ベガス題材の映画のあらすじ

 エンターテインメント都市ラスベガスは、その特異な性格から、映画の題材やロケ地に選ばれることが多く、これまでに数々の名作がこの地で作られてきた。
 ラスベガスを訪問する前に、それら作品を通じてこの街の過去などを知っておくことは、興味の対象が広がるばかりか、旅がより一層、有意義かつ充実したものになるはずだ。
 また、何度も訪問しているリピーターにとっても、自分が知らなかった映像の中に新たな発見や感動を覚えたり、懐かしい光景に思い出を重ねることもできる。
 旅行前は準備などで何かと忙しいが、出発前にベガス関連映画を鑑賞し、訪問地に対する造詣を深めておくことは決して無駄ではないだろう。
 もちろん旅のあとの鑑賞で、帰国後の楽しみにアクセントを添えるのもよい。

 以下は、ラスベガスを題材とした数ある映画の中のごく一部ではあるが、あらすじを書き出してみたので、ぜひ参考にしていただければ幸いだ。(カッコ内は邦題)

■ Casino [カジノ]

■ Vegas Vacation [ベガス・バケーション]

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■ Ocean’s Eleven [オーシャンズ 11]

■ 21 [ラスベガスをぶっつぶせ]

■ The Hangover [ハングオーバー]

■ Bugsy [バグジー]

■ クレージー黄金作戦 [同じ]

■ Leaving Las Vegas [リービング・ラスベガス]

■ The Incredible Burt Wonderstone [俺たちスーパーマジシャン]

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■ Casino(カジノ)
  マーティン・スコセッシ監督
  1995年公開

 1970年代、大阪万博の開催に日本が沸き、沖縄の返還(1972年)や、コンビニエンス・ストアが初めて誕生(1974年、セブンイレブン)した頃、ラスベガスには煙草の煙に包まれた薄暗い世界があった。
 そこは、裏でマフィアに支配されていた空間。ショッピング、グルメ、華やかなナイトショーなど、健全な大人のエンターテインメント・シティーとなった今日のラスベガスとは異なる想像し難い世界がそこにあった。そんな歴史を 1995年に映し、話題となったのがこの「カジノ」。

 「Adapted from a true story」(実話から構成された)から始まる通り、実際に 1970年代のラスベガスで起こっていた出来事を基にした作品で、登場人物は基本的に実在者、ストーリーも原則としてすべて実話。
 つまりこの作品は、フィクションが常識の映画というエンターテインメントではなく、史実を再現したノンフィクション・ドキュメンタリーに近い。

 なぜ、葬られたはずの闇の世界を再現することができたのか。それは、後述するマフィアの弁護士を務めていたオスカー・グッドマン氏、当時の警察、メディア、カジノ従業員など関係者らの協力で、可能な限りの情報を結集させることができたからだ。

 当然のことながら、数々の暴力や殺しのシーンも、すべて実際に当時のマフィアたちが行なっていた方法による再現であり、気が弱い人にとっては目をそむけたくなるようなシーンも少なくない。
 しかし史実を知り、今日の健全なラスベガスを理解する上で必要不可欠な知識や情報も多く、ラスベガス・ファンにとっては絶対に見逃せない超一級の作品といってよいのではないか。

 また、ファンならずとも、日本でもカジノ解禁論が議論されている昨今、カジノ・ビジネスの性(さが)や、カネというものへの人間の飽くなき欲望が見て取れるこの3時間の大作は、多くの人にとっていろいろ考えさせられるものを与えてくれるはずだ。

 実在のマフィア Frank Rosenthal、そして彼の人生を大きく変えることになる妻の Geraldine McGee、さらに、常に犯罪に手を染め罪を重ねる極悪人 Anthony Spilotro は、この作品の中ではそれぞれ主人公のサム(ニックネームは「エース」)、ジンジャー、ニッキーとして登場する。
 その主人公のサム・ロススティーンを演じるのは「ゴッド・ファーザー」で知られる名俳優、ロバート・デ・ニーロ。
 ジンジャー役は、その高い演技力から、本作品でゴールデングローブ賞主演女優賞(1996年第53回ドラマ部門)を獲得したシャロン・ストーン。
 そしてニッキーを演じたのは 1990年公開の映画「Goodfellas」でアカデミー助演男優賞を受賞した実力派俳優ジョー・ペシ。
 ペシは Goodfellas の中でもマフィアの役としてロバート・デ・ニーロと共演しているばかりか、監督も本作品と同じマーティン・スコセッシであったことから、封切り前から「カジノ」への期待は大きく、実際に期待を裏切らなかったその名演技は本作品の見どころの一つといってよいだろう。
 演技ばかりか、体格や風貌も注目され、背がかなり低かった実在のマフィア Spilotro とそっくりだったことから「これ以上ありえないほどのはまり役」との評価が高く、人選という意味でもこの作品は話題を集めた。

 キャスト関連の話題はこの3人だけでは終わらない。あまりにもリアルで驚く話がまだまだあるのがこの作品のすごいところだ。
 サムが経営するカジノで一度は大勝ちし、結局あとで大負けする日本人ギャンブラー「イチカワ」とは、実在した人物、柏木昭男氏のことだ。
 柏木氏は、山梨県で不動産会社を経営していた実業家で、当時ラスベガスでもかなりのハイローラー(超高額を賭けるギャンブラー)として知られていた。
 そしてなんとそのイチカワをこの映画の中で演じているのは「Nobu」こと、今をときめくカリスマシェフ、松久信幸氏と聞けば、驚く人も多いのではないか。

 ちなみに柏木氏と松久氏、実世界ではあまりにも対照的に大きく明暗を分けた。柏木氏は、1992年に山梨県の自宅で何者かにより日本刀らしきもので殺害され、犯人が捕まらぬまま 2007年に時効を迎えてしまった。
 この事件、海外でのギャンブルとなんらかの関係があるのではないかと噂されたりもしたが、運悪く捜査の時期が、山梨県上九一色村に本拠を構えるオウム真理教の全盛時代と重り、忙しすぎた山梨県警の手が海外にまで回りにくかったことから、県警としては痛恨の極みの迷宮入りという結果になってしまった。
 「実は犯人像はわかっている。しかし逮捕できない事情があった」との噂もあるが、真相は不明。

 一方の松久氏はビバリーヒルズに高級和食店「マツヒサ」を開業、そこの常連客だったデ・ニーロと親交を深め、この映画に出演することに。
 その後もデ・ニーロから資金サポートを受け、ニューヨークや東京を始めとする世界各地にレストラン「ノブ」を展開。そして 2013年には、ついにラスベガスを代表する高級ホテル、シーザーズパレス内に自身の名を冠したホテル棟「NOBU Hotel」を持つまでに大成功、まさにアメリカンドリームの具現者だ。
 結果的に、ベガスで大損をし命まで落とした柏木氏を演じた松久氏が、その18年後、大成功の象徴ともいえるホテルをベガスに持つことになったわけだが、なんという運命のめぐり合わせか。

 実話の再現に力を入れているだけに、まだまだ馴染みの人物が登場する。
 エースとニッキーの会話の中で、ブラックリストに載る名としてアル・カポネが出てくるが、もちろん彼も実在したマフィアの一人。1987年公開の映画「The Untouchable」では偶然にもロバート・デ・ニーロがカポネの役を演じている。

 その他にも、白トラや象を消すマジックショー「Siegfried & Roy」で長い間ラスベガスのショービジネス界を盛り上げていた二人のエンターテイナーも、本人たち自ら中盤に登場。

 注目したい登場人物の極めつけは、なんといっても 1999年から 2011年まで 12年間もラスベガス市長を務めたオスカー・グッドマン氏だろう。
 地元ベガスでは周知の事実だが、彼は市長になる前、長い間マフィアを顧客に持つ豪腕の弁護士だった。それもチンピラ級のマフィアを相手にしていたのではなく、この映画の主役と準主役のモデルとなっている実在人物 Frank Rosenthal や Anthony Spilotro の裁判に関わるほどの筋金入りの弁護士で、その法廷での証拠写真の存在は、今でも伝説的な史実として地元では広く知られており、後述する博物館で見ることができる。

