超過激シェフが演じる人気TV番組「地獄の厨房」の店

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 世界一有名な料理人といっていっても過言ではない話題のシェフ、ゴードン・ラムゼイ氏監修の大型レストラン(写真下)がシーザーズパレスの前庭にオープンしたというので行ってきた。

Gordon Ramsay Hell's Kitchen 店の紹介をする前に、まずはこのシェフについて。
 著名な料理人のことを日本では 「カリスマ・シェフ」と呼んだりすることが多いが、アメリカでの同義語は「スター・シェフ」もしくは「セレブリティー・シェフ」だ。
 とはいえ、このラムゼイ氏には、そういった表現はしっくりこない。いま流行の言葉で表現をするならば、「パワハラ・シェフ」が一番似合っているかもしれない。
 厨房にいる他の料理人や部下に汚い言葉で罵声を浴びせたり、料理を投げつけたりするなど、極めて短気で気性が荒いからだ。
 といっても本当に気性が荒いのか演技なのかはわからない。というのも、10年以上も続く人気の料理番組の中で、長年そういったキャラクターを演じており、あくまでも作られたキャラクターである可能性もあるからだ。
 いずれにせよ、とにかくラムゼイ氏は超有名人であることは間違いなく、祖国のイギリスやアメリカで彼の名前を知らない人はまずいないという。
 参考までに、イギリス人として広く知られているが、出演している番組の収録のほとんどがアメリカで行われているため、彼が住んでいる居住地はロサンゼルスとされており、イギリスではない。

Gordon Ramsay Hell's Kitchen 余談になるが、ラムゼイ氏(写真)は元イギリスのプロサッカー選手。いくら人気のある著名シェフとはいえ、そんな畑違いの経歴を知らされると、料理人としての腕前が気になってしまったりもする。
 またイギリスといえば、イタリアやフランスに比べ、料理文化においてはとかく低く見られがちで、彼の肩書きにイギリスが付きまとう限り「味のほうは大丈夫か?」と思いたくもなるが、それを心配する必要はなさそうだ。
 というのも、彼がロンドンに持つ複数の店が、あのミシュランの星を獲得しており、ニューヨーク、ドバイなどで展開する店の評判も上々とのこと。また 2005年には東京の汐留に「ゴードン・ラムゼイ at コンラッド東京」を出店し、その店でもミシュランの星を獲得しているというから、料理人としての腕前は折り紙付きと考えていいだろう。(残念ながらリーマンショックなどの不景気の影響か、2013年、東京のその店は閉店)
 料理のジャンルとしては特にこだわりはないようで、フレンチやイタリアンをメインとしながらも、和食の分野にも造詣が深く、東京店での経験も影響しているのか、和食の調味料や食材を使った料理も少なくない。実際に今回紹介する店でも和牛やマグロを使ったメニューがある。

Gordon Ramsay Hell's Kitchen さて、前置きが長くなってしまったが、店の名前は Gordon Ramsay Hell’s Kitchen
 Hell’s Kitchen とは、ラムゼイ氏が出演する番組の名前で、日本で放送される際の和訳タイトルは「地獄の厨房」
 放送禁止用語を連発し、弟子や参加者たちを罵倒しながら料理するという常軌を逸した内容ではあるが、超人気の料理番組だ。
 その名前だけでなく、番組のシンボルマークともいえるピッチフォークもこの店のロゴとして採用されており、テレビ局側とのコラボレーションという形で運営されていることがうかがえる。
 ちなみにこの店の場所は、シーザーズパレスの前庭であることは冒頭でもふれたが、かつてカジュアルレストラン「セレンディピティ3」が入っていた建物で、当時とは多少構造が異なっており、ストリップ大通り側にあった出入口はなくなったため、ホテル側からしか入れなくなった。

Gordon Ramsay Hell's Kitchen 店の入口には、怖い顔をしたラムゼイ氏の大きな写真とともに、GO TO HELL(「地獄に行け」)など乱暴な言葉が書かれたロゴグッズを陳列するコーナーがあったり、そして彼の弟子ともいえるこの店のシェフたちの顔写真がずらりと飾られているなど、なにやら番組の雰囲気を取り込んだようなインテリアデザインになっているところがおもしろい。

