規制解除のベガス、コロナ前の状態に完全復活もやや不安あり

ラスベガスの観光スポットとして人気の国家歴史登録財に指定されている有名な「ウェルカムサイン」。青い看板の注意書きはもはや不要に。

ラスベガスの観光スポットとして人気の国家歴史登録財に指定されている有名な「ウェルカムサイン」。青い看板の注意書きはもはや不要に。

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 ラスベガスでは新型コロナの新規感染者の減少を受け、昨年の3月以来続いてきた感染防止に関するさまざまな対策や規制が 2021年6月1日からほぼ全面的に解除されることになった。

コロナ対策の人数制限は完全撤廃

 6月1日以降、これまで段階的に緩和されてきた各施設の人数制限(現在は「最大収容人数の80%まで」)やソーシャルディスタンスの確保が完全になくなり、いよいよレストランナイトショーもコロナ前の形態での営業が可能となる。
 この日を待っていたのはレストランやナイトショーだけではない。コンサートスポーツイベント、そしてコンベンションナイトクラブなども同様だ。
 人数制限があると売上的に採算を取りにくいばかりか、ソーシャルディスタンスを理由に座席配置の変更を余儀なくされるなど、多くの業界、企業、団体、施設などが困難に直面していたわけだが、今回の規制撤廃で晴れて自由の身となる。

シルクの「オウ」もバフェも再開

 これによりすでにさまざまなビジネスが動き始めており、たとえば日本人観光客にも人気のシルク・ドゥ・ソレイユ「オウ」が7月1日からの公演再開を発表、ラスベガス名物ともいえる各カジノホテルのバフェ(食べ放題形式の豪華なダイニング)も次々に営業を再開、長らく運休状態が続いていたモノレールも運行を開始するなど、旅行者にとって明るい話題が目白押しだ。
 もちろん雇用が増えるという意味で失業中の地元民にとっても大いなる朗報であることは言うまでもない。

交通量も増え国内線は満席

 そこで気になってくるのが需要と供給のバランス、つまり規制が撤廃されてビジネスが次々と再開するのはよいとしても、それに見合うだけの人がベガスにやって来るのかどうかという不安だ。
 しかしその心配は無用のように思える。というのも、街中の活気という肌感覚のみならず、運輸当局が発表するロサンゼルスとラスベガスを結ぶ高速15号線の交通量やフライトの予約状況といった具体的な数字からも完全復活への傾向が見られるからだ。
 高速15号線は陸路で当地を訪れる者にとっての大動脈ともいえる存在で、この道路からラスベガスへ流入する週末の交通量はここ数ヶ月ほどで倍増しており、すでにコロナ前の水準に戻ってきているとのこと。
 またラスベガスと各都市を結ぶ航空便においても満席で予約できないフライトが急増中で、それにともない、たとえばアメリカン航空はこの夏、全米で150の路線を復活させコロナ前の90%以上の座席を供給すると発表している。

読めなかったアメリカ人の楽観主義

 もはやラスベガスは完全に元の状態に戻りつつあるわけだが、この事実は喜ばしいことであると同時に、当サイトとしては恥ずかしい予測ミスでもある。
 というのも、1年ほど前からこのコーナーで「コロナが終わってもすぐには観光客は戻ってこないだろう」と悲観的なことを何度も書いてきたからだ。その予想はものの見事に外れてしまったことになる。
 ワクチンの効果や接種率を過小評価してしまったというよりも、アメリカ人の楽観的な行動パターンをまったく読みきれていなかったといった感じで、情報を発信している立場としては大いに反省しなければならないと同時に勉強にもなった。

「じゃぁ行ってみるか」とはなりにくい

 さてここまでは明るい話題ばかりだが、本当にコロナは終わったのかと不安に思っているベガスリピーターの読者も多いにちがいない。現在の日本の雰囲気からすると、おいそれと「じゃぁ久しぶりにラスベガスに行ってみるか」とはなりにくいのではないか。
 実際にボクシングの井上尚弥のタイトルマッチ(6月19日)の観戦訪問や夏休みにベガス旅行を検討している読者からコロナに関する問い合わせが寄せられたりしており、読者の不安がこちらにも伝わってきている。

