時間消費型ビジネスが直面するゼロサム理論の厳しい現実

25年前の1997年1月8日発行の週刊ラスベガスニュース第1号。

25年前の1997年1月8日発行の週刊ラスベガスニュース第1号。

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新年特別号】
 このラスベガス大全は今まさに重大な局面に直面している。といっても新型コロナの話ではない。ここ十数年に渡る社会全体の大きなトレンドに関係する難題だ。
 それはこのサイトだけの問題ではなく、ここの読者、いやすべての日本人、すべての国の現代社会に共通する重要なトレンドといってよいだろう。
 新年を機会に25年間 続けて来たこのラスベガス大全を振り返えりながら、その問題について書いてみた。
 ついでにラスベガスとはまったく関係ない雑談的なこともあれこれ思いつくままに書き加えてしまったので、ただでさえ「文章が長すぎる!」と不評のこの週刊ラスベガスニュースが(長くしているのにはワケがあるが、その理由は以下に)、さらに長い記事になってしまっている。
 このままでは眠くなってしまい読んでもらえない可能性が高いので、効果があるかどうかはわからないが、眠くならないようにあえてキャッチーな小見出しを付けたりしていることもあらかじめ了承の上で読んで頂ければ幸いだ。

ゼロサム理論の典型はマージャン

 かつてアメリカの経済学者が発表し世界中で話題となった書籍「ゼロサム社会」というベストセラーがある。
 「サム」(sum)は合計、つまり「合計するとゼロになる」という経済論に関する書籍だが、発行から約40年が経過した今でも「ゼロサム」という言葉は日常のさまざまな場面で使われている。
 この理論を理解する上で一番わかりやすい例はマージャンだろう。マージャンは真四角のテーブルを4人で囲んで点を取り合うゲームだ(3人でやる場合もあるが)。だれかが勝てば、だれかが必ず負ける。4人のプラスマイナスの合計点はいつもゼロ
 同じようなことは野球やサッカーなどスポーツの世界でもいえる。シーズンを通しての各チームの得点と失点の合計は常にゼロだ。
 さように単純明快な理論ではあるが、さまざまな事象に当てはまる非常に奥深いセオリーなので知っておいて損はない。

カップ麺と高級寿司店はライバル関係

 多くの業界やビジネスはこのゼロサムと同様な理論に支配されている。合計が必ずしもゼロになるとは限らないが、「合計の数値は一定」という事象だ。
 たとえば日本の人口を1億人として、ひとりが1日3回食事をすると仮定すると毎日の食事の需要は3億食。この市場サイズの中でラーメン店高級フレンチ店コンビニ弁当も互いにライバルとして競い合っている。もちろん自炊派もライバルだ。だれかが自炊すれば、牛丼店も焼肉店も一食分の売上機会を失うことになる。
 このゼロサムならぬ「3億サム理論」に基づけば、高い安いといった食事のグレードなどとは関係なく、カップ麺も高級寿司店もライバル関係にあることがわかる。
 「カップ麺を食べる者が高級寿司店なんかに行くのか?!」などと思うことなかれ。金持ちでもカップ麺好きはいる。「今夜は寿司を食べようと思っていたけど、カップ麺でいいか」といったことなどいくらでもあるはずだ。

セックスしながらゴルフはできない

 食事だけではない。時間に関する社会やビジネスもゼロサムと同じ理論に束縛されている。
 人が持っている時間はだれでも1日24時間。大人も子供も貧しい人も大富豪も、みんな平等に24時間だ。
 寝る時間も通勤時間もトイレに行く時間もその24時間内に含まれている。もちろんスポーツを自分でやる場合も観戦する場合も時間は必要で、同様に食事を作るのも食べるのも時間を要する。
 したがって当たり前のことではあるが、たとえばヘアサロンなどで髪をカットしてもらっている間は食事を作ることも食べることもできないし、セックスしながらゴルフもボーリングもできない。
 つまりヘアサロン、料理教室、レストラン、ラブホテル、各種スポーツ施設 などはその個人の24時間を奪い合う関係にあるという意味ではみんなライバルだ。
 そんな競争社会の中でラスベガス大全を読んでもらうのは簡単なことではなく、今これを読んで頂いている読者には感謝の気持しかない。こうしている間にも読者の貴重な時間を奪っていると思うと申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

