このたびラスベガスで運行を開始した完全無人自動運転タクシー ZOOX に乗ってみたのでレポートしてみたい。
まずは ZOOX について。ZOOX はグーグル傘下の Waymo や、テスラのロボタクシーなどと競合関係にある自動運転タクシーの会社で、アマゾンの子会社によって開発・運行がおこなわれている。
ここ数年、ラスベガスでテスト走行を繰り返し、さまざまなデータを収集したのち、ついに 2025年9月10日、一般客を乗せての運行を開始した。
世界で最初の運行場所としてラスベガスを選んでくれたことは、当地ラスベガスから情報を発信している立場の者としては大変喜ばしい限りである。
現在 ZOOXは、多くの人に試乗体験してもらうことを優先していることと、タクシー業界を統括する運輸当局や警察などからの承認待ちであることから、有料での営業運転はできない状態にあり、今ならだれでも無料で試乗体験が可能だ。
ラスベガスを訪問する機会があったらぜひ無料のうちに体験してみることをお勧めする。
すでにサンフランシスコやロサンゼルスなどで有料の営業運行を開始している Waymo と比べると、やや出遅れ感はあるが、未成熟な発展途上の業界であることを考えると、数年の出遅れなどは大きな問題ではないだろう。
またテスラもまだ有料での営業運行は開始していないが(開始したという情報もあるが未確認)、Waymo や ZOOX にはない特徴を備えているので、ライバル企業からすると不気味な存在のはずだ。
(テスラの車両には、Waymo や ZOOX の車両が装備している高価な高性能センサー LiDAR を搭載していないため、車両価格を安く抑えられるというメリットがある。「人間は目からの情報だけで運転しているので、自動運転も LiDAR なしでカメラだけでも十分だ」というのがテスラ側の方針のようだ)
さて前置きはそのへんにして、ZOOX での試乗体験の手順を説明したい。
まず最初にやらなければならないことは、ZOOX のアプリをダウンロードすること。
もちろん一般のアプリと同様な手順でダウンロードが可能だが、日本からの観光客がダウンロードしようとすると、「あなた国からはダウンロードできません」といった内容の警告が表示されるらしい(今回の試乗ではアメリカのスマホを利用)。
つまりアメリカで登録された機種である必要があるようだが、これに関してはスマホ内のさまざまな設定を変更することによって日本のスマホでもダウンロードできたといった情報もあったりするので、このラスベガス大全の「フォーラム」などで情報交換して頂ければ幸いだ。

Area 15 の乗降場所。一般車両を自動運転用に改造している Waymo やテスラのロボタクシーとは異なり、ZOOX は専用車両として開発。車体に前後がなく、車内は対面座席になっている。
アプリのダウンロードが済んだら、乗車可能の場所まで出向く必要がある。というのも、まだ有料での営業運転を開始していない現在は、どこからでも乗車できるというわけではないからだ。
現在乗車可能な場所は以下の5ヶ所。同様に下車する場所もこれら5ヶ所に限定されている。
◎ Resorts World
◎ Luxor
◎ New York New York
◎ TOPGOLF
◎ AREA 15
これら5ヶ所のどこから乗ってもかまわないが、とりあえずリゾーツワールドをおすすめしたい。
理由は、ZOOX の車両基地が近いためか、朝一番に行けば(午前11時)比較的短い待ち時間で複数の車両がやって来てくれるからだ。
またサービスデスク(有人)もその乗降場所にあるので、わからないことがあった場合はすぐに教えてもらえる。
ちなみにリゾーツワールドの乗降場所は、カジノフロアの南西端の出入口、つまりスポーツブックのすぐ近くだ。

リゾーツワールドにある ZOOX のサービスデスク。午前中はスタッフも暇そうにしている。(午前11時ごろ撮影)

同じサービスデスクだが、午後になると客が増え待ち時間も長くなる。(午後1時ごろ撮影)
乗降場所に到着したらアプリ内に名前など必要事項を入力したのち(それ自体は非常に簡単なので説明は省略)、目的地を選択すると、すぐに待ち時間や乗るべき車両のナンバーがスマホ画面内に表示される。
乗車の際は、そのナンバーをよく確認するようにしたい。というのも、どの車両も最初の3桁は同じだったりするので、最後の一桁まで慎重に確認せずに早合点して乗り込もうとすると、他の客と「この車両は私の! あなたのじゃない!」といった争いになりかねないからだ。

