カジノホテル、営業再開できてもアフターコロナの前途は多難

営業停止中の PARK MGM ホテルと交通量が少ないストリップ大通り

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 5月に入りアメリカの各州では非常事態宣言の解除時期に関する議論が活発になってきている。ここネバダ州ラスベガスでも、引き続き新たな感染者数が毎日報道されてはいるものの、ゴルフやテニスが復活解禁されるなど、明るい兆しも見えつつあり、営業再開を見据えたホテル業界はにわかにざわつき始めた。

 ここの読者にとっても、現在閉鎖中のカジノホテルがいつ再オープンするのかは、大いなる関心事に違いない。
 今週は、そんなカジノホテルの動きや当局が示す営業再開のためのガイドライン、そして再開後に直面するであろう難題などを取り上げてみたい。

5月23日の営業再開は希望的観測

 一ヶ月ほど前まで多くのカジノホテルは営業再開日を5月1日に設定し、宿泊予約も受け付けていた。ところがその日をすぎた今になっても、まだどこも開業していない。
 そして現時点では、祝日で3連休となる 5月23日の週末を営業再開日としているホテルが多いようだが、はたしてあと2週間ほどで開業できるものなのか。
 どう考えても単なる希望的観測のように思えてしまうので、ここでは開業日の話題はあえて避けることとし、話を当局が示すガイドラインなどに移したい。

営業再開に対するガイドライン

 先週、ネバダ州のカジノ業界に対して絶大なる権限を持つ Nevada Gaming Control Board は、カジノが営業を再開する際に守るべきガイドラインを発表した。労働組合をはじめ、利害が絡む各方面から修正を望む声が上がるなど、まだ最終的なものではないようだが、現時点における主な内容は以下のようになっている。
 なお、このガイドラインは、規模に制限のないカジノの営業免許(日本流に表現するならば甲種免許)を持つ一般のカジノに対するものであり、乙種のカジノ免許(15台までのマシンゲームしか設置が許されていないカジノ免許)を持つコンビニやバーなどを対象としたものではない。

ガイドラインの内容

5月17日までは営業再開禁止。

濃厚接触を回避できるよう、最多収容人数(消防当局などに届け出ている数字)の半数以下にまで入場を制限すること。

スロットマシンやビデオポーカーなどマシンゲームでプレーできる人数も半数以下に制限。イスを1台おきに取り除くなどの対応が求められる。

テーブルゲームにおいてもプレーヤー同士が近接しないよう、ブラックジャックでは1テーブルにつき3人まで、ルーレットとポーカーは4人まで、クラップスは6人までに制限。

6フィート程度のソーシャルディスタンス(社会的距離)を保つべく、カジノ側は顧客がグループで固まったりしないよう常に注視すること。

顧客のみならず従業員の手がふれる場所の衛生管理の徹底として、スロットマシン、テーブル、手すり、イス、サイコロ、トランプ、カードシュー、ルーレットホイール、カジノチップなどを頻繁に除菌すること。

ナイトクラブやデイクラブは当面の間、営業禁止。

250人以上が集まるコンベンションやミーティングも禁止。

客室、レストラン、スイミングプール、SPA、ショップは、国、州、市などの保健衛生管理当局が定めるルールを順守しながら運営すること。

従業員や顧客に対するマスクの着用や、入口などにおける来訪者の体温チェックは強制ではないが、各カジノが独自のルールでそれらを強制することはかまわない。(すでにベネチアンホテルやウィンラスベガスではマスク着用や体温チェックを導入する予定であることを発表している)

再開業できても前途は多難

 感染防止という目的において、これらのルールで十分に安全が保たれるのかどうかの議論に関しては医療分野の専門家に任せるとして、いま現場や関係各所で議論されているのは、このようなガイドラインにしたがって営業を再開した場合、はたして客が来るのかどうか、採算が取れるのかどうか、従業員は安心して仕事につけるのかどうかといった懸念だが、どう考えても人数制限などの厳しい条件付きの営業では前途多難と言わざるを得ない。