高い接種率と新規感染者数の激減

 ここでは不安をあおるつもりも不安材料を隠すつもりもないのでまずは現状をそのまま書くならば、ワクチン接種率が日本と比べるとはるかに高い ことと(州によって多少のばらつきはあるが、アメリカの全国民の半分程度は接種済みとされている)、それによる効果なのか新規感染者数が激減してきていることは事実として伝えておきたい。

完全にゼロになったわけではない

カリフォルニア州の日々の新規感染者数の推移。(NY Times より)

カリフォルニア州の日々の新規感染者数の推移。(NY Times より)

 ちなみにこのグラフはロサンゼルスサンフランシスコを擁するカリフォルニア州(人口約3900万人)の日々の新規感染者数の推移で、アメリカ西海岸地域の現在のコロナの状況を示す統計としては大いに参考になるのではないか。
(ラスベガスはネバダ州だが、人口が約300万人とかなり少ないため統計としてはバラツキが多く、また最近は感染者数を毎日発表していないのでカリフォルニア州の統計のほうを参照することとした)
 3900万人に対して 1000人程度の新規感染者数をどう見るかに関してはさまざまな意見があるだろうが、新規感染者が完全にゼロになったわけではないという事実は知っておく必要がある。 

マスク着用義務の撤回は早すぎか

 たぶん日本の読者の多くは「規制の完全解除はまだ早すぎるのではないか」と不安を感じていると思われるが、そのような人たちにとって不安をさらに増大させるような動きがここ直近のラスベガスでは見られるのでそれにもふれておきたい。
 たとえばマスク着用の義務の撤回だ。すでに多くのカジノホテルやショップなどにおいて客に対してマスクの着用を義務付けていない。客ばかりか、MGM系列のホテルなどでは従業員に対してもワクチン接種が完了していることを条件にマスクの着用を不要としている。
 もちろんまだ客に対しても従業員に対してもワクチン接種に関係なくマスク着用を厳格に求めている施設や店が少なからず存在しているが、全体の傾向として規制解除の方向に向かっていることは疑う余地がない。
 ソーシャルディスタンスの緩和も急速に進んでおり、またアクリル板の撤去も至るところで見られるので、ワクチン接種をしていない日本人観光客にとっては大いに気になるところだろう。

真ん中の座席も売り始めた航空会社

 心配なのはラスベガスに到着してからだけではない。飛行機内も緊張する空間のはずだ。
 日本からアメリカまでの国際線は幸か不幸かまだガラガラにすいている状態なので比較的安心できるが、問題はアメリカの国内線
 前述の通り満席のフライトが増えてきているわけだが、真ん中の座席(アメリカの国内線のほとんどは通路の両側に3列ずつ配置する横6列)も販売しているということ。
 これまでいくつかの航空会社ではソーシャルディスタンスを確保するために真ん中の座席を販売せずに空席のままにして運行してきたが、最後までそのポリシーを継続していたデルタ航空もついに5月から真ん中の座席の販売を始めたため、今では従来と同じような密状態になってしまっている。
 航空機内はかなりの速度で空気の循環がなされているとはいえ、となりの乗客との距離があまりにも近いためクシャミでもされたら最悪だ。いや最悪は9月中旬以降で、それまではわずかばかりか最悪の度合いが少なくて済むかもしれない。
 というのも TSA(アメリカの運輸保安局)が5月までだった搭乗客に対するマスク着用ルールを、連休で混雑が予想される 9月13日まで延長すると発表したからだ。(とはいえ、いつ撤回するかはわからないが)

活気が戻る反面、警戒が薄れ無防備に

 そのようなわけで各種規制が無くなり活気が戻るという前向きな方向への変化と同時に、ウイルスに対する警戒が薄れ無防備になっていく傾向もあり、今後ラスベガス旅行を計画する者にとっては判断がむずかしく悩むところだろう。
 悩むといえば悩んでいるのは訪問者ばかりではなさそうだ。冒頭でナイトショーやバフェの復活と書いてきたが、シーザーズ系列のカジノホテルではコロナ規制の有無に関わらず、ナイトショー施設の多くを閉鎖すると発表したり、ステーションカジノ社が系列ホテル内のすべてのバフェを完全撤去することを示唆するなど、コロナ前の状態に戻るのとは逆の動きも見られる。アフターコロナの時代は経営側にとってもその成り行きを読みにくい新たなビジネス環境に向かっているのかもしれない。

