非営利団体が運営するピンボール博物館は必見

笑えるほど巨大な看板が目印のピンボール博物館。

笑えるほど巨大な看板が目印のピンボール博物館。

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 ピンボールという超レトロな遊技台に興味を持つ読者がどの程度いるのかわからないが、たまたまピンボール博物館こと「Pinball Hall of Fame」に行く機会があり、その立派な規模と運営コンセプトに感銘を受けたのでそれを紹介してみたい。

ビデオゲームとは違うレトロな遊技台

 ピンボールとは、ゆるやかに傾斜した盤面上を転がり落ちて来る金属球を2本のフリッパーで弾き返しながら高得点を目指す遊技台。
 電子的な画面上でプレーする昨今のビデオゲームとは大きく異なり、物理的に存在する構造体の中で実在するボールを機械的な仕組みで打ち返すというそのレトロ感がいいのか、アメリカには根強いファンが多いらしい。たぶん日本にもこの種のサブカルチャーの愛好家は少なからずいるにちがいない。

2本見える白いモノが FLIPPER。

2本見える白いモノが FLIPPER。

絶滅危惧種の維持保存は非営利団体が

 アメリカでも日本でもビデオゲームの普及に伴いピンボールマシンの新規製造は減少の一途をたどっており、もはや絶滅危惧種といってもいい。
 そのような事情もあり当地ラスベガスのマニアックなファンたちにとっての興味の対象は新作マシンよりも過去の名機の維持保存などになっているようだが、それはそれで素晴らしいことで、そんな彼らの情熱が結集されて実現したのが今回紹介するピンボール博物館というわけだ。
 したがって運営しているのは営利企業ではなく、有志が集まって組織された非営利団体「Las Vegas Pinball Collectors Club」で、現場で働くスタッフもボランティアが多いと聞く。

ずらりと並ぶピンボールマシン。

ずらりと並ぶピンボールマシン。

運営経費は寄付と投入コインで

 ありがたいことにこの博物館の入場料は無料なので、あまり興味がなくてもベガスを訪問した際にはとりあえず足を運んでみるとよいだろう。
 ファミコン世代よりも以前のゼネレーションにとっては青春時代を思い出す懐古的な感動を、以降の世代にとっては古き良き時代の文化に接する新たな発見と感動をもたらしてくれること請け合いだ。
 運営経費は寄付と各マシンに投入されるわずかなプレー代でまかなわれているというからその運営コンセプトには素直に敬服するばかり。
 ちなみに古すぎて修理不能のマシンを除き大部分のマシンは今でもしっかり機能しており、25セントコインを数枚投入すれば、だれもが自由にプレーできるようになっている。

25セントコインの投入枚数は機種によってまちまち。両替機は現場にある。

25セントコインの投入枚数は機種によってまちまち。両替機は現場にある。

サラリーマンなら栄転か大出世

 さてこの施設、今週ここで紹介するからといっても一般開放されたのは昨年のことなので今になって突然オープンしたわけではない。
 実はかなり前から別の場所(ストリップ地区のホテル街から東に数キロ離れた地点)に存在していた。つまり今回紹介する施設は新たな場所へ移転しての再開業ということになる。
 とはいえ単なる移転ではない。規模の大幅な拡大と内容の刷新、そして立地条件も格段にアップしての再開業なので、サラリーマンに例えるならば地方の小さな支店から本社への「栄転」、もしくは「大出世」といったところか。

画面左奥に見える金色の建物はマンダレイベイホテル。

画面左奥に見える金色の建物はマンダレイベイホテル。

場所は Welcome サインのすぐ近く

 十数年ほど前、その栄転前のこの博物館を取材訪問したことがあるが、あまりにも人目に付かない寂れた場所にあり一般観光客が行けそうもない状況だったので記事にすることを断念した記憶がある。それがこれほどまでに大きな施設になってストリップ大通りに面した場所に再開業というから、その大出世には驚くばかりだ。
 今回再開業したロケーションはストリップ大通りの最南端エリア。具体的にはマンダレイベイホテルの約400メートルほど南側で、アメリカ合衆国の国家歴史登録財(National Register of Historic Places)に指定されているかの有名な「Welcome to Fabulous Las Vegas」サインのすぐ目の前と覚えておけばわかりやすい。

Welcome to Fabulous Las Vegas サイン

Welcome to Fabulous Las Vegas サイン

60年代、70年代のマシンが中心

 展示されているマシンは約250台。その中には比較的時代が新しい電子的にコントロールされているアーケードゲームやエアホッケーなどの対戦ゲーム、さらにはカプセルが出てくるいわゆるガチャマシンなども含まれており、すべてがメカ仕掛けのピンボールというわけではないが、あくまでもメインは昔ながらのピンボールだ
 年代的には 1960年代から70年代のものが中心。数は少ないがそれ以前の超古いレア物も数台展示されているので、高齢世代やマニアにとっては見ているだけでも飽きることはないだろう。いや見ているだけではなく寄付という意味でプレーも忘れずに。