 そんなグッドマン氏がこの映画の中では、そのままの役を実名で演じているからなんともすごい。
 古今東西、映画界広しと言えども、裏社会の出来事を、当事者本人が、それも実名で演じる場面はそう多くないのではないか。シーンとしては短い一瞬ではあるが、史実を知っている者にとってはあまりにもリアルで興奮する場面だ。

 ちなみに彼の妻、キャロライン・グッドマンが 2011年、ラスベガス市長の座を引き継いでいることも、通な情報として押さえておきたい。
 もちろん夫婦ともに、正当な選挙を経ての結果であり、裏社会のコネなどで市長に就任したわけではない。

 「マフィア担当の弁護士や、その妻が市長になるのはいかがなものか」といった批判的な意見も以前からあるが、選挙という民意の結果と考えれば、批判されるべきはグッドマン夫妻ではなく(そもそもグッドマン夫妻は犯罪者ではない)、有権者だろう。
 それでも、映画でしかあり得ないようなことが現実に起こってしまうのがラスベガス。ここはひとつ、有権者の良識を疑うよりも、ジョークのようなことも容認してしまうこの都市の遊び心あふれる寛容性や特異性に注目したい。

 蛇足ながら、週刊ラスベガスニュース(バックナンバー780号)にも記載の通り、オスカー・グッドマンは市長を引退したのち、自身の名を冠したレストランをダウンタウンのプラザホテル内にオープンさせている。
 そしてなんと、このレストランの前身となったのが、映画の中でも登場する当時マフィアが実際に利用していた Center Stage という店だ。
 偶然か必然か、とにかくこの映画はあまりにもリアルすぎて驚くことばかり。
 ダウンタウンへ出向く際はそのシーンを思い出しながら、この店(現在の店名は Oscar’s )に立ち寄ってみるとよいだろう。

 舞台となっているカジノホテル「タンジール」は、実世界では Frank Rosenthal が仕切っていたカジノホテル「スターダスト」。そして実際に撮影されたカジノ内のシーンのロケ現場はスターダストの向かい側に位置する「リビエラ」で行われた。
 残念ながらスターダストもリビエラも、それぞれ 2007年、2015年に閉鎖され、今ではその姿を見ることはできないが、どちらも北ストリップ地区に君臨し一世を風靡した名門ホテルだ。
 ちなみに、サムとジンジャーの結婚式の会場として登場するのも当時のリビエラに実在していたチャペルだ。

 なお、カジノの外を描写する場面における映像では、となりに「フラミンゴ」、向かいに「デューンズ」(現在の「ベラージオ」がある位置に存在した)、その奥には「シーザーズパレス」が映し出されているので、この映画の中で登場する「タンジール」は現在の「バリーズ」周辺という位置設定と考えてよいだろう。

 サムとニッキーがドライブするシーンもラスベガスを知る者にとっては楽しい。さらにダウンタウンの「フリーモント」、「フォークイーンズ」、「プラザ」などのカジノホテルもカラフルな電飾を放ち、また、今は閉鎖されてしまった「サハラ」(現 SLS ホテル)の煌びやかな光景も実際の世界と重ねて楽しむことができる。
 エースとジンジャーがガラス張りのレストランから眺めるダウンタウンの景色も美しい。
 そのガラス張りのレストランこそ、前述のグッドマン氏の店だ。もちろんインテリアは改装されているので、ロバート・デ・ニーロとシャロン・ストーンが撮影時に座っていた座席そのものは存在しないが、同じ位置から夜景を眺めながら食事を楽しむことは今でも可能だ。決して高い店ではないので気軽に行ってみたい。

 映画では、サムが経営者側としてのカジノの教えも説いている。それは「客に賭け続けさせること」と「誰かが必ず見ている “監視の世界” にしておくこと」。
 この2つの教えは、現在でもカジノ経営における重要なセオリーであり、我々賭ける側、つまり客としても、常に頭の片隅に置いておきたい現実だ。

 華やかなテーマパークである今日のラスベガスに、映画やドラマの世界でしか知ることができないマフィアが実際に関わっていたことに対しては、少なからず衝撃を受ける者もいることだろう。

 カジノでの不正行為が発覚し、指をハンマーでたたきつぶされる客、売上金の勝手な横領、仲間割れから半殺しの状態で畑に埋められてしまうニッキーの最期、自動車に仕掛けられた爆弾による暗殺シーンなどなど、すべてが実話であり、そしてその時代からまだ半世紀も経っていないという事実に驚きを禁じ得ないわけだが、その後ラスベガスはマフィア支配の時代を終え、デ・ニーロがこの映画の中のナレーションで語るように、「健全なディズニーランドへと様変わりした」。とにかくラスベガスの歴史は面白く、興味が尽きない。

 さらに掘り下げて史実を知りたい場合は、ダウンタウンにある通称「The Mob Museum」(マフィア博物館)こと「National Museum of Organized Crime and Law Enforcement」(週刊ラスベガスニュース788号で紹介)へ立ち寄ってみるとよい。
 そこでは、この映画の冒頭と最後で見られるサム、つまり実在マフィア Rosenthal が自身の車に乗り込んだ瞬間に爆発される衝撃の殺人未遂シーンを取り上げた実際の新聞記事や写真を見ることができる。わずか 30数年前の 1982年10月の出来事だ。

 その爆発から九死に一生を得て生還した Rosenthal が、マフィア時代の終焉後、フロリダなどで余生を静かに送り、世を去ったのは 2008年10月。
 つい最近までマフィア時代の当事者本人が実在していたとはなんとも感慨深い。

 彼らマフィアたちの多くが当時住み、この映画にも登場する住宅の多くは、今でもラスベガス・ナショナル・ゴルフクラブ内のコースに沿って点在しており、そこでプレーさえすれば(パブリックコースなので観光客でもプレー可能)、それら住宅をだれでも見ることができる。
 ラスベガスにはまだたくさんの史実が残っている。彼らの生きざまに思いを馳せながら実物を見に行くのも、べガスファンの行動としては悪くないだろう。そのためには、まずはこの映画で歴史を知ることから始めたい。

■ Vegas Vacation(ベガス・バケーション)
  スティーブン・ケスラー監督
  1997年公開

 今日は家でくつろぎながら、何も考えずに面白い映画を観たい。そう思う日にはこの「ベガス・バケーション」がいいかもしれない。
 コメディアンで俳優の、チェヴィー・チェイスが主演するシリーズ4作目で、エンターテインメントの聖地ラスベガスとコメディーとのコラボレーションが見どころの作品だ。

 シカゴに住むグリスウォルド一家(父クラーク、妻エレン、娘オードリーと息子ラスティー)が家族旅行でラスベガスへ行くというストーリー。
 空港やリムジン送迎を始め、ストリップ大通り、ダウンタウンの景色やカジノフロア、プールにスパなど、観光客目線でのベガスシーンがこれでもかというほど登場し、これからラスベガスを訪問する者にとってはモチベーションが急上昇すること請け合いだ。
 この映画で見過ごせない注目の出演者は、なんといっても本人役で出た通称「ミスター・ラスベガス」ことウェイン・ニュートン。彼自身の豪邸までが登場する。

 実世界における彼のショーは 70年代、80年代を中心に、映画の舞台となった MGM Grand 以外にも、Harrah’s や Stardust、Hilton、Tropicana、Flamingo など、数多くのホテルで行われてきた。高齢となった今はあいにく定期公演は行われていないが、今後の彼の復活そして活躍を大いに期待したい。

 ベガスに精通するもう一人の俳優として挙げたいのが、ウォーレス・ショーン。トイストーリーのレックス(ティラノサウルス)の声や、アメリカの青春ドラマ、ゴシップガールを始め、さまざまな映画やドラマに出演した実績を持ち、本作品では敏腕ディーラーとして登場する。
 彼がベガスに精通する所以は、出演作であるアメリカの SFドラマ「Star Trek」のシリーズの一つ「Deep Space Nice」(1993年~1999年に 7シーズン放送)。
 スタートレックは、放送が終了している現在でも、毎年ラスベガスでコンベンションが行われているほど、この地と縁が深いもので、彼自身もコンベンションに幾度も顔を出している。そんな彼が、ドラマと同時期に放映されたこの映画に出演したということで大いに注目され、ベガス通には放っておけない作品となった。

