トランプ氏も追悼、孫正義氏にCOMDEXを売ったアデルソン氏の訃報

アデルソン氏が建てたベネチアンホテル。

アデルソン氏が建てたベネチアンホテル。

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 新型コロナの影響で静まり返っているラスベガス。たまには明るい話題がほしいところだが、期待に反して 2021年1月11日、悲しいニュースがこの街を、そして全米を駆け巡った。
 大富豪 シェルドン・アデルソン氏(Sheldon Adelson)の訃報だ。死因はリンパ腫などの合併症とのこと。87歳だった。

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共和党最大のタニマチ

 日本ではあまり馴染みがない人物かもしれないが、大型カジノホテルの建設などで今日のラスベガス、マカオ、シンガポールの発展に大きく貢献した立役者であると同時に、アメリカの政界にも絶大なる影響を及ぼしてきた人物として名高い。
 特に近年は共和党やトランプ大統領へ超高額献金者として知られており、いわば 共和党最大のタニマチ ともいえる存在だ。
シェルドン・アデルソン氏。(1933-2021)

シェルドン・アデルソン氏。(1933-2021)

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トランプ大統領もイスラエルの首相も

 ユダヤの家系ということもありアメリカの同盟国イスラエルへの思い入れも絶大で、念願だった在イスラエル米国大使館のエルサレムへの移転の実現に貢献したばかりか、近年のイスラエルと近隣諸国との関係改善にも尽力。
 そのような背景もあるため今回の訃報に対して、共和党のトランプ大統領やペンス副大統領はもちろんのことイスラエルのネタニヤフ首相も早々と弔意を表明するなど、アデルソン氏の大物ぶりがうかがえる。

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資産4兆円の大富豪

 晩年は政治の世界での存在感のほうが大きいようにも見受けられたが、本業はあくまでもビジネスの世界。
 経済誌フォーブスの 2020年の長者番付によると総資産約350億ドル(約4兆円)世界第28位の大富豪とのこと。
 資産のほとんどはアデルソン氏が創業者として保有するカジノ大手ラスベガス・サンズ社(Las Vegas Sands)およびその子会社などの株式だ。
訃報を伝えるベネチアンホテルの広告塔。(2021/1/12)

訃報を伝えるベネチアンホテルの広告塔。(2021/1/12)

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ベネチアンやマリーナベイ・サンズ

 ラスベガスやマカオの豪華カジノホテル「ベネチアン」もさることながら、サンズ社を語る上で忘れてはならないのは何といってもシンガポールの「マリーナベイ・サンズ」だろう。
 3棟の高層建造物の屋上に舟型のプールが乗っている奇抜なその姿は、現地に行ったことがない者でも写真などで一度はお目にかかっているのではないか。
シンガポールにあるマリーナベイサンズ。

シンガポールにあるマリーナベイ・サンズ。

「ホテル王」よりも「コンベンション王」

 トランプ大統領を含め「ホテル王」、「カジノ王」、「不動産王」などと呼ばれる人物は世界中に少なからず存在しているが、意外にもアデルソン氏がそのように呼ばれることはあまりない。
 もちろん実績的にはそのように呼ばれても何ら不思議ではないが、彼にはもっとふさわしい称号がある。
 ちなみに彼はラスベガスで最大の発行部数を誇る日刊紙「Las Vegas Review-Journal」のオーナーであるばかりか、イスラエルの新聞社も保有しているようだが、「メディア王」と呼ばれるほどの存在ではない。
 アデルソン氏にもっともふさわしいのはやはり「コンベンション王」だろう。
アデルソン氏の訃報を伝える巨大広告塔。(2021/1/12)

アデルソン氏の訃報を伝える巨大広告塔。(2021/1/12)

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ソフトバンクの孫正義氏

 今回の訃報を報じる各メディアの記事を見ていても convention visionary という言葉が目立つ。(visionary は「洞察力があり明確なビジョンを持った人」)
 まさにそのとおりで、特にラスベガスにおいては「コンベンションのアデルソン氏」という位置づけで異論はないはずだ。
 というのも、もともとの彼のビジネスの原点はコンベンションの業界にあり、それを踏み台にしてベネチアンを建設し巨万の富を築いたという経緯があるからだ。
 そのストーリーの中で忘れてはならない人物がいる。以下に登場してくる ソフトバンクの孫正義氏 だ。

