週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2015年 4月 22日号
"ILLUSIONS"、過激な荒ワザが新天地で開花
Illusions by Jan Rouven  1955年開業のリビエラホテルが 60年の歴史に幕を下ろし 5月4日に閉鎖される。その経緯などに関しては、この週刊ラスベガスニュース第943号を読んで頂くとして、今週はそのリビエラの話ではない。マジックショーに関してだ。
 リビエラでは現在 「クレイジー・ガールズ」、「ダーク・アーサー」、「コメディー・クラブ」 などいくつかのショーが開催されているが、当然のことながら 5月4日以降の継続は不可能なので、どのショーも別のホテルへ移籍するか打ち切りのどちらかということになる。
 そんな中、今週は、他のショーよりも一足先に(昨年の秋に) リビエラを去り新天地で活躍しているマジックショー 「ILLUSIONS」 について取り上げてみたい。(移転後の新しいタイトルは The New ILLUSIONS に変更になったようだが、主催者側に確認したところ、移転前の ILLUSIONS のままでもよいとのことだったので、以下カタカナで 「イリュージョンズ」 と表記)

Illusions by Jan Rouven  2012年からリビエラで公演を続けてきたイリュージョンズが選んだ新天地はトロピカーナ・ホテル。演じているのはドイツ人のマジシャン Jan Rouven。(発音は ヤン・リューベン、写真右)
 テレビ出演なども多く、ドイツでは知らない人がいないほど有名のようだが、「いつかはラスベガスで」 との夢を捨てきれず、2011年、収入の激減を承知で当地に移住してきたというアメリカン・ドリーマーだ。
 結果的に夢がかなったばかりか、今回の移籍で大いなるステップアップを実現させたことになる。なぜなら 「職場」 がマイナーな場所からメジャーな場所へ移ったからだ。
 今までの会場は非常に貧弱な場末風の劇場で、またリビエラはホテル自体の評価が近年急激に低下していたばかりか、ロケーション的にも人通りが少ない寂れた場所だった。一方のトロピカーナは決して新しいホテルではないものの最近のリニューアルにより人気上昇中で、また立地条件的にも MGMグランドやニューヨーク・ニューヨークと同じ交差点にあり人通りも多い。大出世といってよいだろう。

Illusions by Jan Rouven  さて、出世後のリューベンの仕事ぶりはどうかというと、これもなかなかよい。もちろんリビエラ時代とまったく同じマジックも少なくないが、ステージが大幅に広くなった分だけ物理的な制約がなくなったためか、大掛かりなマジックが増えている。また同じ装置を使っている場合でも、動きがダイナミックになったように見受けられる。
 もともと過激な荒ワザをウリにしてきたマジシャンだけに、小学校の教室を思わせるような極端に狭いリビエラの会場ではやりたいこともまともにできなかったはずで、今回の移籍後の振る舞いはまさに水を得た魚といった感じだ。
 ちなみにそのトロピカーナの劇場、近年のリニューアルで洗練されたシアターに生まれ変わっているので、かつての古ぼけた劇場を想像してはいけない。

Illusions by Jan Rouven  具体的な演目としては空中浮遊、瞬間入れ替わり、ノコギリでの人間切断、大型ドリルでの腹部貫通、水中脱出など、大掛かりな装置を使うものが中心で、手先の技を使ってハトを出したりするようなたぐいのマジックはほとんどない。
 そうなると 「仕掛けがすべて」 ということになり、マジシャンの技量に頼る要素は少なく、同じ考案者のマジックを演じる限り、だれがやっても似たようなレベルの演出になってしまいがちだが、リューベンの場合はそうでもない。切り替わりなどの際の動きが非常に速いからだ。
 つまり観客に 「いくらタネがあったとしても、1秒で人間が入れ替わったり消えたりするのはすごすぎる」 と思わせるような場面が多い。
 そんなところが評価されたのか、地元有力紙ラスベガス・リビュージャーナルが主催している賞 「The Best of Las Vegas」 の 2015年度の 「Best Magic Show」 に選出されている。(この賞、乱発しすぎとの批判もあるが、ここではとりあえずそれは無視)
 ちなみにドイツでは、「あんな短時間で入れ替われるわけがない。双子の兄弟が演じているにちがいない」 といった噂が絶えなかったらしい。
 そういった疑惑を晴らすために、観客をランダムに選び、その観客に太いペンで自分の腕に大きく署名させ、瞬間移動の前と後の自分が同一人物であることを証明できるようにするなど、そのへんの演出はイリュージョンの大御所カッパーフィールドとどこか似ていなくもない。