このナンバーの場合、750 だけを見て自分が乗る車両だと判断してはいけない。750 で始まる車両は複数存在している。
自分の車両であることを確認したら画面上の「Open doors」をタッチ。自動的にドアが開くのですみやかに乗り込む。
乗り込んですぐにやらなければならないことはもちろん「Close doors」だが、ここで忘れがちながシートベルトを締めることだ。

乗車すると、座席の脇にあるディスプレイに「Close doors」と表示されるのでそれをタッチ。
多くの人は、初めて体験する無人車両の環境(対面座席、運転席がない、ハンドルがないなど)に興奮してしまうのか、車内のあっちこっちを見回したりしてシートベルトを忘れてしまいがちだが、これが周囲の車両に多大なる迷惑をかけることになるで要注意。
なぜなら、乗り込んだ全員がシートベルトを締めるまで車両は1ミリも動いてくれないからだ。つまり後続の車両(ZOOX の車両だけでなく、一般のタクシーなども含めて)が発進できず渋滞となってしまう。
後続のタクシー運転手などはクラクションを鳴らしたいところだろうが、ZOOXの車両には運転手が乗っていないのでクラクションを鳴らしても意味がない。

必ずこのようにシートベルトを締めること。締めないと発進しない。なお左右の座席の中央にスマホのワイヤレス充電機能があるのはありがたいが、乗車時間が短いのであまり役に立たない。
とにかく現場の渋滞や混乱を避けるために、まずはシートベルトということを忘れないようにしたい。
ちなみに自分がシートベルトをしても、他の同乗者がしていないと車内のディスプレイに「まだシートベルトをしていない人がいる!」との警告が。
(もちろん英語での表示だが、将来的には日本人客には日本語で表示されるようになるかもしれない)

LUXOR ホテルの北口にある乗降場所。乗車時も降車時もすみやかに行動しないと後続車両に迷惑をかけることになるので要注意。
発進したら、あとは車内の装備などをあれこれいじって新時代の到来 や 未来感を体験するとよい。Waymo など既存の全自動タクシーに乗車したことがない者は人生最高レベルの感動と興奮を覚えるはずだ。
ちなみに車内装備には、空調の温度設定や車内音楽のジャンル選択、音量調節などがある。

座席の脇にあるディスプレイで車内音楽のジャンルを選択できる。
走行はゆっくりの安全運転かと思いきや、一般車両と同じ流れで普通の速度で走るので驚く。もちろん信号待ちや車線変更などお手の物。歩行者の存在を見落とすようなこともない。
もはや運転手がいない不安よりも、むしろ運転手との会話などのわずらわしさがないことが快適に思えてくること間違いなし。

車内は対面4席。運転手も運転席もないのが ZOOX 車両の特徴。Waymo やテスラは一般車両を改造しているので運転席がある。
まもなく目的地に到着となるわけだが、適切な停車場所がない場合は「停車場所を探してます」などと表示され、周辺をグルグル回ったりすることもあるが、すぐに安全な場所を見つけて停車してくれるので心配無用。
降りる際はもちろん「Open doors」をタッチ。チップも不要なので(渡す人もいないし、画面で要求されることもない)、完全自動運転であると同時に完全無料試乗の完了ということになる。
目的地で下車したあと、その施設(ホテルカジノなど)で特に用事がない場合は、またすぐに ZOOX を呼んで次の目的地に向かうことも可能だ。
体験試乗に関する手順などは以上だが、知っておいたほうがよいのは時間帯。
現在の無料試乗体験は24時間営業ではないので深夜1時以降は利用できない。また公式サイトなどに記載されている運行時間(11am~1am)よりも早めに運行を打ち切ってしまうこともあるようなので、おすすめは午前11時だ。
その日の運行開始時間が午前11時であるのと、午後よりも利用者が少ないので待ち時間がほとんどない。
というわけで、11時直前に乗降場所に出向いてアプリをいじり始めれば、ほとんど待ち時間なしで試乗できると考えてよいだろう。
ただ今後はどうなるかわからない。9月10日に始まったばかりのサービスのため現在は認知度が低く比較的すいているが、今後は混雑する可能性がある。
試乗体験できた読者は混雑状況など、このフォーラムに書き込んで情報提供して頂ければ幸いだ。
中国でも自動運転の開発はかなり進んでいると聞く。業界各社は世界を相手に熾烈な競争環境に置かれていることになるが、今後どこの企業が勝ち残るにせよ、完全無人全自動運転の世界はもうすぐそこだ。日本でもその実現が待ち遠しい。