MGMグランド、ベラージオ、アリア、パークMGM など、ラスベガスで数多くの大型カジノホテルを運営している MGM Resorts International 社が「日本びいき」であることはすでに第1174号で報じたとおりだが、このたび新たに日本に関係する美術展を始めたので紹介してみたい。
さまざまな日本関連イベントを開催してきた同社が、先月からベラージオホテルのアートギャラリーで始めたのは、「物質から存在へ Material Existence: Japanese Art from Jomon Period to Present」と称する美術展。
なにやらかなり長いタイトルだが、簡単に言ってしまえば、「縄文時代から現代までの日本の美術展」といったところか。(「物質から存在へ」の部分は現場でもそのまま日本語で表記されている)
ちなみにこの展示イベントは期間が2部構成になっており、土偶の展示などの第1部が 2019年11月16日から翌年の4月26日まで、縄文土器の展示を予定している第2部が 2020年5月16日から10月11日まで。
この開催スケジュール、なにやら日本人観光客が多いと予想されるゴールデンウィークの時期が、展示物の入れ替えのための休館期間となっているところが興味深い。
というのも、そもそも日本人観光客の数など、ラスベガス全体の訪問者数の1パーセントにも満たないので、営業的には始めから日本人をターゲットにしたイベントとは思えないが、大阪IR(Integrated Resort: ホテル、コンベンション施設、ショッピングモール、カジノなどを含む統合型リゾート)への参入に名乗りを上げている MGM社としては、少しでも日本人に対して露出度を高めたいという思いがあるはずなので、その時期を休館にするのは意外だ。
それとも、大阪の政治家や財界人などにアピールできれば、一般観光客に対する知名度アップなどはどうでもいいということか。
それにしても、ここ数年、大阪城のレプリカ展示 など数々の日本関連イベントの開催のみならず、社長を含めた幹部がたびたび大阪を訪問するなど、同社と大阪との蜜月ぶりは半端ではない。
ちなみにベラージオホテルの公式サイト内における今回の美術展に関する説明文の中には「Many pieces on view originate from the country’s Kansai region」との記述があり、ここでも関西を意識していることがうかがえる。
前置きが長くなってしまったが、今回の展示そのものに話を移すと、縄文時代に関係する展示物は 土偶がたった1点だけ、そのほかには古墳時代の埴輪(はにわ)も同じく1点だけで、残りの展示物はすべて日本の現代芸術家(神戸を拠点とする河口龍夫氏や、奈良県を拠点とする辻村史朗氏など)の作品となっている。
したがって、古い時代の展示物という意味では、数的に非常に寂しい。
もちろん「量より質」という言葉があるように、数が多ければいいというものではないので、これはこれでいいのかもしれないが、もう少し展示物を増やしてもらいたかったというのが正直な感想だ。ゴールデンウィーク以降の第2部の展示に期待したい。
さて現場における状況を簡単に説明しておくと、入館時に音声ガイド装置を手渡される。そのままだと英語の設定になっているので、日本語設定に切り替えてもらうように申し出るとよい。
ちなみに英語以外の言語は現時点においては日本語のみで、需要という意味ではあってもよさそうな中国語やスペイン語はない。
メイン展示物とされる土偶の説明は4番のボタン、埴輪は7番のボタンを押すと自動的に流れてくる。
館内での撮影に関しては、「土偶と埴輪だけは撮影禁止」となっており、存命の芸術家の著作物のほうが撮影可能となっていることに関して現場で質問してみたところ、「その理由はわからない」とのこと。
「展示作品の多くは関西に由来」と説明されているが、メイン展示物の土偶が「青森県で出土」となっていたりするのは(そもそも土偶は西日本ではあまり出土していない)、ご愛敬といったところか。
というわけで作品数が少ないばかりか、突っ込みどころもありそうな美術展ではあるが、本物の土偶と埴輪をリアルに見ることができるのはそれなりに価値があるので、興味がある者は足を運んでみるとよいだろう。
会場はベラージオホテルのカジノフロア内にある「Bellagio Gallery of Fine Art」。
開館時間は午前10時から午後7時まで(最終入館は 6時30分)、入館料はこの写真でもわかる通り $15(5歳以下は無料)。宿泊客、シニア、学生などには割引あり。