ウーバー 対 リフトの業績比 & タクシー業界への侵食度

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 過去一年、このコーナーで何度も取り上げてきたウーバー(UBER)。業界最大手のウーバー・テクノロジーズ社による、スマートフォン・アプリを使った個人タクシーのようなライドシェア・サービスだ。
 その一方で、ウーバーのライバル企業、業界第2位のリフト(Lyft)は特に取り上げてこなかった。(上の写真はニューヨークニューヨークホテルにおけるウーバーとリフトの乗り場)

 その理由は、サービス内容も利用方法も料金体系もほとんどウーバーと同じで、両社を区別して説明する必要性がほとんどなかったことと、リフトは日本に進出していないため、日本の読者には馴染みが薄いと考えたからだ。実際にウーバーだけを知っておけば、リフトを知らなくても何ら不便はない。

 そうはいっても、リフトの存在を知っている者にとっては、両社の力関係や市場シェアなどは大いに気になるところ。実際に、複数の報道によると、ウーバーをスマホにインストールしている人の多くは、リフトもインストールしているとされている。

 観光客ばかりか、地元民の間でも外食先で飲酒する機会が多い人たちなどのライドシェア利用は急増しており、利用するたびに、ウーバーとリフトのどっちを使うかで迷っている人も多いようだ。
 このたびそんな人たちにとって興味深いデータが、ラスベガス・マッキャラン国際空港内の車両交通量などを管理している当局からの統計数値として、地元有力紙ラスベガス・リビュー・ジャーナルから報じられたので(下のグラフなど)、それを紹介してみたい。

Uber と Lyft  このグラフがその統計数値だ。さまざまなことが読み取れるが、非常に大ざっぱに言うならば、ウーバー社のビジネス規模はリフト社よりも4倍ほど大きいということ。
 ちなみにこのグラフ内の Pick-ups は、空港から乗客を乗せて出て行った回数で、ウーバーが約42万回、リフトが 9.3万回
 Drop-offs はホテル街などから空港へ乗り入れた回数で、ウーバーの60万回に対してリフトは16万回

 それぞれの数値は、両社がラスベガスで業務を始めてから今年の7月までのもので、ウーバーは昨年の12月から、リフトは昨年の10月からの累計。そこには2ヶ月の期間差があるが、業務開始直後のその2ヶ月間はほとんど利用者がいなかったため(特にリフトの10月はゼロに近い)、この期間の差は無視してよいだろう。

 どちらの会社も Pick-ups よりも Drop-offs、つまりラスベガス到着時よりも、帰りに空港へ向かう際の利用のほうが圧倒的に多いところが興味深い。特にその増加率はリフトのほうが顕著で、リフトの Drop-offs は Pick-ups の 72% 増となっている。

 その原因は、到着時には両社の(特にリフトの)存在もしくは乗り場の位置などを知らなかった人たちが、数日間ラスベガス市内に滞在しているうちに乗り場などを目にして、帰りに利用してみた、ということかもしれない。

Uber と Lyft  グラフの下に並ぶ数値 3,0112,624 は、8月22日時点における、ウーバーとリフトに運転手登録している人の数で、これがなかなかおもしろい。というのも、乗客の取り扱い数では4倍もの開きがあるのに対して、運転手の数はほぼ同じ だからだ。

 これは何を意味しているのか。実は、ウーバーの運転手の多くがリフトにも登録しているということ。ようするに、大半の運転手はウーバーの客、つまりウーバーのアプリから呼び出しがあればその客を乗せるし、リフトの客から呼び出しがあればそれも乗せてしまう。(上の写真は、ウーバーとリフトの両方のロゴマークをフロントガラスに表示している車両)

 したがって4倍という開きの原因は、運転手や車両の数の差ではなく、利用者の多くが(たとえリフトのアプリがインストールしてあったとしても)、ただなんとなくウーバーのアプリを開いているためと推測できる。知名度の差と言ってしまえばそれまでだが、料金やサービス内容にほとんど差がないことを考えると、リフト社にとってはなんとも気の毒な話だ。

