電飾アーケード内をスーパーマンのように飛んでみよう!

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 先々週、ラスベガス・ダウンタウンの電飾アーケード街に、Zip Line「Slotzilla」の上段施設「Zoomline」(写真)が完成し、営業を開始した。

 まずは言葉の説明から。Zip Line とは、落差のある2地点を結んだワイヤーに、滑車を組み込んだ器具などを使って身体をつなぎ、一気に滑り降りる遊びのこと。
 通常は丘陵地帯や野山などアウトドア系のアクティビティーとして知られるが、今回紹介するものは電飾アーケード街という極めて特殊な環境にあり、また、そのスタート台の形状が巨大なスロットマシンのようになっていることから「Slotzilla」との愛称が付けられ、場所も形も名前もユニークな Zip Line として注目を集めている。

 この Slotzilla 自体は今年の4月に開業しており、すでに半年近くが経過しているが、これまでは高さ約23メートル地点から出発する下段の施設のみで運営されてきた。(写真内の Slotzilla と表示されている部分と十数枚のコインの間に見える黒い部分が下段のスタート台)
 このたびさらに12メートル高い位置に上段の施設が完成し、その名前が Zoomline になったというわけである。(上段のスタート台の位置は、明るく光って見える3つ正方形のさらに上にある黒い小さな4つ窓の部分)
 ちなみに下段の施設には特別な名称は付けられておらず、現場ではただ単に Zip Line、もしくは上段と区別するために Zip Line Lower と呼ばれている。

 ここまでの説明だけでは、多くの人が「スタート位置が高くなっただけで下段と大差ないのでは」と思うに違いないが、それはまったくの事実誤認。
 上段のコースは、全長、滑空時間、スリル、景色などが格段にアップしており、下段とはまったく別のライドと考えたほうがよいほど大きく異なっている。
 そもそも乗る姿勢がぜんぜんちがう。下段からのライドでは腰掛ける姿勢(上の写真)、上段からの場合はスーパーマンが空を飛ぶような姿勢(下の写真)。両方体験してみればわかることだが、この姿勢のちがいだけでも、滑空時の体感や視界がまったく異なってくるからおもしろい。

 そしてなんといっても最大のちがいは全長だ。少し長くなっただけだろうと思ったら大まちがい。
到着台からスタート台がよく見通せるので、ゴルフ用の赤外線レーザー距離計を使用しその距離を計測してみたところ(広報資料の数値はでたらめなことが多く信用できないので)、下段は240ヤード(219m)、上段は529ヤード(483m)。なんと倍以上の開きがあった。(広報資料では、それぞれ283ヤードと583ヤード)
 そしてこの距離の差はただ単に滑空時間の差だけにとどまらない。下段のコースでは、電飾アーケード街にその東端から突入したあとすぐにゴールになってしまうが、上段のコースでは東端から西端まで、つまり電飾アーケード街のほぼすべての範囲を滑空する。

 それだけではない。下段のコースとなっている電飾アーケードの東寄りの部分は下界に人があまりいない寂れたエリアとなっているが、上段のコースでしか通過しない西寄りの部分はにぎやかな雑踏だ。
 つまり下界の群衆がよく見えると同時に、その群衆から自分も丸見えということになる。他人から見られることに快感を覚える目立ちたがり屋にとってはこの上ない楽しいアトラクションとなること請け合いだ。
(上の写真は電飾アーケード街のほぼ中心地点。この写真の中央やや下の奥に横たわって見えるものが下段コースの到着スタンド。さらにその奥に小さく光って見えている四角い部分が巨大スロットマシン、つまりスタート地点で、下段コースではこの雑踏までは来ないことがわかる。下の写真は上段コースの終点付近で、写っているのは電飾アーケードの西端のふち部分と、ゴールデンゲートホテルおよびプラザホテルのPの字のネオンサイン)

 ということで、高いところを滑空するためスリルがあるという意味で絶叫ライド好きに最適であるばかりか、目立ちたがり屋の欲望も満たしてくれるこの Zoomline。いいことばかりのようにも思えるが、そうでもないところがむずかしい。いやなこともあれば不安もある。
 それは料金の高さと、それに伴う集客難だ。開業後わずか2週間ほどしか経過していないが、早くも採算性が疑問視され、上段のコースは遅かれ早かれ閉鎖されるのではないかとの噂も聞かれる。

 ちなみに料金は下段が $20、上段が $40。(この写真はチケット売場の前に置かれた料金表)
 距離が2倍以上になっているなど、ここまでに書いてきたような違いがあるので、この価格差は妥当といえなくもないが、大多数の人はその内容の差を想像することができないのか、下段に乗っているのが現状だ。
 その集客人数の差は、ざっくり見た感じとして5倍以上の開きがあるように思える。つまりせっかく開業したこの長い立派な施設がほとんど利用されていない。