 これからラスベガスに行こうと考えている人へ、映画に登場する「ラスベガス」を簡単に説明しておきたい。
 まずはマンダレイベイ・ホテルのすぐ南にあるベガスの象徴 「Welcome to Fabulous Las Vegas」の看板。
 物語の序盤に登場し、これから始まるラスベガス旅行への興奮を高めてくれる名物サインとして名高く、2009年、米国内務省により、国家歴史登録財(National Register of Historic Places)に認定されたほどの有名なモニュメントだ。(写真は 1959年ごろの様子。半世紀以上が経過した今、周囲の環境こそ大きく変わっているものの、この看板自体は何一つ変わることなく同じ場所に立っている。 写真提供: ラスベガス観光局)

 また、ベガスのホテルでは常識となっているかもしれないが、ホテルのフロントでの一幕、客室までの長い道のりのくだりには、思わず共感してしまう。
 映画ほど大げさではないが、実際にもフロアマップを渡され、ペンを片手に部屋までの行き方を説明してくれるホテルが多く、そんな場面での客たちの心の叫びをうまく表現しているところが面白い。

 砂漠都市ベガスだというのに、イルカの可愛らしいジャンプ姿の映像に驚く人も多いことだろう。実在するこの Mirage ホテルの「Dolphin Habitat」へ行けば、そんな光景を見ることもたやすい。癒される場所なので、ぜひ行ってみたい場所の一つだ。

 そのほかにも、ダウンタウンのフリーモント・ストリートは、現在も映画と同様に鮮やかで古風な雰囲気を醸し出しており、また、最後に夫婦が式を挙げた The Bells も、由緒ある有名なウェディング・チャペルとして世界中からカップルが集まる。このチャペルは Stratosphere タワー付近に位置するので、近くを通ったらぜひ目を凝らして見て頂きたい。
 「ラスベガスを観る」という視点からいうと、一番の見どころはやはりフーバーダムのシーンだろう。
 ラスベガス観光の名所で、映像においてもその偉大さを感じ取ることができるはずだ。映画と同様、施設内部を一般に公開しているので、興味がある人は立ち寄ってみてはどうか。映画内では、所々で笑いをとる演出も忘れておらず、「ダム」ツアーを二つの意味でかけたジョークもアメリカらしく面白い。

 ちなみに、陸路で行くグランドキャニオン・ツアーにおいても、ダム自体の内部は見られないものの、ダムを見下ろす巨大アーチ橋に立ち寄るので、そこから見下ろ絶景を楽しむことが可能だ。

 映画から15年もの月日が経つと、映像自体もそうだが、Mirage や MGM も、どこか古めかしく、味が出ている印象を受ける。そういった部分もこの映画の面白さではあるが、今現在は存在していないものも少なくない。
 クラークが舞台に上がり、ホワイトタイガーが見ものであった人気のマジックショー「Siegfried & Roy」は Mirage Hotel で13年間続いていたものの 2003年に終了。
 また、映画の中では Riviera ホテルの向かい側にあったはずの Westward Ho ホテルや、Stardust ホテルも解体されて跡形もない。ラスティーが最初に車を当てた、O’Sheas カジノも、2012年4月に取り壊されてしまった。

 MGM の顔の部分だけを大きく強調したライオン像は CG ではなく、実際にあったものだが、今はもうその姿は見られない。映画公開年の 1997年に撤去され、代わりにライオンの全身像が造られた。映画終盤の Keno のスペースも今は無くなっている。
 映画に登場するそれらシーンを今のベガスで見られないのは残念だが、消えるものがある代わりに Bellagio や Wynn をはじめとするさまざまな新しいホテルやショッピング施設などが生まれており、常に進化を遂げているその様子を味わうのも楽しみのひとつで、何度もベガスを訪れたくなる理由もそんなところにあるのだろう。

 この映画では、先に述べたようなベガススポットに注目しつつ、日本の「お笑い」とは違う「異文化のお笑い」を感じ取ることができればいいのではないか。
 じゃんけんやコイントス「どっちの手にコインが入っているか」などのギャンブルや、Riviera ホテルの前で偽ID を入手する場面など、所々で登場する非現実的な展開も単純に面白い。ばらばらになりかけた家族が、絆を取り戻していく姿にも親しみが持てるはずだ。
 ラスティーの運の良さは異常で、グリスウォルド一家の結末にも驚きだが、とにかく「ベガスに行きたい」と思わせてくれる映画になっていることはまちがいない。
 クラークのように、ギャンブルにのめりこみ過ぎないよう注意しつつ、ぜひとも非日常都市ラスベガスを楽しんでいただきたい。

■ Ocean’s Eleven(オーシャンズ 11)
  スティーブン・ソダーバーグ監督
  2001年公開(日本では2002年)

 ラスベガスが舞台で思い浮かぶ映画といえば、この映画も一つであろう。1960年に公開された Ocean’s 11(邦題は、オーシャンズと11人の仲間)のリメイク版として製作された本作品。アメリカではもちろん、日本でも大きな人気を博し、以後 2005年、2007年に続編が公開されている。

 信用詐欺で捕まったダニエル・オーシャン(ジョージ・クルーニー)が仮釈放されるところから始まるこの物語。彼は、ロサンゼルスで退屈な日々を送るラス(ブラッド・ピット)を訪ね、彼と共に9人の仲間を集めていく。
 カジノディーラーのフランク、資産家のルーベン、爆弾マニアのバッシャー、胃潰瘍持ちで詐欺師のおじいさんソール、スリの天才ライナス、仲が悪いようで息がぴったりな双子のモロイ兄弟、電気オタクのリヴィングストン、中国サーカス団のメンバーイエン。
 それぞれ能力を持ち合わせた 11人。その目的は、ダニー(ダニエル)が刑務所で練っていたある計画だ。それは、ラスベガスの三大カジノホテル Bellagio、MGM Grand、Mirage の売り上げを奪うという難攻不落の金庫破り。

 「勝つにはいい手が来た時に一発勝負に出るしかない」 — 巧みな計画と、メンバー個々の専門分野を活かすテクニックの数々を駆使して、ベラージオホテルの地下金庫に眠る大金を狙う。はらはらどきどきの展開から目が離せない。
 ダニエルはもう一つ「ある人」を取り戻す計画も練っていた。そこに登場するのが元妻テス。
 彼女は、上に挙げた三大カジノのオーナー、ベネディクトの恋人。初めは、元夫の出現に動揺を隠せず、彼を遠ざけようとするが、次第に何かを企むダニエルのことが気になりだす。彼女のそんな心の変化も見逃せない。

 この映画には、内容はもちろんのこと、作品の魅力をさらに引き立てる要素が二つある。第一に、出演者の顔ぶれだ。
 豪華ハリウッドスターの出演で話題となった本作品は、アメリカの長寿ドラマ「ER」から映画界への転身を遂げた名俳優、ジョージ・クルーニーを始め、EDWIN のジーンズ「503」のコマーシャルが懐かしいブラッド・ピット、本作品上映の直前、2001年3月に、ブラッドと映画「The Mexican 」で共演したジュリア・ロバーツ、のちにボーン・シリーズ「The Bourne Identity」、「The Bourne Supremacy」、「The Bourne Ultimatum」で名を馳せたマット・デイモンら、今や映画界には欠かせない見ごたえのある豪華メンバーが勢揃いする。

 ちなみに、モロイ兄弟の兄を演じるケイシー・アフレックは「Armageddon」や「Pearl Harbor」出演の俳優で、マット・デイモンの幼馴染でもあるベン・アフレックの弟という意外なつながり。
 「ラスベガス」というキーワードで最も注目したいのは、モロイ兄弟の弟役、スコット・カーン。
 スコット自身の認知度は低いが、実は彼、1972年公開の映画「The Godfather」へ出演したジェームス・カーンの息子だ。ジェームス・カーンといえば、2003年より5年間放送されたアメリカのテレビドラマ「Las Vegas」に出演している。親子揃ってベガスに深い関わりを持っているというわけだ。

