2022年の最後を飾るには十分すぎるほどのビッグニュースがサンフランシスコから飛び込んできた。
　世界中が仰天しているのは、創業わずか７年の小さなスタートアップ集団が開発した驚異の人工知能（ＡＩ）についてだ。
　今なら無料でだれもが簡単に利用できるそのＡＩシステムの名前は ChatGPT。（日本語でも利用可能。使用方法は最後に説明）
　当地ラスベガスの観光情報などとは直接的には関係ない案件かもしれないが（いや観光業界にも激変をもたらす可能性大）、この驚きのニュースをできるだけ多くの人と共有したいので今週は今年最後の週刊ラスベガスニュースとしてこの ChatGPT を取り上げてみたい。

ＣＥＳの話題が影を潜めてしまう？

　世界中が注目しているこの ChatGPT、当地ラスベガスでも関心は非常に高く特にハイテク業界は大いにざわついている。
　というのも、年明け早々に恒例のＣＥＳ（世界最大級のテクノロジーの祭典）がラスベガス・コンベンションセンターで開催されることもあり、今の時期のラスベガスはハイテク業界の情報発信地としてメディアなどから注目されているわけだが、世界中の出展企業から発表される新製品や新技術が ChatGPT に話題を奪われ影を潜めてしまうのではないかと心配されているからだ。

　いずれにせよこれからの時代はありとあらゆる業界が ChatGPT のような高度なＡＩの存在を前提に新製品を開発しなければならないだろうことは想像に難くなく、今回のＣＥＳでは至るところで ChatGPT が話題となるにちがいない。

イーロンマスク氏とマイクロソフト社

　その ChatGPT を開発したのは OpenAI と呼ばれる在サンフランシスコの集団で、新技術のみならずこの組織自体もただならぬ存在として注目されている。
　非営利部門と営利部門がある特殊な形態で運営されているようだが、社歴が浅い小さな組織だからといってあなどることなかれ。
　関わっている人物や企業がものすごいのである。創業者リストの中にはなんとあのテスラ社やツイッター社そして宇宙開発でも知られる大富豪イーロン・マスク氏の名前が含まれており、さらにマイクロソフト社もサポートしているというから全世界から注目されるのも無理はない。

恐ろしい世界か、バラ色の世界か

　ではその OpenAI が開発した ChatGPT とはどのようなものなのか。
　利用者の視点から機能だけを簡単に表現するならば、「人工知能ＡＩを劇的に進化させ、ありとあらゆる質問に対して１秒ほどで返答してくる驚異のチャットシステム」ということになる。
　今これを読んでいる読者も日本語ですぐに無料で使えると聞いたら無関心ではいられないのではないか。
　そして一度でも使ってみれば、コンピュータ（いやスマホで十分）やロボットが人間に取って代わる新時代がすぐにやって来ることを予感させられるにちがいない。

　人間が機械に支配される恐ろしい時代になるのか、それとも人間は何もしなくてもよいバラ色の便利な世界が待っているのか、そんなことを考えながら使ってみて先見性を養うのも悪くないだろう。

アレクサや Siri とはまったく別物

　それはそうと「質問に対してすぐに返答してくれるＡＩ」と聞けば、だれもがグーグルのスマートスピーカーやアマゾンのアレクサ、あるいはアップルの Siri などを思い浮かべるのではないか。
　しかし ChatGPT はそれらとはまったく次元が異なる。どのように異なるのかは百聞は一見にしかず、この ChatGPT がどのような反応をしてくるのか以下に実例を示してみた。

　下の【こちらからの質問】の部分はこちらから問いかけてみた文章。
　【ChatGPT からの返答】の部分が ChatGPT が約１秒後に返してきた返答だ。
（すべて ChatGPT の画面をそのままコピー＆ペーストしたものなので一文字たりとも修正、削除、編集などしていない）

これを見よ、百聞は一見にしかず！

【こちらからの質問】
「来月ラスベガスに行くことになりました。前回の訪問では大きく負けてしまったので今回こそ勝ちたいと思っています。必勝法はありますか。あったら教えてください」

【ChatGPT からの返答】
カジノでのゲームは、基本的には運が大きく関わるため、必勝法はありません。
しかし、カジノでのゲームを楽しむためには、自分が楽しめるゲームを選んだり、自分が負けることが許容できる額を予め決めておくことで、リスクを抑えることができます。
また、カジノでのゲームは、自分が持っている知識やスキルを生かして、賭けることができるゲームもあります。そのようなゲームでは、ゲームのルールや確率を理解して、自分が有利な場面で賭けることで、勝率をあげることができます。
さらに、カジノでは、アルコールやタバコを提供していることが多いため、自分が酔ってしまったり、タバコの煙で頭がくらくらしてしまったりすると、判断力が低下し、その結果、賭ける金額やゲームの選択に悪影響を与えることがあります。そのため、カジノでのゲームをする際は、アルコールやタバコの使用を控えるよう心がけることも重要です。
以上が、カジノでのゲームを楽しむためのヒントとなります。カジノは、エンターテインメントとして楽しむことが大切ですが、賭ける金額は自己責任であることを忘れないようにしてください。