 ならば料金を下げればいいと考えたくなるが、そうもいかないだろう。スタッフの数が多いので、値下げしたら採算が取れそうもないからだ。
 体重を確認する係(風の抵抗などコースの途中で停止してしまう可能性があるため 100ポンド、約45kg 以下の者はライドできない)、工事現場のような荒々しいエレベーターの操作担当者、そしてハーネスなど器具の装着、ワイヤーへの固定、さらにはゲートの開閉など、万が一にも落下事故などを起こしてはならないので、それぞれの作業ごとに複数のスタッフが配置されており、また到着地点にも後続との激突防止など安全のためのスタッフが多数働いている。だれがどう見ても経費は少なくない。

 ここまでのことは下段のコースにもいえそうだが、乗る姿勢の違いなどから装着する装備もスタート台のカラクリもまったく異なり、準備や安全確認により多くの時間がかかることから、単位時間あたりのライド数を多くすることはむずかしい。
(上の写真はスタート台の様子。青いベッドのような台に参加者が腹ばい状態に寝て、その台を上昇させ上部のワイヤーに固定し、すべての安全を確認してから台を下げ、グレーの扉を開ける)

 ちなみにコースに張られているワイヤーの数は4本(これは下段も同じ)。仮に設計通り 20分に3回スタートできたとしても 1時間に36人が限度ということになる。(参考までに、下段の設計は 20分に7回スタートなので 1時間に84人)
 チケット売り場やメインテナンスのスタッフの経費なども含めると、どう考えても値下げは苦しいし、だからといって今の料金設定で1時間に数人程度の集客しかできていない現状を考えると値上げは絶対にできない。1回のライドに $40以上を気軽に払える者は、そう多くいないはずだ。
 やはり閉鎖される可能性もありそうなので、体験してみたい者はなるべく早めに行動を起こしたほうがよいかもしれない。

 現時点での営業時間は(上段も下段も同じ)、日曜日から木曜日が正午から深夜零時まで、金曜日と土曜日が深夜2時まで。
 チケット売り場は、電飾アーケード街から巨大スロットマシン Slotzilla に向かって真下の右側にある。自動券売機を操作してチケットを購入することになり(この写真はその画面)、英語が苦手な場合は少々わかりづらいかもしれないが、現場スタッフが立ち会ってくれるので特にむずかしいことはない。

 チケットを購入したらそれを腕に巻き、階段を登って体重測定のセクションに行く。そのあとのセクションで身体をワイヤーに固定するための装備を身につける。すべて現場スタッフがやってくれるので、指示に従って手や足を動かすだけでよい。
 正しく装着されていなければ落下して死ぬ可能性もあるわけで、装着状況は大いに気になるところだが、重要な装備のほとんどは背中側にあり自分では確認できないので、ここは相手を信用するしかない。

ジップライン  なおその装備を行なう場所で、すべての持ち物を所定のバッグ(写真)に入れる必要がある。
 空中から物を落として下界の人にケガを負わせたりしたら大変なことになるため、「すべての持ち物」に例外はなく、スマホやカメラなどはもちろんのこと、ボールペン1本でもコイン1枚でもポケットに入れておくことはできない。メガネも外さなければならず、口の中のガムなども禁止だ。
 この所定のバッグは自分の後方に固定され一緒に滑空することになるので、ライド終了後に出発地点に戻って取りに来る必要はない。

 装備の装着と荷物が片付いたら、次に荒っぽいエレベーターに乗ってスタート台があるフロアに向かう。ちなみに右の写真はそのフロアから反対側(滑空していく電飾アーケード街とは逆方向) を見た様子。
 スタート台においては、前述の青い寝台のようなものの上に伏せて寝かされ、あとは自分の背中周辺であれこれ行なうスタッフの作業を黙って信じて待つ以外にやることはない。
 緊張している参加者をリラックスさせるためか、「どこから来たの?」といった世間話をしてくるスタッフもいるかと思えば、逆に「この装置、よく故障するんだよな」などと冗談を言いながらリラックスさせようとするスタッフもいたりするなど、高さがあり緊張しやすい上段ならではの光景だ。

 そうこうしているうちに走行が始まる。あとは両手両足を伸ばしてスーパーマンのような姿勢を取るのがこのライドの基本のようだ。
 目立ちたがり屋は群衆の上を通過する際、大声を上げることを忘れずに。群衆が振り返ってくれることまちがいなしだ。ただ、現場はかなり騒々しいため、中途半端な声では気づいてもらえないので要注意。
 ゴールに到着するとスタッフが装備を外してくれるので、あとは所定のバッグから荷物を取り出し出口へ向かうだけ。
 そこには、いつのまにか撮影された自分の姿がPCの画面に多数並んでいる。プリントアウトの料金は最初の1枚が20ドル、2枚目以降は1枚につき5ドル。 買うのもよし、買わないのも自由だが、経営事情が苦しいことを考えるとぜひ買ってあげたいところだ。
 ちなみに経営母体は、電飾アーケードを運営している地元ダウンタウンの商工会組織 Fremont Street Experience LLC。採算を度外視してでも継続してくれることを願いたい。

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