日本人はバックがお好き? でも、うしろから入れちゃダメ!

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 「ストリップ地区のホテルの駐車場は無料」は、半世紀以上も続いてきたこの街の常識。宿泊客以外も自由に使えて制限時間もない。世界でもあまり例を見ない太っ腹なサービスだ。

Head in Parking  駐車場で料金を徴収するようなケチなことをやっていたのでは、客がそのホテルのカジノに遊びに来てくれなくなってしまうからだ。「カジノに人が来ない」 ということは、そのホテルにとってはまさに死活問題。
 「駐車場無料」は当然といえば当然のサービスなのかもしれない。(上の写真はモンテカルロホテルの駐車場)
 ちなみにラスベガスを訪れる観光客の約30%は、ロサンゼルスおよびその周辺都市から4~5時間かけて車でやって来る人たちといわれている。

Head in Parking  そのような理由から、どこのホテルも「絶対に満車になることはない」と言ってもいいぐらい巨大な無料駐車場を持っているわけだが、なんと昨年の6月、ベガスで最大勢力を誇るMGM系のホテルが(図の青の■)、この長年のおきてを破り、駐車場を有料化した。するとウィン、アンコールもその動きに追随(ただし現在はバレーパーキングのみ有料で、セルフパーキングの有料化はまだ)。
 そして今月からはシーザーズ系のホテル(緑の■)も料金を取り始め、それに合わせるかのように、コスモポリタンも5月からの有料化を発表。もはや無料を維持しているホテルは数えるほどしか残っていない。
 ついでに言うならば、有料化してまだ1年が経過していないにもかかわらず、MGM系のホテルは今日からその駐車料金を値上げした。
 これら一連の有料化は、高額ギャンブラーや 1時間以内の利用などの例外を除き、そのホテルの宿泊者も対象となっているので、宿泊すれば無料になるというものではない。
 さて気になる実際の駐車料金についてだが、その料金体系は各ホテルで非常に複雑であるばかりか、このたびのMGMの値上げのようにひんぱんに変動することが予想されるため、各自ホテルの公式サイトなどで調べてもらうとして、今週は駐車の際の「Head in Parking」というルールについて書いてみたい。

 「アメリカは右側通行」、「一時停止して安全を確認すれば赤信号でも右折してよい(例外もあるが)」、「停車中のスクールバスは児童や生徒の乗車・下車が終わるまで追い越してはならない」など、日米における交通ルールの違いは、すでに多くのレンタカー族の知るところだが、ヘッド・イン・パーキングは意外と知られていない。

Head in Parking  ヘッド・イン・パーキングとは読んで字のごとく、「頭から入れる」という駐車の際のルールだ。つまり、日本で一般的な「バックで入れる駐車」は禁止されているということ。(上の写真はモンテカルロホテルの駐車場)
 いま「ルール」とか「禁止」という言葉を使ってしまったが、それはやや大げさかもしれない。というのも、地域やその駐車場施設によってはルールとして禁止されていることもあるが、多くの場合、まだ「マナー」レベルの決めごとであり、反則切符を切られるようなことはないからだ。

Head in Parking  とはいえ、ヘッド・イン・パーキングは、何十年も前から定着している全米規模の常識 であり、バックで駐車することなど、よほどの事情がない限りするべきではないし、ほとんどだれもやっていない。特にこのたびの有料化されたラスベガスのホテルの駐車場においてはなおさら注意が必要だ。
 ちなみに商業施設などの駐車場に限らず、自宅の前庭など(写真上)住宅街でもバック駐車を見ることはほとんどない。
 では、なぜアメリカではヘッド・イン・パーキングが常識なのか。いくつか理由があるので、それを以下に列挙してみた。
(どれも重要な理由ではあるが、今回のホテルの有料化に関しては一番最後のに記載した理由が最重要)

バックで入れると、排気ガスなどで背後の壁や、背後に駐車している車両を汚す可能性がある。

汚すばかりか、乾燥した板など可燃性の構造物が背後にあった場合、高温の排気ガスで火災の危険性がある。(寒冷地や高温多湿の地方など、エンジンをかけたままエアコンをオンにして仮眠したりする運転手がいることを想定すると、これは極めて重要)

バックで入れると、背後に駐車している車両の車内で仮眠している者などがいたりした場合、排ガス中毒を起こす危険性がある。排気ガスがこもりがちな環境だった場合、自分自身も危険(ヘッドインパーキングであれば、開放された通路側に排気されるので比較的安全)。


Head in Parking
どんな熟練ドライバーにとっても、前進よりも後進のほうがむずかしいのが普通。バックで入れる場合、後進で広い場所からせまい場所に入れることになる。一方、ヘッドインパーキングの場合、後進で狭い場所から広い場所に出ることになり、バックで入れる場合のほうが、駐車の出し入れに要するトータル時間が長くなりがち。結果的に駐車場内での渋滞を招きやすい。

同じ理由、つまり後進のほうがむずかしいという理由で、左右の境界線に対して中央かつ平行に駐車させることがむずかしく、斜めになったり、ずれた状態で駐車してしまいやすい。