ラスベガス大全は瀕死の重症

 料理教室とラブホテルなど上に列挙した業界は少々極端すぎる比較なのでライバル関係にあることを実感しづらいが、新聞、雑誌、テレビ、YouTube、SNS、そしてこのラスベガス大全などで考えてみればわかりやすいのではないか。
 つまり言いたいことは、時間を使わなければ消費できないモノ、サービス、情報を提供しているすべてのビジネスが競合関係にあるということ。
 その戦いはサービスの内容やコンテンツの質を上げれば勝利できるというほど単純なものではない。たとえば新聞や雑誌がどんなにすばらしい記事を書いたとしても、YouTubeTikTok を24時間見ている者にはそのコンテンツを売り込みようがないのである。
 すばらしい記事かどうかは別にして、このラスベガス大全もその理論に巻き込まれて瀕死の重症になっているわけだが、それに関しては最後のほうに回すとして話を続けたい。

車内で読んだアダルト記事の思い出

 新聞や雑誌という言葉が出たついでに話を少々そらす。スマホもガラケーもない昭和の時代、電車の中では多くの人が紙媒体を読んでいた。しかし今ではそのような光景を目にすることはほとんどない。
 また、雑誌が売れなくなってきたためか、それともスマホばかりを見ている人が多いからか、かつて電車内でよく見かけた週刊誌の中吊り広告は姿を消しつつあると聞く。通学中に車内を見上げながらキャッチーな芸能人のスキャンダルの見出しなどを見て退屈な時間をつぶしていた頃が懐かしい。
 車内話が出たついでに言うならば、読み捨てられたオレンジ色の夕刊フジ週刊文春なども思い出深い。それらを網棚に見つけると、恥ずかしながらも手に取って読んだりしたものだ。そして周囲の目を気にしながらアダルト系の記事を読んでほくそ笑んでいたりしたことも今となっては古き良き時代の思い出だ。
 いや、良き時代ではなかったかも知れない。が、それほど情報に飢えていて時間を持て余していた時代だったということは間違いない。
 今ではだれもが SNSで忙しいだけでなく読むべきニュースも多すぎる。サイトにたどり着いてもらうという意味では、この週刊ラスベガスニュースなんぞはサハラ砂漠の中の一粒の砂のような存在に成り下がってしまっているといってよいだろう。なんとも悲しい現実だ。

パンツの中に入っていたマリファナ

 話が横道にそれてしまったが、週刊文春の話が出たついでにもう一回それる。
 芸能人のスキャンダルといえば、ここ数年「文春砲」という言葉をよく耳にする。ご存じのようにその意味は、著名人の不祥事などをこっそり取材し記事にして集中砲火のごとく批判を浴びせることだ。
 そんな文春砲の影響なのか、スキャンダルに対する許容度も今と昔では大きく変わってきていることに驚きを禁じえない。あまり有名ではない芸能人でも薬物や不倫をすればすぐにニュースになって叩かれる。
 昭和の時代はもっと大らかだった。大物俳優だったあの勝新太郎がハワイの空港でマリファナ所持が発覚し逮捕された際、「気がついたらパンツの中に入っていた」と語ったことはあまりにも有名だ。いかにも大物俳優らしい後世に残る名言といってよいのではないか。
 その後は執行猶予付きの有罪となったものの、そのままテレビやCMに起用されていたというから今とは隔世の感がある。
(ちなみに「文春砲」ではなく「グーグル砲」という言葉もある。こちらは当サイトが欲している非常にめでたい大砲なので、このあとで説明)

「多目的トイレ」は禁止用語に

 横道にそれたまま話を続けると、昭和の大物俳優などは少なからず暴力団との付き合いがあったりしたのが普通だった。
 今ではどうか。お笑い芸人が裏社会の人たちへの闇営業などで干されたりもしている。
 暴力団そのものは反社会的な団体なので、そのような闇営業も法に触れる可能性はあるが、まったく法を犯していないケースでも徹底的に叩かれることがある。いわゆる「ゲスの行為」だ。
 合意のもと多目的トイレで性行為をしたというだけで(それが売買春なら法的にグレーかもしれないが)、芸能界から干された芸人の話は記憶に新しい。
 少々気の毒に思うが、そのように同情的なことを書いたりするとそのメディアも叩かれたりするのが今のご時世。とはいっても当サイトは有名ではないので叩かれるようがないが、とにかく昨今の有名人は本当に気の毒だ。昔と比べるとさぞかし暮らしにくくなったに違いない。
(誤解されないように書いておくが、ゲスの行為を奨励しているわけではない。明らかに渡部健が悪い。おっと失礼、名前を出してしまった。勝新も出したじゃないかって? あちらは故人だからよしとしょう)
 蛇足ながら、国土交通省は昨年「多目的トイレ」という表現を「バリアフリートイレ」に改めるよう公共施設などの管理者に対して通達を出したという。カタカナだらけで高齢者などにとってはわかりにくいとも思われるが、まぁいいか。