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コンベンションビジネスはカネになる

 孫氏に登場いただく前に、アデルソン氏の足跡についても簡単にふれておきたい。
 今から40年以上前、アデルソン氏は コンベンションを主催することが大きなビジネスになる と考えた。
 つまりイベント会場など大きな施設を安く借り(あるいは所有し)、そのスペースを出展企業に高く貸し出すというビジネスモデルだ。
 もちろん主催者としてそのイベントを大々的に宣伝したりする経費は必要だが、年々規模が大きくなり知名度が上がれば、出展したいと考える企業は自然と集まり結果的に高い金額でブーススペースを売りつけることができる。

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ハイテク業界の COMDEX を開催

 そんなことを考えていたアデルソン氏は 1979年にコンピューター関連企業などを相手にしたハイテク業界向けのコンベンション「COMDEX」を始めた。
 その後、コンベンションを主催するだけでは満足できなくなったのか、コンベンション施設そのものも所有したくなり、1988年、コンベンション施設を併設していた老舗カジノホテル「サンズ」を買い取ることに。
 サンズは700部屋ほどのホテルだったため、今のラスベガスの標準からするとかなり小規模ということになるが、まだ若かった当時のアデルソン氏にとっては精一杯の買い物で大きな賭けだったに違いない。
COMDEX (2001年開催)

COMDEX (2001年開催、筆者撮影)

世界最大級のコンベンションに

 そうこうしているうちにその COMDEX は絵に書いたようなサクセスストーリーを歩むこととなり、早くも 1990年代前半にはラスベガス最大、いや 世界最大級 とも言われるほどの超巨大なコンベンションに急成長。
 当然のことながら出展企業も見学者も増えすぎ、アデルソン氏が所有するサンズのコンベンション施設だけではスペースがまったく足りなくなったことは言うまでもなく、また開催期間中の宿泊施設も大幅に不足した。

COMDEX は筆者にとっても良い思い出

 じつは筆者もそれ以前からこの COMDEX に出展者、見学者、コーディネーター、メディアなど、それぞれの立場で関わってきた経緯があるため、絶頂期の COMDEX の活況をよく覚えているし非常に懐かしい。
 毎年11月中旬に開催されていたそんな超巨大イベントは、まさに多くのラスベガス市民を巻き込む 晩秋の風物詩 であり、開催直前まで展示スペースの確保に東奔西走していた主催者、宿泊料金が高すぎ遠く離れた小さな町まで宿泊施設を探しに行っていた出張族、稼ぎ時だと意気込むタクシー業界、準備に余念がない飲食業界など、今となってはすべてが良い思い出だ。
COMDEX(2000年開催)

COMDEX(2000年開催、筆者撮影)

孫正義氏、800億円で買い取る

 さてここでやっと孫正義氏に登場いただく。そんなアデルソン氏の大成功を見ていた孫氏は COMDEX の買収にただならぬ関心を寄せていたようで、筆者もソフトバンクの友人などから密かにそのような話を聞かされたりもしていたが、にわかには信じられなかった。
 だが 1995年、それが現実のものとなった。ソフトバンクが大枚をはたいて COMDEX を買い取ったのである。
 正確な数字や当時のドル円レートは覚えていないが、たしか 8億ドル前後だったように記憶しているので、現在のレートで換算すると 800億円前後といったところか。

社史に残る黒歴史

 残念ながらソフトバンクの手に渡った COMDEX はその後すぐに衰退し始め、2003年の開催を最後に消滅してしまった。個人的な話になってしまうが、当時ソフトバンクには多大なるお世話になっていたので本当に残念でならない。
 結果論として語るならば、2001年の同時多発テロによる不況という不運もあったが、やはりコンベンションビジネスはいわゆる「水物」で、当時の日本企業にとっては世界各国からの大小さまざまな出展企業や、利害が複雑に絡む複数の業界(ホテル、運輸、飲食、印刷、設営、広告など)を相手にするにはノウハウや人脈などが不足していたように思える。
 ただ、これに関してはいろいろな意見があるようなのでこれ以上の議論は差し控えたいが、いずれにせよこの COMDEX の買収劇による800億円の損失は、当時の資本規模のソフトバンクとしては社史に残る黒歴史といってよいだろう。

孫氏から得た資金で世界進出

 話をアデルソン氏に戻すと、孫氏の失敗とは逆に彼はさらなる成功への道を歩むことになる。
 COMDEX の売却で得た資金を元手に老朽化していたサンズホテルを爆破解体。そこに新しい巨大ホテルを建設した。それこそが今のベネチアンだ。
 その後もベネチアンを増築し、また隣接する土地に姉妹ホテル「パラッツォ」も建設、さらにマカオシンガポールにも進出するなどビジネスを世界に広げていった。
 途中、いわゆるリーマン・ショックの不況で倒産の危機に直面したりすることもあったが、それをなんとか乗り切ることに成功し、今日に至っている。
パラッツォホテル。右奥に小さく見えるのはベネチアン。

