全米レベルでの同性婚の解禁は、挙式の聖地ベガスにとって逆風か

Bliss Wedding Chapel at Las Vegas。(2022年末、筆者撮影)

Bliss Wedding Chapel at Las Vegas。(2022年末、筆者撮影)

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 当地ラスベガスはいろいろな分野や業界の中心地、聖地、総本山だったりする。
「エンターテインメントの聖地」「ギャンブルの総本山」などがその代表格だが、ボクシング、ショービジネス、コンベンション、ナイトクラブなどの分野においても世界の中心地的な存在となっている。

 そんな中でもう一つ忘れてはならないのが「ウェディングの聖地」。日本ではあまり知られていないかもしれないが(ちなみに歌手の浜崎あゆみは当地で挙式)、アメリカでは広く認知されており、それゆえ結婚を控えているカップルからの人気は今も昔も衰える気配がまったくない。
 そのウェディングの聖地としての現状と、このたびの同性婚にかかわる全米レベルでの新法の制定、さらにこれまで信じられてきた当地のウェディング業界にまつわる常識の検証などをレポートしてみたい。

多くのスターたちがラスベガスで挙式

 まず最初は軽い話題から。ウェディングのディスティネーションとしてラスベガスに注目しているのは一般のカップルに限ったことではない。
 著名人とて例外ではなく、参考までに当地で挙式をあげたスターたちを列挙すると、エルビス・プレスリーとプリシラ・ボーリュー、フランク・シナトラとミア・ファロー、シンディー・クロフォードとリチャード・ギア、ブルース・ウィリスとデミ・ムーア、アンドレ・アガシとステフィ・グラフなどのカップル、さらにジョン・ボン・ジョヴィ、デビッド・キャシディー、ジュディ・ガーランド、ブリトニー・スピアーズ、ジェーン・フォンダ、マイケル・ジョーダン、デニス・ロッドマン、ニッキー・ヒルトン、ポール・ニューマン、カーク・ダグラスなど、そうそうたる顔ぶれが記念すべき思い出の日の演出場所としてラスベガスを選んでいる。

Graceland Wedding Chapel。ボンジョヴィもここで挙式。

Graceland Wedding Chapel。ボンジョヴィもここで挙式。

人気は大晦日とバレンタインデー?

 一年のうちで当地のウェディング業界が一番にぎわうのが、つい先日の大晦日とこのあとのバレンタインデーというのが長年の共通認識だ。
 大晦日は年内に結婚したほうが税務上の都合が良いためとされており、またバレンタインデーが記念日として人気なのはいうまでもない。
 その他にも数字の並びが良い日、たとえば 2022年2月22日などは記念日を覚えやすいという理由なのか特異日となりやすく、また古い話ではあるがスロットマシンのトリプルセブンにあやかったのか 2007年7月7日は記録的な混み具合だったと聞く。

 これらの日が統計的に本当に人気なのかどうかはこのあとの検証でふれるとして、情報の出どころは忘れてしまったがラスベガスを訪れる旅行者の 5~10%前後がウェディング目的との話を聞いたことがある。もちろんその数字には新郎新婦以外にも親戚や友人ら列席者も含まれているはずだが、それでも他の都市ではありえないほどの高い数値であることは間違いない。

他の都市の10倍近い婚姻数?!

 列席者を含まない新郎新婦だけの数値も注目に値する。人口わずか200万人ほどのこの都市圏(ラスベガスを含むネバダ州クラーク郡)において、毎年受理されている婚姻届(Marriage License と表記されているものなので正確に訳せば結婚許可証)の数はなんと約6~8万組で推移しているというから驚きだ。
 人口比に対する結婚許可証の数は一般の都市の10倍近いともいわれており、挙式を挙げるカップルのほとんどが地元民以外の来訪者であることがうかがえる。
 まさに世界中からカップルが集まる「ウェディングの聖地」といってよいだろう。

過去に数々の著名人が式を挙げた a Little White Chapel。

過去に数々の著名人が式を挙げた a Little White Chapel。

ラスベガスは婚姻手続きが簡単

 ではなぜウェディングの聖地になったのか。よくいわれているのは「ラスベガスは役所での婚姻手続きが簡単だから」が理由のようだ。
 「ウェディングチャペルが多いから」という声も聞かれるが、それは「婚姻手続きが簡単だから」に起因する結果と考えるべきだろう。