トイレでサンドイッチは無視

 さて話はやっとゼロサム系に戻る。個人が持っている時間は24時間と書いたが、情報やサービスを売る側としては24時間もあるとは考えないほうがよい。
 どんな人にとっても睡眠、食事、排泄、入浴など生命維持のために(場合によっては子孫繁栄の行為のために)不可欠な時間があるからだ。それらを差し引いたあとに残るのが消費に使える可処分時間ということになり、多くの人にとってそれは 17時間前後といったところだろう。
 中には「忙しく働いているオレは毎朝トイレでサンドイッチを食べながら新聞も読んでラジオも聴いている」といった豪傑もいるかもしれないが、自宅のトイレを多目的に使うのは自由としても、例外的な話はここでは無視することとする。

ラブホでのアダルト映画観賞も無視

 トイレで食事は極端な例だが、スポーツジムでエクササイズをしながらヘッドホンで英会話レッスンを聞いたり、現場に設置してあるテレビで映画を見たりすることはよくある光景だ。またラブホテルで行為におよびながら映画を観るということもありえるのかも知れない。それがアダルト映画だったらなおさらだ。
 そのようなケースを考えるとスポーツジム、英会話教室、映画制作会社、ラブホテルなどの業界は完全に時間を奪い合うライバル関係にあるとは言い切れないが、それでもそれはあくまでも例外的な状況と考えて以下に話を進めたい。

キャバクラへ行ったあとに学習塾

 例外的な消費スタイルを除くとすべての時間消費型ビジネスは互いにライバル関係にあるわけだが、具体的にはどのような業界がそれに含まれているのか。
 繰り返しになるが、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌、書籍、SNS などがまさにそれで(ついでにラスベガス大全も!)、さらに先ほど取り上げた外食、ヘアサロン、スポーツジム、英会話などの習い事もだれもが思いつくライバル業界だろう。あとは映画、演劇、コンサート、スポーツ観戦、風俗関連などといったところか。
 しかしそんな狭い範囲に収まらないのが時間消費型ビジネスの恐ろしいところで、ホテルや温泉などの宿泊業、旅行業、百貨店なども影響を受ける。さらには冠婚葬祭業、学習塾、教会、銭湯などその範囲は限りない。そればかりか二次的な業種までを含めたらライバル関係はほぼ無限に広がってしまう。
 たとえばこんな人物を想像してみるとわかりやすい。週末は積極的に外に出て野球観戦、映画鑑賞、キャバクラ、百貨店、墓参り、学習塾などに行っていた人が(キャバクラに行って学習塾ってどんなヤツだ? とは言わないこと。この人は教師かもしれない)、NETFLIX の映画にハマり週末の時間のほとんどを自宅で消費してしまうようになると、それらの場所へ出向かなくなり、ショッピングも百貨店や実在店ではなくアマゾンで済ませるようになる。
 そうなると二次的な業種、たとえば野球場や映画館などの売店スタッフや清掃員も仕事が減り、さらに墓参りや学習塾の需要が減れば線香、花、教材などの物販産業もビジネス機会を NETFLIX に奪われることになる。恐ろしや時間消費型ビジネス。
 この恐ろしさを理解していないノーテンキな新聞記者とテレビマンに会ったことがあるが、その話はこのあとで。

時間消費型よりもモノ作り産業

 さように時間消費型のビジネスはゼロサム理論の枠に入ってしまい「個人の可処分時間」という市場サイズの限界に常に直面しているわけだが、そうなるとモノを売るビジネス(線香や花のように時間消費型ビジネスの影響を受けやすい業界は除く)のほうが圧倒的に夢や希望があるようにも思えてくる。たしかにそれは正論かも知れない。
 たとえば映画会社は一人の人間に24時間以上映画を観てもらうことは不可能だが、ハンドバッグは理論上いくつでも買ってもらうことができる。実際にジャケットやシャツなどの衣服、ネクタイ、メガネ、アクセサリーなどを頻繁に買い替えている人は珍しくない。
 したがってアパレル業界などは「来年の流行色は何になるのか。ピンクかブルーか?」といった予測を立てながら新たな市場開拓に期待と希望を持ちながらマーケティングできる楽しみがある。そして衣類やアクセサリーなどは人口の倍以上の数を売ることも可能で、市場サイズの上限という「天井」がない。まさに天井知らずの業界と言えなくもない。
 やはりユニクロルイヴィトンは有望な業界にいるということになるのか。奇遇にもユニクロの柳井社長は日本を代表する、そして LVMH社(ルイヴィトンの親会社)のベルナール・アルノー社長は世界を代表する大富豪だ。

昨日と同じ色のランドセルはダサい!