Gordon Ramsay Hell's Kitchen 店内は、天井が高くすべてが見渡せるような広々した空間になっているのが特徴で、圧迫感がなく開放的である反面、ひっそりとした静かな落ち着いた雰囲気は感じられず、この部分においては意見が分かれそうだ。
 BGMも総じてにぎやかな曲が大きめのボリュームで流されており、活気あふれるダイニングルームを演出しようとしていることがうかがえる。
 高級レストランは静かな落ち着いた雰囲気を醸し出そうとするのが一般的であると考えると、この店は異色な存在なのかもしれない。(価格帯的にこの店は明らかに高級)

Gordon Ramsay Hell's Kitchen キッチンはオープンになっていて、番組の中で登場するキッチンを彷彿させるような演出が随所で見られる。(実際にここで番組の撮影が行われることもある)
 シェフたちは、担当する料理などによって、青チームと赤チームに分かれており(それは、服装や立ち位置などでわかるようになっている)、それも番組を踏襲した演出だ。
 キッチンの壁の中央上部には、シンボルマークのピッチフォークとイニシャルのHKが立派なプレートとなって飾られ、カウンターの全面にも似たような装飾が施されている。
 1枚上の写真をクリックして拡大すればわかるが、ダイニングルームの照明も、ピッチフォークを組み合わせたデザインになっており、テレビ番組とのコンセプトの統一などに対するこだわりが感じられる。

Gordon Ramsay Hell's Kitchen テーブルに案内されて着席してまず驚くのが、ナイフとフォークの色。
 ナプキンにロゴがデザインされていることは驚くに値しないが、ナイフとフォークが金色というのは珍しい。
 皿も、ラムゼイ氏の荒っぽいキャラクターにはあまりそぐわないような、渋い質感の上品なものが採用されているのは少々意外。
 ちなみにラムゼイ氏は、英国の老舗食器メーカーのロイヤルドルトンと一緒に、自身の名を冠した商品の開発などで幅広くビジネス提携しているので、この店で使われているナイフ、フォーク、皿なども同社製のものかとも思ったが、そうではなかった。やはりレストランでの大量利用には価格的にむずかしいのだろう。

Gordon Ramsay Hell's Kitchen さてやっと料理の話。細かい個別メニューや値段に関しては公式ウェブサイトなどを見ていただくとして、ここで取り上げたいのはやはり名物料理の ビーフ・ウェリントン。(写真)
 フィレミニオンのような非常に柔らかい上質のビーフを、パイ生地でくるんでオーブンで焼いたもので(レシピや作り方などのくわしい内容はネットなどで検索すればたくさん見つかる)、ラムゼイ氏がこよなく愛する最も得意な料理として、この店の看板メニューとなっている。
 単品でもオーダーできるが(ただしランチタイムはダメ)、これを含んだコースメニューも用意されているのでそれをオーダーしてみた。(ランチタイム $60、ディナータイム $69。下の写真は、そのコースメニューの最初に出てくるシーザーサラダ。サラダの代わりにスープを選ぶことも可能)

Gordon Ramsay Hell's Kitchen このビーフ・ウェリントンをオーダーする際に、焼き方をレアにするようウェイトレスに伝えたところ、「ミディアムレアしかないので焼き方の指定はできません」と言われ、この料理に対する無知をさらけ出してしまった。
 そういえばテレビ番組などにおけるラムゼイ氏にコメントによると、この料理をおいしく仕上げるためには、焼く時間も温度も「これしかない」という超せまい絶妙な範囲におさめる必要があり、客からの焼き方の要望などを受け入れることはできないらしい。
 というわけで、出来上がって来たものはもちろんミディアムレア。希望したレアではないが、十分すぎるほど柔らかく、たしかにこれがベストといった感じの絶品だった。
 なお余談になるが、このビーフ・ウェリントンは、焼き上げること以上に、2つに切り分けることが非常にむずかしいようで、うまくやらないと外側のパイがぼろぼろに崩れてしまうらしい。その場面でラムゼイ氏が、「こんなもの客に出せるわけないだろ! クビだ!」とブチ切れ、投げ捨てるのが番組でのお決まりのシーンというわけだ。

