週刊ラスベガスニュース バックナンバー   2012年 10月 31日号
泥棒職員 381人をクビにしたTSA から自分の荷物を守る方法
 2001年の 911テロ事件以降、全米各地の到着空港で、いつのまにかスーツケース内の貴重品が消えているというミステリーが多発している。超常現象か-----。
  いや、実はミステリーでもなんでもない。単なる事件、犯罪だ。犯人も手口もわかっている。しかしなぜか野放し状態のまま今日に至っており、解決の兆しが見えてこない。

 犯人は、持ち主から見えない場所でも荷物内の検査権限を持つ TSA (Transportation Security Administration : 運輸安全局) の職員。簡単に言ってしまえば、公務員による勤務中の泥棒だ。
 TSA は、911テロ事件をきっかけに、絶大なる権限を与えられた組織で、現場の各職員は、爆発物の発見という大義名分のもと、スーツケースの鍵を壊してでも中身を検査することが許されている。
 エックス線やその他の方法で検査が終了した荷物に対してもそこまでのことをする必要があるのかとも思えるが、どうやら彼らがエックス線で探していたものは爆発物ではなく、転売しやすいパソコンやカメラだったようだ。
 もちろんごく一部の職員の悪行であって、大多数の職員はまじめに任務をまっとうしているものと思われるが、税金で働いている者が納税者の金品を奪うとはなんとも破廉恥すぎて言葉がない。

 そんな馬鹿げた実態が 10年も野放し状態とは、本件をまったく知らなかった人にとっては信じられないような話だが、アメリカではすでに周知の事実で、もはやニュース性はほとんどない。
 ところが先週、改めてこの問題がクローズアップされ、日本でも報道されてしまった。その結果、ここの読者から 「ラスベガスの空港は大丈夫か?」 と、こちらに問い合わせが寄せられる事態に。

TSA  この話題が今になってぶり返えすきっかけになったのは、アメリカの大手テレビ局 ABC のニュース番組だ。
 TSA側は何年も前から 「組織内のモラル向上につとめ、再発防止策を講じている」 としているにもかかわらず、状況が改善されない現実に、ABCのジャーナリズム魂が黙っていなかった。
 リアルタイムで所在地がわかるように GPS機能をセットしたおとりのパソコンを用意し、それを盗んだ TSAの職員がまんまと引っかかり御用となった場面の一部始終を報道。さらに、慢性的に悪行を繰り返し、通算 80万ドル(約6000万円) 相当の金品を盗み逮捕され服役を終えた元職員が実名で 「仲間同士で監視カメラを止めるなど、組織的にやっていたので、盗むことは簡単だった」 と証言する映像も紹介。これにはさすがに一般市民も怒り心頭で、他のメディアも取り上げるなど波紋は広がっている。

 今週のこのコーナーは、その番組の内容や、TSA のモラルの低さを報告するために書いているわけではない。御用となる場面の動画などは、日本語でわかりやすく解説されている フジテレビのニュース (←クリックしたあとの画面で ► をクリック) などを見ていただくとして、ここで言いたいことは、今回の一連の報道の中で明るみに出た 「空港別、泥棒行為でクビになった TSAの職員の数、ワースト20」 という統計の中で、ラスベガスのマッキャラン空港が5位にランクされ、その順位だけが独り歩きしてしまい、ここの読者に無用な心配をかけていることに対する問題点の指摘と、TSA から身を守るための対策についてだ。

TSA  その統計によると、過去10年で、窃盗容疑でクビになった TSA職員は全米の空港でなんと 381人。その内、マッキャラン空港は 15人で、マイアミ、ニューヨーク (JFK空港)、ロサンゼルス、アトランタに次ぐ全米第5位という不名誉な順位にランクされてしまったわけだが、これは事件発生確率の順位ではないことを、改めて強調しておきたい。
 つまり、そんな統計にどれだけの意味があるのか、数字に隠された盲点などを、もっときちんと報道してもらいたいものだが、紙面のスペースや番組の時間に制限があるからか、なかなか掘り下げた報道をしてもらえないのが現実だ。
 ラスベガスを宣伝している立場の者として、マッキャランが不当に評価されるのは望むところではなく、とにかくここでは、「実態は 5位よりも安全なはず」 と言っておきたい。

 そもそも空港の規模、とりわけ乗降客数を無視したままで比較しても意味が無い。たとえば極端な例だが、日本で 「羽田空港の職員、盗みで 100人が懲戒免職。三宅島空港では 50人」 という報道を聞いて、羽田のほうが盗難事件に遭遇するリスクが高いと思う人はいないだろう。
 ちなみにマッキャラン空港の乗降客数は全米8位。8位の規模でクビになった職員数が5位ということは、犯罪密度が高いと言えなくもないが、はたしてそうか。このへんの事情を、マッキャラン空港で働く複数の関係者に聞いてみた。(名前や立場は公共しないで欲しいということなのであえて非公開)