 モノ作り業界の話題が出たついでに、また話を横道にそらす。
 かつてランドセル業界の悲壮感漂う話を業界人から聞かされたことがある。モノ作り業界の中においてランドセル業界は飛び抜けて夢や希望が持てない業界だというのだ。
 その理由は少子化で子供の数が少ないからというだけではない。6才時の人口が急に増えることなどありえないので(「移民の流入があるかも」なんて言わないこと!)、来年のことはおろか6年後のマーケットサイズまでが完全にわかってしまっているからだ。つまり将来予測や市場展望などを語りようがない業界ということ。
 たしかにそのとおりではあるが、その話を聞かされた際にこう反論してみた。いや反論というよりも提案だ。
『XX君ってダサい! 昨日と同じ色のランドセルじゃん!』というCMをテレビで流せば一人の小学生にたくさん売ることができるのでは」と。
 今ではすっかり大人になってしまった芦田愛菜が小学生のころ、彼女を起用してそんなCMを流していれば業界の景色は変わっていたかもしれない。
 アメリカにいる時間が長いせいか、残念ながらその種の広告にはまだ遭遇したことがないが、今それをやるなら芦田愛菜ではなくヒカキンか。

ノーテンキな新聞記者

 もう10年以上も前のことだが、このラスベガス大全がゼロサム理論の影響を受け読者数を減らし始めていたころ、某新聞社の記者に会う機会があった。
 そのころ他の多くのメディアも可処分時間とゼロサム理論の関係に悩み始めていた時期だったので、SNS やネットニュースなどの影響について彼に質問してみた。その答えには驚いた。
「たしかに SNS で時間を消費してしまう人が増えてきており、さらに情報入手をネットニュースに頼ってしまう人も増えていますが、ウチは全盛期と比べてまだ2割ほどしか発行部数を減らしていません」
 なんというノーテンキな返事か。その時の驚きは今でもはっきり覚えている。
 発行部数をキープできていても、新聞を手に取った読者がその新聞紙面に視線を落としている時間が劇的に減っているのだ。その現実に危機感をまったく持っていないか、もしくはそのことを知らないのだろう。
 視線を落としている時間が大幅に減っている理由はもちろん可処分時間を他に奪われているからに他ならない。ネットの時代になるまでは新聞を1ページ目から最後までゆっくり読む時間があったものだが、今ではそんな時間だれも持っていないのである。
 その現実が意味することは、記事だけではなく紙面に掲載されている広告に視線を落とす時間も確実に減っているということ。結果的に同じ面積でも広告価値は下がり、広告主からは広告代を値切られる。値切られなくても安くしないと売れない。
 あれから十数年、その新聞社に限らず世界中の新聞社が経営に苦しんでおり、もはや紙の新聞はいわゆる「オワコン」状態になりつつある。
 「ラスベガス大全も同じだろ!」との声が聞こえてきそうだが、それに対する反論は思いつかない。

ノーテンキなテレビマン

 同じような時期に偶然テレビマンにも出会う機会があり、「ネットメディアとの時間の奪い合いが激しくなってきている今、視聴率を確保するのが難しくなって来ていると思いますが…」といった感じの質問をぶつけてみた。
 「いい番組を作れば、たとえリアルタイムで視聴してもらえなくても録画してもらえるので、質の高い番組作りに努力するしかないですね」
 なんという驚きの返事。これには絶句した。メディアの王様(今ではそんなことはないが)といわれているテレビ局の社員が言う言葉か。まるで可処分時間のゼロサム理論に対して危機感を持っていない。
 たとえ録画してくれたとしてもそれを再生して視聴する際には時間が必要なのである。その時間が多方面から奪われているという厳しい現実に気づいていない。
 あれから十数年。テレビもそろそろオワコンに近づいていることは間違いないだろう。そしてこのラスベガス大全も。