日本への渡航規制、大きな変化なし

 最後に2つ。一昨日アメリカ側から日本への渡航規制が発表されたことに対して、「ラスベガスを訪問したあと日本に戻れなくなるのか?」との問い合わせがあったが、そのようなことはないと考えてよいだろう。
 空港の現場スタッフに確認したところ搭乗手続などもこれまでと変わることなく今まで通りで(72時間前のPCR陰性証明書は必要)、また実際に日本航空も全日空も現時点においてこの規制による減便などは考えていないとしている。
 そもそもこの渡航規制は日本だけを対象としたものではなく世界の大多数の国を対象としており、また法的効力があるわけでもない。もし法的に渡航できない規制であるならば、アメリカ発の大半の国際線は飛べないことになってしまうが、そのようなことにはなっておらず、開催されるかどうかは別にしてアメリカのオリンピック選手も東京に行けることになっている。

感染に気をつけながら観戦に行こう

 そして最後に、在米の読者など簡単にラスベガスを訪問することが可能なボクシングファンにとっての朗報をひとつ。
 ラスベガスに活気が戻ってきていると書いたわりには 6月19日にヴァージンホテルで開催予定の井上尚弥のタイトルマッチはまだ空席が多数残っている。
 これは朗報ではなく悲報というべきかもしれないが、活気が完全には戻ってきていないことによるものなのか、それとも井上の知名度がアメリカではまだそれほど高くないからなのか、その判断は各自に任せるとして、空席が目立っていては井上のモチベーションも上がりにくいはずだ。この日にベガスへ行けそうなボクシングファンは感染に気をつけながらぜひ観戦してみるとよいだろう。
 チケットは etix.com で購入可能。検索欄に Inoue と入力して GO ボタンをクリック。料金は 70~350ドル
 なおカジノでの賭けの配当倍率は日々変動するばかりかカジノによっても異なるのであくまでも参考値だが、井上の勝利が 1.1倍以下、対戦相手のダスマリナスの勝利が 9~11倍、引き分けが 20~25倍程度で、井上が圧倒的に有利と見られており賭けとしては面白みがなさそうだ。

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コメント(3件)

  1. 大川 史子 より:

    正確な情報を届けようとされている誠実な人柄と知性が滲み出ている文章が大好きで、毎週読んでます。アメリカ人の楽観主義を読みきれなかったというところでは思わず笑ってしまいました。4年ほど前にラスベガスに行った時は日数が少なかったのでOPツアーには行かなかったのですが、大全さんからの豆知識のおかげで、すごく楽しいホテルライフが送れました(EVの閉まるボタンは押しても無意味など)。いつになるかわかりませんが、またラスベガスに行って、今度こそ、大全さん経由でOPに申し込み、わずかでも恩返ししたいな~と、前向きな明るい気持ちになれる記事でした。

    • ラスベガス大全 より:

      大川様、みちょっぷ様、
      ラスベガス大全をご閲覧いただき、そしてご投稿いただき、誠にありがとうございます。
      お送りいただきましたメールアドレスのほうにお礼や回答をさせて頂きました。

  2. みちょっぷ より:

    いつも楽しく拝読させていただいております。私は毎年11月に自分のご褒美旅行と称してラスベガスに通っていたのですが、ギャンブル・雰囲気もそうですが、やはり「食」が重要で、バフェやレストランの復活は喜ばしい限りです。ただ、文中ご指摘があるように警戒心の薄れは日本も含めて顕著になっており、変異株による感染が広がっている中、不安要素が消え去ったわけではありません。それに帰国の際の日本での対応状況も気になります。ましてや、やるかやらないか分からんのですが、オリンピック後の状況を見極めないと・・・やはり「解除されたんなら行ってみよう」とはならんですね。行きたくてしょうがないんですけど。

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