 ちなみにアメリカという国においては外交、国防、経済戦略など一部の分野を除けば、多くの規則が州など地方レベルで決められており、結婚に関してもそれぞれ各地域によって異なっている。
 たとえば多くの州で出生証明書が必要であったり、再婚の場合は離婚や死別したことを証明する書類、さらには HIVなど感染症の血液検査が求められることもあるなど何かと手間がかかるのが普通だ。

役所の窓口、年中無休で深夜0時まで

 ラスベガスではそれらの手続きが不要というから人気が出るのも無理はない。結婚許可証の取得に必要なのは身分証明(日本人はパスポートで可)の提示と申請料の102ドルだけだ。

 参考までに結婚に関する当地の役所の窓口はかつて 1年365日 24時間オープンだった。今では短縮され朝8時から深夜0時までとなっているが、それでも役所が祝祭日もオープンの年中無休で深夜までやっているとは「不夜城ラスベガス」を標榜するこの街の面目躍如といったところか。

(注:「結婚許可証の取得」は「結婚式を挙げたこと」とは別物で、さらに「婚姻証明書」とも別。結婚許可証を取得してからそれを持ってチャペルなどに出向き、そこで牧師などにその結婚許可証に署名をしてもらい、それがまた役所に届けられて初めて役所は「この2人は結婚してます」という意味での婚姻証明書の発行(手数料$20)が可能となる)

ドライブスルーで挙式を完結することも可能

ドライブスルーで挙式を完結することも可能

チャペル乱立、ドライブスルー挙式も

 挙式数が多いためか街中にウェディングチャペルが乱立しているのも当地の特徴だ(ほとんどの主要ホテル内にもチャペルがある)。そして挙式のスタイルもシンプルなものから超豪華なものまでバラエティーに富んでいる。
 たとえば車に乗ったままで式がすべて完結するドライブスルー挙式、高級ホテルの噴水ショーを独占してのファウンテン挙式、スカイダイビング挙式、エルビス・プレスリーのそっくりさん牧師が立ち会う挙式など、エンターテインメントの街らしいユニークなものも少なくない。

かつてはエルビス・プレスリーに扮した牧師が登場していたチャペル。

かつてエルビス・プレスリーに扮した牧師が登場していたチャペル。最近は登場していない。

チャペルが東側ばかりにある理由

 ちなみにウェディングチャペルは豪華ホテルが軒を並べるストリップ地区と昔ながらのダウンタウン地区の中間地点付近に集中している。
 具体的な位置としてはサハラ通り以北のラスベガス大通り(ストリップ大通り)沿いで、偶然にもほぼすべてのチャペルが道路に対して東側に立地しているのは興味深い。
 その理由は多くのカップルが利用する午後からの時間帯にチャペルに陽が当たり、日陰になったり逆光になったりすることなく写真撮影に都合がよいため、とされているが定かではない。

同性婚の合法化は業界にとって追い風

 以上のようなさまざまな要因で半世紀以上も前から聖地的な存在となっているわけだが、当地のウェディング業界にさらなる追い風が吹いたことがある。それは 2014年10月、同性婚がネバダ州で認められたときのことだ。
 その結果、同性婚が認められていない州から多くの同性カップルがラスベガスにやって来て式を挙げるようになり業界が恩恵を受けることになった。
(ただしその後、多くの州で同性婚が認められるようになったためネバダ州の優位性はやや減少傾向に)

記念撮影をする女性カップル。(本人たちの許可を取って撮影)

記念撮影をする女性カップル。(本人たちの許可を取って撮影)

バイデン大統領による向かい風

 追い風のあとは向かい風。つい先日(2022年12月8日)、当地にとっては逆風になりかねないニュースが飛び込んできた。
 各州におけるそれぞれの法律とは別に、国(連邦議会)が同性婚の是非に関して最高裁の判例などに頼ることなく立法で明確に合法化すべきとし、バイデン大統領がそれに署名することになったのである。
(注: 同性婚に関しては、州法、連邦法、憲法、さらに議会や裁判所などの考えやルールが複雑に絡み、また合法、違法、解禁といった言葉の定義や意味も単純ではないが、とりあえずここでは「2014年にネバダ州で、2022年に全米で合法になった」と表現することとする)