知人が運営する雑誌と YouTube

 こんどはノーテンキな話ではない。苦難の中で頑張っているという話。
 長年アメリカの各都市でフリーペーパーを発行している知人がいる。発行部数はそれほど減ってはいないと聞くが、前述の新聞の話と同様、長期的なトレンドとして広告紙面の価値は下がり続けていると察する。それでも営業担当の努力のおかげか掲載広告の数はそれなりに維持しているらしい。
 そしてその知人は何年も前からネットメディアなど他業種からの時間侵略に危機感を持っていたのか、自らもネットメディアで情報発信するだけでなく、まったく別の分野でのビジネス展開も目指し経営を維持している。その間にライバルのフリーペーパーの多くは淘汰されたと聞く。やはり従来型のメディアは今すぐにでも何か別のことを考えたほうがよさそうだ。
 もう一人の知人は YouTube でゴルフレッスン関連の動画を配信している。数年前まではチャンネル登録者数を順調に伸ばし好調を維持していたようだが、最近は頭打ちらしい。
 その理由は同種の内容で新規参入するライバル動画が増えていることもあるが、やはりゼロサム理論の影響が大きいと考えるべきだろう。
 今後も質の高い動画作成に努力することも重要だが、それだけで視聴者数を増やせるような時代ではない。
 これからはライバル動画の存在やその動向を意識しながら運営するよりも、ゼロサム理論を素直に受け入れ、登録者数の増加やそれに付随するアドセンス(動画内やサイト内に広告を自動的に表示させるグーグルの広告サービス)からの収入増を目指したりするのではなく、まったく別の独自性を打ち出す戦略を練ったほうが賢明と思われる。
 実際にその知人はチャンネル登録者数に頼らないビジネスモデルを検討しているとのことなので成功を祈るばかりだ。
 とにかく各メディアの関係者、そして時間消費型ビジネスのすべての関係者は、各個人の可処分時間はすでに飽和状態であることを強く意識しながら戦略を練らないと未来はないだろう。

初期の当サイトが絶好調だった理由

 いよいよ本題の当サイトの話。
 このラスベガス大全が第1号の週刊ラスベガスニュースを発信したは 1997年1月のこと。あれから丸25年、今週号で1290回を数える。
 1997年といえばウィンドウズ95 が発売されてパソコンに新時代がやって来たと盛り上がっていた時代だ。Yahoo が出現して間もない年でもあるが、今をときめく Google はまだこの世に存在していなかった。手渡した名刺に書かれているURLメールアドレスを見た相手が「これは何ですか?」と質問してきたりしたのもこの時代で今となっては懐かしい。
 そんなころに始めた当サイトへのトラフィック(閲覧数)は年々倍々ゲームのように増え続け、まさにウナギ登りだった。
 絶好調だった理由はコンテンツが良かった悪かったなどといったこととはほんとど関係ない。その理由は単純明快だ。
 1997年当時はパソコンをインターネットに繋ぐということ自体が珍しいことで、インターネットをやっている人がほとんどいなかったからだ。
 つまりそれ以降の数年間はまるで文明開化のごとく新時代がやってきたとばかりに人々がインターネットへの加入に夢中になった。トラフィックが激増するのも当然だ。
 ちなみに当時の回線は常時接続ではない。いちいちアクセスポイントに電話でつながなくてはならないダイヤル接続で、その時の「ピポパポ、ピィーヒョロロ♪」という音は多くの人が記憶の中にあるのではないか。
 そんな時代だったためユーザーのみならずウェブサイト自体の存在も珍しく、ましてやラスベガス関連のサイトなどまったく存在しなかった。
 その後もしばらくの間はこの世に存在するサイト数が少なかったことを受け、インターネットの普及を目指した経済企画庁の発案で「インパク」こと「インターネット博覧会」が政府主導で開催されたりしたことを思い出す。当サイトもその企画をサポートするしないでいろいろもめたりもしたが、それがどうなったかは古い話すぎて失念。

やがて閲覧数は下降線、風前の灯に

 運営開始から数年が経過するとラスベガスという街を紹介する同業サイトも続々と出現。それでもインターネットユーザーの増加速度のほうが速かったためか閲覧数は引き続き好調だった。
 その後、2001年9月のニューヨークの高層ビルに飛行機が突っ込むといういわゆる同時多発テロで観光客が減少。それに伴いトラフィックも減少した時期があったが、それも数年後にはなんとか回復。
 そのころになっても緩やかにパソコンやインターネットの普及率が増え続けていったからか 2005年頃までトラフィックは微増を続けた。
 そんな穏やかな時代もつかの間、その後は徐々に下降線をたどり始め、そして 2010年頃には一気に減少に転じた。あっという間に当サイトへのトラフィックは風前の灯に。それを招いた犯人はだれだったのか。

facebook のバカヤロー!

