ヘンリー王子の騒動、「当事者」にされた観光局は得をした?

 「宣伝にいつわり有り」と聞けば、ウソの効用をうたった健康食品や、高利回りを保証した金融商品など、怪しげなビジネスを思い出すが、いまラスベガス市の公式スローガンが世界中からやり玉にあがっている。
 騒動の発端は、言うまでもなく英国チャールズ皇太子の次男ヘンリー王子のラスベガス訪問。宿泊ホテル「ウィン・ラスベガス」(写真)の客室内で撮影されたとされる彼の全裸の写真が先週、ネットを通じて全世界に流れてしまったからだ。

 「やっぱりウソだったか…」「事実に反するなら取り下げるべきだ…」「信じるほうがバカだ…」
 世界中のメディアから失笑気味に非難されているのは、写真そのものの真偽ではない。ラスベガス市の観光局が 10年ほど前から使ってきたスローガン「What happens in Vegas, stays in Vegas」のことだ。

 直訳では「ラスベガスで起こることはラスベガスに残る」ということになリ、それ以上の意味は含まれていない。
 しかし、英語を母国語としている人たちにとっては、限り無く怪しげな爆弾メッセージで、その意味は「あなたがラスベガスでやったことは、ラスベガスの外に漏れることはない」になり、もう少し具体的なニュアンスとしては、「ラスベガスでなら、少々ハメを外しても大丈夫。すべての思い出はラスベガスに残しておけばいい。まわりを砂漠に囲まれたラスベガスにはあなたの秘密を守る包容力があるので、ちょいワルのこともやってみよう!」といった感じで、倫理的に許されるギリギリのメッセージとして名高い。

 このスローガンの採用が検討された当時、「乱交や麻薬や浮気旅行などを助長しかねない。公共の機関が掲げるべき内容か」と地元メディアや市民を巻き込んでの激しい論争となったが、その一方で、「キャッチコピーとしては見事な名作」と評価する声もあり、結局そのまま採用され、今日に至っている。(ちなみに、ギャンブルを合法化しているラスベガスといえども麻薬や売春は違法)

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 その後、観光局はこれをテレビ広告などでも積極的に使ってきたため、今では全米で広く知られるキャッチコピーとなっており、2008年に公開されたキャメロン・ディアス主演の映画においては、この “名作” にあやかり、タイトルを「What happens in Vegas」にしたほどだ。(邦題は「ベガスの恋に勝つルール」

 今回のヘンリー王子の騒動で、この「役所のお墨付き」とも言える官製スローガンがものの見事にウソだと証明されたことになり、世界のメディアはこぞってあれこれ書き立てた。
 もちろん始めからパロディー的なスローガンであることは誰もがわかっているので、本気で非難しているわけではないが、AP通信が配信し、大手新聞各社が採用した辛辣な見出し「What happens in Vegas doesn’t stay in Vegas」の記事では、ブリトニー・スピアーズパリス・ヒルトンの過去のベガスでの騒動を例にあげ、とっくにこのスローガンが現実とは異なっていることを暴くなど、秘密が守られていないことや、不祥事の容認に対して警鐘を鳴らす論調の記事も目立つ。

 その一方で、「ヘンリー王子はその女性の前で髪を下ろすまではよかったが、ガードも下ろし、パンツまでも下ろしてしまった」といった地元紙のコラムニストの面白い記事など(髪を下ろす = hair down は「くつろいで楽にする」の意味)、今回の騒動に関しては各メディア百家争鳴で、いかに多くの人が関心を寄せているかが伺える。

 ヘンリー王子、そして写真をリークした人物、さらにウィン・ラスベガスが今回の騒動の当事者であることは言うまでもないが、ラスベガス観光局も第4の当事者としていきなり世界から注目されることになってしまった今、「宣伝にいつわり有り」と指摘されて黙っているわけにはいかないのか、粋な行動に出た。

 ただちに全国紙に、「王子の写真をリークし、ベガスのスローガンを破ったのは誰だ。恥を知れ」といった意見広告を掲載し、さらに一週間(28日まで)、ラスベガスの空港で広告を流し始めたのである。その内容がまた面白い。
 第二次世界大戦当時の英国の有名なプロパガンダ「KEEP CALM and CARRY ON」「冷静に落ち着いて、ビクビクせずに引き続き頑張ろう!」といったニュアンス)に、ヘンリー王子の通称名 HARRY と英国旗ユニオンジャックを背景に加えたメッセージを制作し、それを空港のいたるところにあるディスプレイで流し始めたわけだが(上の写真はバゲージクレームのカルーセルの中央に設けられた大型ディスプレイ)、みんな王子の行動に対して寛容な気持ちを持っているのか、このメッセージを見た人の多くが、表情をくずしなごやかな顔をしていたところがなんともほほえましい。

 騒動の責任という意味では、結果的に顧客の秘密を守ることができなかったホテル側の警備のミスなどが指摘されているが、スローガンに反して秘密がベガスの外に出てしまったことに対して観光局側も責任を感じているのは事実で、それが空港での広告という形で現れたといってよいのではないか。
 結局、その広告費の負担という実損や、スローガンが守られていないことが公になってしまったこと、さらにはメディアからは品位に欠けるスローガンのことを指摘されるなど、観光局にとってマイナス面が多かったのは事実だが、地元コラムニストなどからは「もともとスローガンが守られていると思っている人などいないので、ラスベガスの露出度が上がった分だけ、結果的に観光局は得をした。観光局だけが勝者だ」といった指摘もされている。
 たしかに余裕なのか、「少なくとも一時的に引っ込めることになるのではないか」と噂されたスローガンも、そのまま堂々と公式サイトの一番上に掲載されたままだ。

 観光局が得をしたということは、観光客の増加要因につながったと解釈すべきであり、今回のスキャンダルは地元経済にとってプラスになったと言えなくもない。
 ラスベガス市は王子に感謝しなければならない状況だが、それにしても今回の観光局の対応は早かった。
 そして早くも「次回はプライバシーが守られるよう努力するので、ぜひまたいらしてください」とラブコールを送っている。次回はパパラッチが多そうだが、はたして来てくれるのか。

 ちなみにラスベガス観光局は、世界の各都市の観光局の中で飛び抜けて予算が大きいと言われており、実際に、宿泊料金の12%とされるホテル税(ダウンタウン地区のホテルは13%)の税収の多くは観光局の予算に回されている。
 観光産業以外にこれといった業種がなく(郊外では金や銀などの鉱業が盛んだが)、ホテル、カジノは言うに及ばず、ナイトショーなどのエンターテーメント業界もレストラン業界も観光客の増減に一喜一憂しなければならないラスベガス。観光局の存在は絶大で、役目も大きい。
 「ラスベガスはおとなの Playground。プライバシーの保護には最大限の努力をしたい」と改めて宣言しているので、これを機会に、ホテルなどと一緒になって今まで以上に著名人に対するパパラッチ対策や警備に力を入れてくれることだろう。今回が始めてのラスベガス訪問ではないと聞く。王子の再訪を祈りたい。

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