Gordon Ramsay Hell's Kitchen この写真はコースメニューの最後に出てくる Sticky Toffee Pudding というデザート。これはあまり感心できない。
 まずサイズが大きすぎる。写真ではわかりにくいが、日本人の感覚では4~5人前の量だ。そして同じく日本人の感覚では甘すぎ。さらに温かいデザートのため、上に乗っているアイスクリームがすぐに溶けてしまうのも頂けない。
 大きさといえば、シーザーサラダも写真ではわかりにくいが、とんでもない量で、普通の日本人なら、これだけで満腹になってしまうのではないか。
 そのサラダの量に圧倒され、次に出てくるビーフ・ウェリントンも大きすぎるのではないかと不安に思っていると、これが意外にもかなり小さなサイズで運ばれてくるので拍子抜けしてしまう。
 というわけで、サラダとデザートがとてつもなく大きく、メインのビーフが小さいというのが、このコースメニューの特徴だ。

Gordon Ramsay Hell's Kitchen 今回の訪問で食べた他の料理の中で印象的だったものは、ビーフ・ウェリントンと並ぶ人気メニューということでオーダーしてみた Hell’s Kitchen Burger($22、写真)。 
 ハンバーガーそのものも、ポテトもクオリティーは高く、焼き方も指定したミディアムレアで完璧だったが、とにかくピリカラの度合いがかなり高く、辛いモノが好きな者でも辛すぎるレベルなので、そのへんは注意する必要がある。
 メニュー内の説明に Fresno Peppaer と Ghost Pepper という2種類のペッパーが書かれていたのを知った上でオーダーしたわけだが、ひき肉の中に唐辛子のようなものがすり込まれていることまでは気づかなかった。辛いモノが苦手な者は、Standard Burger($19) というメニューもあるので、そちらのほうがいいかもしれない。

Gordon Ramsay Hell's Kitchen Lobster Risotto($24、写真)は、見た目もきれいで、味も期待を裏切るものではなく、申しぶんない。特に適度な硬さのコメの食感が絶妙で、ロブスターの味も食感もすばらしい。
 ただ、これはあくまでもアペタイザー・メニューなので、量的には大したサイズではなく、これだけで満腹になれるというものではない。
 さて、笑ってしまうというか、話題として興味深かったのが、下の写真の Tuna Tartare($19)だ。

Gordon Ramsay Hell's Kitchen このツナタルタル、内容としては、小さく切ったマグロの刺し身に、少し甘辛い醤油がかかったもので、味としては何ら問題なく、日本人の味覚に合う。
 興味深い話というのは、マグロの上にパラパラとふりかけてある謎の白い物体
 白ゴマのように見えるが完全な球形なのでゴマではない。最近流行のチアシードなどのようなタネ系のモノかと思いきや、食感がサクサクした軽い感じなので、それとも違う。
 というわけで、担当のウエイトレスに「この白いものは何だ?」と聞いてみたところ、帰ってきた返事はなんと「マサゴ」。スペルを聞いても「Masago」
 「なんてこった。そんなわけがない」と言っても、マサゴの一点張り。
 「この人の勝手な思い込みに違いない、セカンドオピニオンを聞くしかない」との思いで、トイレに立ったついでに、オープンキッチンの一番近いところにいたシェフに聞いてみたところ、なんとこれまた「Masago!」
 こうなったらサードオピニオンということで、店を出る際にまったく別のシェフにも聞いたところ、自信ありげに「Masago!」
 どう考えてもマサゴは魚卵のはずだが、辞書で調べてみると「細かい砂」という意味もあるらしい。ひょっとすると、いつのまにかアメリカでは、細かい丸い形状の食べ物のことをマサゴと呼ぶようになったのかもしれない。
 そういえば、日本でかつて大流行した紅茶キノコを使った発酵飲料が、何をまちがったのか今ではすっかり「昆布茶」と同じ発音の「Kombucha」という名称で広くアメリカに定着し、どこのスーパーマーケットでも売られている状況を思い出してしまった。それと同じような経過をたどり、マサゴも本来の意味とは別の意味で定着してしまうのか。
 今回のこの店の取材における最大の収穫はマサゴだった、ということで突然終わりにしたい。 

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