ベネチアンホテルの買い手はもうひとつの MGM社?

MGM Grand Hotel。

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 ラスベガスのカジノホテル業界に興味がない読者にとってはおもしろくも何ともない話題かもしれないが、コロナ禍でラスべガス旅行が現実的ではない今の時期にもここのページを訪れてくれているべガスファンの読者にとっては大いに関心があるのではないか。先週のニュースの続報だ。

サンズ社のホテルを買い取るのはどこか?

 先週のニュースとは、ラスべガスでベネチアンホテルパラッツォホテルを所有・運営しているラスべガスサンズ社Las Vegas Sands Corp. ニューヨーク証券取引所: LVS)が、それらホテルの売却を検討しているという話。
 ラスベガスに本社を置き、社名にまで「ラスべガス」が含まれている同社が、ラスべガスから撤退するというのは地元のみならずウォールストリートでも驚きのニュースとして大きく報道されているわけだが、撤退が現実のものとなると仮定した場合、その次に来る興味の対象はどこの会社がそれらホテルを買い取るのかということになるだろう。

噂されているのは MGM社

 候補となり得る会社は、先週のこのコーナーでもふれたとおりシーザーズ社ウィン社など数社考えられるが、実は数日前から MGM社の名前が取り沙汰されているから業界は一気にざわつき始めている。
 各メディアの報道によると、どうやら MGM社とサンズ社は互いに接触しているようだ。ただ、当事者である両社はともにコメントを避けているようなので、本当のことはよくわからない。
 それでも各メディアの報道内容や、本誌独自のルートで得た情報、さらには MGM社の置かれた状況や業界環境などを考えると、ベネチアンやパラッツォが売却されるとした場合、その買い手は MGM社になるような気がする。その理由を書いてみたい。

もう一つのMGM社が存在している

 サンズ社がラスべガスに保有している物件はベネチアンホテル、パラッツォホテル、サンズ・エキスポ・コンベンションセンターなどで、売却の想定価格は約60億ドル程度(6000億円以上)と報じられている。
 現在どこのカジノ企業もコロナの影響で経営は苦しく、新たにカジノホテルを買収するほど資金的に余力がないばかりか、そもそもカジノや宿泊の需要がない。コロナがすぐに終息したとしても需要が完全に戻るのは 2~3年先になるだろうというのが、業界関係者のもっぱらの予測だ。
 そんな厳しいビジネス環境のなか、MGM社は、カジノや宿泊需要とは直接的には関係のないもう一つの MGM社 を持っている。どういうことか。

MGM社 と MGP社、その違いは?

 ここまではただ単に「MGM社」と表現してきたが、MGM と名の付く会社は2つある。MGM Resorts InternationalMGM Growth Properties だ。
 どちらもニューヨーク証券取引所に上場しており、それぞれティッカー(日本でいうところの証券コード)は “MGM”“MGP”
 世間一般でいうところの「MGM社」は前者のほうで、このサイトでしばしば「ミラージュホテルは MGM社系列のホテル」と表現したりする際の MGMも前者の会社だ。
 つまり MGM Resorts International(以下 MGM)こそが、ラスべガスや他の都市でカジノやホテルを運営している会社ということになる。

MGP社の REIT とは何か?

 説明が必要なのは後者の MGM Growth Properties (以下 MGP)のほうだろう。こちらは正確に言うと REIT の会社で、簡単に言ってしまえば 不動産投資会社 だ。
 REIT は Real Estate Investment Trust の略で、すでに日本の経済界や金融界でも広く使われているのでご存じの方も多いと思われるが、投資家から広く資金を集めてさまざまな不動産に投資をし、そこで得られる運用益(家賃収入など)を投資家に還元する不動産投資信託と考えるとわかりやすい。

運命共同体だがビジネスは異なる

 したがって MGM と MGP の関係は、ホテルそのもの、つまり不動産を保有しているのが MGP で、その物件を借りながらホテルやカジノを運営しているのが MGM ということになる。
 両者は運命共同体といってもよい関係にあるが、当然のことながらビジネスモデルとしてはまったく異なっている。MGM はカジノやホテルで利益を出すことを目指し、MGP は MGM からの 家賃収入 がビジネスの根幹だ。
 そのような事情から、コロナの影響でカジノやホテルの業界が不況になっても MGP としては直接的には関係ない。もちろん MGM が倒産したら家賃収入がなくなるので MGP も二次的な被害を被ることになるが、コロナ不況の一次的な被害はあくまでも MGM が被る。

REIT を利用する分社化がブーム

 実はこの両社の関係は昔からあったわけではない。数年前まで MGP は存在していなかった。
 つまりそれまではホテルの所有も運営も MGM がおこなっていたわけだが、「所有と運営を分社化し、物件は REIT に売って現金を手にする」という経営がブームになっていた 2015年(REIT の概念は昔からあった)、MGM が株価の維持や経営効率などを総合的に考え、別会社として MGP を設立したことにより、現在のような両社の関係が出来上がった。

MGM社 は MGP社の大株主

 ちなみに MGP を設立した直後からすべての物件を MGM から MGP に移管したわけではなく、まだ一部のホテルの所有権は MGM 側に残っている。
 また逆に、MGP は所有物件のすべてを MGM から買い上げているわけではないので、両社の関係は完全な運命共同体というわけではないが、ほぼそれに近い関係にある。会計上、別会社になっているとはいえ、そもそも MGP の大株主は MGM なので、ただならぬ関係であることに変わりはない。

シーザーズ社も REIT で分社化

 両者の関係の説明が長くなってしまったが、そのような背景があるため、サンズ社からベネチアンやパラッツォを買い取る場合、MGM ではなく MGP になることはほぼ間違いないだろう。

 では他のカジノ企業は REIT で分社化していないのかというと、そうでもない。シーザーズ社も 2017年に VICI Properties(ティッカーは VICI)という会社を設立して MGM と同じような経営を目指しており、すでに時価総額では MGP を大きく上回っている。
 であるならば、サンズ社の売出しに対して VICI も手を挙げる可能性がありそうだが、現在の経営状態などをいろいろ考えると、VICI よりも MGP のほうが可能性としては高いように思える。

気になる反トラスト法(独禁法)

 仮に MGP が買い取ることになると仮定した場合、最後に気になってくるのはベネチアンとパラッツォの運営だ。どこがやるのか。
 だれがどう考えても自然な流れとしては MGM がやることになるのだろうが、そうなってくると、ますます反トラスト法(Antitrust Law、日本でいところの独禁法のようなもの)に抵触しないかが議論になってきそうだ。
 以下の地図からもわかるとおり、すでに現在においてもストリップ大通りの南側地区の大半のカジノホテルを MGM が運営しており、ベネチアンとパラッツォが加わると、北側地区にまで同社のホテルが進出することになる。

ストリップ大通りにおけるホテル系列の勢力地図。

ストリップ大通りにおけるホテル系列の勢力地図。

競争の阻害による高値安定はよくない

 それはそれで MGM系列のホテルでポイントを貯めている常連宿泊者などにとっては歓迎すべきことなのかもしれないが、宿泊料金などにおいて価格競争が阻害され高値安定などにつながれば、多くの一般利用者は不利益を被ることになる。それは避けるべきだし、それを避けるために反トラスト法がある。
 はたして今回のサンズ社の売出し騒動、どのような形で決着を見るのか。しばらくこのニュースから目が離せそうもない。

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