 他にも、ボクシングの試合のシーンでは、ボクサー役に、元プロボクサーのレノックス・ルイスが出演。さらに「ミスターラスベガス」こと、歌手で俳優のウェイン・ニュートンの姿も見られる。

 作品の魅力の第二は、ラスベガスの雰囲気。現実離れした遊園地とも言えるラスベガスの景色を楽しむには、この映画はまさに打ってつけだろう。
 ラスベガスのアトラクションを代表するベラージオホテルのゴージャスな噴水ショーの場面はふんだんに使われ、特にラストシーンのそれは思わず見とれてしまうほど美しい。
 そのほかにも同ホテル内のアートギャラリーやフレンチレストラン Picasso、MGM Grand ホテル内のアリーナなども登場する。

 彼らの作業場として使われた倉庫は、ベラージの西側にあり、その背景には Paris、Planet Hollywood、Bally’s、Flamingo など、ストリップ沿いのそうそうたる顔ぶれのホテルが並ぶ。夜のシーンが多いため、ゴージャスな夜景も必見だ。

 もちろん、ベラージオの内部の様子もうかがえる。劇中、ダニーがプレイしていたスロットマシンは Buffet や「O」シアターがある辺りであろうか。
 ホテルのエントランスはもちろん、フロントやカジノフロア、なかなか入ることができないスイートルームやハイローラーのスペースも映し出されるので、高級感あふれたリッチな世界をかいま見ることもでき、その種の場所を知らない人にとっては、見ていて興味が尽きないはずだ。

 ラスベガス、とりわけベラージオを訪れたことがある人は、この映画を思い出と重ねながら、そして訪れたことがない人にとっては、訪問前の下調べとして、それぞれ違った角度から楽しめばよいのではないか。
 さらに実際に訪問した際は、スイートルームに泊まるのは難しくても、スーツやドレスに身を包み、映画の場面を実世界で体験してみるのも悪くないだろう。
 夜には是非とも噴水ショーを見て、このゴージャスかつ美しいラスベガスを満喫して頂きたい。

■ 21(ラスベガスをぶっつぶせ)
  ロバート・ルケティック監督
  2008年公開

 題名を見て興味をそそられる人も多いのではないか。カードカウンティングという手法(ラスベガス大全内 [カジノ] セクションのブラックジャックの項を参照)で大金を稼ぐという、実話を基に作られたこの作品は、ブラックジャックの別名とも言える「21」というタイトルをひきさげ、2008年にアメリカで公開された。

 主人公はマサチューセッツ工科大学(MIT)の学生、ベン・キャンベル。ハーバード医科大へ合格したものの巨額の学費に頭を抱える毎日。
 奨学金を得るには、何十人もの候補者の中から、何かで卓越した一人にならなければならず、ましてや 30万ドルもの大金を母に頼ることも出来ない。

 そんな彼が出会ったのが、ミッキー・ローザ教授率いる、ブラックジャックのチームだ。チームの一員になる決心をした彼は、ルールや暗号を覚え、カウンティングを学び、ついに勝負の地、ラスベガスへと乗り込む。
 勝負に没頭し、次第に離れていってしまう友情の行方や、憧れのマドンナ、ジルとの恋模様、そして驚きの結末などが見どころ。

 この作品には、映画マトリックスシリーズ(1999年、2003年に2作)への出演でお馴染みのローレンス・フィッシュバーンや、「アメリカンパスタイム 俺たちの星条旗」(2007年)で中村雅俊と共演したアーロン・ヨーなどが出演している。
 彼らに加えて注目したいのが、ディーラー、ジェフリー役で特別出演したジェフ・マー。
 実際に 1990年代、MITブラックジャックチームが存在し、そのときの張本人が、なんとこの彼だ。劇中、ベンはジェフリーを「異母兄弟」と呼んでいる。二人の共演は映画中盤あたりになるので、見逃さないようにしたい。

 主人公が MITの学生ということで、マサチューセッツ州ボストンやケンブリッジを舞台にストーリーが始まる。
 実際にベガスが映し出されるのは 40分を過ぎたあたりからで、そこからのベガスの魅力を以下に紹介してみたい。

 Cosmopolitan や Trump など、最近オープンしたホテルは見られないが、映画公開が 2008年と、比較的新しいため、輝きを放つ Wynn など、オーシャンズ11 では見られなかったホテルも登場する。
 勝負の舞台として、チームが主戦場に選んだのは Hard Rock Hotel と Planet Hollywood Hotel。
 ベンにとっての初戦の地は Hard Rock で、明け方になって彼が外に出てくるシーンでは、出入口付近に Bon Jovi のポスターを見ることができる。
 ロックをテーマにしているこのホテルは、実際の世界でも著名ロックスターがコンサートを開くことで知られており、ドアの取っ手がギター型になっていたりする部分など、細かいところも見落とさないようにしたい。

 スイートルームとして出てくる部屋からの美しい夜景は、Caesars Palace、Bellagio、Paris などのイルミネーション。噴水がはっきり見えるので、この部分の撮影はハードロックではなさそうだ。

 郊外のカジノとして、Red Rock が何度も登場する。カジノフロアはもちろんのこと、ナイトクラブ(Cherry)やゴージャスなプールなどのシーンもここでの撮影だ。
 ストリップ地区からかなり離れているため(下道で約30~40分、やや遠回りだが高速利用で約25分)車がないと不便だが、近くに景勝地「レッドロック・キャニオン」などもあるので、興味がある人は行ってみるとよいだろう。

 映画の後半には Riviera も登場するが、今は爆破解体されてしまった。他には Wynn 内のショッピング街や、Palms のゴーストバーなどが登場する。

 邦題のタイトルと実際の内容に多少のギャップはあるものの、カジノのシーンでのチップの山や、美しい夜景が醸し出すゴージャスな雰囲気など、ラスベガスのカジノの魅力を十分に感じられる作品となっているので、この映画を見て、リッチな雰囲気の中でブラックジャックをやってみたい、と感じた人も多いことだろう。
 もし今後 21 を楽しむ機会があったら、声には出さずとも、ぜひ心の中で叫んでみて欲しい。”Winner winner chicken dinner.”

■ The Hangover(ハングオーバー)
  トッド・フィリップス監督
  2009年公開

 2011年には続編、そして2013年には第3作目が公開され、今後シリーズ化が期待される「ハングオーバー」。今回ここで紹介するのはその第1作目。
 ラスベガスが舞台となった映画の中では比較的新しく、アメリカにおいて高い興行収入を得たヒット作品ではあるが、基本的にはコミカルなドタバタ劇の域を出ていないのも現実。それでも、眠らない街ラスベガスの特徴をうまく引き出しながらの演出は絶妙で、単なる笑いを超えた含蓄ある描写も多く、見ごたえのある作品に仕上がっている。

 「ハングオーバー」の意味は「二日酔い」。人生の晴れ舞台である結婚式を2日後に控えた新郎ダグと、友人である教師のフィルに、歯科医のステュ、ダグの義弟となるアランの 4人が、独身最後のひと時を過ごすために、ロサンゼルスから男だけのラスベガス旅行へと旅立つ。
 「何があろうと、なかったことにする。やりたいことをやり尽くし、すべて忘れる」をモットーに大いに弾け、最高の夜にすることを誓うまではよかったが、一夜にして状況は一変。
 翌朝気が付くと、彼らが泊まった豪華スイートルームは大荒れで、空き巣が去ったあとのような散らかりよう。それだけではない。なぜかその部屋では鶏が歩き、トイレにはなんと生きた本物の虎、そしてクローゼットでは見ず知らずの赤ちゃんが泣きわめく。
 そんな珍妙なゲストらと引き換えにステュの前歯が無くなり、ダグも忽然と姿を消す。二日酔いにより頭は殴られたように痛く、吐き気も止まらず、そのうえ誰も何も覚えていない。
 かすかな手がかりをもとに 3人(と赤ちゃんと虎)はダグ探しに出かける。彼らに残されたわずかな記憶は、果たして役に立つのか。そしてロサンゼルスでの結婚式に間に合うのか。