Illusions by Jan Rouven  とにかくドイツで活躍していた時代から 「Nine Lives」 (命が九つあると思えるほど不死身) と呼ばれるほど身の危険を伴う大掛かりなイリュージョンを得意としており、トロピカーナへ移籍しステージが広くなった今、まさにそのコンセプトが開花したといってよいのではないか。
 もちろんやっていることはすべてマジック。安全は保障されているわけで、彼の身の危険を案じる必要はないが、観客としてはけっこうハラハラ、ドキドキするエキサイティングなショーに仕上がっており、それこそがこのショーの真骨頂といってよいだろう。

Illusions by Jan Rouven  さて、ここまでいいことばかりを書いてきたが、ではこのイリュージョンズが大成功を収めてロングランのショーとして定着するかどうかとなると話は別だ。
 カッパーフィールド、クリスエンジェル、ペン&テラーといったライバルと比較すると知名度はまだまだ低く、マックキング、ダークアーサー、ネイサンバートンなどの古株マジシャンもまだ健在で頑張っている。
 そんな彼らでさえ集客に苦しんでおり、毎日満席になるようなマジックショーは今のベガスにおいて存在していないのが現状だ。
 ようするに需給バランスが悪く、需要に対して供給が圧倒的に多すぎる。世界各地から観光客が集まるベガスのショービジネス界にとって、語学力に関係なくだれもが楽しめるマジックショーは伝統的に供給過剰になりがちとされる。(逆にミュージカルは非常に少ない)
 そして語学力といえば、トーク部分がまったくないシルク・ドゥ・ソレイユもマジックショーのライバルになりやすく、それがベガスに7つもあるというから競争は半端ではない。
 そういう意味では今のベガスにおけるマジックショーは 「看板」エンターテインメントではあるが、「鉄板」ではなく、トラや像を消すことで有名だったジークフリード&ロイが毎日売切れになっていたような事態は遠い昔の話だ。
 とはいえ、「リューベンはひょっとすると人気が出てブレイクする逸材かも」 と予感させられるのも事実。そういえばジークフリード&ロイもドイツからの移民だった。実力さえあれば出身国などが出世のハンデになることはなさそうなので大いに頑張って夢を実現してもらいたいものだ。

Illusions by Jan Rouven  いずれにせよ、いつ打ち切りになるかわからないのがこの業界の現実なので、興味がある者は早めに観ておいたほうがよいだろう。
 なおこれは余談だが、リューベンは 2012年のリビエラでのデビュー前、そのすぐ近くにあるクラリオンという小さなホテル(かつてのデビーレイノルズホテル) でも演じていた。そのクラリオンはつい先日爆破解体されて今はない。そしてリビエラも爆破解体されることが決まっている。クラリオンを去るときも、そして昨年の秋にリビエラを去るときも、リューベンはそのホテルが閉鎖になったり爆破解体されたりすることを知らずに去っている。そんなことから 「トロピカーナも爆破解体されるのでは」 といった噂もあるが、リニューアルしたばかりなので少なくともあと10年はないだろう。
 開演は金曜日を除く毎日 7:00pm。チケット料金は $59。チケットのディスカウントショップ TIX 4 Tonight で買えば、すべて込みで $44 で買うことが可能。

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