人間が書く日本語よりも美しい

　この ChatGPT の返答を読んでどのように感じただろうか。
　「文章が長すぎる！」と思った場合は ChatGPT を使うのをやめたほうがよい。長くて詳しい丁寧な文章と内容の充実度こそが従来のスマートスピーカーとは異なる ChatGPT の真骨頂だからだ。
　それはともかく、この返答の内容に関する真偽や賛否がどうであれ、日本語文章の美しさには驚きを感じずにはいられない。多くの読者にとって、これだけきちんとした美しい日本語は書けないのではないか。

大したことはないと思った人は早合点

　「ChatGPT なんて大したことはない」と思った人、それは早合点。
　というのもこれは序の口、つまり上の質問はたまたまラスベガス関連の話題として試してみただけで、この程度のことは ChatGPT にとっては簡単というか朝飯前だからだ。もっとむずかしいことが出来る。
　たとえば瞬時に小説やコンピュータープログラムも書けるというから驚くことなかれ。

　ChatGPT からの返答は長いので実例をたくさんここに掲載するわけにはいかないので実験結果の紹介はこれで最後とするが、試しに以下のような設問で短編小説を書かせてみた。

“海辺の涙”と題する短編小説を１秒で

【こちらからの設問】
「失恋の悲しみにくれる女子高生が一人で晩秋の誰もいない海に行き、涙を流しながら砂浜に指で彼の名前を書いている情景を描いた短編小説を書いてみて」

【１秒後の ChatGPT からの返答】
小説のタイトル: “海辺の涙”
冬の夕暮れが迫っている。海岸沿いを歩くと、冷たい風が肌を刺す。女子高生のあやかは、涙を流しながら海辺の砂浜に向かった。
彼女は、今日まで愛していた男子と別れたばかりだった。辛い気持ちを抑えられないまま、彼の名前を書いてみたいと思ったのだ。
あやかは砂浜に膝をついて、指を使って彼の名前を描いた。涙が顔を伝って、彼女の目からは悲しみがこぼれ落ちる。
海は静かに波を打ち寄せる。あやかは、自分が一人であることを強く感じる。彼女は、もう二度と彼と会えないことを悟った。
それでも、あやかは彼の名前を描き続けた。涙は止まない。しかし、あやかは、自分の愛する人を思い出すことで、少しでも悲しみを和らげることができると信じていた。
夜が更けるにつれ、海はますます暗くなっていく。あやかは、海辺の砂浜から立ち上がり、涙を拭いた。彼女は、今日の悲しみを乗り越えるために、一歩を踏み出した。

ノーベル文学賞が乗っ取られる？

　この作品の完成度の賛否などはともかく、ここで注目したいことがある。
　それは、こちらからの設定の中に晩秋という言葉を入れたので「冷たい風が肌を刺す」という表現が出てきたことは不思議ではないが、時間帯の設定をしていないにも関わらず「冬の夕暮れが迫っている」という表現が登場してきたことだ。夕暮れの時間帯にしたほうが小説として似合うと判断したのだろう。
　これは驚くべきことで ChatGPT が人間の脳に匹敵するレベルで独自に情景を想像しながら時間帯までも描写してきたことになり、まさに無から有を生じさせる能力を持っていると言わざるをえない。

　数年前から「ＡＩが小説を書けるようになった」という話は耳にしていたが、本当に作家という職業の将来が案じられるレベルにまでＡＩが進化してきていることを改めて認識させられ、人間が機械に支配される時代の到来に期待よりも不安を禁じえない。

　ノーベル文学賞の受賞作があとからＡＩ利用であることが発覚し受賞取り消しになるといった騒動も今後は無きにしもあらずだ。
　いや、ＡＩに賞を乗っ取られる前にノーベル文学賞そのものの打ち切り論が浮上してくるかもしれない。
　はたまた打ち切りにならずに受賞者選びをＡＩがするようになる可能性も否定できない。その場合、どのＡＩを使うかできっと議論になる。その議論に決着をつけるのは人間かＡＩか。

