Lucky Dragon がたった1年で閉鎖、どうなる永住権?

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 正月の風物詩ともいえるハイテク業界の祭典「CES」で盛り上がっているラスベガスだが、その一方で、新年早々暗いニュースも飛び込んできた。
 たった1年前に華々しくオープンしたカジノが閉鎖になったという知らせだ。(下の写真は、そのオープン・セレモニーの際に登場した獅子舞。クリックで拡大表示)

Lucky Dragon  これは、単なるビジネスの失敗という範囲に収まらず、アメリカ永住権取得の失敗といったまったく別の問題もからんでくるので、アメリカ移住を希望している日本人にとっても聞き捨てならない事案かもしれない。

Lucky Dragon カジノホテルの名前は Lucky Dragon(写真)。2016年11月にオープンしたばかりで、このコーナー(週刊ラスベガスニュース第1036号 1037号)でもその盛大な開業時の様子をレポートさせてもらった。
 中国文化がテーマということもあり、ラスベガスから比較的近い大都市であるロサンゼルスに住む中国系の人たちや、中国、台湾、香港などからの観光客、そして地元ラスベガスの中国系住民もターゲットにしながら営業を続けてきたが、1月4日、あえなく閉鎖となってしまった。(下の写真は現在のカジノの入口の様子。照明こそ点灯しているものの、中に人影は見当たらない)

Lucky Dragon 正確には、閉鎖になったのはカジノやレストランで、宿泊部門だけは、CES需要がある今現在はまだ営業しているので、全面閉鎖というわけではない。
 それでも、宿泊部門も、いつ閉鎖になるかわからない状況にあり、経営危機に直面していることは間違いない。
 そんな状況にあるなか、ラッキードラゴン側は、「カジノの閉鎖はあくまでも一時的なもので、人員整理などをしたあと、6ヶ月以内を目標に営業を再開したい」としており、実際に現場(カジノの入口のドア)には、「一時的」を意味する TEMPORARILY CLOSED(写真下)と書かれたメッセージが貼られている。

Lucky Dragon 正確な情報を得ようと、細々と営業しているホテル部門のカウンターに出向き、今後の状況をたずねたところ、カジノやレストランの再オープン時期も、ホテルがいつまで営業を続けるかに関しても、「わからない」とのこと。
 ついでに、「換金していないカジノチップが自宅にあるが、それはどうなるのか?」と試しに質問してみたところ、「月曜日と火曜日の午前9時から午後5時までに持って来てくれれば換金する」との返事をもらえたが、しゃべっている表情がさえず自信がなさそうにも見受けられたので、どこまで本当かは疑わしい。
 それでもカジノチップの換金に関してはネバダ州の規則により、カジノ閉鎖後も、一定期間は消費者が保護されるようになっているので、実際にこのラッキードラゴンのカジノチップを持っている者がいたとしても特に心配する必要はない。とはいえ、換金は急いだほうがいいことは言うまでもない。(下の写真は開業直後に撮影したカジノ内の様子)

Lucky Dragon さてここからは永住権の話。世界的にみると、アメリカに住みたいと考える者は非常に多く、日本人とて例外ではないはずだ。
 特に国境を接するメキシコ、および中南米諸国の人たちにその傾向が強く、結果的に陸路による密入国者があとを絶たない。トランプ大統領が国境に高い壁を作ろうとしていることは、だれもが知るところだ。
 中南米諸国とアメリカでは、10倍ほどの賃金格差があるため、アメリカで仕事をしたいと考える者が多いのも無理はない。
 そうであるがゆえに、アメリカの入国審査は厳しく、原則として観光目的以外の入国は認められていない。ビジネス出張などによる入国でも、アメリカ国内で賃金を得て働くことは許されておらず、外国企業の駐在員やスポーツ選手などは、それなりの労働ビザを取得する必要がある。
 そのように厳しく管理しないと、低賃金でも働きたいという者が殺到し、アメリカ国民が失業してしまうか、賃金相場が暴落してしまうことになるので、当然の措置といってよいだろう。

