賛否両論うず巻く中、マフィア博物館がついにオープン

 2月14日、電飾アーケードで有名なダウンタウン地区に「National Museum of Organized Crime and Law Enforcement」と称する博物館がオープンした(写真上)。通称は「The Mob Museum」
 上の写真の窓の部分、そして下の写真(チケット売り場の様子)からもわかるとおり、現場では通称が多用されている。

 正式名称をあえてそのまま訳すならば、National Museum国立博物館Organized Crime組織犯罪Law Enforcement法律の執行なので、「国立組織犯罪法執行博物館」にでもなるのかもしれないが、展示内容から見た実態は、「マフィア博物館」以外の何ものでもない。

 ちなみに Mob とは暴力団などのことで、マフィアももちろん Mob。
 ただ、「マフィア」にはイタリアのシチリア島の組織という固有名詞的なニュアンスがあり、広義に解釈しないと地域限定になりかねない。
 したがって「The Mob Museum」は「マフィア博物館」ではなく「暴力団博物館」と訳すべきかもしれないが、「暴力団」だと日本独自のその種の団体をイメージしてしまいがちなのと、実際にこの博物館で取り上げられている組織の多くはイタリア系なので、やはり「マフィア博物館」で差し支えないだろう。

 2002年に始まったラスベガス市長による発案から今回の開業に至るまで、この博物館に関しては実に多くの紆余曲折があった。

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 その最大の理由は「公費でマフィア博物館とはいかがなものか」といった公費使用の是非
 つまり 4200万ドルという血税がつぎ込まれているだけに、開業後の今でも政治家、市民、ジャーナリストなどを交えた賛否の激論が収まらず、地元メディアも連日のようにこの話題を取り上げているなど、論争の渦中にある博物館というわけだ。

 ちなみに正式名称に National という言葉が含まれているが、国からの援助はごくわずかで、4200万ドルの大部分はラスベガス市の予算から捻出されている。
 
 一般的に、博物館に展示されるということは、その関係者にとっては名誉なことなので、「マフィアを美化しかねない施設に、市の予算をつぎ込むとはとんでもない」「博物館入りを目指すマフィア予備軍が増えるなど、犯罪を助長しかねない」といった反対意見が市民の間から出てくるのも無理はない。しかも意図的に National という言葉を使い、資金の出どころをカモフラージュしているとなると、怒りもなおさらだろう。
 また、Law Enforcement という言葉を正式名称に付け加えてしまったことも問題を大きくしているが、それら一連の議論や騒動については機会を改めて報告することにして、今週は博物館そのものについてだけ触れておきたい。

 まず展示内容についてだが、「マフィア博物館」の名に恥じない立派な展示といって良いのではないか。質的にも量的にもかなりのレベルにある。

 もちろんどんなジャンルの博物館にも言えることだが、展示対象、つまりマフィアに興味がない者にとっては退屈する可能性が高いことは言うまでもないので、この施設を楽しむためには興味があることが大前提だ。

 また、この博物館を訪問する前に、実話を元にして制作された映画「カジノ」(1995年、ユニバーサル映画、マーティン・スコセッシ監督)を観ておかないことには話しにならないだろう。
 映画に出てくるシーンが展示物の中にいくつも存在しているというだけでなく、マフィアが牛耳っていた時代のラスベガスを知っておく上においても必見の映画だからだ。
 できれば「バグジー」(1991年、トライスター・ピクチャーズ、バリー・レヴィンソン監督)も観ておきたい。(これら映画のあらすじは、このラスベガス大全の[基本情報]セクション内の[ベガス題材の映画]のページに掲載)

 具体的な展示物としては、マフィアが使用していた武器など物品もあるが、かなりの部分が写真と考えてよい。
 それもほとんどが「事後」の写真、つまり殺人現場に残された死体の写真だ。

