ディスプレイ装置の技術革新が街の景観を変える

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 楕円形の巨大な屋根がトレードマークの大型ショッピングモールFASHION SHOW(写真)
 その屋根の下の広場のような場所で、約一年間に渡って続けられてきた工事がこのたび終了し、再び利用できるようになった。

 では何のための工事だったのか。レストランや小売店などテナント・スペースがわずかながら増設されたことは事実だが、それが本当の理由ではない。工事の最大の目的はディスプレイ装置の設置だ。

 ディスプレイといっても商品の陳列台などのことではない。宣伝広告などを表示するための電光表示装置のことで、今回の工事で設置されたのは、巨大な屋根を支える円筒形の柱の部分(1番上の写真内で明るく光って見える部分)と、モール内に通じる出入口の上部に帯状に存在するディスプレイ装置(写真上)だ。2本の柱と帯状の部分を合わせると、ラスベガスで最大の面積を誇るディスプレイらしい。

 この種の装置には特に決まった名称はないが、アメリカでは video display、もしくは単純に display、日本では LEDビジョンLEDディスプレイ などと呼ばれることが多いようだ。
 そんなディスプレイの設置がここ数年、静かなブームとなっており、このまま増加し続けると、良い悪い、好き嫌いは別にして、これまでの街並みの景観が大きく変わって来る可能性がある。サイズがあまりに大きく(大きさを競い合っている傾向もうかがえる)、なおかつ非常に明るいからだ。
 今週は観光情報とは特に関係ないが、この LEDディスプレイの新設や、旧型看板からの付け替えについて取り上げてみたい。

 ブームになっている理由は技術革新と低価格化。そしてその結果として、ディスプレイの設置自体が採算に合うビジネスとなることがわかってきたからだ。
 技術革新の中心はキメの細かさ、つまり解像度、そしてコントラスト性能の飛躍的な進歩で、このファッションショー・モールの装置を設置した世界最大のディスプレイ専門企業 Daktronics 社(ナスダック上場)によると、この円筒形ディスプレイの垂直方向の解像度は、フルハイビジョン規格の1080ラインをはるかに超えており、ほとんどの映像コンテンツをそのまま描写できるという。

 また近年、画素となる一つひとつのLEDの輝度が大幅にアップしてきたことにより、非常に明るい色から漆黒のような暗い黒まで、直射日光が当たる真昼でもくっきりとした自然なコントラストで再現できるようになったこともブームに拍車をかけているようだ。
(上の写真はプラネットハリウッド・ホテルの南側にある交差点に設置された巨大ディスプレイ。自動車のサイズなどからその大きさがうかがえる。直射日光が当たる環境であるにもかかわらず、まるでペイントされた広告のようにコントラストが美しい)

 業界人の話によると、野外ディスプレイにおいては、まぶしいような炎天下から真っ暗な夜間まで、周囲の明るさが大きく変化する環境で使用されることから、解像度よりも輝度のコントロールやコントラスト性能が非常に重要で、この業界における最近の技術革新による恩恵はもっぱらこの部分にあるらしい。

 どんなに性能がアップしても経済的にメリットがなければ普及しないわけだが、ここ10年ほどの価格低下は凄まじいもので、性能にこだわらなければ、かつての数分の一ほどの費用で設置できるようになってきているとのこと。

 そうなると何が起こるのか。それは、自社(たとえば自分のホテルや自分の店)とは無関係な広告を表示する目的での設置だ。
 広告収入で設置費用を回収できればビジネスになるので、人通りのよい目立つ場所を所有している者にとっては、その地の利を有効利用しない手はない。そもそもディスプレイ会社からのリースという形でのビジネスもあり、その場合、初期の設置費用すら不要だ。
(上の写真内の左側に光って見えるディスプレイは 11年前から存在しているウィン・ラスベガスのもの、右側はこのたび完成したファッションショー・モールのもの。前者では自社のナイトショーの宣伝を、後者ではモールと無関係なナイトショーの宣伝をしていることがわかる。もちろんウィンでも他社の広告を表示させることは可能だが、そのような目的で設置されたものではないため、とりあえず現時点では自社広告のみを表示している)

