当然のことと言ってしまえばそれまでだが、当地に人が来ないということはスポーツブックのみならずスロットマシン、ルーレット、ブラックジャックなどでも売上は期待できないことになる。そんな状態でカジノ経営は成り立つのか。
 だれがどう考えても成り立つわけがない。であるならばラスベガスで数多くの巨大カジノホテルを運営する MGM Resorts 社の株価はどうなっているのか。

業績不振だが株価は堅調

 これが意外にも低迷していない。昨年の3月から4月、つまりコロナ発覚直後こそ急落したものの、その後はすぐに持ち直して今ではコロナ前とほぼ同じ水準で推移している。
 業績が好調なのかというとそんなことはない。現時点ではまったく利益が出ていない。
 会計処理や決算時期などの関係で現時点での公表 PER(1株当りの利益に対する株価の倍率)は 11倍前後とかなり良さそうに見えるが、カジノ運営では赤字を垂れ流し中のようだ。

スポーツブックに対する期待

 ではなぜ株価がコロナ前までの水準に回復してきているのか。
 いわゆるロビンフッダー*文末に解説)たちからの大量の買い注文が継続的に入っているからではないかとの指摘もごく一部にあるようだが、それが原因とは思いにくい。
 じつは スポーツブックに対する将来的な期待が買い注文を支えているのではないかというのが最近急浮上してきている株価の根拠だ。

イギリスの会社と立ち上げた BetMGM

 実際に MGM社はスポーツブック、特にオンラインスポーツブックに対する熱の入れようが半端ではない。
 その象徴が BetMGM。MGM社とイギリスの Entain社のジョイントベンチャ-として誕生したスポーツブックの専門の組織だ。
 今のコロナの現状と、そしてコロナ終了後のことを考えると、この BetMGM を立ち上げた戦略は正しいように思える。
MGMグランドのスポーツブックにある端末装置。

MGMグランドのスポーツブックにある端末装置。セルフで投票可能。

コロナ後も訪問者数は元に戻らない

 というのもコロナの影響で実在カジノの集客数が大きく低下しているわけだが、仮にコロナ禍が完全に終わったとしても、ラスベガスの場合は他のカジノ都市と比べて純粋なギャンブラーよりもナイトクラブ、ナイトショー、コンサート、コンベンションなどを目的とした訪問者が多いため、それらの業界も回復してくれないことには訪問者数は元に戻らない。
 訪問者の絶対数が減れば「ついでにカジノで遊ぶ」といったギャンブル需要も減ってしまう。

現存のカジノは供給過多

 残念ながらナイトクラブ業界がコロナ前の水準に短期間に戻るとは考えにくく、またコンサートやコンベンションの一部はコロナ後もネット開催に流れる可能性が高い。
 ようするにラスベガス全体の訪問者数が短期的に元に戻る可能性は極めて低く、そう考えると現存するカジノの規模や客室数が需要に対して供給過多ということはあっても不足することなどありえない。
 つまり今後しばらくは ラスベガスにおけるリアルカジノの市場が成長する余地はほんとんど無い と考えるべきだろう。

スポーツブック、全米で解禁

 一方、スポーツに対する賭けは、長らくラスベガスがあるネバダ州などごく一部の州でしか認められていなかったが、2018年に最高裁判所が「どこの州においてもスポーツブックを合法化してもかまわない」との判決を下したことをきっかけに全米各州で解禁。
 さらにテクノロジーの進化に伴いスマートフォンやパソコンを使っての賭けも安全にできるようになった。

プロスポーツ団体も協力的

 また大リーグ野球、NBAバスケット、NHLアイスホッケー、PGAゴルフなどの各スポーツ団体側もコロナで無観客や人数制限での開催を強いられているなか、過去データの提供などでスポーツブック業界に協力的になってきており(スポーツブック側としては賭け率などを設定する際にできるだけ多くのデータが必要)、試合に賭けるファンが増えれば視聴率も上がるという思惑などからウィンウィンの関係を築こうとしている。
ピラミッド型ホテルとして知られるルクソールも MGM社が運営。

ピラミッド型ホテルとして知られるルクソールも MGM社が運営。

巣ごもり生活が追い風に

 そしてコロナによる巣ごもり生活もオンラインスポーツブック業界にとっては追い風となっているようだ。
 実際にこの1年、カジノ業界ではスロットマシンやルーレットなどのリアルカジノのゲームの売上が大きく落ち込むなか、オンラインスポーツブックの普及でスポーツブックの売上だけは伸びているとのこと。
MGMグランドのスポーツブック

MGMグランドのスポーツブック

大きく急成長の可能性も

 以上のような環境の変化を考えると、今後益々オンラインスポーツブックの市場は拡大するものと思われ、それのリーディングカンパニーを目指そうとしている MGM社は従来から存在するアングラの違法サイトなどのシェアも奪い大きく成長する可能性がある。
 もちろん合法のライバル社も存在しているので決して簡単に業績を伸ばせる業界ではないだろうが、投資家たちはそんなビジネス環境の変化を見越して同社の株を買っているのかもしれない。
現在建設中のリゾートワールド。

現在建設中のリゾートワールド。

供給過多で爆破解体されるカジノも?

 もし実際に MGM社がオンラインスポーツブック、さらにはルーレットやブラックジャックなど従来型のゲームも含めたオンラインカジノで大きな利益を計上できるようになった際には、成長に限界が見えてきているリアルカジノを見捨ててオンラインに軸足を移す可能性もあるような気がしないでもない。
 リアルカジノから撤退するしないにかかわらず、リアルカジノが供給過剰であることにはほぼ間違いないところで、そう考えると現在建設中のリゾートワールド(上の写真)の存在も気になってくる。爆破解体されるカジノも出てくるのか。しばらくはこの業界から目が離せそうもない。
 
* ロビンフッダーとは、比較的若い年齢層をターゲットに急成長してきた株式売買アプリ「ロビンフッド」(手数料無料、少ない株数の小口売買も可能)を使って株式市場に参入してきている個人投資家たちのことで、SNSなどで情報交換しながら集団で特定銘柄を集中的に買ったりすることから注目されている>
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