これまた同じ理由で、駐車場所から出る際、バックで出る際は非常にゆっくり動き出すのが普通だが、前進で出るときは一気に出てしまいがちで、通路を走行中の車と接触事故を起こしやすい。

Head in Parking 後進の際は、昼でも夜でも車両後方のバックライトが自動的に点灯するが、前照灯は意識的にオンにしないと点灯しない(最近は自動点灯の車も増えてきているが)。バックで駐車していた場合、暗い環境において、前照灯を付け忘れたまま車両を出すと、通路側を走行している車両の運転手にとって認識しづらく、接触事故を起こしやすい。

前方の視界に比べ、後方の視界のほうが悪く、障害物までの距離感を取りにくいのが普通(最近は後方視界のカメラや自動ブレーキ付きの車両も増えてきているが)。結果的に、バックで入れると、駐車スペースのギリギリ奥まで入れないことになりやすく、通路部分のハミ出しが大きくなりやすい。

Head in Parking
バックで入れた場合、トランクが通路に対して手前側には無いので、ショッピングした荷物などを入れにくい。荷物を降ろす場合も同様に降ろしにくい。アメリカでは、大型ショッピングカートで大量の商品を買い、そのショッピングカートを店内から駐車場まで持ち出せるようになっていることが多く、もしバックで駐車している場合、そのショッピングカートをトランクのところまで運びたくなるのが人情で、その際、周囲の車にショッピングカートをぶつけたりしやすい。

同様の理由で、バックでの駐車の場合、ショッピングカートが奥の場所に放置されやすく、ショッピングカートの回収作業の効率が悪くなる。

各駐車スペースの奥に置かれているコンクリート製の車輪止めは、車両の通路側のハミ出しを少なくするため、ギリギリ奥に設置されているのが普通。そしてそれはヘッドインパーキングを想定した位置に置かれている。バックで入れると、一般的な車両はフロント・オーバーハング(前輪の車軸から車体の最先端までの距離)よりもリア・オーバーハング(後輪の車軸から車体の最後部までの距離)のほうが長いので、大型車が車輪止めまで進入しようとした場合、背後の壁や背後の車両にぶつけてしまう危険性が高まる。

通路を進行しながら斜め方向に進入するカタチで駐車する構造になっている施設、つまり進入通路に対して駐車スペースが 90度に配置されていない駐車場においては、そもそもバックで進入することが極めて困難。

バックで入れると、管理人や警察などがナンバープレートを通路側から読み取ることができない。(仮ナンバーを付けている買ったばかりの新車を除き、後部には必ずナンバープレートが存在しているが、アメリカでは下の写真のように、前部にはナンバープレートが付いていない車両が多い)

Head in Parking
 今回のラスベガスのホテルの駐車場においては、特に最後の理由、つまりナンバープレートの読み取りの問題が重要になってくる。
 というのも、有料化にともない、各駐車場はハイテク装置を導入したため、駐車場に入ってくる車両に対して、そのナンバーをカメラが自動的に読み取り、OCR(画像をテキストに自動的に置き換える技術)でデジタルデータとして管理できるようになった。
 その結果、入ったまま長期間一度も出て行っていない不審車なども簡単に把握でき、そのナンバーの車両を駐車場内で探し出す際、施設内に接地されたカメラや自動読み取り装置を搭載した管理車両を走らせるなどして簡単に発見できるが、バックで駐車している車両の場合、管理人が奥まで入って手作業でナンバーを確認する必要がある。
 そのようなこともあり、従来以上にヘッドインパーキングの徹底が求められているので、レンタカー族の日本人観光客もこのルールを守るようにしたい。

 さてここからは余談だが、これほどまでにいいことばかりのヘッドインパーキングがなぜ日本ではあまり定着していないのか。
 「日本人は先に苦労して、あとから楽をしたい」 という性格なので、むずかしい車庫入れを先にするのではないかと言った人がいたが、本当の理由はたぶんアメリカと比べると駐車スペースや、通路のスペースが狭いためと思われる。
 というのも、車両の構造上、前進よりも後進のほうが、狭いスペースに車両を入れる際、有利だからだ。
 たとえば倉庫内の所定の位置にピタリと進入させる必要があるフォークリフトの多くが一般車両とは逆、つまり運転手のハンドル操作が前輪ではなく後輪に伝わるように設計されているのはそのためで(前進して曲がる際、前輪ではなく後輪の向きが変わるので、車体のお尻を大きく振りながら曲がることになる)、一般車両の場合、バックのほうが、「広い通路側にある車首を大きく振りながら、少ない進行でも狭い駐車スペース内にあるお尻の向きを大きく変えられる」ことになり、入れやすい。
 とはいえ、日本にも広い駐車場はたくさんある。そのような場所ではヘッドインパーキングのほうが利点が多いので(特にショッピングの荷物をトランクに入れる場合)、バックでの駐車にこだわる必要はないだろう。

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