 新聞、テレビ、ラジオ、雑誌、そしてネットなど、広告媒体にはさまざまなものがあるが、これだけ性能がアップし、きれいに描写でき、なおかつ表示コンテンツの切り替え作業などが簡単になると、屋外の大型ディスプレイも十分に採算が取れる広告媒体となり得る。(上の写真は LINQ ホテルの前に設置されたディスプレイ)
 そしてラスベガスは、ニューヨークのタイムズスクエアなどに次ぐ、アメリカでは数少ないディスプレイ広告の大消費地 & 需要地とされる。

 とはいえアメリカ全体で見ると、人口密度が高く、駅の周辺など人が集まる場所が多い日本と比べると、人口密度が低く車社会のため、ラスベガスといえども設置に適した場所はそう多くない。(上の写真はコスモポリタンホテル)
 電気代を含めたディスプレイを光らせておくためのコストは 100人の通行人に見せるのも、1000人に見せるのも同じ。広告主にとっての効果は 100人と1000人では大違いだ。したがって、ビジネスとして成り立たせるためには可能な限り人通りが多い必要がある。
 そう考えると、ビルの屋上や繁華街や商店街など、日本のほうが設置に適した場所が圧倒的に多く、ラスベガスも大したことがないように思えてくるが、1枚のディスプレイのサイズという意味ではラスベガスは世界一の都市なのかもしれない。そしてそのたった1枚の出現が街の景観を大きく変えてしまう現象が起き始めている。(下の写真はラスベガスで一番高いアリアホテルのディスプレイ)

 技術革新によるコスト低下で売り込みやすくなったディスプレイ会社からのセールス活動と、場所の有効利用を考える土地や建物の所有者。両者の利害が一致しやすい環境になってきているので、今後益々巨大なディスプレイが登場するはずだ。それと同時に、不夜城ラスベガスの明かりの主役はネオン管から LED になる。昔ながらの風景を懐かしく思う者にとっては寂しいトレンドかもしれないが、この流れが止まることはないだろう。

 最後に蛇足になるが、昔といえば、ビルボードやマーキーといった広告手段は今に始まったものではなく、何十年も前からラスベガスにはたくさん存在していた。各カジノホテルがその前庭などに設置していた広告塔はその典型で、もちろん今でもなくなる気配は無い。(上の写真は十数年前のフロンティア・ホテルのもの。当時のこのタイプの広告塔では、文字を手作業で取り替える必要があった)
 ちがいはハイテクかどうかということだけで、広告の目的は同じ、つまり今も昔もすべて基本的には自分のホテル内のカジノ、レストラン、ナイトショーなどの宣伝のために使っている。

 LEDディスプレイでは表示内容を遠隔操作で簡単に取り替えることができるので、時間的にもコスト的にも他社の広告を掲載することはできるはずだが、現時点では、LEDディスプレイを持つカジノホテルが他社の広告を掲載するという動きはあまり見当たらない。たぶん自社内に宣伝すべき店などが十分にあるからと思われるが、プライドの問題もあるのかもしれない。(上の写真は、手作業で広告内容を取り替える必要がある旧型の広告塔)
 そういう意味では、今回のファッションショー・モールのような広告ビジネスを目的とした巨大ディスプレイが、カジノホテル主導で乱立されるようなことはなさそうだが、旧型のディスプレイをメイン看板として使っているカジノホテルは、遅かれ早かれ、それを巨大なLEDディスプレイに必ず置き換えるはずだ。
 そしてまだ多くのカジノホテルが旧型を使用していることを考えると、数年以内に街の景観が大きく変わっていくことはほぼまちがいないだろう。

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