楽しくないベガスに人は集まるのか

 ナイトクラブもスイミングプールもない退屈なホテル、3人だけの盛り上がりに欠けるブラックジャック、大勢でワイワイ騒ぐことができないサイコロ消毒スタッフ付きのクラップス、4人だけで対戦する寂しいポーカー、消毒スタッフが巡回する1台おきにイスがないスロットマシン、250人しか集まることができない寂れたコンベンション、などなど。
 そんな楽しくないラスベガスに、今までのように多くの人が集まるのだろうか。集まらなければ採算が取れず、採算が取れなければ営業を再開する意味がないし続かない。

感染を恐れる従業員

 だからといって安全対策を無視した再開で感染を拡大させてしまうことはだれも望むところではなく、そもそも現時点のガイドラインでも、感染のリスクを気にして仕事につくことを恐れている従業員も多いという。
 特にドアマンベルデスクなど、ドル紙幣でチップを受け取る機会が多い職種の者は感染を警戒しているらしい。(アメリカはIT先進国ではあるが、チップの習慣があるためか、キャッシュレス化はスウェーデンや中国のようには進んでいない)

コロナ犠牲者よりも自殺者が増えたら…

 感染による犠牲者を可能な限り少なくするための対策が必要であることは言うまでもないが、その一方で安全を優先しすぎるあまりビジネスや経済活動を停滞させ、結果的に失業による生活苦などで自殺者が感染犠牲者よりも増えてしまったのでは元も子もない。

ラスベガス市長「まずは営業再開を」

 そのへんの心配は、声を大にしてラスベガス市長が主張している部分で、「ガイドラインの議論をあれこれしていても何が正しいのかやってみなければわからない。まずは営業を再開してみて、問題に直面したらそのつど対応策を考えればよい」とまで言い切っている。

市長案を支持する者は少数派

 その方法で感染が再び拡大した場合だれが責任を取るのかといった反論は当然たくさん出てくるわけだが、とにかく今回の新型コロナ騒動は、行政、カジノ、従業員、利用者、だれにとっても未体験のことばかりなので、万人が納得できる対応策を見い出すことは容易ではない。
 それでも半年後や1年後の話ならいざ知らず、今月や来月の営業再開となると、安全対策をまったくしないという選択肢はなく、市長案を支持する者は少数派といってよいだろう。
 いずれにせよ、一筋縄では行かないこのコロナ問題、このあと数週間の行政の決断や、それに対するカジノ側の対応は大いに注目されるところで、しばらくは目が離せそうもない。

握手の習慣がなくなる?

 話は変わって、半年後や1年後といえば、「コロナ騒動が完全に終息したとしても、社会全体の習慣や常識などがガラリと変わってしまい、従来と同じような社会は戻ってこないだろう」という声も聞かれる。
 マスクをする習慣がまったくなかった米国において、たった一ヶ月ほどの間にマスクが定着したように、常識や習慣が劇的に変化し得ることは今回の騒動で実証された。
 極端な例かもしれないが、西洋文化に長らく定着してきた握手ハグの習慣がなくなり、グータッチ肘タッチが常識化することもあり得るかも知れない。日本式のお辞儀文化が定着することはないとしても、握手の文化に何らかの変化が生じること(不衛生と感じたりする者が多くなることなども含めて)は間違いないだろう。
 また、今まで以上に在宅勤務が広がったり、オンライン会議の急増もほぼ確実視されているなど、さまざまな変化が起こりそうだ。その中には、良い変化もあれば悪い変化もあるだろうが、残念ながらラスベガスにとっては悪い変化のほうが遥かに多いように思われる。

アフターコロナは悪いことばかり

 たとえば、新型コロナ以外にもさまざまなウイルスや病原体は存在するわけで、今回の騒動を機会に「3密」と称される密閉、密集、密接に不安を感じる者が増えたりした場合、コロナ終息後でもナイトクラブなどにとっては大きなマイナス要因となるはずだ。また、ナイトショー、コンサート、映画などのエンターテインメント業界も悪影響を避けて通れない。
 さらに、狭い空間での搭乗を余儀なくされる航空機での移動を嫌う者が増えれば、航空業界のダメージは言うに及ばず、来訪者が確実に減るという意味でラスベガスも大きな痛手を被る。アフターコロナの時代はラスベガスにとって悪いことばかりになりそうだ。