 では、駐在員でもスポーツ選手でもない一般の者が、無期限で自由に労働が可能なアメリカ永住権を取得することは不可能かというとそうでもない。特殊技能を身に付けたりアメリカ人と結婚するなどいくつかの方法があるわけだが、近年注目を集めているのが EB-5 プログラム と称される投資永住権だ。
 これの大義名分はわかりやすい。「外国から高額の資金を持って来てアメリカでビジネスを始め、アメリカの一般市民を従業員としてたくさん雇い、大きな会社に成長させてくれるのであれば、アメリカ国家としてメリットがあるので永住権を与えよう」というもの。
 持ち込まれた資金による経済効果や失業率の改善などを目論んでの政策ということになるわけだが、結果的に、この EB-5 プログラムは、アメリカに住みたいと考えている富裕層にとっては非常に都合がよい絶好の 「永住権取得の近道」 ということになり、世界各国の投資家、とりわけ中国の投資家から注目を集めている。
 ただ、期間限定の時限立法であるため打ち切り期限がひんぱんに変わったり(たびたび延長されている)、経済情勢の変化とともに、最低投資額や投資対象となる業種も変わったりしているため、条件を明確にしにくい部分もあるが、「おおむね 50万ドルから 100万ドルの投資をして、10人以上の雇用を生み出すビジネス」というのが大まかな条件のようだ。
 そしてかつては一人の個人が投資して起業することを想定しての政策だったが、一人の資金ではビジネス規模に限界があり、多数の雇用機会を生み出すことは困難ということで、今では集団投資による比較的大きなビジネスが審査の対象となってきている。

 実はラッキードラゴンは、この EB-5 プログラムによって建設されたカジノホテルなのである。つまり、通常のカジノ企業が始めたビジネスではない。
 具体的には、100人以上の投資家(おもに中国人)が 50万ドル以上を出資したとされており、そして今問題となっているのが、それら投資家には、まだ永住権が発行されていないということ。2年程度はビジネスが順調に継続していないと永住権は認められないようだ。
 このままラッキードラゴンが閉鎖され、雇用を維持できない状態が続いた場合、出資者たちは出資金を失うだけでなく、永住権も受け取れない可能性が出てきている。

 彼らの多くは出資金などどうでもよいと考えており、目的はあくまでも永住権だ。だがその発想こそが、この EB-5 での失敗を招きやすいと言われている。
 というのも、経営に無関心になるからだ。特に今回のような特殊な業種においては、彼らはカジノ経営のノウハウがないため、出資だけして、あとはカジノ企業などから経験者を引き抜き、運営を任せることになる。実際に、日本でいうところの社長や専務といったボジションの者をヘッドハンティングして任せた。
 しかし任された者たちは、出資者がいわゆる「物言う株主」ではないため、「給料だけもらえればいい」といった感じの無責任な経営になりがちで、結果として失敗することになる。
 今回の失敗は、立地条件の悪さや(ストリップ地区の中心街からかなり離れている)、ライバルのカジノ企業に比べて顧客ベースを持っていないなどのハンデがあったことは事実だが、やはり無責任経営になりがちな構造的な部分にも原因があったことはまちがいないだろう。

 話が長くなってしまったが、今後の運営がどうなるにせよ、このラッキードラゴンの事例は、投資家にとってもアメリカにとっても、EB-5 プログラムのあり方そのものを見直す良い機会になったのではないか。
 実際に他の地域の他のプロジェクトにおいても同様な失敗が相次いでいるようで、EB-5 プログラム自体が 2018年で打ち切られるとの情報も流れているが、いずれにせよ、今後同じような手法で永住権を取得しようと考えている読者がいたとしたら、今回の事例を参考に、十分注意していただければ幸いだ。

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