 この映画の中で、日本人に一番馴染みのある出演者を挙げるとすれば、「ボクシング界の野獣」ことマイク・タイソンであろう。彼はラスベガスと無縁ではなく、現役時代、数多くの試合を MGM Grand のアリーナで行なっている。そのアリーナで宿敵ホリーフィールドの耳を噛みちぎり、反則負けを喫した試合は多くのボクシングファンが知るところ。タイソンはその後も実際にラスベガスに住むなど、この街との関わりは深いが、彼の演技力がいかなるものかは、その目で確かめて頂きたい。
 最後の最後にではあるが、ベガスの帝王ウェイン・ニュートンも出てくる。さらには、この映画の監督であるトッド・フィリップス氏自らも、エレベーターのシーンに出演。コメディー映画ならではの演出だ。
 余談だが、アラン役のザック・ガリフィアナキスはこの映画の前年に「What Happens in Vegas」(邦題: 放題ベガスの恋に勝つルール)にも出演しているので、2年続けてベガス関連の映画に出たことになる。また、フィル役のブラッドレイ・クーパーは 2011年に「最もセクシーな男性」(ピープル誌)に選ばれ、一気にスターの座にのし上がった若手のホープ。今後の活躍にも注目したい。

 ベガス通としては、どこの場面が出てくるのかが大いに気になるところ。まず彼らが泊まるホテルは Caesars Palace。歌姫セリーヌ・ディオンのショーが見られることで知られるこのホテルは、古代ローマ調の肖像が並び、開放的で清純な「白」のイメージがよく似合う。フロントからプール、エレベーターに至るまで、清楚で爽やかな雰囲気を漂わせており、一度は泊まってみたいホテルの一つだ。
 ちなみに、出産などで現場を離れていたセリーヌも、2012年からコンサートに再び戻っている。
 Caesars Palace の屋上からの夜景にはだれもが心を奪われるにちがいない。北側には Wynn や Encore、Venetian、Palazzo といった高級ホテルがクールなオーラを放ち、南側では Paris、Planet Hollywood、Bally’s、Flamingo など、明るいネオンを彩ったホテルが、夜の誘惑の世界へと引き込んでくれる。これぞ「大人のテーマパーク」とでも言うべき、ラスベガスならではのゴージャスな光景だ。
 もちろん実際に屋上に立ち入ることはできないので、同じような夜景を楽しみたければ、Paris ホテルの「エッフェル塔」に行ってみるとよい。また Stratosphere タワーや Palms ホテルのゴースト・バーにあるスカイデッキから見る眺めも悪くない。極めつけに夜景ヘリコプターツアーで締めくくれば、優雅で贅沢な癒しの時間を過ごせることまちがいなしだ。
 ちなみに彼らの夕食は Palms ホテルでステーキだったので、店はたぶん同ホテルのステーキハウス「N9NE」(今はもうない)と思われる。車がストリップ通りの真ん中で発見された場面は Bellagio や Paris 付近か。こうして映画を見ながら実際の場所を想像してみるのもラスベガス映画の楽しみだ。

 この映画では Caesars や Riviera など、総じてストリップ地区の北側が舞台の中心となっているように見えるが、一部、南側の景観も登場している。チャウが飛び出してくるシーンの後方では Luxor のスフィンクス像が 3人を見守っていた。また Mandalay Bay から始まり Excalibur や MGM Grand、Tropicana など、南地区もそれなりに映し出されている。
 ジェイドの家はストリップの南西方向だろうか。New York New York のジェットコースターや、シルクドソレイユのショー「Zumanity」の広告がかすかに見え、右手には Excalibur やハンバーガーショップ「IN-N-OUT」の看板がそびえ立つ。

 中盤で登場するチャペル「The Best Little Chapel」は映画のために作られたもので実際には存在しない。この場面のロケ地はストラトスフィアの北側に位置するストリップクラブ「The Talk of the Town」や、多くの有名人が挙式を行ったことで知られる「The Little White Wedding Chapel」の周辺。ラスベガス独特の「ドライブスルーウェディング」ができるのもこのチャペルに隣接するアーケードで、このあたり一帯は、日本に比べ格安の費用で挙式が出来ることで人気が高いウェディング街だ。

 ラスベガスといえばやはりカジノ。キャンブルのシーンも見逃せない。選ばれたのは老舗ホテル Riviera。本作品の他にも様々な映画の舞台となっているこのホテルの魅力は、やはり昔ながらの趣があるという部分か。
 オレンジ基調の豪華な装飾に、落ち着きのある絨毯やカジノテーブルの色合い。他のホテルに比べ「古き良き」という言葉が似合う独特な雰囲気が漂う。ストリップ地区の中心街からやや離れているが、この映画を見たからにはぜひ訪れてみたいホテルの一つだ。往年の懐かしいベガスを感じることが出来るにちがいない。

 ラスベガスの繁華街はアメリカでも数少ない「路上での飲酒が認められている区域」であり、「ハングオーバー」と題する映画にとってはまさに打ってつけの場所。
 主人公たちのように酒に酔って羽目を外し、記憶をなくすことは、飲酒者にとってはありがちな話。この街で、同じような体験をしている人は毎晩たくさんいるにちがいない。
 この作品は、そんな人々を共感させながら大いに笑わせてくれる映画といってよいのではないか。少々下品な映像や発言も登場するが、深いことは気にせず「ハングオーバー」の世界に酔いしれてみるのも悪くないだろう。
 そして機会があれば実際に訪問し、そのときばかりは現実の世界を忘れ、彼らのように思い切り楽しんでみるといい。
 ちなみにラスベガス市の観光局が掲げるこの街の公式スローガンは、なんと驚くことなかれ「What happens in Vegas, stays in Vegas」だ。(このスローガンの意味は、週刊ラスベガスニュース第814号に掲載)

■ Bugsy(バグジー)
  バリー・レビンソン監督
  1991年公開

 ベラージオやシーザーズパレスなどと並び、ストリップ地区の中心に位置するカジノホテル「フラミンゴ・ラスベガス」。鮮やかなピンクのイルミネーションが印象的でネオンサインも眩しい。
 実はこのホテル、ストリップ地区の現存のホテルの中では最古の歴史を誇る。長らく「フラミンゴ・ヒルトン」と呼ばれていた時期があるなど、大手企業からの買収により、改築や改名は何度かされてきたものの、「フラミンゴ」の呼び名は開業当初から変わっていない。ちなみに開業は 1946年。太平洋戦争終結の翌年と聞けば、その歴史の長さに驚くことだろう。
 そしてこのホテルには一人の男の熱い思いが込められている。開業当時の壮絶かつ奥深いドラマの中心人物だ。
 この映画「バグジー」はベンジャミン・シーゲルというその男の、短くも濃く、感動的な生き様を描いた実話に基づく物語である。

 主演は、映画の製作も手掛けたウォーレン・ベイティ。主人公のギャング、ベンジャミン・シーゲル(通称 バグジー)を演じる。
 彼は 1967年に公開された映画「Bonnie and Clyde(俺たちに明日はない)」の出演、製作者としても知られる俳優だ。ボニーとクライドといえば、1930年代に凶悪な銀行強盗を繰り返し、アメリカの犯罪史上、最も有名な極悪カップルとして知られ、今を時めくスター、ビヨンセと Jay-Z 夫妻も、彼らの名をタイトルに曲をリリースしているほどの存在だ。ラスベガスにほど近いネバダとカリフォルニアの州境、プリム地区のカジノホテルには、そんなボニーとクライドが警察から銃撃を受け最期を遂げた際の銃弾だらけの車が展示されている。
 ちなみにウォーレン・ベイティの姉は、キャメロン・ディアス、トニ・コレット主演の 2005年の映画「In Her Shoes(イン・ハー・シューズ)」にも出演しているアカデミー賞受賞女優、シャーリー・マクレーン。彼女も 1960年に「Ocean’s Eleven」(2001年のオーシャンズ・イレブンは、この映画のリメイク版)に登場しており、姉弟そろってラスベガス舞台の映画に関わったことになる。
 ベン(バグジー)の相手役「フラミンゴ」ことバージニア・ヒル役には、アネット・ベニングが抜擢された。ウォーレンとアネットは、この映画を機に実生活でも結ばれ、映画公開の翌年に結婚。今や 4児を持つ家族として知られ 1994年には「Love Affair(めぐり逢い)」で再共演を果たしている。この「バグジー」では、夫婦である二人が夫婦になる前に演じた貴重なラブストーリーにも大いに注目したい。
 もう一人、気になる俳優としては、ハリー役で出演するエリオット・グールドを挙げておきたい。映画オーシャンズシリーズで、資産家ルーベンを演じている彼は、あの超大物歌手バーブラ・ストライサンドの元夫だ。