 彼らの証言に共通しているのは、盗難事件が多いのはたしかで、そのほとんどが TSAの職員によるものであることは疑いの余地がないとのこと。その理由は、TSA 以外の職員でスーツケースにアクセスできる立場の者、つまり荷物を航空機から積み降ろしたり運んだりするグランドクルーは、常に他人から見られる場所で仕事をしており、スーツケースの中を見たりできる環境に置かれていないから、としている。
 ただ、ラスベガスの TSA のモラルに関してはまったくわからないようだ。なぜなら、今回証言してくれた彼らが日々直面する紛失トラブルは、すべて出発空港側における犯罪の結果であり、ラスベガスの TSA とは関係がないからだ。
 結局この問題は、「犯行は出発空港、発覚は到着空港」 という図式になり、被害者と加害者が遠く離れていることから所管警察も分かれてしまいがちで、事件そのものが加害地にきちんとレポートされにくく、各空港間の公平な統計を取ること自体に無理があるとしている。
 その上で彼らは、今回のワースト5について、ラスベガスという都市の性格上、マッキャランは条件的に不利な立場にあり、ワースト上位にランクされてやすい環境にあると指摘。その理由として、ラスベガスが最終目的地であることを挙げている。つまり、大多数の乗降客は、乗り継ぎ目的ではなく、ラスベガスを訪れるためにこの空港を利用しているということ。
 一方、ワースト20 にランクインしているその他の空港の多くは、乗り継ぎ機能を備えたハブ空港であり、たとえば上位4位を見ると、マイアミは中南米方面の表玄関、同様にニューヨークはヨーロッパ方面、ロサンゼルスはアジア方面へのゲートウェー空港として、さらにアトランタもデルタ航空が本拠地とする世界最大級のハブ空港として、乗降客のかなりのパーセンテージが乗り継ぎ目的として利用している。
 ちなみに国際線の乗客がアメリカに到着し国内線に乗り継ぐ際は入国審査の関係で TSAによるスーツケースの検査があるが、国際線で出ていく際の乗り継ぎでは、飛行機から飛行機へ乗せかえるだけで検査はない。さらに国内線の乗り継ぎにおいては、行きも帰りも検査は出発空港だけだ。
(ここでいう 「検査」 とは、飛行機の格納庫に預けるスーツケースなどの内部の検査であって、ハンドバッグなど機内持ち込み荷物に対する検査のことではない)
 結果的に他の空港に比べマッキャランの場合、離陸便の乗客の大半が乗り継ぎではなく起点空港として利用しているため、全乗降客数に対する TSA の関与率は著しく高くなりやすい。
 さらに別の理由もある。近隣の都市との間の日帰りビジネス客が多いニューヨークやロサンゼルスに比べ、ラスベガスは観光地であるがために、スーツケースを持っている乗客の比率が相対的に高い。
 そのような特殊性を考えると、ワースト5位というランクは、発生確率的には妥当ではなく、もっと安全と考えてよいのではないか。仮にその推論が正しくなかったにせよ、とにかく各自の努力でリスク回避できるこんな馬鹿げた問題で、ラスベガス旅行が敬遠されたりするのはあまりにも悲しすぎるので、「心配することはない」 と声を大にして言いたい。(リスク回避の方法は以下で説明)

 余談になるが、さまざまな条件を考慮にいれながらこのワースト20 を分析してみると、マッキャラン以外では 2つの空港のデータが突出して不自然に見えてくる。それは 1位のマイアミ空港が乗降客数の割に極端にクビ職員の数が多いこと (乗降客数は全米で11位)、そして逆に、世界屈指の巨大空港であるシカゴのオヘア空港 (同、2位) がワースト 20位というのは異常に健全すぎる。
 ではマイアミの TSA のモラルが低くてシカゴは高いのかというと、それほど単純ではないかもしれない。モラルに欠ける現場スタッフが少なからず存在しているということは、同様な上司がいても不思議ではないわけで、そのような上司は、自分の部下の不祥事を公表するはずもなく、部下に厳重注意することはあっても、公表せずに、もみ消すと考えられる。だとすれば、マイアミはまじめな上司が不祥事を正直に公表し、シカゴはもみ消しが多いだけ、と推測できないこともない。
 いずれにせよ、クビになった職員の数など、組織の体質でどうにでもなってしまうわけで、このような統計は不必要な不安をあおることはあっても、なんの役にも立たないといってよいだろう。