グーグルのＣＥＯが緊急事態宣言

　このＡＩの登場に不安を感じているのは我々一般の利用者だけではない。最大の当事者、そして最大に不安を感じていると思われるのがグーグルだ。
　ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、グーグルのピチャイCEOは当初「ChatGPT は当社の検索システムをおびやかす存在にはならない」としていたが、わずか数日後にその性能に驚いたのか Code Red（いわゆる「非常事態宣言」）として、全社員に向けて「ChatGPTに負けないAIの開発に力を入れるように」との通達を出したというから ChatGPT がいかに画期的で恐るべき存在であるかが伺い知れる。

　グーグルの検索機能はたしかに素晴らしく優秀ではあるが、あくまでもどこかに存在するウェブサイトや動画などから的確な情報を探してきてそれを表示するのが基本的な機能。
　一方の ChatGPT は独自の判断で無から有を生じさせる形でオリジナルのコメントを返してくるからコンセプトがまったく異なっている。

　したがってグーグルの場合、「富士山の高さは何メートルですか？」といった質問は得意だが、「富士山に登ろうと思っていますが、どんな注意が必要ですか？」にはお手上げだ。ChatGPT はその質問にとてつもない量のコメントを返してくる。
　グーグルも独自の判断をする機能を有しているようだが、それはまだまだ限定的だ。CEOが緊急事態宣言をするのも無理はない。

医者など多くの業種・業界が激変

　緊急事態と捉えるべきなのはグーグルのような IT関連企業だけではない。影響が及ぶ業界は多岐にわたる。
　前述の作家などにとどまらず、医者、コンサルタント、弁護士、〇〇診断士、教師、公務員なども高性能ＡＩに職を奪われかねない。
　たとえば医者。手術など手作業が求められる外科医や歯科医はすぐには影響がないにしても（「da Vinci」のような画期的な手術ロボットも登場してきているが）、内科医などはかなり心配したほうがよさそうだ。

　たとえば患者が「数日前から38度の熱と頭痛はありますが、腹痛や下痢はなく食欲も特に変化はありません」といった症状をＡＩに入力すれば的確な回答が得られる時代が必ず来る。
　著名大学の医学部を卒業したどんなに優秀な医師であっても蓄積可能な知識や情報の量には限界がある。一方のＡＩはネット世界に存在するありとあらゆる文献や学術論文などを読み込んで学習することが可能なので、情報量で人間の医師がかなうわけがない。
（注： ChatGPT はまだ今の段階では医学的な質問に対しては人命にかかわる責任が絡んでくるためか断定的な返答を避ける傾向にある）

観光情報発信サイトなども時代遅れ

　当サイトも他人事ではない。観光情報を発信するサイトや書籍、さらには観光ガイド業などはかなりあぶない。遅かれ早かれその存在感を失っていくだろう。
　世界中どこに旅行に行ってもスマホのＡＩに向かって「この街のおすすめの料理やレストランを教えてください」、「空港からホテル街までのおすすめの移動方法は？」と言えば要件はたりてしまう。
　すでにその程度のレベルの質問であればグーグルや Siri でも可能だろうが、もっと次元が高い質問にも対応できる日がもうすぐそこまで来ている。
　当サイトも25年も同じようなことをやっていたのでは時代遅れになること間違いなしだ。

あなたの電子レンジも時代遅れに

　不安に思うべき業界は医師や弁護士などの人的なサービス業や情報発信などの第三次産業だけにとどまらない。工業製品などさまざまな製造業も考え方を改めていく必要に迫られるだろう。

　たとえばＡＩ内蔵と称する最近の電子レンジや炊飯器などにおいては音声でアドバイスしてくれる製品が少なくないが、それらはあくまでも内部に蓄積された情報からの発信であって、内部に存在しない言葉での発信ではない。
　なので「中途半端に凍った夕べの食べ残しの茶碗１杯の半冷凍のご飯を温めてほしいけど、あまり熱くしなくていい。何分温めればいい？」といった質問などには対応不能だ。
　今後高度なＡＩとネットでつながるようになれば、そのつど独自の判断で問題解決や指示を発するような製品が主流となるはずで、特にカーナビなどにおいては対話機能のさらなる劇的な変化が求められることになるだろう。

ＡＩの実力検証は全員にとって超重要

　今回の ChatGPT のような画期的なＡＩの登場により、いわゆる「シンギュラリティ」（人間社会からＡＩ社会への劇的な変換期）の到来が予想以上に早まるような気がしてならない。
　その時代が来たとき、それぞれの人にとって仕事、商売、ビジネス、趣味、ライフスタイルなどをどのように変化させて対応すべきかは非常に重要になってくる。
　それは簡単ではないかもしれないが、それを見い出すためにも各自が今回の ChatGPT などを使って、今後のＡＩには何ができるようになって何ができないのかをいろいろ予想や検証してみることは有益なはずだ。
　ChatGPT の注意点と日本語で利用するための初期設定方法などを以下に記して今週の記事を終わりとしたい。