 そんな俳優陣を引き下げ 1991年に公開されたこの映画は、先にも述べた通り、実在する人物 ベンジャミン・シーゲルやバージニア・ヒルの半生を描いている。
 タイトルにもなっているそのシーゲルの通称である「バグジー」。劇中と同じく、本人がこの名を気に入らなかったのは事実らしい。
 ニューヨークでは妻子を持ち家庭を支えていた彼だが、カリフォルニアに来てバージニアと出会い、深く愛し合っていくことに。そしてある日訪れたラスベガスでアメリカン・ドリームをひらめく。
 それは小規模のカジノしかなかった場所に豪華なホテルを建て、カジノやプール、人々のオアシスの場を作り、そこから一つの街を造り上げようというもの。その思いを実現させるべく、彼は一心不乱に駆け抜けていった。
 道路事情も車の性能も今ほどではなかった当時のラスベガスは、彼が住むハリウッドから車で約 5時間半離れた場所で、砂漠が広がるばかりの荒れた土地。砂嵐による強風に煽られる一幕や、建設中のホテルの姿など、現在とはかけ離れたストリップ地区の様子をうかがえる場面は大いに興味深い。

 実話といえば、キューバでのマフィアの会議で最後までベンを擁護した大物マフィア、マイヤー・ランスキーや、ベンの妻であったエスタも実在人物で、実名で登場する。
 ちなみにベンは、そのエスタと 1946年に離婚。その年の暮れの開業を目指し準備に明け暮れるわけだが、ホテル名に、バージニアのニックネーム「フラミンゴ」を採用するほど、ベンの彼女への愛は深いものだった。
 そして夢にまで見たホテルはクリスマス直後の 12月26日に華々しくオープン。しかし、赤字続きにより、すぐに一時閉店を余儀なくされる。それでも翌年3月にはなんとか再オープンを果たすことに。
 ホテル建設に費やした金額は当初の予定を 6倍も上回る 600万ドルというから、現在の価値に換算して日本円で180億円以上だろうか。私財を全て投げ売ってまで叶えたかった彼の情熱や、夢の大きさがうかがえる。

 この映画のクライマックスとも言えるベンが銃撃を受け殺されるシーンも、もちろん実話で、現在ラスベガスのダウンタウンにあるマフィア博物館に、その暗殺現場を撮影した報道写真が展示されている。生々しい現実を知ることができるよい機会なので、興味がある人はぜひ足を運んでいただきたい。

 今なお進化し続けている現在のフラミンゴ・ラスベガス。立地条件が申し分なく、館内から繁華街に出るのも近く、観光客にとっては良い条件がそろう。この歴史深いホテルを訪れ、その中庭で飼われている美しいフラミンゴを見ながら当時に思いを馳せてみるのも悪くない。「夢を大きく持て」と我々に訴えかけ、そしてそれを実現させ、今のラスベガスが生まれるきっかけとなった彼の生き様が脳裏に浮かぶ一瞬だ。

 最後にこの映画、終戦を喜ぶアメリカの人々や、イタリアの政治指導者ムッソリーニの名が出てくるなど、時代の世相を描写する部分がいくつかある。その中で、JAP といった日本人蔑視の差別用語が躍る当時の新聞が登場する場面は日本人として決して気分のいいものではない。とはいえ、過去の現実をそのまま表現することは映画として重要であり、また見る側の立場としても、歴史的事実を知ることは大いに意義あること。むしろ差別などが存在していた事実を隠さなければならない風潮が蔓延することのほうがまずいので、ここはひとつ不快感を抑えながら当時の現実を知るよい機会としたい。

■ クレージー黄金作戦(同じ)
  坪島孝 監督
  1967年公開

 ラスベガスが登場する日本映画はそう多くないが、なんと 1967年公開の作品にそれがあった。日本を代表する映画会社、東宝の創立35周年記念作品として公開された 150分におよぶ長編映画「クレージー黄金作戦」だ。

 1967年といえば、時代としては、ロバート・デ・ニーロ主演の映画「カジノ」で描かれているマフィア全盛の70年代前半とさほど差はないが、その「カジノ」は公開が1995年ということで作品自体は比較的新しい。つまり、時代をさかのぼって当時の様子を人工的に再現した作品ということができる。
 一方、この「クレージー黄金作戦」は撮影自体が 60年代であり、半世紀前のラスベガスの姿をそのまま映し出しているという意味で、ベガスファンとしては見逃せない大変貴重な作品だ。
 タイトルから想像できる通り、この映画には1950年代後半から活躍する「ハナ肇とクレージーキャッツ」の面々が登場する。数多くの東宝映画に出演している彼らにとってもアメリカ大陸でのロケは本作品が初めてで、その記念すべき撮影の舞台となったのがハワイ、ロサンゼルス、そしてラスベガスだ。

 自他ともに認める大のギャンブル好きの寺の住職、町田心乱(植木等)と、ふん尿処理施設の建設に力を入れる国会議員、板垣重金(ハナ肇)、園まり演じる美人看護師に恋い焦がれる医師、梨本金男(谷啓)が、この映画の主人公で、3人は、とある縁によりロサンゼルス行きの飛行機で知り合うことに。
 ロサンゼルスからラスベガスへ飛んで大金を稼ごうと意気込む町田心乱が2人をうまく誘い込み、作戦通りラスベガスへ向かうことになるのだが、砂漠をさまようなどの数々のトラブル、そして警察沙汰を起こしてしまうなど、その道のりは決してたやすいものではなく、さらにラスベガスへ乗り込んでからもハプニングは続き、最後の最後まで波乱づくしのストーリー展開となっている。

 この作品の見どころは、日本版「オーシャンズ11」といってもよいほどの豪華俳優陣、そして古き良き時代のラスベガスの姿を垣間見られるという2点だろう。
 クレージーキャッツ世代には説明するまでもないが、今は亡き名優や現在もテレビなどで活躍する大物芸能人らが勢揃いしているところにまず注目したい。
 「クレージー作戦シリーズ」とくくられる映画全14作品中、マドンナとして6作品に出演した常連の浜美枝、歌手で女優の園まり、若大将こと加山雄三ら、そうそうたる顔ぶれが登場。その他にもドラマ「渡る世間シリーズ」で有名な藤岡琢也、「てなもんや三度笠」、「必殺仕事人」などで一世を風靡した藤田まこと、も名を連ねる。
 さらにショーパフォーマンスでは、モスラの歌が懐かしいザ・ピーナッツ、グループサウンズの草分け、ジャッキー吉川とブルー・コメッツ、そして水戸黄門の3代目助さん、あおい輝彦が所属したジャニーズの元祖アイドルグループ「ジャニーズ」の華麗なる共演ライブなど、続々と登場する往年のスターたちから目が離せない。当時から彼らを見てきた世代には大変思い出深く、その後の世代にとっては、大スターの若かりし姿に驚くことだろう。

