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週刊ラスベガスニュース  (第 1057号)
グランドキャニオンの谷底へロープウェイで行ける?!
 仮称 Grand Canyon Escalade。まだ決定ではないし、仮にすぐに決定したとしても実現は数年先のことなので、今ラスベガスを旅行中、もしくは近々旅行を計画している読者にとってはどうでもいい話ではあるが、突拍子もないユニークな計画なので、とりあえず現状報告をしておきたい。

Grand Canyon Escalade  その計画とは、大地から約960メートル下のグランドキャニオンの谷底に、ロープウェイのような乗り物で降りられるようにしようというもの。(右は公式サイトからの完成予想写真、クリックで拡大表示)
 断崖絶壁という厳しい環境なので難工事が予想されるが、技術的には特にむずかしいことはなく、すでにアリゾナ州の業者が建設の詳細をシミュレーションしているとのこと。

 ところがその計画が、このたびの会議で十分な賛同を得られず、頓挫するかもしれない瀬戸際に立たされているというから楽観視できない。
 AP通信などが報じたところによると、費用、採算性、環境問題、アクセスするための道路整備、それに地域や業者の利害などが複雑に絡んでおり、関係者の意見が一つになっていないとのこと。とりわけナバホ国Navajo Nation) の議会から同意を得ることが最大の難題のようだ。それでも実現すると考えている者は多く、今後の成り行きが注目されている。

Grand Canyon Escalade  というわけで、実現性をここで勝手に推測してもあまり意味が無いので、このプロジェクトの内容に関してだけ書いておきたい。
 まず建設場所についてだが、その地理的な位置は、右の地図内の赤い印で、大多数のグランドキャニオン観光客が訪れる南壁 「サウスリム」 の中心地域 (ブライトエンジェルポイント、ヤバパイポイントなどがあるエリア。青い印の位置) から北東方向に直線距離で約30kmほどの地点。(ピンク色の線は、89号線から現場へアクセスするための未舗装の道路)
 そこはナバホ国の統治下にある場所で、アメリカ合衆国政府が管理する国立公園内ではない。
 ナバホ国とか合衆国とか表現すると何のことだかわからない読者もいると思うので、まずはそれらについて説明しておくと、 アメリカの国土内には、ごく普通に統治されている一般の区域と、先住民族に治外法権的な権利を与えている区域がある。
 ここでいう先住民族とは、ヨーロッパから白人がアメリカ大陸にやって来てこの国を建国するよりも前から住んでいたいわゆる原住インディアンのことで、その部族の数は 500を超えるとされている。
 現在の合衆国政府は建国以降、長らくインディアンたちを迫害してきた反省の意味も込め、彼らに対しては、一般のアメリカ市民に適用される法律を超越した特別扱いとして、古来から続く彼ら独自の伝統的な生活習慣やルールを認め、その治外法権的なことが許される区域を明確にしている。そのような土地が全米各地に点在しており、グランドキャニオン周辺には特に多い。

 コロラド川沿いに 300km 以上(東京から名古屋ぐらい)の範囲に広がる断崖絶壁は、どこからどこまでがグランドキャニオンといった明確な境界はないものの、合衆国政府が管理する国立公園の土地と、先住民族に与えられた土地は明確に区分されながら混在しており、今回のロープウェイの設置が検討されている場所はナバホ族が統治する領土だ。
 そうであるがゆえに、つまり国立公園の中ではないがゆえに、この計画が浮上したともいえる。というのも、自然の景観や生態系をそのまま残すことを最優先する近年の国立公園管理当局の理念では、絶壁を削って乗り物を設置することなどあり得ないからだ。

Grand Canyon Escalade  世界に目をやると、ヨーロッパ・アルプスの最高峰モンブランをはじめ、著名の大自然観光スポットにケーブルカーやロープウェイが設置されることは決して珍しくはないが(アメリカでも国立公園以外では珍しくない)、時代の流れとともに、ひとたび国立公園に指定されると、当局側も一般市民も自然保護を金科玉条のごとく徹底的に崇拝する傾向にあり、自然の景観に手を加えることは極めて困難な風潮になってきている。
 ちなみに10年ほど前、グランドキャニオンのウェストリム地区に「スカイウォーク」と呼ばれる床がガラス製のU字型展望ブリッジが建設されたが(写真右上)、やはりそこは国立公園の外で、ワラパイという部族の領土内だ。
Grand Canyon Escalade  話があっちこっちに飛ぶが、3年ほど前、カナダのジャスパーに、ウェストリムのスカイウォークとまったく同じようなコンセプトの 「グレーシャー・スカイウォーク」が出現した (写真右)。
 こちらは意外にも国立公園内で、建設したのは民間企業とのこと。どのようないきさつでカナダの国立公園側が建設を認めたのか詳しく調べていないのでよくわからないが、自然保護団体などからの風当たりは非常に悪く、一般の観光客からの評判も決して良くないことだけは事実のようだ。

 そのような自然保護の風潮が強まっていることもあり、今回のロープウェイ建設も今後ますます反対意見が出てくることが予想され紆余曲折がありそうだが、なにせ治外法権的な地域でのプロジェクトなので、部外者の一般市民や国立公園側があれこれ反論できる状況になく、最終的には実現するような気がしないでもない。
 そもそも反対しているのは、建設によって経済的な恩恵を受けるであろうナバホ国内の一部の関係者のようなので、合意を得ることは意外と簡単なのかもしれない。
 ちなみにウェストリムのスカイウォークは、ラスベガスから近いということもあり大盛況で、ワラパイ国の重要な収入源となっている。
 ウェストリムと比べ、ロサンゼルスやラスベガスなどの都市部から遠いばかりか、大きく東に向かって89号線から入って行くしかないというアクセスの悪さを考えると、採算性に不安はあるが、デンバーやダラス方面から陸路でやって来るファミリー族などにとっては意外と利用しやすいのかもしれない。
 はたして実現に向かって話が進展するのか、それとも完全に立ち消えとなってしまうのか、その結論は7月頃に予定されている話し合いを経て、年内には正式に決定するようだ。


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