安倍元総理の死去は知らない？！

◎ 2022年12月の現時点における ChatGPT の頭脳は、ネット世界に存在するありとあらゆる情報を蓄積し自己学習しながら性能を高めているとのことではあるが、その蓄積情報は 2021年までに存在していたものに限定されているとのこと。
　蓄積する場所の容量というハード的な事情もあるのかもしれないが、いろいろな検証実験や性能アップなど改良中であることによる一時的な情報蓄積停止らしい。
　したがって 2022年に発生した事象のことに対しては的確な回答ができず、たとえばワールドカップサッカーの結果や安倍元総理が亡くなっていることなどは知らない可能性が高く、「現在のラスベガスの新型コロナの情報を教えてください」と質問しても 2021年の知識で回答してくるかもしれない。

◎ あくまでも人間ではないので誤った情報を返信する可能性があるとのこと。（人間のほうがミスは多いし、悪意のフェイクニュースなどを発信したりするが）
　たとえば医学的な質問に対して誤った医薬品などを紹介して人命にかかわるようなことがあっても責任は取れないとのことなので注意が必要だ。

◎ 責任回避のためなのか公共の害になることを避けるためなのか、危険な質問、たとえば爆弾の作り方などは拒否してくることがあるらしい。
　危険な質問か善良な質問かの線引などは今後日々学習しながら常識的な線に落ち着くようになると思われるが、そのような作業においてもＡＩのほうが人間よりも有能であるとするならば、裁判官が不要になる時代も来るのかもしれない。たぶん来るだろう。

◎ ごくまれに平凡なミスがあることも実験で確認しているので注意されたし。
　たとえば「ラスベガスからグランドキャニオンに行く方法は」との質問を最初にした際、「車で１時間ほどで行ける」と返答してきた（実際には４時間以上かかる）。しばらくあとに同じ質問をしたら「４時間」と答えてきた。
　いずれにせよ日々進化しており時間の経過とともに性能アップしていくことは確実なので大いに期待してよいだろう。

◎ 現在は利用者からの質問をできるだけ多く受け付け、自主学習に役立てたいとのことで無料開放されているが、将来的には有料になる可能性も噂されている。試してみるなら今がチャンスかもしれない。

日本語で利用するための初期設定

◎ まずは chat.openai.com に行く。パソコンでもスマホでもＯＫだが、やり取りする文字数などのことを考えるとパソコンのほうが使いやすいだろう。

◎ アカウント設定の画面はすべて英語ではあるが、特にむずかしいことはない。指示に従って以下の項目の入力を求められるので、あらかじめ決めておくようにしたい。
　姓名（実名登録）、メールアドレス、パスワード（８ケタ以上）

◎ アカウント設定画面において上記の必要事項の入力以外に、自動ロボットなどによる不正アカウントの複数作成を防ぐために、申請者が人間であることと、実在メールアドレスであることの確認ステップがある。
つまり英語で「次の画像の中から自動車が写っている写真を選択せよ」といった設問や、登録したメールアドレスに最終確認のためのメールが送られて来たりするのでそれの指示に従う必要があるが、特にむずかしいことはない。

◎ すべてが無事に終了したら ChatGPT の特徴、使い方、注意事項などのページが表示されるので流れに沿って読み進めるかスキップすればよい。

◎ 最後は利用可能な状態の画面になる。その画面までは英語であることと、ユーザーインターフェースとしてのデザインがイマイチでわかりにくい部分もあり一瞬とまどったりする可能性があるが、最終的には横長の質問入力ボックスに日本語で文字を入力するだけなので特にむずかしいことはない。入力後１秒もしないうちに回答の文字列が流れてくる。（使用環境によって受信できる返答の文字列に限界があるようだが、詳しいことは確認していない）

◎ 質問はスマートスピーカーや Siri のように短く簡潔にまとめる必要はないので、悩みごと、知りたいこと、なんでも質問してみるとよい。また自分が住む場所の地名を含めたかなりローカルな質問や、企業名や製品名など固有名詞を含めた質問などにも対応可能な場合が多い。（くどいようだが 2022年の情報には対応してくれない）

「こんな質問をしたらこんな返事が来た！」、「こんな簡単な質問なのに間違った返事をしてきた！」といったことなど、読者の間で情報共有できるように以下のコメント欄に投稿して頂けたら幸いだ。