 ネットでビジネスを行っている世界中のサイト運営者たちがトラフィックの急減を嘆くようになり、その原因や犯人探しが話題になった時期もあったが犯人はすぐに発覚。SNS業界の中で一気に頭角を現し勝ち組となった facebook だった。
 当サイトではそれ以前から日本のミクシィの影響もかなり出ていたが、facebook の影響はミクシィの比ではなく、ユーザーはその革新的な便利さを楽しんでいたようだが、ネット業者の気持ちはまさに「facebook のバカヤロー!」だった。
 なぜそれほど facebook は世界中のウェブサイトのトラフィックに影響を与えたのか。それはもちろんネットユーザーから可処分時間を奪ったからに他ならないわけだが、それはネットサーフンという言葉があった時代の一般的なライフスタイルのことを思い出してみればわかりやすい。
 サーフィンするのは通勤や通学から自宅に戻り夕食や入浴を済ませたあとの寝る前のひとときの約1~2時間。その時間を使っていろいろなサイトに飛びあれこれ情報を収集して楽しんでいたものだ。当社のサイトを訪れてくれていた読者の多くもまさにそのパターンだろう。
 ところが facebook の出現で、人によってはそこで1時間も2時間も時間を費やすようになった。これではネットサーフィンに使える可処分時間の大半を奪われてしまったも同然で、一般のサイト運営者にとってはたまったものではない。
 最近は若年層の facebook 離れが進んでいるというが、TwitterYouTubeTikTok に移動しただけで状況は同じようなものだろう。むしろそれら SNS や大手プラットホームで時間を費やす傾向はますます増えているように思える。そして時間ドロボーの大御所として勢力を拡大し続けている NETFLIXamazon prime などの存在も末恐ろしい。

まずは現状を認識することが重要

 では可処分時間を奪われっぱなしの「その他大勢」はどうすべきか。まずは奪われていることに気づくことが重要だろう。
 たとえば、プロ野球、Jリーグサッカー、大相撲などの入場者数が減っている(コロナに関係なく)という話題をときどき耳にするが、入場料金がどうのこうととか、人気力士や横綱が不在だからだといったたぐいの意見しか聞こえてこない。可処分時間の奪い合い、それも24時間(実際は17時間程度)という上限がある世界の中に置かれていることに大きな原因があることを主催者たちは認識しているのだろうか。
 それを認識していたからといって妙案がすぐに浮かんで来るわけではないが、まずは知っておかなければ話にならない。
 では他人のことはともかくこのラスベガス大全はどうすべきなのか。その答えはまだ見い出せていない。
 「文字の時代じゃなくて動画の時代だよ」とのアドバイスもときどき頂くが、動画の世界にもヒカキン、ひろゆき、中田敦彦、ホリエモンらの強者たちがひしめき、さらにそれに加えて TikTok などのショート動画陣営も参入しての時間の奪い合いは激しさを増すばかりで、まさに戦国時代。簡単に生き残り策を見い出せるような状況にはない。

とりあえずグーグル砲を目指す

 やっと最後に近づいたのでもう少しの我慢。
 これからのラスベガス大全はいつまで続けられるかわからないが、コロナ禍の今、収益を確保するためにはとりあえず「グーグル砲」を目指すしかないというのが現時点での暫定的な結論だ。
 グーグル砲とは何か。検索して頂ければわかることだが、そのサイトが発信する個々の記事や動画がグーグルの人工知能AIによって選ばれ、グーグルニュースなどに掲載されること。
 優秀な記事であれば個人のブログなども対象となっているので世界中に存在する何千何万、いや何億と存在するであろう記事や動画の中から選ばれる必要があり、それこそ宝クジに当たるような難易度といわれている。
 それでも世界中のニュースサイトやブロガーたちがこのグーグル砲に撃たれることを目指し日夜努力している。理由は単純だ。撃たれた日には閲覧者数が激増するからだ。
 激増すると何がうれしいのか。それはもちろん名誉や自己満足という部分もあるが、記事内に自動的に貼り付けられるアドセンスの広告からの収入が期待できるからに他ならない。
 実は手前味噌になるが、当サイトでは過去2年ほどの間に7、8回グーグル砲を食らっている。

