飲食業界のカロリー表示の義務化、今週から施行だが…

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 飲食業界における各メニューに対するカロリー表示の義務化を定めた法律が 5月5日から施行される。(上の写真は、すでに法律に従ってカロリー表示しているスターバックスのメニュー。なおアメリカにおけるカロリー表示の際の単位は、キロカロリーの k が省略されてることが多い)
 しかしトランプ政権の方針が揺らいでおり、現場は混乱ぎみ。あと数日というこの時期になって、法律そのものの行方がわからなくなってきている。
 今週は、大多数の一般の観光客にとってはどうでもいい話だが、食事のたびにカロリーを気にしている人たちにとっては残念なニュースかもしれないという話。

 肥満大国アメリカ。肥満の定義や統計の取り方によって結果は異なってくる可能性があるので一概には言えないが、太平洋に浮かぶ一部の小国などを除けば、アメリカとメキシコが世界で一、二を争う肥満大国といわれている。
 特にアメリカは電車やバスをあまり使わないクルマ社会のためか歩く歩数が少ない上、外食などでの盛り付けの量が異常に多いので当然の結果といえなくもない。

 そんな社会を反映してか、街中のいたるところにフィットネス・クラブのたぐいの施設があったりするわけだが、運動するためにそこにやって来る人たちが車を停める駐車場は、いつも入り口に近い場所から埋まっているから笑える。運動したいなら少しでも遠くに駐車して歩くべきだろうが、そうもいかないようだ。
 笑えるといえば、「国民の命を守るために巨額の防衛費をつぎ込んでいるが、国家存亡の危機は敵国からのミサイル攻撃などではなく、肥満に起因する病死」といった話もある。たしかに個々のアメリカ人にとっては、北朝鮮からのミサイル攻撃やテロ事件に巻き込まれることよりも自身の心筋梗塞などを心配するほうが現実的かもしれない。

 そんな現状に危機意識を持ったのか、オバマ政権下の FDA(Food and Drug Administration: 食品医薬品局)は 2010年、外食産業に対してカロリー表示の義務化を定めた法律を制定。ファーストフード店などの店内に掲示されるメニューボードや、各テーブルに配られるメニュー内に、それぞれの料理に対してカロリーを表示せよという法律だ。(上の写真は、すでにカロリー表示に対応しているデニーズの店内のメニュー)
 この種の法律はすでにその時点でカリフォルニア州など一部の州においては施行されていたが、オバマ政権は全国レベルでの法制化に踏み切った。

 ところが、準備に時間や費用がかかるとのことで飲食業界からは不満が噴出。当初、2015年までが猶予期間とされていたその法律の施行も、2016年までに延期され、さらにその期限も守れず、結果的に2度延期され、現在では 2017年5月5日が施行日となっている。(上の写真は、まだカロリー表記をしていない Nathan’s Hot Dogs のメニュー。ただし Nathan’s はベガスに 13店舗しかないため、後述する表記義務免除店となっているが、全米規模の店なので表記すべきとされている)
 というわけで、対象となる飲食店は今すぐにカロリー表示しなければならないことになるが、現場では必ずしもそうなっていない。
 その理由は、業界側からの反対だけでなく、今回はトランプ政権側からもこの法律を問題視する声が上がってきているため、また延期されるだろうと見ている会社が少なくないからだ。このままでは一度も施行されることなく、この法律が葬られてしまう可能性も出てきている。

 業者側の反対理由は明快だ。単純に手間の問題、つまりメニューを変えるたびにカロリー計算をして表示し直す必要があるのと、高カロリー食を避けたい人に対する売上の減少で、そのためカロリー表記は非常に薄い目立たない色の文字にしたり、小さな文字で表示するのが一般的だ。(上の写真は Chick-fil-A のメニュー、カロリー表記の文字の色が薄い)

 トランプ政権側が乗る気ではないのは、業界からの反対意見に配慮してのこととされており、いま流行りの言葉で言うならば「忖度」(そんたく)といったところか。
 ちなみに現時点でこの法律が予定通り施行されたとしても、店舗数が 20以上の店だけが対象となっているので、個人経営の単独店や 20店に満たないチェーン店は除外されることになっている。
 中小の店に経済的、時間的負担をさせないための配慮だ。ただ、その都市に 20店舗以下しかないチェーン店であっても全米規模で多店舗展開している大企業は除外されるべきではないとされている。

 なおこの法律によると、飲食店だけでなく、コンビニやスーパーマーケットで販売されているサンドイッチなどもカロリー表示義務の対象となっており、ファーストフード店などよりも、こちらのほうが問題が大きく反対意見が多いようだ。(上の写真は ABC Stores で売られている寿司弁当、カロリー表示はない)
 というのも、コンビニやスーパーは大企業であっても、サンドイッチなどを製造して納入している業者は、その地域の中小企業であったりすることが多いため、カロリー表示は現実的ではないとの意見がコンビニやスーパーの業界から出ている。
 いずれにせよ、カロリーを気にする人にとっては、せっかく全米規模でカロリー表示が徹底されるはずだったものが、またもや延期もしくは廃案という残念な方向に向かっていることはたしかで、たぶん廃案になるであろうというのが各メディアの論調だ。
 これでまたアメリカ人の肥満が減る可能性が遠のいた感じだが、すでに極端な肥満の人はカロリー表示されたところで減量などする気がないので意味がない法律だ、といういう意見もある。それでも、糖尿病などでカロリー制限を強いられている人たちにとっては延期や廃案は不便な結果なので、やはりこの法律は施行されるべきだろう。5月5日まであとわずか。はたしてどうなることやら。

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