開放的な雰囲気こそがベガスの財産

 すでに多くの州で合法化されているとはいえ、今回の全国レベルでの合法化の決定が各州のウェディングの現場をさらに自由で開放的なものにすることにでもなれば、これまでのラスベガスの優位性は低下しかねない。
 また全国レベルでの合法化が、各州に対して今後どのような影響を及ぼすかはまだ未知数ではあるが、少なくともいえることは同性婚に対する扱いが各州によって大きく異る時代は終わるということ。
 すでに解禁してきたラスベガスにとってそのことはマイナス要因となるかもしれないが、当地のウェディング業界としてはあまり心配する必要はないだろう。なぜなら同性カップルに対して法律などで他州との差別化ができなくなったとしても、ラスベガスには圧倒的なアドバンテージがあるからだ。
 それは異次元レベルの開放的な雰囲気だ。他の都市が一朝一夕にはマネすることができない当地の最大の魅力であり財産でもあることを考えると、今後も引き続き「ウェディングの聖地」としての圧倒的な地位を維持し続けることだろう。

 さて以下は今回の連邦議会の決定のニュースや、大晦日そしてバレンタインデーという時期を受け、ネバダ州クラーク郡が発表した当地のウェディングに関する統計の一部を分析してみた。何らかの参考になれば幸いだ。

大晦日が人気というのは本当か?

「大晦日に式を挙げるカップルが多い」というのが長らく当地における都市伝説のようになっていたので、その前後の日を含めた結婚許可証の発行件数を調べてみた。
 その結果、大晦日およびその前後の日でそれほど大きな違いは見られないというか、むしろ大晦日よりも前の日のほうが多い傾向にあることがわかった。それは事前に結婚許可証だけを受け取って、大晦日に式を挙げるカップルが少なくない可能性もあり、さらに曜日による影響も考慮する必要があることを考えると、この分析はあまり意味がないのかもしれない。(コロナ期間はあえて避け、2017年~2019年の統計を採用)

 2017/12/29(金) 327組
 2017/12/30(土) 340組
 2017/12/31(日) 259組
 2018/01/01(月) 203組
 2018/01/02(火) 199組

 2018/12/29(木) 277組
 2018/12/30(金) 318組
 2018/12/31(土) 265組
 2019/01/01(日) 200組
 2019/01/02(月) 150組

バレンタインデーの人気はウソか?

 大晦日の調査と同様に特異日とされるバレンタインデーに結婚許可証を申請したカップルの数がどの程度か、前後の日を含めて調べてみた。
 その結果、噂されていたよりも大きな違いは見られない。前日に申請者が多いのは理解できるが(結婚許可証を取得してから式をあげるので)、翌日以降もそれなりに申請者がいることを考えると曜日の影響が大きい可能性があり、バレンタインデーを特異日と考えるのは間違いかもしれない。

 2018/02/12(月) 222組
 2018/02/13(火) 278組
 2018/02/14(水) 295組
 2018/02/15(木) 183組
 2018/02/16(金) 307組

 2019/02/12(火) 186組
 2019/02/13(水) 334組
 2019/02/14(木) 332組
 2019/02/15(金) 288組
 2019/02/16(土) 256組

同性婚の比率を分析

 ネバダ州が同性婚を解禁したのが 2014年10月。それによって同性婚カップルがどの程度変化したのか、前後の 2013年と2015年の統計を比較しようとしたが、よく考えてみると当たり前のことではあるが 2014年9月までは同性婚の統計が存在していない。
 仕方がないのでどうせならその最初の月、つまり 2014年10月の統計をしらべてみた。その結果は以下の通り。(通年を調べるべきだがデータが多すぎて作業量を考えて断念)

 2014年10月の約3週間分の結婚許可証の申請データが記録されており、その数は約5500組。その内の約180組が男性同士約210組が女性同士のカップルだった。
 一般的に同性愛者は統計的に男性の方が女性よりも多いとされているので、この結果をどう見るべきか。それなりに大きな母数からの数値なので有意ある差と考えると、女性カップルに比べて男性カップルのほうがわざわざ役所に登録してまで婚姻関係を結びたくないと考えているのだろうか。
 機会を見て同性愛者から意見を聞いたり、さらに大量のデータを分析するなどして真相を究明してみたい。

ベガスで結婚する日本人カップルの数

 ネバダ州クラーク郡が公表しているデータの中には結婚許可証の申請したカップルの国籍も含まれているので日本国籍の者の比率を調べてみた。
 その結果、毎年約7~8万カップル(同性愛カップルも含む)、つまり約15万人の内、約500人前後の日本国籍の者が記録されていた。比率にして約0.3%。これを多いと考えるか少ないと考えるか。
 ちなみに日本国籍同士のカップルは少なく、日本国籍の女性とアメリカ国籍の男性とのカップルが大半で、これは想定内。

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