超古いレア物のマシン。

超古いレア物のマシン。

電子コントロールへの劇的変化

 ここからは少々技術的な話になる。現場の説明などによると 1977年から79年にかけてピンボールマシンが大きく変わったとのこと。単純にいってしまえばメカニカルからエレクトロニクスへの進化だ。
 具体的にはコイルやモーターなどを中心とした機械的コントロールから、トランジスターやICなどのいわゆる個体電子素子(Solid State)も多用した電子コントロールへの変化ということになる。
 ピンボールマニアなどにとってはよほど劇的な変化であったためか、多くの展示マシンの説明にあえて「EM」(Electro-Mechanical)もしくは「Solid-State」と記載し、新旧の区別をしているところにこだわりが感じられる。

かなり古い野球をテーマにしたピンボールマシン。

かなり古い野球をテーマにしたピンボールマシン。

マシンの内部を見せてもらった

 1980年代当時たまたま電子部品業界に関わっていたこともあり、その変革期の前後におけるマシンの内部構造の違いを実際に見たかったので、今回の訪問取材で館内を案内してくれたティナさんに申し出てマシンの内部を見せてもらった。

今回の取材で館内を案内してくれたティナさん。

今回の取材で館内を案内してくれたティナさん。

 なんと 1977年以前のマシンには本当に個体電子素子が見当たらない(だからといって真空管が存在しているわけでもないが)。それどころかプリント基板すらも使われていない。
 今の技術ではプリント基板に回路を細かく書き込むことが出来るので、小さな1枚の基盤で済んでしまうところを、当時はすべての部品を手作業で1本1本の電線で接続しながら組み立てていたことがうかがえる。

プリント基板を使わずに電線をつなげて作られていることがわかる。

プリント基板を使わずに電線をつなげて作られていることがわかる。

保守部品の入手で苦労するのはゴム

 古いマシンは当然のことながら劣化してくるので修理や部品の交換が必要になってくるわけだが、ティナさんいわく、劣化しやすい部品でなおかつ入手に苦労するのが FLIPPER 部分やその他の多くの部分に巻かれている反発ゴムとのこと。
 このゴムが劣化して弾力性がなくなったらボールを弾かなくなる。そうなってしまうとピンボールマシンとしての機能を失ってしまうので頻繁に交換する必要があるらしい。苦労は絶えないようだ。

これが右側の FLIPPER から取り外された反発ゴム。

これが右側の FLIPPER から取り外された反発ゴム。

日本メーカーの機種は新世代マシン

 展示されているマシンの多くは Williams、Bally、Gottlieb などアメリカのメーカー製だが、数は少ないものの DataEast、SEGA、Konami といった日本メーカーのマシンもある。ただし日本メーカーのものはすべて新世代のマシンなのでメカ式の機種ではない。
 いずれにしても今日のビデオゲームとはまったく異なるゲーム文化に直接ふれることができる貴重な機会なのでぜひ足を運んで頂ければ幸いだ。開館時間は週7日、午前11時から午後9時まで。
 なおピンボールについてさらなる詳しい情報を知りたい場合は、彼らが Internet Pinball Database(https://www.ipdb.org)なるものを構築して情報公開しているので、そちらを参照してみるとよいだろう。以下に館内の様子を写真で紹介して今週の記事を終わりとしたい。

このようなピンボールではないレトロなゲームも展示されている。

このようなピンボールではないレトロなゲームも展示されている。

この列にはかなり古い年代物が多い。

この列にはかなり古い年代物が多い。

比較的新しい電子部品を多用したマシンも少なくない。

比較的新しい電子部品を多用したマシンも少なくない。

昭和の時代、日本でも多く見られたエアホッケー。

昭和の時代、日本でも多く見られたエアホッケー。

これも昭和世代にとっては懐かしいゲーム。SEGA の名前が見て取れる。

これも昭和世代にとっては懐かしいゲーム。SEGA の名前が見て取れる。

どこまでもピンボールマシンが並ぶ。

どこまでもピンボールマシンが並ぶ。

FLIPPER の両脇にある黄色い三角の部分に巻かれている反発ゴムは非常に重要とのこと。

FLIPPER の両脇にある黄色い三角の部分に巻かれている反発ゴムが非常に重要とのこと。

なぜか重量級の訪問者が目立つが、近年のアメリカでは珍しい光景ではない。

なぜか重量級の訪問者が目立つが、近年のアメリカでは珍しい光景ではない。

このマシンではプリント基板が使われているが、修理の段階であとから付けられた可能性も。ティナさん、そして読者の皆さん、お疲れさまでした。

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コメント(1件)

  1. NY より:

    移転前のところに行ったことがあります。狭いところに機械が押し込まれており、隣の台との感覚が狭すぎた記憶がありますが、今度のところはゆったり遊べますね。雰囲気としては薄暗かった以前のほうが、台の電飾が映えていいと思いますけれど。また行ってみようと思いますが、今年中に行けるかなぁ?

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