当サイトの記事が長いワケ

 やっと最後。コロナ前、日本からのラスベガス旅行が普通にできた時代は、それら旅行者がラスベガス情報を求めて閲覧してくれたためアドセンスの広告収入もそれなりに期待できた。
 しかし今はコロナで旅行者がまったく来ないのでグーグル砲に頼るしかない。ではどうやればグーグル砲に撃たれるのか。
 それはグーグル側のアルゴリズムなどを知る必要があるが、超極秘の企業秘密らしく公開されていない。それでもある程度の情報は出回っており、数ある評価条件の中で多くの研究者が指摘しているのは、文章のオリジナル性それなりの長さのようだ。ちなみにグーグルAIは非常に頭が良いので、どこかのサイトから拾ってきて書き上げたような記事は評価してくれない。
 では今回のこの記事は十分に長い上に勝手なオリジナル意見を自由に書いているのでグーグル砲が炸裂しやすいのかというと、たぶんそれはないだろう。理由は減点ポイントがあるからだ。何だその減点ポイントとは?
 グーグルAIは公序良俗に反する記事を嫌う傾向にあり、品位のない単語が含まれていると減点されるらしい。今回の文章にはわざとキャッチーにするためにラブホテルやセックスといった言葉が散りばめられている。たっぷり減点されること間違い無しだ。
 それでも今回の記事では始めからグーグル砲をねらっているわけではないのでそんなことはどうでもいい。というか、今週号に限らずもともとグーグル砲をねらって書くことはそれほど多くない。
 ただ今後ときどき「なんだか今週の記事はラスベガスとあまり関係なくてちょっとヘン」と感じたら、それはグーグル砲をねらった記事かもしれないと思いながら読んで頂けたら幸いだ。
 といっても今後も読んで頂ける読者がどれほどいるのだろうか。それこそが最大の問題かも知れない。
 では今年も皆様にとりまして良い年になることを願って新年最初の特別号を終わりとしたい。

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コメント(10件)

  1. 老残兵 より:

    2011年3月、10年ぶりにラスベガスに行く前、偶然に貴サイトを知りました。
    これだけの情報を無料で提供してくれることに驚き感嘆しました。
    以来、毎日訪問してます。
    全くの私見ですが少額であれば一部有料にしても、これだけの情報を閲覧する価値はあると思います。

  2. ノブノブオ より:

    1290回お疲れ様でございます。
    私も上記の方同様情報収集で貴サイトを拝読して以来、そのデータベースや最新情報の取得のため毎週たのしみに閲覧しております。
    「旅行」自体が積極的にできる時代でなくなってしまった今、サイトの継続にも多大なご苦労があるかと思いますが、私のように日本にいながらでもラスベガスの状況を知って空気を感じたいと思う方も多いはずです。サイトの更新非常に感謝です。
    記事のとおり、消費できる時間の奪い合いという点ももちろんですが、ユーザーが能動的に情報を収集する立場から、某アプリのオススメ機能のようにAIの選んだ情報を見させられているだけの受け身の立場になっていることに危機を感じます。
    自分の興味関心で情報収集することこそネットカルチャーの魅力だと思います。
    自分で初めてラスベガスに旅行しようと思い立った時にはこの大全を隅から隅まで読み漁ったものでした。

    乱文失礼いたしました。
    閲覧することしができませんがこれからも応援させていただきたいと思います。

  3. 千葉TA より:

    グーグル砲 はじめて聞きました
    こちらのサイトは数回受けているのも
    この記事全てを読ませていただき知りました

    こちらのサイトで広告収入は承知のこと
    そして観覧が減り ということも良く伝わってます
    でも私はまだ利用 観覧させていただきます
    有料サイトになったら 読みません
    だってホテル等の更新されてないですもん
    でも何回でも読みます
    いろんな意見を聞きたいから
    移り行く今を知りたいから
    現在を知りたいから
    長い間お疲れ様です そしてまだ続けてください
    更新できる限り 期待してます

  4. トラ より:

    お疲れ様です。
    大変ショックな内容でした。
    このサイトの自分の個人的な印象は、ラスベガスを愛する人たちが週に一度ラスベガスの 情報を確認し、次回のラスベガス訪問を夢見る素敵なサイトという印象で、毎週必ず目を通させていただいてました。
    動画等には無い、ラスベガスの魅力を伝える「力」があると思います。
    今後も自分を含めた多くの大全ファンのためにも 頑張ってください。
    応援してます

  5. ぴろりん より:

    私は2001年に渡米してサンフランシスコベイエリアに在住していますが、当時、まだ独身だった私は友人・同僚らと何度かラスベガス旅行に行きました。その際、ラスベガス大全を毎日のように眺めてはフォーラムやニュースに目を通し、ツアーなども御社経由で予約させていただきました。今は無きパーテンペ温泉などもこちらでその存在を知って足を運んだのは懐かしい思い出です。うわべだけの観光情報雑誌やサイトとは違い、こちらのサイトは主観はありつつも客観的な情報を発しており(少なくともそのような姿勢は読み取れる)、ネガティブなことも包み隠さない文面は私にはとても好印象で、信頼できるサイトとの印象を今でも持っています。また、過去、時折フォーラムが荒れることがありましたが、ニュートラルに裁定していたのにも好印象でした。その辺のバランス感覚は他のサイトではなかなか見られないものかと思います。