パラッツォホテル。右奥に小さく見えるのはベネチアンホテル。

日本のIRからは撤退か

 ちなみに近年サンズ社は日本のIRIntegrated Resort: ホテル、コンベンション施設、ショッピングモール、カジノなどを含む統合型リゾート)への進出にも意欲を示していたが、日本側の政治的な決断が遅かったり、新型コロナによってカジノ業界の先行きが見えなくなってきたことなどで、現在は日本への関心を完全に失ってしまったようだ。コロナの成り行きにもよるが、たぶん撤退することになるだろう。

COMDEX を引き継いだ CES

 COMDEX 無きあとのハイテク業界の祭典は自然な流れとして、毎年1月初旬に開催される CES に引き継がれることになった。
 CES は COMDEX よりも古くから存在していたが(もちろんアデルソン氏ともサンズ社とも無関係)、COMDEX が隆盛を極めていた時代はハイテク業界というよりも家電業界を中心としたコンベンションだった。
 その証拠というか名残がその名称 CES そのもので、長らく Consumer Electronics Show(家電ショー)が正式名称だったが、今ではありとあらゆるハイテク業界が出展するようになったこともあり、頭文字を並べた短縮形としてのその3文字ではなく「CES」そのものが正式名称となっている。
(余談: この CES のことを日本の業界人やメディアは伝統的に「セス」と呼ぶのが慣例のようだが、それではまったく通じない。「スィー・イー・エス」が正しい。)
CES(2019年開催)

CES(2019年開催)

奇遇なめぐり合わせの 1月11日

 そんな CES、今では当時の COMDEX に勝るとも劣らない世界最大級のコンベンションに成長しており、毎年今の時期に開催されることからラスベガスにとっては 正月の風物詩といった存在になっている。
 しかし今年は残念ながら新型コロナの影響で開催されていない。いや正式には中止ではなくオンライン開催だ。
 したがって例年通り世界各国からハイテク企業が集まっているわけだが、集まっている場所はネットの世界。つまり毎年会場となっているアデルソン氏のサンズコンベンションセンターでもラスベガスコンベンションセンターでもなく、今年はそれらの場所にはだれもいない。
 とはいえ世界最大級のビッグイベントだ。少しは関係者やメディアなどが集まっているのではないかとの思いでコンベンションセンターに行ってみたが、やはり人影はゼロだった。
 そんな寂しい CES の今年の開催初日は、ラスベガスが生んだ「コンベンション王」が亡くなった日と同じ 1月11日。なんとも奇遇なめぐり合わせではないか。
だれもいないラスベガスコンベンションセンター。(2021/1/12)

だれもいない寂しいラスベガスコンベンションセンター。(2021/1/12)

ラスベガス大全も存在していなかった

 話が長くなってしまったが、現在ラスベガスではさまざまな場所に掲揚されているアメリカ国旗がアデルソン氏を追悼し 半旗 になっている。
 何年も前からラスベガスは世界に向けて「コンベンション都市」を標榜しているわけだが、アデルソン氏こそがそれを確固たるものにした功労者といっても過言ではないだろう。
 そんな話と比べるのもおこがましいが、このラスベガス大全にとってもアデルソン氏は功労者である。
 アデルソン氏が始めた COMDEX がなかったら、このラスベガス大全もきっと存在していなかったはずだからだ。アデルソン氏に感謝。ご冥福をお祈りしたい。合掌

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コメント(2件)

  1. TOM より:

    20年ほど前から年に1回程度ですがVegasを訪問しており、何度もお世話になっております。

    今回の記事は「筆者」の思い出も綴られており特に興味深く拝読させて頂きました。

    もし可能であれば、何処かのタイミングで「筆者」の「ミスターVegas」の成り行き(過去の思い出等)を特集して貰えると嬉しいです!

    Vegasには昨年の1-2月に行って以来なので、今秋には行きたい(行けるようになっている事を祈りつつ)と思っています!

  2. paruru より:

    毎週ここをチェックしている私にとっても、ミスターVegas氏の「過去」は是非知りたいところです
    (サイトの趣旨から離れてしまうかもしれませんが)

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