「ウーバー社にしろリフト社にしろ、それぞれの契約運転手に対してライバル社に登録することを許してしまっているのか?」との疑問を持つ読者もいるにちがいない。

 実はその通りで、実際に許しているのが実態だ。いや、許しているというよりは、喜んでそうさせているといったほうが正しいかもしれない。その理由はいくつかあるが、独占禁止法に触れてしまうおそれがあるということもさることながら、「従業員」という形での雇用関係にしたくないからだ。つまり、ライバル社の運転手もやってくれていたほうが都合がいい。

 たとえば、ウーバー社がその登録運転手に対して、ライバル社での登録を認めないようにしてしまうと、税務当局や労務当局などから、「その運転手は従業員」と見なされかねず、そうなると失業保険、労災保険、健康保険、さらには有給休暇や各種福利厚生など、さまざまな部分で負担が増え、タクシー業界よりも大幅に安い運賃を維持することが困難になってしまう。

 ライバル社への登録を認めることによって、「従業員」ではなく 「個人事業主との任意の契約」 という形にすることができ、経費の低負担 に対するタクシー業界からの強い反発をかわすためには、「他社との契約は禁止」などといったことはしないほうが得策というわけだ。

 話は先のグラフに戻って、その中の下のほうに示されている 250万ドル62万ドル という数字は、ウーバー、リフトの両社が、空港を管理するクラーク郡(ラスベガスが所属する行政単位)に、空港内通行料としてその期間に支払った金額の合計だ。

 この空港内通行料の単価は、空港から出て行く場合も、入って来る場合も 1回につき $2.45。もちろん運賃に自動的に加算されるため、利用者が負担していることはいうまでもない。
 ちなみにタクシーの場合、空港から出て行く場合に限り $2.00 が徴収され(入って来る場合は無料)、ライドシェア業界と比べるとかなり優遇されていることがわかる。

 ウーバーもリフトも、高度な技術によりすべてのことがリアルタイムにきちんと管理されているため、これら統計数字は極めて正確に集計されていると考えてよいだろう。業界内のさまざまな状況を分析する上で、今回の数字の発表は非常に貴重な情報公開といってよいのではないか。

 さてここでだれもが気になってくるのは、タクシー業界とのシェア争いだろう。リビュー・ジャーナル紙の記事によると、ウーバーやリフトの集計期間とほぼ同じ期間、つまり昨年の10月から今年の7月までのタクシー業界が支払った空港内通行料の合計は約590万ドルとのこと。
 タクシーの場合、前述のとおり空港から出て行く際にのみ $2.00 となっているため、295万回の Pick-ups があったと推定でき、それはウーバーとリフトの Pick-ups の合計約51万回約6倍ということになる。

 この数字だけを見ていると、まだタクシーのほうが圧倒的に有利な状態を維持しているようにも思えるが、タクシー業界としてはあまり楽観的なことをいっていられる状況ではない。
 なぜなら、すでにふれた通り、ライドシェアの場合、空港に入って来る利用者のほうが明らかに多く、その部分では、すでにタクシー業界はかなり浸食され客を奪われているからだ。

 入って来る利用者と出て行く利用者の全総数が同数と仮定した上で、入って来るタクシー利用者の数を推測すると、ライドシェアに対してタクシーは 3.5倍程度の集客しかできていない ことがわかる。
 さらにグラフの右上がりの急勾配を見ていると、数年以内にライドシェアはタクシー業界に追いつくような感じがしないでもない。
 今回のここでの分析はあくまでもラスベガスだけの数字ではあるが、タクシー業界が衰退の一途をたどることはほぼまちがいなく、他の都市でも遅かれ早かれウーバーとリフトがタクシー業界を駆逐することになるだろう。

 と書いたのはいいが、実は駆逐されそうなのはタクシー業界だけではない。なんと、ウォール街から リフトが身売り先を探している というニュースが飛び込んできた。なにやらグーグル、アップル、アマゾンなどに身売りを打診しているようだ。しかし交渉はうまく進んでいないらしい。買い手にとって、ウーバーほどは魅力がないということか。ゼネラル・モーターズが引き取るという噂もあるが、はたしてどうなることやら。

 自動運転も視野に入れながら離合集散が続く弱肉強食のこの業界。ウーバーに条件付きでしか営業を認めていない日本の運輸行政は大丈夫か。世界のトレンドから取り残されガラパゴス状態にならないことを祈りたい。

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