空港内にも酒店がオープン、ビールを買うならどこが安い?

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 先月、ラスベガス国際空港内に、極めて異例のリカーストアがオープンした。(写真下)
何が異例なのか。それは場所だ。空港の到着ロビーのバッゲージ・クレーム(預け荷物の引き取りロビー)内に酒類販売店が開業するのは全米初とのこと。
ではなぜ前例のない珍事なのか。それにはいくつか理由がある。

 アメリカは歴史的背景、つまり 80年も前に終わった禁酒法時代からの慣行がいまだに尾を引いていたりするため、酒類の扱いに関する規則が異常に厳しい。
たとえば酒類販売の免許がない限り、どんなに大きなレストランでもアルコール類を出せない。免許が必要なのは当然としても、その取得がけっこうむずかしかったりする。
公共の屋外での飲酒も多くの場所で禁止されており、一般の公園で、日本の花見のようなことはまずできない。夏の暑い砂浜でのビールも、ほとんどの場合が禁止だ。

コンビニやスーパーのレジでもアメリカならではの光景がしばしば見られる。
レジの店員が高校生アルバイトのような未成年者の場合、酒類販売の年齢に達していないため、ビールやワインなどにさわることができずレジで手が止まってしまい、店内放送で先輩スタッフを呼ぶことになる。
そのスタッフが到着するまでレジの列は進まず、うしろに並んでいる人たちはいい迷惑を被る。

そのような形でさまざまなルールがあるため、空港内では、店内で飲み切って店外に持ち出さないという条件、つまりレストランなどでビールを出すことはあっても、持ち帰ることが前提の酒類販売店は、免税店を除き、一般的に空港内には存在しない。

 到着ロビーという場所もこの店を特殊なものにしている。
どこの国のどんな空港でも、飲食店や各種売店はその大多数が出発ロビーにある。出発前の時間を使っての飲食やショッピングはごく当たり前だが、到着後にそれをする人はまずいないからだ。
到着ロビーでは、多くの人は、荷物が出てきたら空港の外に出て、さっさと家路を急ぐか目的地に向かう。結果的に、宅配便の受付など特殊な業種を除き、到着ロビーでは商売が成り立たちにくい。

 そんな場所にわざわざリカーストアを出そうとする店主はまずいないはずだが、ラスベガスにはいた。Liquor Library という店を出したオーナーの Christian Haase 氏だ。目の付け所がおもしろい。目論見の論法はこうだ。

スーツケースが出てくるまでの時間はだれにとっても退屈なので、そこに酒店があれば利用するだろう。ラスベガスの空港に降り立つ人の大部分は家路を急ぐのではなくホテルに向かう。
つまり、バッゲージ・クレームは旅の終わりではなく、バケーションの始まりだ。部屋でパーティーなど、どんちゃん騒ぎを計画しているグループ客も少なくない。ホテルの館内にある売店や繁華街の店でのビールやワインは高い。ゆえに到着ロビーでの酒店はビジネスになる。
という論法でこの店はオープンしたわけだが、計画通りに進むのかどうかは、まだ新しすぎてなんともわからない。ただ、現時点での客の入りは、あまり芳しくないようだ。

 利用者にとって最も気になるのは販売価格だろう。
はっきり言って安くはないが、店側は、利便性にもお金を払って欲しい、と開業時のプレスインタビューで語っている。
実はこの店、営業許可の条件として、売上の 15% をクラーク郡(ラスベガスが所属する行政単位)の空港管理当局に家賃として支払うことになっている。
販売価格はおのずと高くなってくるわけだが、はたしてどの程度高いのか。競合する他店も含めた実売価格を調べて以下に示してみた。

調査対象とした商品は、最も一般的なビールとして広く売られているバドワイザーの 12オンス缶(日本の 350ml 缶とほぼ同じサイズ)。
以下の「価格」は、1本あたりの価格。「購入条件」は、その店において、1本あたりの価格が最も安くなる購入方法。
Walgreens はコスモポリタンホテルの向かい側の店舗、Whole Foods はタウンスクエア内の店舗、Walmart はラスベガス国際空港の東側にあるイースタン通り店、CostcoTotal Wine はヘンダーソン店。調査日は 12月18日。

 このようにして見ると、ホテル内の売店よりは安いものの、繁華街にあり徒歩でアクセス可能な Walgreens よりも高いことがわかる。Walmart や Costco に代表される郊外の大型ディスカウント店とは比べるまでもない。

ただ、利便性に対する価値観は人によってそれぞれ異なるので、この1本 $1.64 を高いとみるか、安いとみるかは、なんとも言えないだろう。
特に郊外店は、一般観光客にとってはタクシーやレンタカーが必要で、それらの費用を考慮すると価格の単純比較はむずかしい。
買う本数によっても損得感は違ってくる。2~3本しか必要ないのに1ダース買うことはもちろんのこと、1ダース必要な場合でもガソリンと時間をかけて Walmart まで行くのはどう考えても賢明ではないはずだ。そういったことを考えると、空港内店舗は利用価値があるのかもしれない。

 現在 Liquor Library はまだ1店舗だけで、その場所は第1ターミナル(通称 T1)の回転台1番の前。日本からの観光客の多くが利用する主要航空会社としては、デルタ航空アメリカン航空、そしてサウスウエスト航空がこのT1を使っている。ユナイテッド航空は第3ターミナル(T3)なので、その乗客がこの店を利用することは現実的ではない。

営業時間はまだ流動的のようだが、とりあえず現在は午前9時から夜11時まで。ウェディングやバースデーなどのパーティー用の用途を意識しているのか、ギフト用の包装や贈答向けの高級ワインもあるなど、品ぞろえは充実している。
ただ残念なことに、つまみなどのスナック類はほとんど置いていないので、結局この店ですべてが済むというわけではなく、そういう意味では利便性もいまひとつといったところか。

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