 アメリカ本土でのロケは、クレージーキャッツにとってだけでなく、日本映画史上初の試みというから驚く。一面に広がる広大な砂漠や延々と続く山々、そしてそこを一直線に走る道路などは、アメリカでだからこそ可能な情景描写で(ちなみにその撮影現場はレッドロックキャニオン周辺)、当時の日本の映画ファンにとってはさぞかし新鮮かつ衝撃的だったにちがいない。
 「110番」が通じないことや、チップの習慣など、異国の地の文化を日本人の目線でおもしろおかしく表現し、ラスベガスで皆が踊るシーンなどにおいても「STOP」や「PARKING」の文字が書かれた道路の上を選ぶなど、アメリカらしい情景を伝えるための細かな配慮や苦労が伝わってくる。
 3人が移動手段に使う長距離バス「グレイハウンド」も、当時のアメリカらしさを象徴する乗り物で、この作品の雰囲気作りに一役買っている。
 ちなみにそのグレイハウンド、航空機全盛の今の時代でもほそぼそではあるが運行されており現在も利用可能だ。参考までに本作品内で登場するロサンゼルスからラスベガスまでの路線は最短でも5時間以上を要する長旅になるが、片道25ドル程度の激安料金が提示されたりすることもあるので、当時に思いを馳せながらゆったりした旅を楽んでみたいという人はぜひ利用してみるとよいだろう。

 待ちに待ったラスベガスが本格的に登場するのは、物語の始まりから100分ほど過ぎたあたりから。
 製作費などの理由からか、ところどころ日本で撮影した部分も見受けられるが、ここからの約50分間はラスベガス通にとっては目が離せない見どころ満載のシーンが続く。
 まずはラスベガスの玄関口ともいえる場所に立つ「Welcome to Fabulous Las Vegas」の看板(写真)。今も昔も変わらず輝くその姿は、ラスベガスの象徴として欠くことのできない存在だ。
 そして彼らが真っ先に飛び込んだのは 1966年に開業した高級大型カジノホテル Caesars Palace の噴水で、その周辺に見えるこのホテルのマーキーは、今とは異なり水色基調だったことがうかがえる。映画の公開が 1967年のゴールデンウィーク時期であったことを考えると、まさに同ホテル開業直後の生まれたての姿ということになり、ベガスファンにとっては大変貴重な必見の映像といってよいだろう。

 結婚式のシーンで登場する Cupid Wedding Chapel は Stratosphere とダウンタウン地区の中間あたりに現存する Cupid’s Wedding Chapel と同じ場所だろうか。いずれにせよウェディングはいつの時代もラスベガスという一面をコミカルに表現する場面ではなぜか欠かせないところがおもしろい。
 現在は電飾アーケードとして知られるダウンタウンのフリーモント・ストリートでのミュージカル調のシーンも見ていて楽しい。100年以上の歴史を持つ Golden Gate や、ダウンタウンを象徴する Golden Nugget、Four Queens など、現存のホテルも登場し、色とりどりの鮮やかなネオンが眩しく輝く。
 この映画では、撮影の際の一般群衆の協力にも注目したい。ダウンタウンの真ん中で踊り歩く主人公らを撮影するシーンにおいて、道をあけ、通行を待ってくれている人たちのほのぼのしい様子が写り込んでいる。日本を知らない、日本映画を知らない、日本に興味すらないであろう当時の人々のありがたい協力があってこそ、この作品が出来上がったことが垣間見れる一瞬だ。

 一方、ストリップ地区は、この半世紀の間にかなりの変貌を遂げていることが見て取れる。当時存在していた Stardust はすでに無くなり、Sahara も2011年に閉館、今は SLS に。Hacienda は Mandalay Bay に、Aladdin は Planet Hollywood、そして Dunes は日本人に人気の Bellagio へと生まれ変わっており、この映画に登場するそれらホテルを、今のストリップ地区に見ることはできない。
 昔と変わらぬ雰囲気を今も残しているダウンタウン地区とは対照的に、常に進化し続けているストリップ地区の激しい変遷があってこそ、今日のラスベガスの人気が保たれているといっても過言ではなく、それこそがラスベガスのダイナミズムといってよいのではないか。

 映画の主な舞台となった Riviera 内の風貌は、現在の姿とは全く異なる。改築により内装が変わったからなのか、撮影自体が別で行われていたのかどうかは半世紀も前のことなので不明だが、カジノフロアの随所に Riviera のロゴが光り、また、きらびやかで派手な室内の雰囲気は、これぞ当時のカジノと感じられる場面だ。
 スロットマシンはやはり古さがにじみ出ているが、その姿も粋ではないか。ハイテク化した現在のスロットマシンは、金額が書かれたチケットが機械から出てくる「キャッシュレス」へと移行しているため、爆音とともに大量のコインが出てくる当時のマシンは懐かしく感じると同時に目には新鮮だ。スロットマシンのエリアに椅子が置かれていなかったりする光景も今とちがって興味深い。
 カジノディーラーが男性ばかり、アフリカ系アメリカ人の姿がほとんど見当たらないなど、当時のアメリカの時代背景を知ることができるのもこの映画の特徴といってよいだろう。
 一方、どんなに時代やカジノ環境が変わっても、ギャンブラーの心理は今も昔も変わらないのかもしれない。心乱のように、テーブルゲームで気が付いたら朝、というシーンは、現在も多くのギャンブラーが共感できるのではないか。また、大敗して一文無しになってしまった時のむなしい空虚感なども時代を超えた共通観念といってよいだろう。
 ラスベガスと日本のコメディーが見事に融合されたこの作品、時代背景のちがい以外にも、常に笑顔を絶やさぬ心乱の前向きな生き方や、キャスト同士の息の合った掛け合いなども楽しむことができる。そしてカジノで大敗したときなどはもちろんのこと、日々の生活で気分が晴れない日などには「金だ金だよキンキラキンのキン」のフレーズを思い出し、彼らのように人生を愉快に前向きに考えたいものだ。

■ Leaving Las Vegas(リービング・ラスベガス)
  マイク・フィギス監督
  1995年公開

 ラスベガスを題材にした映画といえば、ラスベガスの歴史や実在した人物などを描いたノンフィクション系の作品や、ラスベガスらしさを存分に表現したコメディー調のものが多いが、この作品はそれらとは全く異なるわびしくはかないラブストーリー。
 原作は、小説家ジョン・オブライエンの処女作で、1990年に出版された「リービング・ラスベガス」。これは、彼の半自伝作品とも言われており、映画化が決定したのちに、自ら命を絶ってしまった。

 アルコール依存により、仕事も家族も何もかもを失ってしまった男性ベンは、これまでの生活を捨て、自分の最期をラスベガスで迎えることを決意。からだが酒に侵され、日に日に弱っていく中で、彼の心を支えたのは、ラスベガスで出会った娼婦の女性、サラだった。
 そして二人は恋に落ち、アルコール中毒と売春という互いの弱みを認めながら一緒に生活を始めることに。しかしアパートの外に一歩出ると、カジノでもバーでもホテルでも、アル中患者と娼婦というレッテルを貼らた二人は入店拒否されるなど居場所がなくなる。
 家にこもりがちになったベンはますますアル中がひどくなり体調が悪化。それでも酒をまったくやめようとしないベン。
 サラにとっても悩みはベンのアル中だけではなかった。自分の留守中にベンが娼婦を連れ込んでいる場面に遭遇したり、自身が3人組の若者の客に暴行を受けるなど、苦難に直面。家賃を払えず大家からも追い出しを食らう。
 それでも愛し合い続けた二人だったが、結局、幸せな日々が訪れることはなく、最後はベンが死んでしまうことに。

 この作品は、コミカルなエンターテインメント作品が多いラスベガスを題材とした映画の中では、かなり異色な存在ともいえる完全な悲劇だ。二人の悲しい物語にはだれもが心を打たれることだろう。
 主演は、日本でも人気の俳優ニコラス・ケイジと、エリザベス・シュー。ニコラス・ケイジは本作でアカデミー主演男優賞、そしてゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞。エリザベス・シューもアカデミー主演女優賞にノミネートされるなど、この映画は、同年に公開された映画「カジノ」と共に、ラスベガスを舞台とした大変印象深い作品となった。