    その後、時は流れ、私が結婚して子供がうまれると、ラスベガス旅行は幼児連れには厳しく、こちらのサイトとも疎遠になってしまいました。

    確かにSNSの出現がアクセス数の低下につながるというのは理解できますが、(私が古風な人間なのでしょうか)とは言うものの有益な情報が提供されるのであれば、媒体は何であれ、その情報を求める人は一定数いると思います。とは言え、その他大勢の通りすがりがこのページをアクセスすることでアクセス数を稼いでいたのであれば、収益が下がるのも理解できます。

    これは私の感覚的なものでしかないのですが、昨今の若者の”草食化”が進んでいるのと同様、ラスベガス自体の魅力が日本人ウケしなくなっているのではないでしょうか。ステレオタイプかも知れませんが、車乗らない、海外旅行行かない、会社の飲み会参加しない…といった人たちは、ギャンブルもしないのでは?

    加えて、相対的に日本が貧しくなりつつある中、昔からのラスベガスファンは年齢も上がり、以前のように海外に行くことも少なくなっていくのかと(となれば、以前ほどに情報収集する必要もなく、こちらのサイトにアクセスする数も減る)。

    これからも末長くラスベガス情報を発信していただければ嬉しく思います。
    ウチの子供達がもう少し大きくなって、家族で、または夫婦でラスベガスに行けるようになれば、その時はまたラスベガス大全を食い入るように眺めて、変わったであろうカジノゲームのルールを一から情報収集させていただきたいと思っています。

  6. TK より:

    あれ?なんかいつもと違う。と思いながら読み進めましたが、なるほど!。面白かったです。
    ラスベガスのマニアックな情報これからも期待しています。古い情報でも構わないので以前あったホテル別の一覧表のような評価、コメント復活させてほしいです。

  7. しの より:

    十数年前からお世話になっています。(以前は地○の歩き方を参考にしていました)
    なんだかんだで15回LVに行ってますが大全さんには本当にお世話になっております。
    コロナで行けない時にも記事を読んでニヤニヤしています。
    今後とも続けていただくようお願いします。

  8. 夢見る より:

    私も還暦に近い人間なので、昭和の時代を思い起こしました。
    当時はおおらかでしたよね。 教育現場でも体罰は当たり前のようにありましたよ。
    今の基準では考えられないことですが、男の先生が女子生徒のスカートの長さを
    定規をあてて測ってました。 中学時代の英語の先生は、テストの答案を返す時に
    全員の得点を声に出しながら返していました。 公立の中学だったので学力差は
    大きく、満点に近い子もいれば、20点くらいしか取れない子もいましたが、お構いなしに
    読み上げていましたよ。 今なら処分の対象でしょうが。
    さてラスベガスは2000年代に3回行きました。 当時はアリアが
    建設中で、MGMからフォーコーナーへ行くとき、少しあのあたりが寂しかった
    です。長時間の飛行機はつらくなりそうなので、早くコロナが収束して再度訪問したいです。

  9. タカハシ より:

    1290回なんですね。おめでとうございます。
    毎週、現地情報を楽しみに年1か2度行けるであろうLVの事を思って、拝読しておりますが
    空前の灯・・・なんて寂しい言葉が出てきて、驚いている所でもあります。
    15回ほど現地は、訪れてますが毎回新たに行きたい所の参考にそして、現地ツアーも何回か
    お願いした事があります。コーディネーターの方も3回程同じ方になり、自宅へ行ったりやり取り
    させてもらってる方もいます。

    この状況下で2年半くらい行けてなくウズウズしています。それを紛らわすのもこのサイトだと思ってます。
    ぜひ、これからも日本からLVへ行く方の為にも情報提供をお願い致します。
    楽しみにしております。

  10. ぼのぼの より:

    ちょうどラスベガス大全が始まった頃から、2016年まで、毎年クリスマスも時期はラスベガスで休暇を過ごしました。夏頃から、この大全を見て、冬に行くラスベガス旅行の計画を立てていました。体を壊した為、そしてコロナになった為ずっとラスベガスに行ってません。それでも、このサイトで、思いをつのらせています。

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