CESの中止は多方面に大打撃、ますます遠のくベガスの復興

昨年のCESのメインホールの通路

昨年のCESのメインホールの通路

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 先週、ラスべガスに衝撃が走った。新型コロナの感染拡大を理由に、2021年の「CES」中止が主催者から発表されたからだ。
 正確には、オンラインでの開催を検討しているとのことなので、完全に中止という表現は適切ではないが、ラスベガスにとっては事実上の中止と考えて差し支えないだろう。

昨年のCES(正面はラスベガスコンベンションセンターのメインホール)

昨年のCES(正面はラスベガスコンベンションセンターのメインホール)

CESとは「テクノロジーの祭典」

 CESとは、毎年1月初旬に当地で開催されている世界最大級のコンベンションのこと。
 20年ほど前までは家電メーカーなどエレクトロニクス業界を中心とするイベントだったが、近年は製造業に限らずグーグルなどのIT業界、さらには自動車業界までも参戦するなど、分野を問わないテクノロジーの祭典といった位置づけとなっており、各企業はこのCESに照準を合わせて新製品を発表する。

Google の宣伝が描かれたモノレール

Google の宣伝が描かれたモノレール

東京五輪の延期よりも衝撃は大きい?

 そんな大きなイベントが中止となると、地元ラスベガスにとってはもちろんのこと、世界中の関係業界に与えるインパクトは計り知れない。
 地元での衝撃度は、東京にとってのオリンピックの延期よりも大きいのではないか。なぜなら、さまざまな産業や巨大人口を擁する東京の経済にとってオリンピックはごく一部だが、ラスベガスにとってのCES依存度はとてつもなく大きいからだ。
 特に 2021年の開催は、以下でふれる地下鉄新コンベンションセンターの建設も関係してきており、単なる一つのイベントの中止という話では済まされないほどの大きな問題となっている。

多くの自動車メーカーも出展

世界中から自動車メーカーも出展

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地元民の大半が影響を受ける

 ちなみにこのラスべガス大全も過去30年以上(当サイトを開設する前から)、CESには直接、間接を含め、さまざまな形で関わってきたこともあり、今回の主催者からの発表は直接こちらにも送られてきたわけだが、主催者がコンタクトしている業界はあまりにも広範囲に及んでいる。
 各ホテルなどの宿泊業界はもちろんのこと、世界的な祭典を報じる新聞や放送局などのメディア、それにタクシー・バス・トラックなどの運輸業界、さらには飲食、印刷、広告、看板、ブース設営、電気工事、警備、コンパニオン、ノベルティー、通訳など、観光都市ラスベガスに存在するほとんどの業種がCESと取引しており、地元民の大半が何らかの形でCESに関わっているか、間接的に影響を受けているといっても過言ではない。
 なぜなら直接CESに関わっていなくても、直接関わっている人たちが開催中止で職を失ったり収入が減れば、地元での消費も減ることに直結し、郊外の一般の小売店、レストラン、美容院などコンベンションとは無縁の業界にまで二次的な影響が広がるからだ。そして二次的、三次的な場所でも仕事が減れば、失業の連鎖はさらに続くことになり、それこそ大不況にも繋がりかねない。

Google の巨大ブース

Google の巨大ブース

東京とベガスを結ぶノンストップ便

 地元のことばかりにふれたが、世界中の航空業界にとってもこのイベントとは無関係ではない。世界各地からの出展企業のスタッフ、メディア、見学者などを運ぶための臨時便を飛ばすのが慣例となっており、開催期間を挟んだ一週間ほどは、東京とラスベガスの間にも毎日臨時のノンストップ便が飛ぶ。もはや 2021年はそのフライトの必要もなくなってしまった。