 共演者の中で注目したいのは、ユーリこと、ジュリアン・サンズ。日本車のコマーシャルに出演したこともあるイギリス出身の俳優で、2007年には、セキュリティ管理者グレコ・モンゴメリー役として、同じくラスベガスが舞台となった映画「オーシャンズ13」にも出演している。
 銀行窓口の女性を演じたのは、キャリー・ローウェル。007シリーズでボンドガールを演じた経歴を持つ大物女優であり、私生活ではリチャード・ギアの妻として知られる。
 本作監督であるマイク・フィギス、そしてジョン・レノンの息子で歌手のジュリアン・レノンもカメオ出演している点に加え、ニコラス・ケイジ扮するベンの日本語吹き替え版を、声優界の大御所、山寺宏一が務めていることも合わせて触れておきたい。
 またマイク・フィッギスは映画界に入る前、音楽の分野で活躍しており、そのころから親交があったスティングや、イーグルスのメンバー、ドン・ヘンリーが、この映画の中で歌で参加している部分にも注目したい。

 ラスベガスのシーンでオープニングを飾るのは Harrah’s と Imperial Palace(現 LINQ)の両ホテル、それと空から見下ろすラスベガスの夜景。また Stardust や Algiers は、今では姿を消してしまっているが、当時のラスベガス映画では欠かせない脇役だ。
 Riviera も今では消滅してしまったものの、その向かいで存在感を出している Circus Circus はまだまだ健在な古豪ホテル。ベンとサラが最初に出会ったのもちょうどこのあたりだ。
 エントランスが印象的な Bally’s、歴史深いホテルとして知られる Flamingo Hilton も登場する。ちなみに Flamingo Hilton は、今では Hilton の名前がはずれて Flamingo に変わっているなど、この映画を見ていると、現在に至るまでのラスベガスの変遷を知ることができる。
 過去の存在となってしまったシーンばかりではない。道端で怪しげなチラシを配る者、ウェディングドレス姿の花嫁、ガイドブックを片手に歩く観光客の姿など、今と変わらぬ光景もたくさん登場するので、訪れたことがある者にとっては、自分の体験と重ね合わせたラスベガスを楽しむことができるはずだ。
 なおカジノ内の撮影は、ラスベガスから南へ 130km ほど離れた、同じネバダ州の都市、ラフリンで行われている。車で1時間以上かかってしまう場所ではあるが、興味がある者は、ラスベガスとはまた違った雰囲気を体験できる街なので、機会があれば行ってみるとよいだろう。

 ラスベガスといえば、カジノ、ナイトショー、ショッピング、グルメ、大自然観光など、だれもが一度は訪れたいと思う楽しいエンターテインメントシティー。しかし同時に、ふとむなしさを感じたり切ない気持ちに襲われたりする不思議な街でもある。罪の街「Sin City」といわれるように、スポットライトを輝かしく浴びる反面、影の部分があるのもこの街の現実。そんな様子をうまく表現しているのが、この「リービング・ラスベガス」ではないだろうか。
 アル中と売春、そして死。世間一般的には負の部分であることばかりが題材となっているため、観る人によって感じ方が大きくちがい、好き嫌いがはっきり分かれそうな作品ではあるが、観て後悔するような作品ではなく、ベガスファンならばだれでも楽しめるはずだ。Sin City ベガスの空気を味わいながら、さらにベンがこの街を選んだ理由なども考えながら鑑賞で

■ The Incredible Burt Wonderstone(俺たちスーパーマジシャン)
  ドン・スカーディノ監督
  2013年公開

 男性二人組マジシャンの浮き沈みを描いた人間ドラマ。まじめに鑑賞しても十分楽しめる内容の濃い作品ではあるが、やや飛躍しずぎた大げさな描写や非現実的でコミカルな部分も散見されるためか、映画界におけるジャンル的には「コメディー」に分類されている。

 あらすじはこうだ。小学生のころ、母親から誕生日プレゼントとしてマジック・キットを買ってもらったことをきっかけにマジックが好きになった少年と、そのクラスメイトが、おとなになってデュオを組みラスベガス・デビューを果たす。
 やがて超人気のスターとなり、カジノホテル内にあるその劇場は連日満員の大盛況。しかし年月の経過とともに、マンネリ化と空席ばかりが目立つようになるが、これといった対応策を見い出すことができない。
 そこに、過激なマジックを売りにする新鋭マジシャンがベガスにやってきてストリートパフォーマンスを中心に注目を集めるようになると、ますますデュオの会場からは客足が遠のき、とうとう解散に追い込まれる。
 デュオのうちの一人は、アジアの貧しい国にボランティア活動のために旅立ち、もう一人は、老人ホームなどでほそぼそとマジックを演じる生活を始めることに。
 ある日、老人ホームで、子供のころ買ってもらったマジック・キットの作者である年老いた伝説のマジシャンと遭遇し、その老人からのアドバイスで、再びマジシャン魂に火がつき再結成を決意。
 ホテルのワンマンオーナーの豪邸で、その息子の誕生日パーティーが開かれることを知ると、売り込みの絶好のチャンスとばかりに、そこへ出向いて新鋭マジシャンとマジック対決で火花を散らすことに。
 その後、アジアから相棒を呼び戻し、新規オープンする豪華カジノホテルの劇場に売込みを図るものの、そこに立ちはだかるのは、やはりその新鋭マジシャン。
 それでもデュオはやっとの思いで新規ホテルと契約を交わすことに成功。デュオが始めたマジックは、これまでにだれもやったことがない、観客全員を劇場から瞬間移動させてしまう奇抜なものだが、それはアジアの貧しい国に住む原住民が栽培していた麻薬を使って観客を眠らせてしまうという超法規的なマジックだった。

 コメディー映画の場合、よほど完成度が高くないと軽く見られてしまいがちで、重厚な作品に比べて評価を得にくい傾向にあり、本作品も例外ではなく、各種メディアなどでの論調は総じて芳しくない。
 一方、さりげない軽いストーリーの中にも、友情や努力や苦労といった人間模様がうまく刷り込まれている部分を評価する声もあり、映画関連のネット掲示板などで交わされている意見、とりわけベガスに精通している人たちからの評価は決して悪くないようだ。

 ベガスフリークにとって楽しい理由は、コミカルなフィクションでありながら、実世界と重ね合わせながら鑑賞できるようになっているところだろう。
 たとえば、作品の中ではっきり明示されているわけではないが、主役の男性デュオはどう考えても、かつてホワイト・タイガーのイリュージョンで人気を博したシークフリート&ロイ。髪型などもかなり彼らを意識していることがうかがえる。
 そしてこの二人のライバルとして登場する危険な荒わざ中心の新鋭マジシャンは、明らかにクリス・エンジェルやデイビッド・ブレインを想定しての配役だ。また一瞬ではあるが、瞬間移動マジックで有名な実在現役マジシャン、デイビッド・カッパーフィールド本人が登場したりもする。
 長老マジシャンの名前はランス。ランス・バートンを彷彿させるところはよいとしても、まだそれほど年老いていない本物のランス・バートンはどう思っていることか。
 自分の名前をホテル名にしてしまう新規ホテルのオーナーは、もちろんスティーブ・ウインをパロディー化したもので、現実のウインを知る者は大いに笑えるキャラクターだ。

 ちなみに、主役の二人と新鋭マジシャンを演じるスティーヴ・カレル、スティーヴ・ブシェミ、ジム・キャリーら関係者は、制作の前に、マジックの世界を勉強する目的で、デイビッド・カッパーフィールド、ランス・バートン、クリス・エンジェル、ダーク・アーサー、スティーブ・ワイリック、ペン・ジレットなど、そうそうたるベガスのマジシャンたちと会って打ち合わせをしているというから、この作品に対する熱意がうかがえる。
 そんな努力もあり、現実のベガスのマジック界を知る者にとってはなんとも楽しい内容に仕上がっているばかりか、撮影現場という意味においても、バリーズ、パリス、シーザーズパレス周辺の様子が何度も登場するなど、自分の旅の思い出に残る情景をたくさん再認識することができ大いに楽しめるはずだ。

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