 さて、あとは、被害に合わないための自衛の手段ということになるが、今回取材に応じてくれた人物の中で 「Pilferage Report」 (盗難レポート) の作成などを担当している3人の関係者からアドバイスを受けたので、以下にまとめてみた。

 貴重品をスーツケース内に入れないことが最も賢い方法であることは言うまでもないが、悪質な TSA 職員に狙われにくくする方法もいくつかあり、その第一は高級なスーツケースはなるべく避けるようにするということ。
 盗難レポートを作成する際、被害者からスーツケースの特徴などを聞き出している彼らの経験則によると、ルイヴィトンなどはもちろんのこと TUMI なども明らかに盗難確率が高いらしい。「高価なケースを買える人物は、高価な物を持っている可能性が高い」 と TSA の職員が考えるのは極めて自然なことで、このアドバイスには説得力がある。
 次に、「日本人は高価なものを持っている」 という概念は少なからず存在しており、日本人のスーツケースということがひと目で分かる場合も狙われやすい傾向にあるようだ。ちなみに TSA の作業マニュアルでは、不審物が入っているかどうかをチェックする 「L3」 と呼ばれるマシンでハネられたスーツケースは原則として手作業で中身を確認することになっており、その際、確認が終わったスーツケース内には、持ち主に 「内容物を確認するためにケースを開けさせてもらいました」 と伝えるための検査通知書を入れることになっているが、開けられたことが明らかなのにその書類が入っていないことが、日本人のスーツケースにおいては多いらしい。
 泥棒をするような人物がわざわざそんな書類を入れるわけもないので、あまり真剣に分析しても意味は無いが、L3 でハネられていないにも関わらず、日本人のスーツケースは意図的に狙われ開けられやすいと推測できなくもない。
 ちなみに、開けられたことが明らかにわかる理由は、ケースの内部が、持ち主がしまった状態とは異なる状態になっていることだけで十分な証拠となるが、他人の携帯電話が入っていたり、片方のシューズがなくなっていたりすることもあるというから笑うに笑えない TSAの悪態ぶりだ。

TSA  では、ネームタグに書かれた住所や名前を見る以外に、日本人のものとわかるスーツケースとはどのようなものか。それはズバリ、ハードタイプのケースで、さらにそれにケースベルトがかけられている場合だ。
 なぜなら、欧米では布製のソフトケース (写真右) が主流で、ベルトをかける習慣もないからだ。ただ最近はアメリカでもハードタイプのスーツケースがごく普通に売られるようになってきているのも事実で (写真右下)、この方法での判別がいつまで有効かは定かではない。それでもアメリカ人がベルトをかけるという話はあまり聞いたことがないので (右上の写真にはベルトも写っているが、実際にアメリカ人が使っている場面はほとんど見たことがない)、ベルトは要注意と考えたほうがいいだろう。

TSA  TSA 以外の理由による紛失や盗難も少なからず存在しており、それについてもアドバイスしてくれた。
 よくあるのは、到着ターンテーブルからの盗難で、それを防ぐには、珍しい色の目立ちやすいスーツケースにすることが効果的とのこと。つまり、目立たない黒やグレー、そしてアメリカではありふれたソフトケースが狙われやすい。
 盗むほうの心理としても、遠くにいる持ち主から簡単に、「あ、あれは私のスーツケースだ、ドロボー!」 とわかってしまう派手な色のケースは避けたいはずで、これはたしかに有効な対策といってよいだろう。
 また、珍しいスーツケースは、ターンテーブルから別の乗客に間違って持ち去られるリスクも低減してくれる。ただし、もし偶然にまったく同じスーツケースを所有している者が同じフライトに搭乗していた場合、自分のものであることを疑わないために、持っていかられてしまう可能性が高まるので注意が必要だ。
 出発空港におけるチェックインの際に、スーツケースに付けてもらった行き先の空港を示したタグが、何らかの理由で外れてしまい迷子になるトラブルもまれにあるようだが、それを想定した対処方法も教えてくれた。簡単なことなのでなるべく実行するようにしたいその方法とは、自宅住所や滞在先のホテルを明記したタグを複数つけておくことに加え、スーツケース内にも連絡先を大きく書いた紙を1枚入れておくことだ。迷子になったスーツケースは航空会社が 「Unknown Bag」 として、それ専用の部署に保管することになるわけだが、仮に外に付けたタグがすべて外れても、中を確認してくれるので、この方法は有効とのこと。
 長くなってしまったが、基本は、重要なものはスーツケース内に入れないことと、TSA は悪さをする可能性があるという前提で性悪説的なスタンスで物ごとを考えるということ。それさえ肝に銘じておけば、致命的な被害には遭遇しないはずなので、なにもアメリカ旅行を恐れる必要はない。



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