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イベントの規模は参加者数だけではない

 さてこのイベントの参加者数は、主催者発表によると毎年約17万人といわれている。この数字だけを見ると、EDC(毎年ラスベガスで開催される音楽フェスティバル)も同程度の集客を誇っており、また東京モーターショーや東京のコミケ(コミックマーケット)などに至っては、その参加者数はCESよりもはるかに多く、世界的に見て必ずしもCESが突出しているわけではない。
 それでもこのイベントの経済効果がとてつもなく大きい理由は、前述したように影響が及ぶ業界の範囲が広いだけではなく、参加者の大部分が数日間の宿泊を伴うビジネス出張族であるため、会社の経費で高い宿泊費、交通費、飲食費などが支払われることになるからだ。
 つまり一人あたりの消費額は、一般個人の参加が中心となっているイベントなどと比べると桁違いに大きい。イベントの規模は参加者数だけでは決められないというわけだ。
 ちなみにCESは業界関係者だけのつどいとなっており、一般の個人は原則として高額の入場料を払わない限り参加できない。

Nikon のブース

Nikon のブース

宿泊費の高騰は地元経済にプラス

 ビジネス出張族向けのコンベンションであっても、参加者数が 5万人のコンベンションと 10万人のコンベンションでは、経済効果が大きく異なると言われている。つまり単純に2倍というわけではない。
 ホテルの客室数が多いラスベガスにおいては、10万人を超えないイベントではホテルの宿泊費が極端に高騰することは少ないが、CES規模になると通常時よりも一泊 200ドル300ドル高くなることは普通で、当地に落ちる金額も急増する。結果的に大型イベントの場合、参加者数が多ければ多いほど、その増加人数分以上の経済効果が期待でき、それゆえCESの存在はベガスにとって絶大ということになる。

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東京五輪と高校野球の関係と同様?

 さて、ここまでCESそのものの規模などについて書いてきたが、地元では単なる一つのイベントの中止とは考えていない。それ以上の衝撃を受けている。
 というのも CES以外にも、ビジネス出張族を対象とした大型コンベンションはいくつも予定されているわけだが、多くの主催者はまだ開催すべきかどうかを決めておらず、そんな状況下での今回のCESの中止発表は、他のコンベンションの主催者の意思決定にも影響を及ぼしかねないからだ。
 当地を代表するコンベンションであるCESが中止を決めれば、それが引き金となり、他のコンベンションでも中止の方向に流れる可能性が高く、これは「東京オリンピックが延期になったのに、高校野球を開催するわけにはいかない」といった発想と同様、たぶんこのあと続々と各コンベンションや大型イベントの中止が発表されることになるだろう。

復興に向けた前向きなプランは見直し

 そんな懸念があるためか、CESの中止の発表を受け、いち早くベネチアンホテルやパラッツォホテルを運営する Sands社の社長がこの街の将来を危惧するコメントを発信している。
 コンベンションに大きく依存するラスベガス経済にとって、イベントの中止の流れが加速することは、この街の死活問題でもあり、このまま大きなコンベンションやイベントが次々と中止になるようであれば、各カジノホテルは復興に向けた前向きなプランを見直さざるを得ないとのこと。

メインホールからサウスホールへ続く通路

メインホールからサウスホールへ続く通路

CES中止の影響は大阪IRにも

 このようなベガスの不都合な事態は日本にも及んできている。大阪IR(Integrated Resort: ホテル、コンベンション施設、ショッピングモール、カジノなどを含む統合型リゾート)だ。
 ラスベガスで多数のカジノホテルを運営する MGM Resorts社は、以前から日本のオリックス社と手を組み大阪IRに進出することを表明しているが、7月30日、本拠地ラスベガスでの今後の状況が読めなくなってきていることを受け、大阪進出が遅れる可能性を示唆した。
 大阪からの撤退にはふれなかったものの、現在のラスベガスの状況を考えると資金的にも、そしてコロナ後の環境の変化による大阪での需要的にも、MGM社のIR参入は厳しい環境にあり、遅かれ早かれ撤退を表明するような気がしないでもない。
 ちなみに Sands社横浜IRからの撤退をすでに表明しており、また同じく日本のIRに興味を示していた Wynn Resorts社は 8月2日、長期的には日本のIRに関心があるとしつつも、横浜に構えていたオフィスを閉鎖すると発表した。
 このままでは日本のIRは、あれだけ長いこと国会で議論されやっと合法化されたものの、自然消滅する運命にあるようにも思えるが、はたしてどうなることやら。