楽観的なシナリオもあるが

 その一方で、コロナ騒動が完璧に終息した場合(専門家の間ではそのような楽観論は少ないようだが)、それを祝う機運が一気に高まり、自粛期間中のうっぷんを晴らすべくパーティーなどでラスベガスはかつて無いほどの爆発的な好景気に沸くはず、とする超楽観的なシナリオを描く者もいるようだが、はたしてそれはどうか。

元のベガスは二度と戻ってこない?

 いずれにせよ、一般のストアなど小規模なビジネスならともかく、3000部屋規模の巨大カジノホテルの場合、感染症などで閉鎖することよりも再開することのほうが遥かにむずかしい、というのが業界関係者の一致した見方で、仮にことなく再開業できたとしても、しばらく厳しい試練が待っていることは間違いないだろう。
 その「しばらく」も数ヶ月で済めばよいが、3年、5年を要したり、あるいは「3密を避ける」など業界にとってマイナス要因となる習慣が広く社会に定着した場合、二度と元のビジネス環境に戻らない可能性もある。
 といっても未来のことはわからない。まずは人数制限のないカジノやテーブルゲームが一日でも早く実現することを願って、今週の記事を終わりとしたい。

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コメント(10件)

  1. 原 秀雄 より:

    こんにちは。誤字があります。日本でも、よく間違えますが(笑)⇒「3蜜を避ける」密です。

    • ラスベガス大全 より:

      原様
      誤字、誠にお恥ずかしい限りです。
      わざわざご指摘いただき、ありがとうございます。
      簡単ではございますが、取り急ぎお礼まで。

      • 原秀雄 より:

        あ。ご丁寧にありがとうございます。落ち着いたら、ラスベガス訪問したいです!

  2. 宮崎 隆 より:

    世の男性たちは、 飲む 打つ 買うは、本能かと 今は その 三拍子が 出来なくて、ストレスの、固まり状態。 一気に、発散に、向かう様な、気がします。

    • ラスベガス大全 より:

      宮崎様
      ご閲覧、ありがとうございます。
      たしかにおっしゃるとおり本能的な欲望は簡単には我慢できない部分もありますので、そのようなシナリオで従来のベガスが戻ることを祈るばかりです。

  3. JC-KING より:

    復活を信じております。
    天国のベンジャミンシーゲルさんが見守って頂いております!

  4. 飯盛真由美 より:

    こんにちわ
    喫煙、2次喫煙による肺への負担がコロナを重症化させる恐れが有ると聞きました。
    マカオではカジノの中でも喫煙室以外は全面禁煙ですが、ラスベガスでは喫煙に関しては問題になっていないのでしょうか?
    吸わない人にとってはスロットしていてもタバコの煙が嫌で仕方がないです

    • ラスベガス大全 より:

      飯盛 様
      ラスベガス大全をご閲覧いただきありがとうございます。
      ご質問の喫煙に関してですが、問題になっていないわけではなく、大いに問題になっており、ベガスでもレストランなど公共の場所のほとんどが禁煙となっております。
      が、しかし、カジノだけは、完全に禁煙にしてしまうと愛煙家のギャンブラーが遠ざかってしまう恐れがあるため(カジノの収益ダウンは税収にも直結するため、簡単には全面禁煙にはできないようです)、カジノ内は喫煙できるエリアがまだかなり広く存在しているのが現実です。もちろん禁煙セクションもたくさんございます。
      スロットマシンのエリアでも禁煙セクションがありますので、次回の訪問時はそのような場所を選んでプレーしていただけるとよろしいかと思います。

      • 飯盛真由美 より:

        お返事有り難う御座いました
        マカオではあんなにタバコ好きの中国本土の人でもタバコとギャんブルならギャンブルが先なんです…禁煙にしたところで売上は減らなかったようです
        次に行ったときには禁煙エリア探してみますね…そこに好きなマシーンがあれば良いんですけど(笑)

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