 よく考えれば当然だろう。殺される側の者が、その現場の写真を撮るわけもなく、また仮に、殺す側が証拠写真として撮影していたとしても、その写真が一般に公開されることも少ないので、結局、警察などが事後に現場で撮影した写真ばかりが展示に使われることになり、死亡しなかった負傷者は現場を去っていることから、ほとんどすべてが死体の写真というわけだ。

 目を撃ち抜かれた血だらけの頭部蜂の巣状に穴だらけになった車体と車内に横たわる死体など、かなりグロテスクな写真も少なくないので、その種のものが苦手な者は始めから行かないほうがよいかもしれない。

 逆に、マフィアやラスベガスの歴史に興味がある者にとっては飽きることがないだろう。
 フラミンゴの運営を任されたバグジー・シーゲルが銃弾を浴びて倒れた最後の姿、スターダストホテルを取り仕切っていたフランク・ローゼンタールの爆破された車など(写真)、映画にもなった史実の証拠ともいえる超一級の写真の数々には緊張と興奮を覚えるにちがいない。

 犯罪現場ではないが、元弁護士で昨年までラスベガス市長を務めていたオスカー・グッドマン氏が、歴史に残る悪党とも言われる殺し屋トニー・スピロトロを法廷で弁護しているシーンなども(写真)、両方の人物の背景などを知る者にとってはかなり衝撃的な展示だろう。
 ローゼンタールとフランク・シナトラのテレビ対談の写真も、当時の芸能界の環境を象徴しているような光景として興味深い。

 その他、FBIが盗聴したマフィアの殺人計画の会話の音声(写真: ヘッドフォンで聴けるようになっている)、カジノの売上金をどのように隠して脱税していたかといったマフィアの活動に関する詳細解説など、写真以外にも興味深い展示がいくつもある。

 ちなみにそれらの展示によると、スターダストホテルは売上金の中から毎年 700万ドルを当局にバレないように現金で運び出して脱税。同様にフラミンゴは 1960年からの7年間で 3600万ドル、トロピカーナは毎月 15万ドルを外部に運び出していたとのこと。

 そして一連の展示の最後には「マフィアの時代は終わり、今日のラスベガスにおいては、過去の経歴を厳しくチェックされ審査に通ったこのようなビジネスマンたちがカジノを経営しています」と掲示され、そこにはウインラスベガスのスティーブ・ウイン氏や、MGMのカーク・カーコリアン氏が写真入りで紹介されている。
 しかし彼らは、ローゼンタールが車ごと爆破された1982年にはすでにカジノ業界にいたことを考えると、なにか腑に落ちないというかスッキリしないものがあるが、それは考え過ぎか。

 いずれにせよ、反社会的な存在であるマフィアたちを、公金を使って展示しアトラクションにしてしまう現在のラスベガス。
 歴史の保存という意味での学術的な目的なのか自虐的なパロディーなのかは別にして、このような博物館を作れるということは、マフィアはすでに完全に過去の存在ということだろうか。

 そう願いたいが、もしそうでないとしたら、現代のマフィアはこの施設をどのようにとらえているのか興味深いところだ。
「オレも悪の世界で一旗あげてその博物館に名を連ねたい」などとバカなことを考える者が出てこないことを祈りたい。

 博物館の場所は、電飾アーケードで知られるフリーモントストリートから北へ300メートルほど行った地点。昔のラスベガスを知る者には「元レディーラックホテルの裏側」、もしくは「公営バスの基地があった場所のとなり」といったほうがわかりやすいかもしれない。

 建物自体は今回の開館に合わせて新たに建てられたものではなく、郵便局として 1933年に健造された由緒ある荘厳な建物なので 郵便局のあと、裁判所として使われていた)、近くまで行けばすぐにわかるはずだ。
 開館時間は日曜日から木曜日が 10am~7pm、金曜日と土曜日が 10am~8pm。入館料は、一般が $18、5~17才の子供が $12。ネバダ州の市民は運転免許証などを提示すれば $10 になる。

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