コロナ終息後もコンベンションは減少

 さて最後に、すでにふれた新コンベンションセンター(既存のコンベンションセンターの西側に位置していることから West Hall と呼ばれている)と、地下鉄について。
 どちらも 2021年のCESに照準を合わせて建設が進められている大きなプロジェクトであり、すでに完成間近となっているが、これがとんでもなく巨大なプロジェクトであるため、今回のCESの中止は非常に都合が悪いことになっている。
 もはやタイミング的にやめるにやめられないので残りの工事は進められるだろうが、もし1年早くコロナ騒動が起こっていれば、たぶん着工していないか、途中で中止にしていただろう。
 というのも、このあと仮にコロナが終息したとしても、コンベンションのあり方自体が変化し、出展企業にとって「新製品はネットで発表すればいいや」という考え方が広く定着するようなことになれば(その可能性は十分にある)、コンベンションそのものの需要が減少するはずで、そうなれば現存の施設で十分たりることになり、West Hall も地下鉄も無用の長物となりかねないからだ。

今後は大統領命令で出展禁止となりそうな HUAWEI

今後は大統領命令で出展禁止となりそうな HUAWEI の昨年のブース

巨大 West Hall の建設は公共事業

 その巨大な West Hall の広さに関してだが、計測の仕方で異なってきてしまうのか、さまざまな数値が出回っているため、どれが正しいのかよくわからないが(屋内面積すべてなのか、純粋な展示スペースだけなのか、屋外展示スペースも含めるのかなどによっていろいろな数値が存在)、北米最大のコンベンション施設になることは間違いなさそうで、建設費用は 9億ドル以上(約1000億円)というから半端ではない。
 ちなみに意外と知られていなかったりすることだが、既存のラスべガスコンベンションセンターもこの West Hall も、ラスべガス観光局が所有・運営している。また観光局の経費も建設費の多くもホテルの宿泊税から捻出されているので、公共事業と言えなくもないわけだが、それが無用の長物となってしまうと、これまた不況とは別の問題として議論になってきそうだ。

まもなく完成する巨大な West Hall。

まもなく完成する巨大な West Hall。

トンネル輸送システムは運行されるのか

 Campus Wide People Mover と称される地下鉄についても観光局が旗振り役となって進められている約5000万ドルのプロジェクトで、建設を担当しているのはあの電気自動車のテスラ社の社長イーロン・マスク氏が率いるトンネル輸送システムの開発会社 The Boring 社というから、これまた注目度が高い。
 車両自体は一般の鉄道とは大きく異なるので地下鉄と呼ぶべきではないが、とにかくこの輸送システムにより、ストリップ地区とコンベンションセンターが地下で結ばれようとしている。
 といってもコンベンション自体の需要が減少することになれば、これまた無用の長物になるわけで、West Hall と同様、今後の維持管理の費用なども含めて大きな議論となりそうだ。
 せめてダウンタウン地区と結ばれるのであれば利用者もたくさん期待できそうだが、コンベンションが開催されていないコンベンションセンターに行く者などいないはずなので、年に何回運行されるのか、大いに気になるところだ。

ラスベガスの復活は大幅に遠のいた

 暗い話題ばかりで長くなってしまったが、とにかく今回のCES開催中止のニュースはさまざまな方面に波紋を広げている。
 もちろん従来どおりの規模で開催できるとはだれも思っていなかったはずなので、中止と聞かされても「やっぱりか」程度の印象を持った人も多いに違いない。
 それでも実際に中止が確定するとなると、不況やさらなる失業者の増加など、心配されることが次々と脳裏をよぎり、コロナがラスベガスに及ぼすダメージの大きさを改めて痛感させられる。
 残念ながらコロナ前の状態に戻るラスベガスの復興・復活は大幅に遠のいてしまった感は否めず、仮にコロナが完全に終息したとしても、しばらくはコンベンション施設もホテルの客室数もレストランも供給過剰な状態が続きそうで、2年や3年、あるいはそれ以上、深刻な不況に見舞われる可能性が高いような気がしてならない。一日も早いワクチンや治療方法の開発を願うばかりだ。

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